序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
完成した改良型コンストラクトこと『院長』は、使役している魔物型のそれらとは違って、ちゃんと俺だ。
俺の思考、俺の知識、俺の発想を持つ俺の分身。違うところは戦闘ができない点と、時間を超えられないことくらいかな?
また、伴って彼らも作ることにした。
そう。
「ちょ、何やっているんだよモーガン。こんなに汚して……」
「アスミカタの箸というものを試してみただけだ。存外難しい。魔力操作と違って思うように動かん」
「ピンセットだと思えば使いやすくもあるでしょう。ほら、こうして持てば」
「何を言うかと思えば、箸には箸の使い方がある。他の何かに見立てて使うなど、愚か者のすることだ」
……えー、俺(さいくしのすがた)、俺(がくしゃのすがた)、俺(いしゃのすがた)が食堂にて食事に苦戦をしている姿がそこに。
彼らは改良型コンストラクトであるが、一応俺の自我がない……別人、かな? 俺としての自覚がないというか。
各時代の俺の生き様を自動取得によって記録した本から「その本人そのもの」を作成し、過去などを逆算して作り上げた限りなく別人コンストラクトさんである。
で、あのアルカにあげた写真の通りの感じになってもらうために、同期として入院したことにした。
実際彼らはああして仲良く過ごしているし、ガルベン・ゼンノーティ……さんに絵を描かれることもあるんじゃないかなー。多分。
流石に実在の人物をコンストラクトで偽造する、みたいなことはしない。偽物というか分身は俺の分だけで充分。
彼らは卒業と同時に雲散霧消するコンストラクトだが、在籍中はそういう存在として動き続ける。
ヴァルカンも作ろうかとは思ったけど、あいつは別に中身が知られているわけじゃないからいいかなって。ケレンはまたケレンで俺が放逐にしたにしては幼すぎるから関係なしでいいかなーと思っている。
茜座と『博士の博士』はここ出身でも良いんだけど、どっちも結構歳食ってるから学徒扱いより教師として在籍していた、という方が良いだろうなって。
ただしそう長くは在籍させないつもりでいる。この教戒院ではゼルパパム国立大より高位のことを習えるから無いとは思うんだけど、初対面のはずのモーガンと大学生徒がここで出会っちゃっている、というのは「整合」に問題が出そうだからな。
……全ての時代から漂流者の集まるこの教戒院で「長く在籍」という言葉に疑問符が浮かぶのはわかるけど、そこは教戒院がどのようにして存在しているか、にかかる。
教戒院は外の世界の一日と、教戒院そのものの始まりから終わりまでの長い歴史を対応させている。外の世界では一日でも、ここではその一日が無限に引き延ばされる。
たとえば、朝早くにあの島の小屋へと辿り着いた者は、教戒院が設立されたばかりの頃──その"初期"に割り振られ、生活し、学び、卒院していく。昼頃に来た者は"中期"へ、夜に来た者は"晩期"へ。
もちろん実際には、朝・昼・夜なんて大雑把な区切りじゃない。外の一日を秒どころかコンマ以下云千秒まで細かく刻んで、その瞬間ごとに無限の期間が割り当てられているのだ。
だから、ここでは常に時間が流れているように見える。それでいながら一生をかけても出会わない者が存在するし、一緒に入ったわけでもないのに同期という概念が生まれることがある。
ので、シュラインらの在籍期間を同年代の者達と一緒にしない工夫はした……けど、この世界魔族とか精霊とか、長命種族がいるからなぁ。キアステンとか羽澤みたいに魔力の質まで隠してしまえる魔族だともうお手上げである。
記憶封印系の措置はするとはいえ……何か別の、「整合」をするためだけの魔法を考えた方が良いのかなぁ。
なんにせよ、そろそろ旅立ちますかね。その辺考えるのも『院長』の仕事だろ。俺は「──ですよね?」ができたらいいのでね。
***
アマナ・ヘルトリーズン。彼女はゼルパパム国立魔法大学卒業生の、海洋研究学者である。
セプウルクルム海で測量をしていた際に、水底から突き上げられるような攻撃を受け、船が大破。気が付けばここにいた。
彼女には他数人と同じく「幾らか」の禁止契約がされているけれど、別に思考が制限されるということはない。
だから、涼しい顔の裏でたくさんのことを考えている。
「ん、どうしたヘルトリーズン。私の顔に何かついているか?」
「い、いえ! 何もついていないまっさらな顔です!!」
「それは……どういう意味だ」
「モーガン、あなたの顔が他者の印象に残り難い薄い顔、という意味ではありませんか?」
「ほーう良い度胸だなローレンス。今日という今日は決着というものをつけてやらんこともない」
「ちょ、二人とも落ち着きなって……」
涼しい顔が保てず、緊張によりとんでもないことを口走ってしまったが、それも仕方のないことであった。
だって。
──若い頃のモーガン教授がいる~~っ! ど、どうしよう、今印象付けて……ああでも未来のことは持っていけないんだっけ? ぬぐぐぐっ!
