序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
ハーゲン・アンシュッツはその話を聞いて、居ても立っても居られない心持ちだった。
彼の兄、ガヘインが昨日から家に帰っていないというのだ。
況してや──父親の魔剣を盗み出しての行方不明である。父ベルグハルトは怒り心頭の様子で、勘当するとまで言っている。
彼を心配しているのはハーゲンと母ヨリコだけで、使用人たちは意見を持たないでいる風だ。
最後に彼が目撃されたのは、家から遠く離れたヴァグス領にある、とあるショップで買い物をしているところ。
憲兵がそのショップへ聞き込みを行ったところ、ヒーサンという少年と共にどこかへ行こうとしていた、鉱石採掘用の光の魔鉱石付きキャップを買った、という話。
「兄さん……どうして」
「ふん、あ奴にはアンシュッツ家の一員としての自覚が無かったというだけだ。前々から家を出て冒険者になりたいなどとほざいておったことだし、アンシュッツの名を捨て、
「父さん!」
バー……剣や鎧などの金属を加工する際に生じる金属くずに準えた、親のいない子供を指す非常に侮辱的なスラングだ。
少なくとも国軍大佐が口にしていいものではない。
「……すまぬ、口が過ぎたな。……冷静さを欠いている。……ハーゲン。冷静な……私のように怒りの無い目線で語ってほしい。……この家には、あの子が出ていくに足る理由があったか」
「それは……。……少なくとも私はそうは思わない。でも、兄さんは父さんの言う通り、昔から冒険者に憧れていた。……出ていくに足る理由があったんじゃなくて、冒険者への魅力に比重が傾いただけ……だと思う」
「それで、私の剣を盗むか」
「……知らない相手を悪くは言いたくないけど……そそのかされたんじゃないか、とは……思ってしまうよ。兄さんは自ら盗みを働こうって言えるほど豪胆な心はしてないはずだ」
「そうだな。だが、実行したのはあの子だ。真実が……なんであれ、私はあの子に裁きを下さねばならぬ」
ハーゲンだってそこについては理解している。
ただ、家族の縁を切られることが……たまらなく嫌だっただけだ。
「なんにせよ……無事を願うしかない、か。ハーゲン、わかっているとは思うが、くれぐれも」
「わかっているさ。私までいなくなったら、父さんはともかく母さんは倒れてしまいかねないし」
「何を言うか。私だって倒れるとも。私達を卒倒させてくれるなよ、ハーゲン」
どうにか糸は切れずにいてくれたらしい。この父からならば、勘当という言葉も出てこないだろう。
帰還を果たした兄が、余計なことを言わなければ、だが。
自室へと戻ったハーゲンは、……少し考えたあと、ある場所を頼ることにした。
当然心配の声をかけてくる父をなんとか言いくるめて、向かった先は。
「……おや。確か、アンシュッツ家の次男さんではないですか?」
「ああ、ハーゲン・アンシュッツという。依頼をしたいのだが」
冒険者ギルド、である。
V・D連邦は軍部が強くはあるが、冒険者の質も高い。それはまぁ、軍人崩れがいるから、であるのだが、色々な観点から見て冒険者による依頼の解決率は高いと言えた。
「それなら、運がいいかも知れません。今他国からS級の冒険者パーティが来ているんですよ」
「S級……というのは。すまない、冒険者の階級に詳しくないんだ」
「単純な戦闘能力の比較で言えば、連邦軍の准将から中将に相当する者達ですね」
「それは……すまない、偏見だけで物を語るが、一癖も二癖もありそうだ」
「ははは、それを言えるのはハーゲンさんだけですね。……ああ、ちょうど、ほら。ゲーゼさん、ちょっとこちらへ来ていただくことは可能でしょうか」
受付の男性に呼ばれてハーゲンの背後から現れたるは……透き通るような黒髪の少女。
「なにかしら。ああみんな、ちょっと来てだって」
「ハーゲンさん、それ結構緊急の依頼ですよね? 恐らくお兄さんに関する」
「あ、ああ。知っていたのか」
「まぁ、今朝ちょっと騒ぎになっていたので」
