序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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48.終わり得ぬ狂想曲

 これほど大規模な作戦の実行となれば、さすがに連邦政府の許可がいる。

 とはいえ冒険者ギルドと連邦政府は不仲であるとかそういうことは全くないこと、また、この解決策が黒靄(ダークミスト)事件の解決に有効そうであること、害と呼べるものが考えられないことなどから、すぐに許可が下りた。

 許可どころか協力……見つかっているダンジョンを軍人が包囲し、もしもの時の避難誘導までしてくれるおまけつき。

 

 何の因果かはわからないが、今俺は、結界球・付着のリアレンジをキアステンに教えている。

 結界術の練度も魔力量もキアステンの方が上であるためだ。

 

「大気中の魔力、つまり無主魔力に自分の魔力を通す時、魔法使いは無意識に魔法抵抗の低い場所を使っている。これはそれを意識的に可視化し、利用する魔法なんだ」

 

 普段魔法使いたちは無意識のうちに「魔力を通しやすいところ」から魔法を発し、そこを通して敵に魔法を当てている。単純な水球や火球がまっすぐではなく多少の弧を描いて飛来することがあるのはこれが理由だ。

 つまり魔法使いは、魔法を使う前の時点で周囲の地形や無主魔力の魔力抵抗を肌で感じ取っていると言える。

 ここをより明確にプロセスとする。

 

「魔法使いは常に自身から微量な魔力波を飛ばしている。その形は同心円状であり、この中に魔力抵抗の高い場所や障害物なんかがあれば、それを無意識に避けるよう記憶する。これを確定と呼ぶ」

 

 ホワイトボードを~、とかはやんない。ローレンスの時もそうだけど、そういうタイプの「あなたまさか」みたいな再会は好まないからな。

 

「次に、探知したい対象の魔法的特徴を自身の魔法に入力する。この探知したい、の部分は今だからこう言っているけど、攻撃の時は攻撃したい対象だし、守護したい時は守護したい対象だ」

黒靄(ダークミスト)の魔法的特徴は?」

「あれらは黒い身体をしているけれど、闇属性を有しているわけじゃない。ただし光属性の魔力に敏感で、避けたがる傾向にあるね」

 

 その「光属性の魔力を避けたがるモノがいる方向」へ、直線的な期待値の高いルートを構築しながら魔力が集中するように組む。

 

「こうすることで、行き止まりや探している対象ではないものといった期待値の低いルートに通ずるものが消えていき、対象へ最短ルートを取って繋がる結界の糸筋だけが残る。魔法自身が術者の支払うコストと推定される獲物へ辿り着くべきリターンを天秤にかけるんだ」

「……よく考えるわね。そしてそれを細かく分けると」

「そう。ゲーゼさんがどれほどまでを扱えるかはわからないけど、初めてなら千は超さない方が良い。結界が取ってくる情報に溺れかねないから」

「大丈夫よ、と言いたいところだけど、そうね。無理はしないでおくわ。だから半分は任せるわよ」

「うん」

 

 付着自体は結界の守護対象を変更するだけなのでなんでもない魔法だ。つかそれができなきゃ結界なんて使えない。

 

「……僕としてはコッチの方が心配だけどね」

 

 コッチ、と言いながら手の甲で叩くのは、隣にある巨大結界。

 中は見えないように遮光させてもらった。この中には『王様』がいる。

 

「気付いているのでしょう? 彼が魔、」

「気付いているけど言っていないんだから、言わなくていいよ。今の人類にとってはS級パーティに所属している凄腕テイマーでしかない」

 

 魔物使い(テイマー)。世にいる大抵のテイマーは、子供の頃から共に育ってきたパターンか、薬や餌、あるいは子供を攫って調教・洗脳するパターンがほとんどだ。

 けど、本人が持つ圧倒的な存在感によって()()()()()というケースも過去に無いこともなかったとかで。

 彼がそうだったことにして、今、結界内である調整が行われている。

 

