序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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5.悪魔の囁き声

 次に赴いたのはハンラムという国。元居た国とは戦争どころか国交すらない国なので新しい出会いもありけりと思って来た。

 魔鉱石についてのノウハウはまぁぶっちゃけここでも使えるだろうけど、それじゃあ面白みがない。ので全く新しいことに挑戦することにした。

 年がら年中戦争or魔王との生存競争をしているあの国と違って、この国は割合のほほん気質。といっても強キャラがいないとかそんなことはなくて、なんというか下限と上限がピンキリってイメージ。

 また、この国は芸術大国を名乗っていて、制度やら法律やら全体的に芸術家優遇だ。ので二つ目でいきなり脇道へ逸れるけど、芸術方面での「──ですよね?」を目指そうと思う。

 

 さて、ざっとこの国で発生している芸術を見てきたけれど、地球に代表される画法は勿論のこと、魔鉱石や魔法そのものを用いた画法・画材があって、全く新しいこと、というのは中々難しそうに見えた。

 よって思考を切り替え、画法ではなく「生成プロセス」でテッペンを取りにいくことに決めた。

 

 生成プロセス。つまりAIが使う画像の生成方法のことだ。

 ランダムノイズを画板に敷いて、推論と妥当性から細部を決定し、画像を収束させる。筆先は魔力マニピュレーターを動かす感覚に似ているから、それができる。

 一見油絵みたいな始まりをしておきながら、見る人が見れば全く違うプロセスを辿っているこの画法は、強キャラが目を細めるに値する特異な存在になるのではないか、と。

 

 ハンラムはどこへ行っても芸術家優遇……つまり王都ソノヴァキアくらいでしか名の売れなかったあの国と違い、がっつり首都、みたいな場所じゃなくても一つコンテストで頭を取ればピックアップされる。これを使って身元のはっきりしない者でも参加可能なコンテストに参加し、頭を取る。

 既に魔道具にカメラが存在しているから画風は写実的なものではなく多少アニメチックへ。魔力マニピュレーターでやればゴッホだのモネだのどんな画風だって再現できるんだけど、残念ながら既にそれらしいものが散見されていたのでナシに。皮肉るやつがいないから印象派みたいな派閥名はついちゃいなかったけど。

 

 ただまぁ兵器や武具より凄い実感ってもんが湧きづらいからなのか、前回よりも少し長めの期間を過ごすことになる。

 

 二年……二年の時を経て、ようやく巨匠と呼ばれるところまで来ることができた。いや二年で巨匠は早すぎって意見も勿論理解しているが。

 そして、どうやらこの国高名な芸術家を抱えていることが一種のステータスになるらしく、貴族や実業家からのスカウトが止まらん止まらん。自分で工房を持てたソノヴァキアと違ってどっかに所属しない選択肢はない、みたいな感じなのがチョイ嫌。

 雇われてると後々抜け出し難くなんだよなー責任が発生するから。

 

 どうしたもんかと悩み悩んでいる俺に声をかけてきたのはスーパー陰キャ……もとい、同じ街の同じコンテストに作品を出していた引っ込み思案な少女だった。

 目元の見えなかった前髪をさっぱり切って、どこに隠していたのか長い後ろ髪をサラッと流して……いややっぱ髪って大事だよな。人の印象がガラっと変わる。

 

「ケレン、その……貴族たちじゃ満足できないのなら、私に……雇われる、っていうのは、どうかな」

 

 まぁそこそこ魅力的なお誘いだった。一度誰かのお抱えになってしまえばスカウトの声は止まる。とはいえ貴族社会なんで、そっから暗殺だのなんだのと「出る杭を打つような」ものへの対処が必須になってくるけど……。

 無名がうんたら、みたいな誹謗中傷に彼女が耐えられるのであれば、アリ。そう結論を出してその誘いをOKしたら、王族お抱えになっていましたと。

 

 王族だったカー。

 なんであんな田舎街のコンテストに出てたんだって聞いたら画法の指定のないコンテストって実は少ないんだって。確かにね。オールジャンルになっちゃうと審査員も大変だもんね。

 