確かに騒ぎにはなったが、アンシュッツ家のそういう事情を父が漏らすだろうか、と考えつつ。
続々とやってくる面々に、ハーゲンは戸惑いの声を漏らした。
「その……失礼だが、皆子供に見える。私より幼い者も……」
「でも実力は折り紙付きですよ」
フードを被った少年。頬から首筋にかけて、薔薇のような痣を持っている少女。
「彼女らはS級パーティ薔薇の棘です。どうです、ハーゲンさん。依頼というの、お聞かせ願えませんか」
一瞬、大丈夫なのか、という不安がハーゲンの頭に過ぎる。
それでもそれを飲み込んで、詳細を話そうとした時……フードの少年が、口を開いた。
「身内に何かあったか。……それを助けるために、貴様は動いている。そうだな」
「え、あ、ああ。そうだ。……兄が行方不明なんだ。それも含めて話すが……」
「良いだろう。これは恐らく、良い巡り会わせだ。ゲーゼ、オレはこの依頼を受ける。お前達はどうする?」
「単独で受けさせるわけないでしょう。ローズはそれでいい?」
「アタシはなんでも。けが人が出ると……出ないといいけどね」
少年の声ではあった。だというのに、どこか傅いてしまいそうになるほど威厳を含んだ声だった。
人の上に立つ者の声。安心を受け取ることのできる声。
これが、S級冒険者。
「内密な話もあるでしょうから、どうぞ奥の個室へ。ああ、それとご安心ください。彼らは依頼料をほとんどとらないことでも有名なんです。ラッキー、というやつですよ」
「いや、大切な兄のことだ。いくらでもとは言えないが、私の出せる限りの金を積む。それで兄が助かるのならば、惜しい財など一つもない」
昨今は恋愛ごとに現を抜かしている、などと言われるハーゲンであるが、長兄ガヘインを差し置いて軍部から階級を貰っている優等生でもある。
あるいはそのことこそがガヘインを追い詰めたのやもしれない、というところには……まだ、気が付いていない様子であるが。
そうして詳細な依頼内容が語られる。
内容を聞いて尚薔薇の棘は依頼を快諾。そこへ受付の青年……このギルドのギルドマスターである青年からの垂れ込みがあった。
「今朝、騒ぎになっていたんですよ。ヨウギットに出た盗掘者二人組が、四層に迷い込んだ可能性がある、って」
「それは……」
「冒険者たちから隠れるように逃げてしまって顔などは見えなかったようなのですが、背丈は二人とも子供くらいで、片方は腰に異様な雰囲気の剣を佩いていた、と」
「……兄だ」
「正直言って四層五層はこちらでも全体を把握しきれていない階層です。
「兄は父の魔剣を装備している。魔剣ガリバーレイス。
魔剣。人類側に現存しているものは、三十本に満たないと言われている。
人間や魔族以外が鍛造した剣であるとされ、剣自体に魔法効果が付与されているものや、そもそも魔法を飛ばす装備としてあるものさえもある。
総じて今の人間に作ることは難しいものであり、魔鉱石を使って似たようなものが作れないか、というところの研究は進められているが、遅々としていると言わざるを得ない。
その三十本の内の一本が、ベルグハルトの有する魔剣ガリバーレイスだった。
「魔剣、ねぇ。詳しいでしょ、バリムケラス
「……ゲーゼ。貴様、いつになったらその呼び名をやめるのだ。……はぁ。……魔剣ガリバーレイス。精霊樹ガリバーレイスの精霊が鍛造した剣だな。霊体を切り裂く効果を持つものは他にもあるが、不定形、及び浮遊系に非常に高い効果を発揮するのがガリバーレイスだ。
「流石じゃない、魔剣ナード。アタシにとってはどれも同じに見えるけど」
「……その名はより相応しい方に譲った。今のオレは中途半端に知識を持つだけの者だ」
二度、手が鳴らされる。ギルドマスターだ。
「事は一刻を争うだろう。薔薇の棘の皆さん、ガヘイン・アンシュッツくんの救出を頼みますよ」
「ヒーサンという少年もちゃんと助けてやってほしい。……アンシュッツ家としては、その少年に……少なくない気持ちを抱いてしまうが、子供であることに変わりはない。子供とは間違えるものだし、嘘を吐くものだ。だから……頼む」