「けど、流石に驚いたわ。薬だけじゃなく黒靄(ダークミスト)まで作れるなんてね」

「ちょっと、折角言葉を濁したのに……」

「周囲40athlに聞き耳を立てている人がいないことは確認しているわ」

 

 ……まぁ、そういうことだ。

 俺の瀛毒に対するアプローチを使うのならば、肝になるのは黒靄(ダークミスト)をどう探すか、ではなく、黒靄(ダークミスト)をどう薬に置き換えるか、の部分。

 まさか薬がそのまま黒靄(ダークミスト)に効くわけもなく……どうしたのか、といえば、今キアステンが言った通り。

 

 俺が黒靄(ダークミスト)を作った。黒靄(ダークミスト)を、というか、黒靄(ダークミスト)を捕食して土に変わるという生態を持つコンストラクトを、だ。

 ずっと考えていたことでもある。つまり、『永遠の子供時代(エルヴァホイ)』における黒靄(ダークミスト)とはなんなのか、について。

 知識になった記憶曰く、あれなるは『庭師』が作り出したものであるという。……だが、精霊が魔物を作る、という話は聞いたことがない。『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』の血液を飲んでいたからといって、理由にはならない。高位の精霊ならば魔物を作り得る、というのが事実として存在するのなら、精霊産の魔物がもう少しいたっておかしくはないはずだ。

 つまるところ、『庭師』が作り上げたのはコンストラクトだったのではないかと考えた。

 自己増殖し、他の生物の姿を模倣し、子供を攫う、ということをインプットされたコンストラクト。術者たる『庭師』がいなくなって尚長いこと活動していたのは俺と同じ……というか伐開の魔族と同じ手法を使ったか、それこそ高位精霊としての莫大な魔力を注ぎ込んでいただけ。

 

 そして……コンストラクトであった、というのなら、エリスフィア帝国と一切関係の無い連邦に黒靄(ダークミスト)が出てきたことにも納得が行く。

 コンストラクトに『永遠の子供時代(エルヴァホイ)』は関係ないからな。そのものを知っていて、コンストラクトに造詣が深いやつなら、模倣できるんだ。今の俺みたいに、自らの手で黒靄(ダークミスト)を作ることができる。

 ダンジョンを形成させている理由はまだわからない。というか術者が生きているかもわからんレベルだ。生きているならもっと効率的なやり方をしそうだから、何かの副産物が残ってしまった、がしっくりくる。

 ダンジョンの作られ方から考えるに……何かを掘り当てたかったか。

 異界『永遠の子供時代(エルヴァホイ)』事件の終息と同時期に出てきたらしいから、六十二年前のV・D連邦になにかがあったと考えるべきだが……。

 

 ──結界が開く。

 一応警戒し、キアステンを下がらせる。

 

「あら格好いい騎士さんね。でも大丈夫よ、バリムケラスお兄ちゃんは強いから」

「……ああ、今しがた終わった。ハウル・ハーミッド。どうやら貴様は尊敬に値する人物らしい」

 

 出てきたのは傷一つない『王様』。ヒュウ、流石。

 すぐに結界を閉じる。彼が結界の中で何をやっていたのかというと、なんと最初の説明通り、黒靄(ダークミスト)の調伏である。

 

 確かに黒靄(ダークミスト)は作れた。が、すべて俺が指示をしないといけないような、手となり足となる程度のものしか作れなかったのだ。

 魔物のような振る舞いがさせられない。そのことを理解して、ならばと、頭脳の部分を黒靄(ダークミスト)からコピってみた。俺の自作黒靄(ダークミスト)は、自認黒靄(ダークミスト)の身体は別物、みたいになったわけだ。

 んでそうなってくると今度は俺に従わない問題が出てくる。あれよ、エチェロエグズル教戒院にいるモーガンやらシュラインやらの意識を保ったままに命令したことをやらせる、っていうのが難しいみたいなさ。行動と意思は連動するものだから、自認魔物で肉体は俺の命令に逆らえない、が無理だった。できるのかもしれんが研究不足だった。