彼女はカルストラ研究室の一員、なのだから。
彼の刻印行使や余剰魔力の無さに惚れこみはしたけど、それはそれとして男性としても狙っていた。同教室のアルカ・ダヴィドウィッチと駆け落ちさえしなければ、卒業と同時に告白していた可能性も高い。
彼女の家なら家格の面で断られることはないだろう、という自信がありつつも、モーガン教授なら「研究の時間が潰える。ゆえに断固拒否だ」くらいは言ってきそうで……そんなことを考えるだけでくねくねしてしまうアマナ。
ちなみに彼女は別にアルカのことを嫌ってはいない。というか友達である。駆け落ちを聞いた時には、「ぐぬぬぬっ、アルカちゃん……やるわね!」とエール(?)を送ったくらいだ。
風のうわさでレスベンスト冒険隊に彼女らしき人物がいた、というのは耳にしているが、あの子に切った張ったの度胸は無いだろうから別人だろう。
「よぉ、嬢ちゃん新入りだろ。聞いてるぜ」
「ハッ。……あ、確か……ルヴァンくん、だっけ?」
「そ。ルヴァン・ジノファ。こー見えても古株でね。なんかわかんないことあったらなんでも聞いてくれ」
アマナに言われたことが発端だったのに、アマナをほったらかしにしてギャーギャー言い合いながら去っていった三人と入れ違うようにして現れたのは、ちょっと軽薄な印象を抱いてしまう青年。
歳の頃はアマナとそう離れていないように見える。
「あれ、でもここの説明を受けた時、教戒院は何百年もここにあるって……」
「教戒院自体はね。けど、学徒を受け入れだしたのはそんな昔じゃないってわけ。ああまぁ、俺の前にも学徒がいた可能性はゼロじゃないけど……ほとんどないかな」
「そうなんだ。……あ、じゃあさ、院長先生、って人に会いたいんだけど、どこ行けばいいのかな」
「ああ院長は、今はいないよ。なんか調べることがあるとかで、外に出ているんだ」
「いつ帰ってくるか、とかは」
「どうだろうな。院長のコンストラクトはいるから、そいつに聞いてみるか?」
「うん! へえ、コンストラクトを置いて管理してるんだ。面白いかも」
今は海洋研究に没頭しているアマナだけど、カルストラ研究室では当然刻印を勉強していた。
だから、教授の刻印行使という素晴らしく美しいものを知っているので……それと比べてどれほどのものか、というところに興味があった。
教授がアルカと駆け落ちをしたあと、彼の経歴を見て知ったエチェロエグズル教戒院という学校。彼の母校の院長は、果たしてどれほど洗練されたコンストラクトを操るのか。
ルヴァンと共に院長室へ赴いた彼女がそこへ入れば。
「む、どうしたルヴァン。……と、ヘルトリーズンか」
執務机で何かを書いている、しわがれた声の老人が……否。
あれは、コンストラクトだ。
「え……人型で、思考可能で、会話まで可能な……凄い、なにこれ……あの人の刻印を洗練させたみたいな……余剰魔力が欠片もないし……」
「ルヴァン。状況を説明してくれ」
「んー、さっき廊下で出会ったんだけどよ。なんか院長に会いたいらしくてさ。本物の方の院長って、いつ帰ってくるか、とかはわかんないんだっけ?」
「ああ。用事が終わり次第帰ってはくるだろうが、いつになるかはわからぬ。とはいえ知識の面で儂が本体に劣ることはない。聞きたいことがあるのなら、答えよう」
本人とそう変わらないコンストラクトなど、教授でも作れるかどうか。
成程確かに彼の育った学校なのだろう。あるいは彼も外へ出て、あの大学で……これを実現させるための研究をしていたのやもしれない。
──つまり? 私がここでこのコンストラクトを作れるようになって? 外へ出て、改めて教授に婚姻の申し込みと……コンストラクトの披露をすれば、私に鞍替えするのでは!?