ハーゲンの懇願。その言葉が一番刺さったのは……黒髪の少女であるようだった。
何か、記憶の奥底を触れるものがあったらしい。
「……同い年か……私より幼いだろうあなた達にこんなことを託すのは……重いのかもしれない。だが、……頼む。大事な、家族なんだ」
「任せなさいって。さ、行くわよバリムケラス
「いつも通り、アンタたちも怪我したらアタシが治療するからね」
「恐ろしい話だ。──行くぞ」
言い放ち、少年少女がギルドを発つ。
どれほど圧倒されてもやはり心配が勝るのか、ハーゲンが三人の背を祈るように見守る横で、書類を整理しながらギルドマスターが言葉を紡ぐ。
「去年エリスフィア帝国で起きたハルノクーランの戦い、ご存知ですか?」
「ああ……知っている。皇帝府に対してクーデターを目論んだ一派との徹底的な戦い。だが、あれは確か、竜災でうやむやになったのではなかっただろうか」
「ええまぁ、結果はそうなんですけどね。その竜を退治したのがあの三人なんですよ」
「……なにを。……竜だぞ? ああいや……エリスフィア帝国軍は屈強な軍隊であると私も知っている。その助けがあって、」
「いえ、たった三人で」
常識との乖離を感じた。それはあり得ない。どんな英雄譚にも、吟遊詩人でも、そこまでのことは誇張しない。
法螺話だと笑い飛ばされるからだ。
「ギルドでも情報と信用は重要ですから、嘘は言わないですよ。安心してください。あの方々はS級なんです。強さも、問題解決能力も」
「……そうか。……そうだな。信じるべきだ。託したのなら」
ハーゲンは……それでもやはり、祈るような心持ちを変えることはできていなかった。
さて、エリスフィア帝国が『
その実態は、ほとんどが単なる縦穴だ。入り口が狭く、奥に行くにつれて広がる穴。エリスフィア帝国から零れ出た
「
「同感だ。オレには知識程度の記憶しかないが、あの男の構築した魔法は『
「アタシはそいつ知らないからなんとも言えないけど、魔族的にそうだってんならそうなんでしょうね。つまり、こいつらは別口で発生した似て非なるモノか、
「……誰もいない前提で話しているけれど、ちょっとビクってするからそう軽々しく魔族って言わないでほしいわ。人魔戦争の影響で人間側に魔族ガーってなったら面倒臭いんだからね」
「すまない。それはオレにも責任がある」
ダンジョン『ヨウギット』三層。
ようやく「歩き回る」という概念の出てきた広さの階層に、雑談をしつつ、
「謝罪はしないわ。魔族であるアンタたちが悪いんだし」
「あなたってそういうところ……本当に最悪よね……」
「事実だ、ゲーゼ。戦争直後に人間の国にいる魔族が悪い」
「はぁ、もうネガティブモードはおしまいにしてくれる? ただでさえ
少女も、少年も、並々ならぬ縁のある
そのまま愚痴を続けようとした少女を……少年が制す。
「悲鳴だ。子供……恐らく男児二人。空間の響き的に、三層は下だな」
「相変わらず耳良いわねー。んじゃゲーゼ、結界で直通作っちゃってよ」
「いいけど、ピンポイントだったらちゃんと私のこと守ってよ? バリムケラスお兄ちゃん?」
「無論だ」
三人の足元に円柱状の結界が開く。それは一時的にダンジョンの床へ非実体の性質を付与する。
これによって三人は床をすり抜け、悲鳴の聞こえた第六層まですとんと落ちた。
そこに犇めいていたのは、階層全体を満たす程の
「うーわ。気持ち悪いわね」
「アタシのスカルペルに非実体系特攻みたいなエンチャントはかけられないわけ?」
「それが魔剣だ。当然オレたちに技術はない」
あくまで痣の少女はヒーラーである。
であるならば、このパーティのアタッカーは。
「
「はいはい。あなたはそんな風にはならないと思うけど」
前傾姿勢。いや、四足の構えだ。
その状態で──少年は、小さく「──
瞬間、少女の張っていた円柱状の結界が弾け飛ぶ。
我先にと彼女らに殺到する
金色と赤色、二色の魔力が意味するは貴族の証。