 ということで、圧倒的な存在感を持つ『王様』に自作黒靄(ダークミスト)を調伏してもらった、というわけだ。もしこれが無理なら仕方がないので全手動黒靄(ダークミスト)君を向かわせていた。できないことはないからな。

 

「だが、正しきを見失えば、それはヒトというものの首を圧し折る剛力になるだろうし、その在り方はいずれ貴様自身の首を絞める結果になりかねんぞ」

「大丈夫、わかっているよ。ローズさんにも言われたことだけど……技術というものが民衆に与える恩恵と、それを狙う者がいるあまりの悲劇については、ちゃんと理解している」

 

 ……それに、実を言うと俺は……割と自然主義なところがある。

 死者は死者だ。病も、その時に治せないのなら、治るべきではない。怪我も同じ。

 レベッカの時は懇願されたが故の執刀だった。いや、意識が医者としてある時は何が何でも救おうとする、というべきかな。

 普段の俺は、何が何でも命を救おう、という気概が無いんだ。

 

「貴様……その歳で、どれほどを経験してきた」

「お互い様じゃないかな。君も、()()とはいえ、そこまで歳を食っているわけじゃないんだろう?」

「ふん、オレは……。……まぁ、そうだな。オレもまた、ガキだ。それも……許せないことを理由に、争いを許してしまうくらいのガキだ」

「にしても、ふふ、あなた。緊張が解けたらそんな口調なのね。私の知っているお爺さんにそっくりで、ふふ、面白いわ」

「……年齢の割にジジ臭い、とは良く言われるからいいんだけど、ゲーゼさんみたいな女の子に言われるとちょっと傷つくな……」

 

 危ない、『博士の博士』は変なしゃくり以外割と素の口調だったからな。意識して少年に寄せなければ。

 

 しかし……なーんかあんだろうな、この子にも。

 ったくよ、ただのぶらり旅ができてりゃどんなに良かったか、ってね。強者には強者の責任ってやつ? 俺好きじゃないんだよなあの言葉。

 

 好きに生きさせたれよ。末路がどうなろうと、誰そ彼そも知ったこっちゃねぇだろうに。

 

「おーい、ゲーゼ、バリムケラス。準備はどんな感じだい」

「こっちはもう万全よ。そっちはどう?」

「こっちは九割がたってとこさね。アタシはいつでも問題ないが、軍の方が──」

「──否、こちらも準備を終えたところである」

 

 お。ローズちゃんと……知らんおっさん。と、ハーゲンくんだ。

 おっさんが腰に佩いている剣は……ありゃ魔剣だな。へー、非実体系と浮遊特効か。良いの持ってんね。

 

「ヴァグス・ドランシア連邦軍大佐、ベルグハルト・アンシュッツである。S級冒険者パーティ、『薔薇の棘』。運貴名(うきな)グループ代表子息、ハウル・ハーミッドくん。諸君らのことはギルドマスターから聞いている。此度、連邦を苦しめ続けた魔物の討伐にあたり、馳せ参じた次第だ。この現場における軍人の最高権力者は私になる。軍人への指示があれば、私を通してほしい」

「今に限り、私はハーゲン・アンシュッツ曹長だ。申し訳ないが、作戦行動中は友人のハーゲン・アンシュッツとしてはあれない。それを許してほしい」

 

 いいね、友情云々でその辺曖昧にされるよりずっといい。

 ロルフたちもこの騒ぎには気付いているだろうけど、民間人だからな、士官学生は。近づけなくていいのさ。

 ハーゲンくんはそれだけ言うと、恐らく持ち場だろう方へ戻っていった。代わるようにしてギルドマスターがやってくる。

 