 ま、王族がどうのなんて関係ない。十二分に名前と顔が売れて、責任……はまぁ発生したけどそこまで気にするモンでもない相手で、画法の特異さも知れ渡った。

 消え時だ。潮時でありたけなわでもある。今が一番盛り上がっているからね。

 

「ケレン、入るよ。明日はお姉様たちにケレンを──……ケレン?」

 

 前回何も言わずに消えて、その後見つかった時、至極正論な弁で詰められて詰めた側のフィノ君の立場が怪しくなっていた。

 そういうのは好まない。俺の夢は存分に人へ迷惑をかけるものであるから、意図しない不和を生むのは本意じゃない。

 ので、今回は不可抗力風味にしてみた。

 つまり宛がわれた部屋をできるだけ荒らし、窓も破れていて、さらに争った形跡まであって……という消え方。

 

 悲鳴や慟哭にも似た「早く! 兵を!!」という彼女の悲痛な叫びを背後に、そこから抜け出すことに成功したわけである。

 

***

 

 マルガナレ・アリエッタ。アリエッタ家といえば創始者の代から実に百人余りの「歴史に名を残す芸術家」を排出している芸術の名門である。

 そんな家に生まれた彼女もまた幼少から多大なる期待を寄せられて育った……のだが、特別な才覚を見出されることなく、十五年。成人の日まで来てしまった。

 できないのだから仕方がない。そんなさっぱりとした割り切りが彼女の口癖であるけれど、その実絵の得意ではない自身をコンプレックスに思っている。

 

「よし、自己分析終わり。……旅、かぁ」

 

 ノートを閉じて、一息。

 今日この日、マルガナレはアリエッタの名を捨てた。旅に出たのだ。絵の才しか視界に入らないこの窮屈な家を出て、外の広い世界を見ることにした。

 

 とはいえ捨て去ったはずの名の重みはリュックに形を変えて彼女の肩にのしかかっているし、出ていったことが露見していないからだとわかっていても探しにこない家族を……アリエッタの家を何度も振り返って、そのたびに溜息を吐く。

 既に隣街まで来ているというのに、未練がましいことだ。

 

「いや! 心機一転!」

 

 家を捨てたのだ。家が助けてくれることなんて、もう無い。

 そう意気込んだ彼女の目に入ってきたのは──……隣街であっても関係なく展開されている、芸術一色の店店店。店でないところもカラフルで、その光景は、もう。

 

 ……うんざり、であった。

 だから彼女がそれら雰囲気から逃げるようにして雰囲気の大人しめな路地へと入ってきたのは当然のことだったし、その路地にもあった画材屋に対して溜息を吐いたのもまた当然のこと。

 踵を返そうとした彼女はしかし、改めてその画材屋を見てみる。

 とてもじゃないけど客を呼び込む外装はしていないし、ボロボロの看板には何が描いてあるのかわからない。シンプルかつ無機質な立て札に「画材 あります」とだけ描かれた、マーケティングというものを徹底して知らないんじゃないかと思うような店。

 

 もしここでマルガナレが入店しなければ、この店は誰からも忘れられて消えてしまうんじゃないか。

 そんな予感さえあった。

 

 だから……一応アリエッタ家の末娘として、芸術に携わる者を救ってあげるつもりで、彼女はその店へと入店する。

 

「こんにちはー……って、あれ、中は案外きれい……?」

「いらっしゃい」

「……子供? もしかして、店番中?」

「ううん、ここは僕のお店だよ。イコノグラフ、っていうんだ」

 

 店内のカウンターにいたのは年の頃十一とか十二くらいの少年。成人したとはいえ十五歳なマルガナレとそう歳は変わらないけれど、それでも幼さを感じさせる容姿であった。

 マルガナレの脳裏に色んな想像がよぎる。この歳で店を持たなくてはいけなくなった経緯。親が死んだか、売りに出されたか。死んだとしてどのパターンか。

 様々な妄想を巡らせたのち──彼女の口から出た言葉は。

 

「よし決めた。実はお姉さんは高名な画家の家の出だかんね。都会でお姉さんが有名になった暁には、あんたの店のことを宣言したげる! そうすればお客さんも増えて、あんたの生活も楽になるでしょ!!」