もしこの姿を人間に見られてしまえば、S級など一瞬にして剥奪され、永久に追い回されるやもしれない。
「我が名はアンキア・ヴァーン・バリムケラス。前代魔王にして、豹王アンキアの名を轟かせる者なり。一時振るう我が爪の前に、それでもと立ちはだかる者あれば、相手をしよう」
豹王アンキア。その名は耳に新しき。
十五年前に、人魔戦争の火蓋を切って落としたる魔族の王。
人間の国々へ決して浅くない傷を刻みつけた彼が、なぜこのような場所にいるのか。
その答えを知る者は──。
「がんばれーお兄ちゃ~ん」
「やー、
「ナシに決まってるでしょ」
多分後ろの二人が知っている。
***
場は騒然としていた。
「コンラッド・フリオニール。違法植物の生育及び販売、また、キロス自治領における薬物売買及び違法物質大量生成の容疑で逮捕する。──申し開きは無いな?」
「ほ、ほほほ……なんのことかのぅ」
「あくまで白を切るか。──良いだろう。その態度をいつまで続けられるか」
大勢の憲兵に連れられていくは、『フラワーショップルアンルア』の店主である。
伴い、彼の店にあったすべての植物、及び盗品であるという闇の魔鉱石と光の魔鉱石の細工物が差し押さえられる。
それを遠方から絶望の表情で眺めている少女。
その少女が──。
こっち来ないかなぁ、って反対の通りで見ているのが、俺である。
いやー。
……あれよ。毎度毎度成功するわけじゃないって話。
主人公になりそうな少年少女は見つけたし、今回もちゃんととんでもない発明引っ提げて失踪して、序盤に利用しそうな店で張ってたんだけど……。
来ないでやんのね。
……一応今回も諦めずに待っていたんだけど、こーれは。
つかなに。「──ですよね?」流行ってんの? やりたそうなやつ多すぎない?
早めに見切りをつけるべきではない、失敗することだって当然にある、っていうのは……津吊に言われたこと含めて、充分痛感してる。
けどこれは望み薄どころか芽が無いよ。
あと北の方にすごく見覚えのある魔力があるんだけどこれはなに。何やってんのお前。
あんま人間の国で暴れんなよ~? ただでさえ他者から狙われてる身なんだからさ。周囲にいるのは知っているようで知らないようなレア物二色魔力と……取り立てて特徴の無いフツーの人間の魔力。
元気にやってんならそれでいーけどね。
……しかし、話を戻してしかし。
これは流石に望み薄だから……更なる失踪遂げパターン行くかぁ?
っていうことで、偽造と捏造をしこたまやって、ドランシア軍士官学校に編入されてみた。
俺が狙い目にしていた少女こと凍城・ミアという子に続いての編入であるのだけど、女子じゃないからかあんまり人気は無いめ。恋愛関係で「──ですよね?」をしたいわけではないのでマー問題ないだろう。
教える側の立場になることの多い俺による、最早二番煎じも辞さないなりふり構わずの「──ですよね?」狙い編入。
当然その強引さを咎めに来る者が現れる。
「──ちょっと、あなた。
「ふむ。凍城財閥ならともかく、武力の大那に絡まれる筋合いは無いのに、派閥を奪われそうだから、という理由で上級生に絡まれるというのは予想外」
「は──はぁ!? あなた、上級生への口の利き方がなっていませんわ! 教育し直して差し上げ──」
「──三年前、首都ロノ・ハキテスが中央薬理研究院にて、
おわ。
何かいるのはわかってたけど、お嬢様ちゃんの影に潜んでやがったのか。
そして現れ様の「──ですよね?」だと? ちょ、ちょっとフライング気味だ。もう少し待てなかったか。せめて主人公パーティっぽいやつの隣とかでさ。
「きゃ……く、クラウス!? どうして……って、ああ……お姉様に言われて監視でもしていましたのね。そして……まさか、偽名を使っての潜入、ですの?」
「というよりは、養子縁組のようですよ。果たして
「……どういうことですの、クラウス。
「ええ、私もその程度の認識です。しかし、どれほど調べても
おいおいおーい。なんだこの兄ちゃんとんでもない手練れか?