「ギルドの冒険者も配備済みだよ、ゲーゼさん」

「ああ、ギルドマスター。……そ、なら始めましょう。既に結界術は使いこなせるようになったから」

「それは頼もしいね。……というわけだ、アンシュッツ大佐。手順を改めて確認しておきたいのですが、構いませんか?」

「うむ」

「それじゃあ説明をさせていただきます。まず、第一段階。ゲーゼさんとハーミッドくんによる結界術。これにより、連邦じゅうの黒靄(ダークミスト)が全て探知されます。黒靄(ダークミスト)を探知した結界はその場に簡易の結界を作ります」

 

 血痕付着と同じだ。それを超広範囲でやるだけ。普通に囲むとなると俺でも骨の折れる範囲だけど、結界球・道標は発動時に魔力を食うだけで、発動後は維持に必要な程度だからな。アルカの前代『最小限(シンプレクス)』だという効率化の鬼に嫉妬して作った魔法だから、その辺もばっちしよ。

 

「第二段階。そのルートを通って、高位テイマーが調伏した疑似黒靄(ダークミスト)がその結界に入ります」

「確認を取る。その疑似黒靄(ダークミスト)は、本当に危険が無いのだね?」

「無い。……今デモンストレーションはしてみせるべきか。ハウル・ハーミッド」

「ああ、じゃあ、少しだけ出すよ」

 

 結界が開く。そこから現れたるは、真っ白な黒靄(ダークミスト)白靄(ホワイトミスト)と呼称を変更した方が良いかもね。

 この自作黒靄(ダークミスト)は決して疑似なんかじゃないけど、わかりやすいように、そして納得してもらうためにそう呼んでいるだけだ。

 

 白くてそこそこ巨体なそいつは、結界から出ると……脇目もふらずに『王様』に傅くような姿勢を取った。

 おー、すごい。完全に統御しているな。

 

「……素晴らしい才だ。S級冒険者……やはり実物は己が目で見てこそだな」

「大丈夫そうなら、しまいます」

「ああ、頼む」

 

 そいつを結界へ戻して、と。

 

「続けましょう。第三段階、結界内に疑似黒靄(ダークミスト)が入ったら、安全のため、配置についた軍人、冒険者によってその結界を囲うようにして結界が張られます。準備は大丈夫でしょうか?」

「無論である。距離が距離ゆえに指揮の届かぬところもあるが、皆手順は頭に入っている」

「ありがとうございます。第四段階、疑似黒靄(ダークミスト)黒靄(ダークミスト)を捕食し、土へと姿を変えます。推定される所要時間は十分ですが、疑似黒靄(ダークミスト)は戦闘用には作られていないため、黒靄(ダークミスト)に敗北する、ということがありえます」

「そうなったら軍人が対処をする。基本はならぬと聞いていたが」

「はい、基本はなりません。相当気性の荒い魔物を模倣していない限りは、です。ですが、やはり何事にも絶対はありませんので」

「わかっておる。安心したまえ、軍人は強いぞ」

 

 知っているさ。規律正しい軍人は強いんだ。とんでもない暴力が相手の時を除いてな。

 

「第五段階、疑似黒靄(ダークミスト)が土に変わったあと、再度ゲーゼさんとハーミッドくんが探知結界を使います。これで討ち漏らしや生き残りを発見し、生き延びられる可能性を潰します。……以上ですが、何か質問のある方はいますか?」

「アタシから一ついいか。今のを聞いていて、坊主。アンタに聞きたくなった」

「はい、なんですか?」

 

 ローズちゃんからの鋭い視線。

 

「この作戦は、今いる黒靄(ダークミスト)をどうにかしよう、って作戦だ。……術者がいる可能性を考慮していない。そうだろ」

「それは……どういうことかね?」

「今回の作戦で疑似黒靄(ダークミスト)が作れたように、あれら黒靄(ダークミスト)も何者かによって作られたものである、という可能性の話ですよ」

「そんなことが……」

「僕はその線は薄いと思っています。というか、そうだとしても、もう魔法使いは生きていない、と思っているんです。使役されているにしては無作為に動きすぎですから」

 

 その線を薄いとは欠片も思っていないよ、というのを視線で伝えれば……ローズちゃんは、ケッと行儀悪く視線を外した。

 