こんな思考ではあるが、アマナはアルカの友達である。鞍替えが起きても友達でいられると思っているお花畑でもある。
彼女が教授の訃報を知らないのは、単純にゼルパパムという国では情報が届き難いから、という理由と、卒業後の彼女が基本洋上にいるから、という理由から。
あるいは外に出たとき、彼が亡くなっていると知って、もっと若い頃の教授と接しておけばよかった、という後悔をするのやもしれないが──それは別のお話。
「──あの!!」
「うわびっくりした」
「そう大声を出さずとも聞こえておる。どうした」
「私に──私のコンストラクトになってください!!!」
……。
……さて、お気付きの方もいるだろうが、アマナ・ヘルトリーズン。彼女は大のポンコツ少女である。
実力も実績も申し分ないのだが、言動も思考も著しく……コンプライアンスを重んじた表現では表現しきれない構造をしていて、そして思考や緊張がピークに達した状態で喋ると、大抵とんでもないことを口走る。
「……っぷ。あはははははっ!」
「あ、いや、違くて!」
「すまぬな、ヘルトリーズン。儂にとってお主は大切な学徒だが、それ以上には思えぬのだ」
「あはははははっ! 爺さん、爺さんこ、こんな若い子に告白されて……あはははっ!」
「笑いすぎだぞルヴァン。儂にも彼女にも失礼だ」
「いやだって、っぷ、クククク……ああ腹痛い……な、なぁ、院長への……本体の院長へのフィードバックはいつになるんだ? くっ、ふふククク……俺その時の、きょとんとした顔になる爺さん見てぇよ!」
「それも帰ってきてからだ。……この少女は、ゼルパパム国立魔法大学を卒業しているようだな。刻印魔法について、新たな知見が得られるやもしれん。話を聞いておけ、ルヴァン」
顔を真っ赤にしたアマナ。未だ笑いが収まらない様子のルヴァン。呆れの溜め息を吐く院長。
今日もエチェロエグズル教戒院は楽しい場所、であった。
さて、教戒院に併設されている寮へと戻ってきたアマナは、ぽふんと枕に顔をうずめた。
学びの多い一日であったが、あそこまでの赤っ恥をかいたのは後にも先にも……いや全然いくらでもあるのだが。
恥ずかしいことに変わりはないというか。
「へいへーいアマナ。どうしたのん。話きこーかー?」
「……
一部始終を説明するアマナ。声をかけてきたのは同室の少女、
話して、話し終えて……香丹が一言。
「うーんアマナがばか」
「ストレートすぎるぅぅぅ。もうちょっと緩衝材緩衝材~」
「いやぁ、私の目標にさせてください、を私のコンストラクトになってください、って言い間違えるのはもう才能だよ。ばかの才能。仙実国にはたくさんの秘薬があるけど、ばかに付ける薬はないって昔から言うからねー」
全身をめった刺しにされ、アマナは満身創痍だった。
器用にも刻印魔法で黒煙を幻術再現し、全身から噴き出しているアマナに……香丹が話をする。
「そんなことよりさー」
「そんなこと!? そんなことって言った今!」
「そ・ん・な・こ・とよりさー」
「強調までした!?」
もう無視して続ける。
「このエチェロエグズル教戒院の……七不思議、って。知ってるー?」
「──ナニソレおもしろそう」
勿論、香丹側もアマナがノってくるとわかっていて話を振っている。ついでにこのままだと眠るまで自分を責め続けるだろう彼女へのフォローでもあったりする……かどうかは、神の味噌汁、もとい彼女のみぞ知ることかもしれない。
エチェロエグズル教戒院の七不思議。
「一つ目。この教戒院には色んなコンストラクトがいるんだけどね? 中には──人間の姿をしたコンストラクトがいるってー」
「あ、『院長』さんのコンストラクトだよね」
「それじゃなくてー、……生徒や教師の中にも混ざっているかも、なんだってー」
「……だとしたら、見たらわかると思うけどなぁ」
確かに研究室からは離れてしまったが、ゼルパパム随一の刻印魔法教室で学んできたのだ。それを、完全な人間との違いが見抜けない、なんてことはない……はずだが。