確かにその通り、記録や動きだけを後から作り出した嘘っぱちバックグラウンドだけど……結構な隠蔽処理してあんだぞ。
……マー、望み薄の状態で「──ですよね?」をくれただけ良しとするかぁ?
「──ああ、いたいた! ハウル! 探したんだぜこのー!」
背後から声がかかる。
……クラスメイトの少年、だと思う。多分。名前はわからん。
「あ……」
「ったく、今日は学校を紹介するって言っただろ! ああ、すんません。こいつ来たばかりで。ホントは俺が面倒みるってこいつの親父さんと約束してて! あ、おれ、ロルフ・ヴェーバーって言います!」
理解した。
この子は俺たちの話を聞いてしまったかなんかで、そういうことだったことにして俺を守ろうとしてくれている。
メリットなんか無い、上級生に逆らうし、ともすれば身分詐称の人間を庇うことになるかもしれないのに……咄嗟に。
こーれは主人公。
「失礼」
そのまま俺の手を引いていこうとする少年──の意識を奪おうとした手を弛緩させて止める。
同時、お嬢様ちゃんに宥和の呪いをかける。感情の高波が抑えられ、冷静に物事を考えられるようになる呪いだ。呪いとは。
「っ!?」
「ロルフ、ごめん。迷惑をかけたみたいだ。……ただ、疑われっぱなしもよくない。先輩、できることなら確認をしてほしい。そこの執事さんの言葉が正しいのか、僕が潔白なのか」
「え……ええ、それは、そうですわね。すべての言を他者から聞いたままに信じて……あなたを糾弾しようとしたことは、良くありませんでしたわ」
「ファーストコンタクトにおいても、上級生に取るべきではない生意気な態度を取ってしまった。それについても謝らせてほしい。……ああいや、ほしいです、と、そう言うべきか」
「いえ……こちらこそ申し訳ありませんわ。その……最近腹立たしいことがあって、……それをあなたにぶつけてしまいました。そうするべきではなかったと……今なら考えられます」
おっと執事さんがなりふり構わず暗器を持ち出してきたので一時的に四肢の制御をもらいますね。
ああ口からも? 君執事じゃないでしょ。暗殺者でしょさては。はい閉口YO!
「ロルフ・ヴェーバー、と言ったかしら、あなた」
「はい! なんでしょうか!」
「そうかしこまらなくてもいいですの。……ありがとうございます。おかげで……大那の娘としての、大きな過ちを犯さずに済みましたの。お礼を言わせてくださいな」
「え! い、いやおれほんとに何もしてなくて! ただ……折角同じ学校に通えたんだから、みんな仲良くできたらいいな、とか……恥ずかしいことばっか考えてて!」
「素敵な信念だと思いますわ。……ハウル・ハーミッドさん。あなたのことも、しっかり私の手で調べますの。そして……こちらの不手際があったら、後日謝罪に向かいますわ」
「……なら、僕も謝っておきます。僕の名前が元々ハーシェルだった、というのは本当です。養子縁組で名字が変わっただけで。だから、ハーシェルなんて名前は知らない、っていうのは、嘘でした」
よーし。
んであとは
「クラウス、戻りますわよ」
というお嬢様ちゃんの声に合わせ、執事くんの弛緩を解く。
マー薬品が抜けるまで多少はかかるだろうけど、いきなり襲ってきたことへのツケってことで。
「……はい。失礼しました、お嬢様」
さーて……ようやく回ってきたチャンスだ。
しっかり動いていこうかね!