「すまないね、心配性なんだ。余計なことを言って不安を煽ったかもしれない」

「いや、必要な視点だった。……長年連邦を脅かしてきた何者かがいる、という可能性は……得難い視点だ。感謝をしよう。……そして、仮に首謀者たる魔法使いがいた場合は、私達軍人に任せてほしい。それの討伐、及び交戦は作戦外であると言わざるを得ない。民間人である君達が相手をするには、危険が釣り合わぬ」

「ええ、任せたわ、軍人さん」

「うむ。──では、ギルドマスター。作戦開始の合図は私が行うつもりだが、如何か」

「勿論お任せしますよ」

「ああ。──では、現時刻を以て作戦名『季節外れ(ロシュン・ヘリィ)』を開始する! ゲーゼさん、ハーミッドくん。よろしく頼む」

 

 お任せあれ、ってな。

 ……キアステンとこうして肩を並べることはなかったから、なんだか感慨深いよ。……結局なぁ、こうやって……教え子だったり、関わった相手だと、すぐ感慨深くなって、すぐに流されちゃうのが良くないところなんだけどさ。

 感慨まで捨てたら、本当に化物になっちゃいそうだから、これは持っていかせてもらおう。

 

「結界球・付着・細粒」

 

 声が二つ重なる。ほぼ同時に発動される結界球。

 仰向けにした手の平の上に生成された球体から──幾本もの線が伸びていく。

 

「……ちょっと。半分任せる、って言ったんだけど?」

「多いに越したことはないからね」

 

 キアステンは千本。俺は……三千はあるかな。

 一万五千のマニピュレータはやりすぎってこと。普通ならこれくらいでいい。

 

 球体から伸びた線は空高くまで伸び、そこから連邦の……主に国境へ向けて伸びていく。

 

「目、瞑っておいた方が良いよ。視覚情報や聴覚情報も押し流されるから」

「……はぁ、じゃあ、先達に従うわ」

 

 お前が素直でよかったよ。割とホントにとんでもない情報量が来るからな。

 

 ──捉えた。

 

「ッ!? ……なる、ほど……これは……結構クるわね」

「一度に目が千個増えたようなものだからね。……そろそろだ。バリムケラスさん、繋ぐよ」

「ああ。だが、大丈夫か? ゲーゼは……少しつらそうに見えるが」

「え、ああ。……どうする? あと五百くらいなら肩代わりできるけど」

「問題ない……けど、喋ってる余裕ないから、接続、お願い」

 

 だろうな。目が千個増えたようなものと言ったけど、実はもっとだ。耳も千個になったし、手も足も千倍されて、それを一つ一つ動かさなきゃいけない、という感覚に似ている。

 そんな感覚は流石に味わったことないから比喩だけど。

 

「手を」

「ああ」

「ゲーゼさん、ごめんね、肩掴むよ」

 

 結界球を浮遊状態にし、左手をキアステン、右手を『王様』に繋ぐ。

 そうして『王様』に出力結果だけを流す。

 

「──行け」

 

 短い号令のあと、俺たちの構築したルートを通り、調伏された自作黒靄(ダークミスト)がだくだくとそこを通って現地へ向かう。

 よーし、これでようやく第二段階だ。

 

「……っ」

「大丈夫かい、ゲーゼ」

「え……ええ。大丈夫よ。……痛いとか、苦しいとかじゃないの。この疑似黒靄(ダークミスト)が……私の作った通路を通る感覚が、不快で……」

「聞いても強がりそうだから、ちょっと貰うよ」

「あ……」

 

 三百本ほど貰う。もう接続しているから関係ないしな。

 

「落ち着いたら、結界との感覚リンクを切るといい。視覚情報だけを残して、その他をシャットアウトするんだ。できる?」

「……ええ、できる。……ありがとう」

 

 よし、最後の一滴まで注がれたな。

 あとは自作黒靄(ダークミスト)が規定通りの動きをしてくれるか、だが。

 

 ……ん?