けれど、確かに、と……アマナは思い出す。
あの『院長』のコンストラクト。構造自体は立派なのにすぐにコンストラクトだとわかった。まるでわざとそう見せているかのように。
であるならば……あれほどの使い手が、さらに完璧に隠蔽処理までしたら。
人間かどうか、なんて、わからないんじゃないだろうか。
「二つ目ー。美術室に浮かぶゴースト。美術系の授業を取っている子がねー、暗い室内に浮かぶ、青く燃えるゴーストを見たって噂だよー」
「古い学校だし、ゴーストくらいいて不思議じゃないんじゃない?」
「三つ目ー。プールの謎。室内プールには一つ、誰も入りたがらないプールがある……」
「寒水プールのことでしょそれ。隣の温泉とサウナから直で入れるように作られたって聞いたけど」
「四つ目ー。実は全ての黒幕ロイド先生。何を聞いても"どうなんでしょうね"とか"さぁ、かもしれません"しか言わない彼は、あらゆる物事の黒幕であるという説がー」
「なんの黒幕なのよなんの」
ふぅ、と、溜息を吐いて。
「どう。エチェロエグズル教戒院の七不思議。ここまで聞いてわかったと思うけどー──解明が簡単すぎて誰も噂にまでしてくれない、っていう」
「道理で聞いたことなかったわけだ……」
アマナはまだ教戒院に来てから日が浅いが、それでも割と誰にでも聞かせて聞かせて教えて教えてと踏み込んでいくタイプ。その彼女が知らないとなると、もはや吹聴元が香丹なのではないか、という気さえしてくる。四つ目のなんか単一個人宛の七不思議だし。
「じゃあ気を取り直してー、五つ目。食堂で出される料理。あれの食材は、虚空より現れている……!」
「……確かにどこで調達してるんだろう。外の小屋のある島にそんな広さはないのに、ここにいる全員分の食事量を賄えるって相当だよね」
「実はすべて幻で、私達は食べた気にさせられているだけで、現実の私達は餓死しているかもしれなーい」
「農学部で作ってたりしないの?」
「……もしかしてアマナ、農学部のこと農家だと思ってるタイプー?」
「そんなことないけど、畑くらいは持ってそうだなって」
──無論、香丹が答えを持っていたら、そもそも七不思議などにはなっていない。
微妙な空気が流れたまま、次へいく。
「六つ目。──ヴェルナー先生の好物は、がっつり肉」
「ええっ! 偏見だし失礼だけど、木の実とか野菜でいてほしかった……!」
「七つ目。院長先生が立った姿を誰も見たことがない……」
「歩けない、って線は?」
「まぁ、あるかもしれないけど、とりあえず誰も見たことがないってだけ。──そして八つ目」
「七不思議じゃないの?」
「七不思議に八つ目があるのは当然。──四階、教戒院左手奥の尖塔へと続く梯子の上から、少女のすすり泣く声がする、ってー」
八つ目にしてようやく「それっぽい」噂の登場に、アマナは。
「よし! じゃあ確かめにいこ、香丹!」
「えっ、今から?」
「善は急げ! 急がば急げ! 急いて事をしてやれ!! 思い立ったが吉時だよ香丹!!!」
どちらかに分類されるのであれば、圧倒的にダウナーである少女、香丹は──その時既に燃え尽きかけていたのだが。
アマナの熱意に押され、「これは振る話題を間違えたナー」とか思いながら、連行されるのであった。
教戒院左手奥、尖塔。そこへ繋がる梯子の前に、二人はいた。
エチェロエグズル教戒院は全体が紫輝歴670年頃の建築様式に合わせられているのだが、この場所のように、時折時代感に合っていない様式が見えることがある。
この近辺は樽や麻縄といった「どこにでもあるもの」しかないのに、どこか紫輝歴580年のゼルパパムを思わせる……つまり、海賊被害の最も多かったとされる『沈黙の百年』のものに近く感じられた。
「のぼるのー?」
「とりあえず女の子の泣く声は聞こえないね?」
「確かにーニョさん。……
「……? 今の、
「あー、仙実国訛りだから気にしないでー。本当は妖術って言ってねー、