 

 マルガナレ・アリエッタ。

 彼女を他貴族に嫁がせようとしていた家族による彼女の紹介文:少々思い込みと妄想の激しい子だけど、良い子であることに変わりはないだろう。

 実に正しい評価である。

 

 

 この旅の目的。

 なる気のなかったはずの「高名な画家」。有名になるつもりという嘯き。

 それらは彼女の潜在意識、無意識の根底にあった欲求だ。

 本当は家族と同じ話題で会話したかった。本当は自身の才を誰かに認めてもらって家族へ言い返したかった。

 自分は才能がないのではなく、活躍できる場が与えられていないだけなのだ、と。

 その幼稚で周囲の見えていない浅ましき考えは──たまたま出会った、あるいは仕組まれていた「とある夢を有する畜生」との出会いによって、願いにまで昇華されることになる──。

 

 

 マルガナレが少年……セレンと名乗った少年と出会ってから、しばらくが経ったある日。

 毎日のように絵を描けと、学べと言ってきていた家族はいない。その事実がマルガナレの心にぽっかりと穴をあけ、暇という形で彼女の精神を苛んでいたある日のことだ。

 その軋みから逃げるようにして彼女がイコノグラフの戸を叩くと、中で世にも不思議な光景が展開されていた……展開されているところに出くわした。

 

「……セレン?」

「ああ、いらっしゃいお姉さん。CLOSEDにしてあった看板、読まなかったんだね」

「え、あっ。ご、ごめん。気付かなかった」

 

 今開いた扉を見れば、確かにCLOSEDの掛札が。

 気が散っていた、と。そう言えるのだろう。

 

 して、目の前の光景はなんなのか。

 仄かに輝く画板。塗りたくられた青緑系の画材は見たことのある色味のものが一つとして存在せず、少年が有している筆も見覚えのないもの。

 

「セレン……も、絵、描くんだ」

「画材屋が絵描きじゃないことは珍しいんじゃない、この時代」

「そりゃそうだけどさ……。……それ、どうやって描いて……」

 

 全体に絵の具を塗りたくり、その上から細部を描き込む……否、描いているというよりは取り除いているという表現のしっくりくる画法。

 また、描かれていくものにも奇妙な点が多い。樹上に向かって幹と根があり、花の開くようにして広がる根の先に溜まった水が海を形成している。

 大気中にある幾つかの色彩は魔力だろうか。それにしては発生源や魔物が見当たらない。まるでそんなものが存在せずとも自由に振る舞っていいのだと……何かを示しているかのように。

 

「やってみる?」

「え。……あ、いや、あたしは……絵の才は、実は」

 

 初対面の時大言壮語を吐いたマルガナレだけど、どうしたって絵へのコンプレックスは消えていない。そこから克己して上手くなろうとするでもなく、ただただ過ぎる時を待つ日々を送っていた。

 だからその提案には恐怖があった。張った見栄が崩れる恐怖。足元が覚束なくなるような不安が。

 

「大丈夫。さ、この筆を持って」

「ぅ……」

 

 けれど自身で「才が無い」とは言えなかった。それを言い切ることは、自身の死を象徴することに等しい。できないのだから仕方がないとどれほど割り切ったって、意識の奥底にはそいつが居座っているのだから。

 その衝動にも近いものの名前を彼女はまだ知らない。あるいは別の言い換えならば知っているだろう。

 人、それをインスピレーションと呼ぶ。

 

「っ、なにこの筆……」

「絵を描こうとする必要はないよ、マルガナレお姉さん。想像するんだ。筆先に魔力を流しながら、自分の想像を組み立てる。比喩や感情を尽くしてもいい。自身の想像の細部(ディティール)をこだわって、やってみたいこと、描いてみたいものをぼんやりとでも意味のある言葉にする」

 

 指に吸い付くような手触りの筆。

 言われた通りに魔力を流せば、毛先の一本一本が意思を持つかのように別々の動きをし始める。

 

 深呼吸。

 声に身を任せる。絵を描くのではなく、想像する。インスピレーションの赴くままに。

 