 

「今のは……」

「良く気付いたな。ベルグハルト殿、想定外の事態が起きた。ダンジョン周囲に魔物が現れているようだ」

「なに?」

「──大佐、報告します! 黒靄(ダークミスト)と疑似黒靄(ダークミスト)を封じ込めた結界を守護中の軍人が魔物と交戦していると、複数の報告が入っています!」

 

 なんだ? なんで魔物が襲撃しにくる?

 魔物と黒靄(ダークミスト)に繋がりは無いはずだ。……それとも、やはり何か別の目的があった黒靄(ダークミスト)が……それを消されることを嫌がった魔法使いによる襲撃……?

 

「ギルドマスター」

「ああ、わかっている。冒険者たちを遊撃に当たらせよう。軍人さんたちは引き続き結界を守ってほしい」

「そう、だな。それが適した判断か。指示をする。引き続き結界を死守せよ。魔物を深追いする必要は無い。結界を守護が最優先だと伝えろ」

「ハッ! ですが、遠方の隊へは」

「自己判断に任せるほかあるまい。大丈夫だ、遠方の隊とて結界が最優先事項であることはわかっている」

 

 ……ここで、たとえば結界に文字を表示させることくらいはできるよ、みたいなことも実は言えるんだけどな。

 それをやると遠方への連絡手段ができてしまうのでやんない。少なくともシュラインの時にはそんな手段なかったし。

 

「う……? これ……、大変! 空中の結界糸が攻撃を受けているわ!」

「なんだいそりゃ。魔物にしちゃ知能がありすぎるね。大本を断てばいいなんて考えができるのは」

「……首謀者が、やはりいるのか」

 

 それはマズいな。キアステンの結界術は強度を持たない。使いこなしたとか言ってたけど、感覚切るので精いっぱいな奴は使いこなしたとは言わねーのよ。

 

 ……ふむ。マー適材適所か?

 これくらいならアリだろう。

 

「ゲーゼお姉さん、僕の魔力を受け入れて。結界全部を強化するよ」

「え……あ、ダメよ、私の魔力はちょっと特殊で」

「四の五の言ってる暇ないから──はい、接続」

 

 ──途端、こっちを食い破るかのような……霊質にさえ作用してくるナニカが俺の魔力内に入り込む。

 なんだよ。解析してほしいなら後でしてやるから、ちょっと大人しくしとけ。

 

 ピシ、ピシと、何かの裂ける音。

 

「ハーミッドくん、それは……」

「……」

 

 言われて気付いた。……腕周りの肌が割けている。鎌鼬でも食らったかのように。

 はーん、内側から破るってそうなんのね。この程度で食い破れるヤワさは持ってないつもりだが……治癒魔法まで使ってる余裕は無いな。

 

「はぁ、今回役目がないとは思っていたけど、ここなのね。……ほら、切れたそばから治してやるから、結界に集中しなよ」

 

 治癒魔法の光が身体を包む。マーお医者さんだろうから使えるのは知ってたけど、なんか変な治癒魔法だな。外傷特化だ。

 でも、ありがたい。治癒魔法がありがたいというか、外部に他人の魔力がある、って状況がありがたい。

 だってそれは、結界だから。

 

「──オーケー、もう大丈夫だ」

 

 掌握する。『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』の魔力なんだろうが──俺の肉体で、俺の霊質で、いつも通りの顔を利かせられると思ったら大間違いだからな。

 

「うそ……」

「……貴様」

「というか、大佐さん、ギルドマスター! 前方、なんか来てる!」

 

 砂埃を上げて……こっちに直進してくるのは、巨大な猪の魔物!