ゼルパパムやV・D連邦では訛りの無い言葉が話されているが、仙実国、アスミカタ帝国、モゴイ丘陵やロストランドではキツめの訛りのある言葉が話されている。
エリスフィア帝国にはエリスフィア訛りという「一単語が非常に長くなる」訛りが存在するし、ハンラム王国では「文法的な簡略化が伴う」訛り、ガルズ王国では「アクセントが強調されすぎているように聞こえる」訛りが存在するなど、大国・強大国であっても訛りはある。
それは魔法の行使にさえ影響するものであるのだが、アマナはそれを知識で知ってはいても、実物を見るのは初めてで。
「……ここの人達の色々を詮索するのは暗黙の了解で禁止っぽいけどさ。今度、仙実国での色々を教えてくれない? 行ったことないから興味あるの。っていうか、ここを出たら……行ってみたいな」
「アマナは何年の人なんだっけー?」
「私は紫輝歴673年に遭難した人だねー」
「……わたしはなんと、涅月歴673年に遭難した人なのでーす」
「え、ほんとに!? それって運命すぎない!?」
「ね。いえーい千年前の人でーす」
「いえーい千年後の人でーす!」
突然明かされる事実。こういうことも起こりうるのがエチェロエグズル教戒院である。
……で。
「……あの。多分その、わたしを訪ねにきたと思うんですけどその……勝手に盛り上がられていると色々やりづらいというか、なんというか……」
「あ、忘れてた」
「本当に女の子いたんだ」
八つ目の七不思議……すすり泣く少女の怪が、そこにいた。
七不思議の怪と言われていた少女。
「はじめまして。ナタリー・"オーラ"・ゼンノーティ、って……言います」
「ナタリーちゃんだね。私はアマナ! よろしくー!」
「香丹だけど、発音しづらいと思うから、シャンっていいよー」
彼女が住んでいるらしい尖塔の屋根裏。アマナたちがそこへ登れば、寮の部屋ほど、とはいかないまでも、結構な生活空間が広がっていた。
許可を取っているのか、という部分に関してはアマナたちでは知らぬ話であるが、どうやら快適には暮らしているらしい。泣いている女の子などいなかったのだ。
「けど、"
「似合いませんよね……あはは……」
「それがあるってことは、魔族さん? あ、ここ二人、別に何の偏見も無いから安心してー」
教戒院には魔族がそれなりにいるから、彼らの名前に含まれるその言葉の意味を知っている生徒も少なくはない。
彼女らもそこに含まれている。
「そ、そうです……魔族に詳しい……。……その、あのー……怖がらないで聞いてほしい……ですけど」
「だから大丈夫だって! 偏見ナッシング姉妹だから!」
「姉妹じゃないけどねー」
「……その。わたし……実は、魔王で」
カチン、と固まる二人。
今、なんと言ったのか。
「あ、あ、や、やっぱり怖いですよね。その、えと、でもわたしの代に人間へ悪さとかしてないっていうか、もうわたしは魔王を降りているから大丈夫っていうか、その……ここの……人間と魔族が分け隔てなく学び合う姿を見て……涙が止まらない、っていうか。……こういう道も、あったんですね……」
「──ちなみに何年頃の魔王なの?」
「ワオ、踏み込-むねさーすがアマナー」
「あ、涅月歴10年です。10年に任期を終えて、一般魔族になりました……えへ、えへへ」
二人にとっては……香丹にとってもとんでもない大昔である。
開いた口が塞がらない……ということには、ならない。
なぜなら。
「え、聞いてもいいのかな。聞いてもいいのかな。魔王って何年くらいやるものなの? どうやって選ばれるの? っていうか魔族でどうやって暮らしてるの? 通貨はストレイルなの? 人間には食べられないものも食べられたりするの!?」
カルストラ研究室時代、教授に「お前は好奇心が自我を持ったかのような存在だな……」とまで言わしめたアマナは、止まらないからだ。
ナタリーの両手を掴み、キスするくらい顔を近づけ、なんなら押し倒して……知識欲を満たさんとする彼女に。
「むしろお前が魔王」
「あだっ」
さすがに見かねた香丹がチョップを入れて、ようやく話が進むのだった。