 それは満開の花。樹に咲いた茜色の花々。一つ一つが未来(さき)を持ち、一つ一つが落ちる命を有する生命の大花。

 画材をぶちまけただけのような画板から、夢の実現を邪魔するノイズを除去していくことで絵としての妥当性を持たせ、成立させる。

 必要なのは技術ではなく想像力。どれほど細部を想像し、説得力を持たせられるか、という話。

 あるいはそれこそが技術の裏の顔なのだけど、マルガナレがそれに気付くことはないのだろう。

 

「目をあけてみて、マルガナレお姉さん」

 

 言われて気付く。いつのまにか目を閉じていた。

 目を閉じて絵を描くなど、余程の才の持ち主でもない限りやらないことだけど──果たして。

 

 そこには、不思議で奇妙でありながらも、あまりにも緻密で美しい絵画が存在していた。

 

「え……うそ、これ……あたしが描いたの?」

「そうだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……才能」

 

 悪魔の言葉だと指摘してやる者がいない。決して褒めていないと言ってやる者がいない。

 カズラ・リアナという純朴で真面目で律義な青年を前にした時は「鳴りを潜めた」畜生が、マルガナレ・アリエッタという特に何でもない少女に対しては牙を剥いている。

 その事実を差し込める人間はどこにも存在しない。

 

 こうして少女は新たな画法を会得し、アリエッタの一人としての道を再度踏みしめ始める。

 陰で笑う少年のことになどつゆほども気付かずに。

 

***

 

 マルガナレに才を囁いてからさらに時が経った。

 

「よ。また来たよ、セレン」

「いらっしゃい、マルガナレ。……と?」

「初めまして、私はジュリア。アリエッタさんの級友ですわ」

「級友……?」

 

 画材屋イコノグラフへとマルガナレが連れてきた少女。明らかに社交界慣れした優雅な雰囲気を持つその少女の名は、ジュリア。

 ……いやいや。ジュリア・セルベルタ。光触主義と呼ばれる画法派の家、セルベルタ家の、れっきとしたお嬢様である。

 

「今あたし、絵の塾に通っててね。そこで知り合ったコなの」

「トンプソン絵画学習塾に突如現れた新星……特異な画材と見たこともない画法で学習塾を騒がせたアリエッタさんですけど、その秘密を問うたら、ここへ案内してくださって」

「秘密ってほどでもなかったんだけどね。あたしが絵をもう一度学ぼうって思ったのも、描くことに楽しさを見出せたのも……セレンのおかげだからさ」

「僕は特に何もしていないけれどね」

 

 これは早速キタか!? なんて期待したのだけど、特にそれらしい素振りがない。

 まーお嬢様といっても子供だ。特にこの辺は田舎だから、よっぽどアンテナ高くない限りは知らんのも無理はない。

 けどいいぞ。マルガナレが社交的になればなるほど、承認欲求を高めて自身を売りに出せば出すほど確率は上がる。

 

「……ご謙遜を。この辺りの画材……魔物を使用しているでしょう。けれど、失礼ながら……こういった魔物を容易に狩ることのできる腕をお持ちのようには見えませんわ」

「え! そんな凄いものだったの!?」

「魔物を狩る腕がなくとも、魔物の死体を見つける術ならあるからね。どうとでもなるよ、その辺は」

「私は別に脅しをかけにきた、というわけではありません。ただ教えてほしいだけですわ。あなたの画材入手ルートを」

「それを教えてしまったらこっちは商売あがったりじゃないかな」

「元より大して儲かっていないでしょう? この店、少し調べさせてもらいましたけれど、お金の流れがほとんどありませんもの。あるのは店長さん……あなたの食費くらい」

 

 おっと。

 ……そういうところから不審バレするケースがあるのか。それはびつくり。

 

「ちょっとジュリア、来るのは初めてって」

「店に訪れるのは初めてですわ。調べたのも私の家の私兵ですし。そんなことより、アリエッタさん。あなたは気になりませんの? 親のいない子供がどのようにして生計を立てているのか。あなたが買う画材程度のお金でこの店の経営が成り立つ、だなんて本気で考えてはいませんわよね」

「そりゃ……」

 

 ふーむ。

 ハンラムでは強キャラ……というか別の画法の巨匠に来てもらって「──ですよね?」をしようとしていたのだけど、一応可能性を広げておくのはアリ、か?