 

「行かせはせん!」

 

 大佐さんの持つ剣は非実体系には有効かもしれんが、ああいう手合いにはただの剣だ。

 もしかしたらがあるんじゃ、と思った……けれど。

 

「──ふん」

 

 ひらりと突進を躱したかと思えば、巨猪の顎に身体強化込みの蹴りを食らわせ、よろけた体躯の下から、顎を突き上げるようにして魔剣の一撃をお見舞いした。

 ビューリフォー……。勢いそのままにコースを逸れて飛んでいく巨猪。

 

「大佐さん! 十分です! 疑似黒靄(ダークミスト)黒靄(ダークミスト)を食べ終わるまでの時間、僕たちを守ってください!」

「無論だとも! 子供とは、未来そのものだ! 今はこうして君達の力を借りるしかない頼りない大人であれば、せめてその身を一切の害から守る盾になろう!」

「……」

 

 何か……思うところがあるのか、『王様』が生唾を飲んでいる。

 十分。というか、あと七分くらいでいい。キアステンの魔力を包む俺の魔力で結界を強化し、結界糸を保護する。

 ……が。

 

「また、増えて……!」

「みたいだ。バリムケラスさん、もし可能なら」

「良いだろう。ハウル・ハーミッド、騎乗可能なコンストラクトは出せるか?」

 

 ……出せるが、出せたら遠方との連絡手段に、って言われそうだから……タイムリミットをつけさせてもらうか。

 

「そう長くは保たないよ!」

「ああ、問題ない。ローズ、ゲーゼたちのことは任せたぞ」

「はいよ。アタシがいるうちは死者なんか出さないから安心して行ってきな」

 

 大型の鷲の魔物を模したコンストラクトを生成、五分の命なそいつに『王様』の言うことを聞くよう指示をして、放つ。

 乗り込んだ『王様』はコンストラクトと共にすぐさま北の空へ行って見えなくなった。

 

「……ちょっと魔力がキツい、かも」

「でしょうね。さっき奪っていった制御、ちょっと返しなさい。余裕出てきたから」

 

 ハウル・ハーミッドは子供の域を出ないスペックだからなぁ。魔力が明らかに足りない。

 一応プールから汲みだせるとはいえ、それは最終手段だし。

 

「アンシュッツ隊、陣形を組め! 結界を行使する二人に魔物を近づけさせるな!」

「ハッ!」

 

 果たして──。

 

 

 ……ま、十分なんてあっという間である。 

 魔物による妨害は多数あったものの、無事、黒靄(ダークミスト)を駆逐し終えた。第五段階の確認用の結界にも黒靄(ダークミスト)は引っかからず、作戦は無事成功。

 怪我人は多少出てしまったが、死者はおらず、事件は幕を閉じた。

 

 ……とは、ならない。

 

「レオポルド・ザイフェルト。ダンジョン『ヨウギット』の近くで粗悪品の採掘道具を売りつける商売を行っていた者です」

 

 連邦軍作戦本部。

 ベルグハルト・アンシュッツ大佐、ギルドマスター、『薔薇の棘』に、俺。

 んで軍のお偉方の集まっているそこで、会議が行われていた。

 

「本作戦中、疑似黒靄(ダークミスト)の入り込んだ結界を苦々しく睨みつけていたこと、襲ってくる魔物たちの出所にいて、且つ魔物から襲われていなかったこと、などを理由に一時拘束したのですが、直後軍が何者かに襲撃を受け、逃走を許しました」

「何者か、というのはわからないのかね?」

「一部の者は、ロストランドで見るような民族衣装を身に纏っていましたが、はっきりそうだとは言えない現状です」

「……成程。つまりその者たちが……我が国に黒靄(ダークミスト)を放ち、解決に尽力してくれた冒険者、並びにハウル・ハーミッド殿を狙った者たちであろう、ということだな」

「恐らくは、になりますが」

 

 此度の件の首謀者。

 たった一人の魔法使い……ではなく、組織立ったものである、という可能性が出てきたのだ。

 それも……他国が絡んでいる可能性のある厄介な話だと。

 