 即ち、バトル・ペイントブラシの方面へ……!

 

「失礼ながら、と。そう言ったよね、ジュリアお姉さん」

「ええ、言いましたわ」

「──本当に失礼だった、という可能性を失念しているよ」

 

 と。

 言葉にしながら、彼女の背後に現れる。

 

「っ、!?」

「お嬢様!」

 

 途端、店に突入してきて、俺に武器類を向けてくるSPらしき人達。お、君良い武具加工してんねぇ。この手癖は……ヨルスの作品かな?

 突撃してきたSPさんたちに燃えるような赤色を見せて、次の瞬間にはカウンター内に戻っている。

 

「え? え?」

「子供一人で店をやるんだ。自衛手段くらいは持ち合わせているよ」

 

 混乱の極致、といったマルガナレを置いてけぼりに、ゲンドウスタイルで圧を出す。王道パターンはカズラ君でやったからね、変則パターンでマルガナレではなくジュリアが強キャラを連れてくるパターンもアリよりのアリよりはべり。よりにけり。

 ちなみに何をやったってまぁ要するにカラーズトラッフ○だ。あとミスディレクション。移動自体は単純な身体能力だけど。

 催眠……とかいうのができたら格好良かったんだけどね。これは単純に画材に使っている魔鉱石が持つヘイト誘引効果である。防具加工の応用ってヤツ。

 

「──失礼をしました。入手ルートもあなた自身であると……そういうことですわね」

「そうだよ。それで、さっさと本題に入ったらどうかな。画材を見て、画法を見て……セルベルタ家の令嬢はマルガナレと僕にどんな価値を見出したのか」

「話の早い方は嫌いではありませんわ。──では、おいくらですの? あなた」

 

 問いに。

 

「君がマルガナレ・アリエッタを前に出す値段と同額、かな」

「……安値でも高値でも、お友達は買えませんわ」

「なら僕も買えない。魔物を用いたとされる画材も、同種の魔物を捕まえただけではどうやってもならなかったはず。その生成方法も教えないし、僕とマルガナレがやっていることに必要な絵筆も君には渡さない」

 

 話の渦中にいるのに話に混ぜてもらえないでいるマルガナレ。まぁ仕方がない。君は安易に、そして友達だから、なんて理由で自身の技術を紹介したのやもしれないけど、ハンラムは徹底した貴族社会だ。元来探ったら痛かったはずの腹を見せるその行為は、既に相手に服従していると取られてもおかしくない。

 一度売った魂を別の悪魔に売りつけたのだ。発言権が無くなるのも無理はないさ。

 

「──七千万ストレイル。私に出せるのはそこが限度ですわ」

「ならそれを全てマルガナレへの出資費に充てるといい。君が調べた通り、僕は食費くらいしか要らないからね。その食費はマルガナレが僕から買ってくれる画材の料金で十二分に賄える」

「な、七千万って……」

「わかりましたわ。つまりアリエッタさんを買えば、あなたがついてくると。あなたは非売品なのですわね」

「理解が早い人は嫌いじゃないよ」

 

 芸術家優遇で地方出身でも身元があやふやでも有名になれるハンラムだけど、勿論身元がはっきりしていて限られた存在にしか参加の許されないコンペティションも存在する。

 首都クロアナで開催される、藝理総会、という会合だ。いずれはマルガナレにそこへ出てもらうつもり。

 高い参加費と厳正なる身元の審査。それを経て初めて参加権の付与される、「クオリティが最高であるもの」だけが競争し合うその総会へ。

 つまるところ、カズラ君でいうところの魔王討滅みたいな目標なわけだよね。それを彼女へは手ずからの誘導にしてあげた、と。

 

 んで良い感じにあのスーパー陰キャかその手先の目に留まって……めくるめく「──ですよね?」発生の機会を。

 

 さて……今回はどんな展開になるかなー!

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