「問いを。ハーミッド殿、よろしいかな」

「はい」

「まず、黒靄(ダークミスト)について。これはもう我が国には現れない、と見ることは可能だろうか」

「可能性がないわけではありませんが、そう見ることは難しいです。あれが使役されていた魔物であった場合、リソースさえあれば、またどこかで作れてしまう、ということなので」

「パウル中将閣下、私も一つ彼に聞きたいのですが、よろしいか」

「良い。ラーレンツ准将、申してみよ」

「は。……ハーミッド殿。失礼でなければ、貴殿がどのようにして疑似黒靄(ダークミスト)なるものを作ったのか、お聞かせ願いたい。そのリソースはなんだったのか」

 

 質疑応答……主に疑似黒靄(ダークミスト)に関するものが繰り広げられていく。

 何が必要なのか。それなりの魔力と水、ないしは血。

 作成に際して何か光などは出るのか。出ない。ただし、規模を大きくするのなら儀式場のようなものが必要になる可能性がある。

 今後新たに黒靄(ダークミスト)が作られた場合、元々いたものと同じくらいの気性であるのか。その可能性は低いが、使役者にそうさせられている場合はその限りではない。

 土に変わった黒靄(ダークミスト)が再度元に戻る可能性はないのか。それは無い。大丈夫。

 

 そういう質疑応答が繰り返されて、三十個くらいかな。答え終わって……ようやく聞きたいことが無くなったのか、パウル中将さんに話の主導権が戻る。

 

「襲撃を受けた者達が恢復次第、人相書きを描かせよ。連邦内に指名手配をかける。ジーノ中将、お主らは待機じゃ。ここまで噛ませた手前申し訳ないが、これ以上は軍の管轄となる」

「……今はただのギルドマスターですよ、パウル君。そして、勿論理解しています。ギルドが軍の捜査を撹乱する事態になってはいけませんからね」

 

 おー……身内からとはいえ、「──ですよね?」予備軍だったんだな、このギルドマスター。

 つか中将て。その若さで退役するには流石に高すぎないか階級。

 

「少し悠長すぎない? 厳戒態勢を敷いたって良いと思うけど」

「ローズ、ダメよ。軍人さんたちには軍人さんたちの考えがあるのでしょうから」

「いや、意見はありがたい。S級冒険者の意見を聞かせてくれるか」

「つまり、敵は複数人いて、その複数人が街中のあらゆる場所で黒靄(ダークミスト)を作成できるかもしれない、って話でしょ、これ。だっていうのに指名手配止まりじゃ、国をめちゃくちゃにしてくれって言っているようなモンじゃない」

 

 確かになー。

 黒靄(ダークミスト)一体でもかなーり厄介だからな。それを好きに放てるやつらをほとんど野放しに、は……ちょい危険か。

 

「無論、理解しておるよ。しかし、いたずらに不安を煽っては敵が動きやすくなるだけ。それよりは……ハーミッド殿」

「え、あ、はい」

 

 なんでせうか。

 

「この作戦において使われた結界術、軍の者に教えてはくれんかのう。お主らより探知できる範囲や数は劣るやもしれぬが、人海戦術で国土を埋め尽くして結界術を用い、すぐにでも黒靄(ダークミスト)を検知できるようにしておきたいのである」

「ああ、はい。教えますよ」

「助かる。……すまぬの、お嬢さん。敵の全容がわからぬ以上、今はこれだけしか動けぬのだ」

「……そう。好きにしたらいい。余計な口を出したわね」

 

 名前からして多分ローズちゃんも連邦出身なんだろうけど……色々あんだろうなー。

 色々ありすぎなんだよこの世界の子供達は。

 

「では、本会議を終了とする。ギルド関係者、ハーミッド殿は帰宅してほしい。軍関係者は、すまぬが、ここからすべてを詰めていくぞ」

「ええ、頑張りましょう」

「結界に関しては明日にでも使いの者を出す。それまで待機をしておいてほしい」

「はい、わかりました」

 

 時刻はとっくに明日になっていた。

 これにて一旦の解散ではある……が。

 

 果たして、この騒動はいつ終わるのか。

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