序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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51.私の背を押す暖かな風

 正門組を精鋭軍人+ローズに任せ、裏門組。

 ハウル、バリムケラス、アンシュッツ大佐、シュエン元帥というアタッカー過多のパーティになっている。

 

「一階、柱裏に各二人、階段裏に三人、階段上に二人!」

「良いスポッターだ」

「思ったより数が多いな!」

「想像の倍はいると思った方が良さそう、だ!」

 

 ハウルが検知し、残り三人で叩き潰す。

 アンシュッツ大佐とシュエン元帥はバリムケラスの戦闘力に舌を巻き、バリムケラスはバリムケラスで二人の洗練された殺人術に恐ろしいものを覚えていた。

 

「地下から……封印術の気配がする。構造……把握。階段はこっちだね」

「貴様のその魔法、要塞や砦が形無しだな」

「将来が楽しみでならんが、このように危険で突飛な作戦ばかり打ち出す将にはなってくれるなよ!」

「それは士官学校の教育次第かな」

「指導担当官に強く言い含めておこう!」

 

 地下に入ってすぐ飛来するは矢。

 人体程度軽々と突き刺し得るそれを、正面から切り伏せるアンシュッツ大佐。さらにさらにと飛来してくる矢についてはその一本一本の前に結界の壁ができて、防がれた。

 

「右手の食糧棚裏に弓兵が二人、樽の中に一人、廊下に二人。廊下の二人は魔法を構えているから気を付けて」

「魔法使いはオレが仕留めよう」

 

 飛び出すバリムケラスに矢が飛来する……が、彼は器用にもそれを全て避け、廊下まで突っ切った。

 当てられなかったことを歯噛みする弓兵二人をシュエンが斬り殺し、樽の中から奇襲を仕掛けようとしていた一人をアンシュッツが仕留める。

 

「問題ない。終わった」

「……S級冒険者ってのは、とんでもねえな。雑兵たぁいえ旧ドランシア軍もそこまで弱くねえはずなんだが」

「知らん。オレより弱い者が、どれほど弱いか、という度合いを測ることはできない」

「お二人とも、雑談はそこまでに。敵地です」

「へーい」

「そうだな、その通りだ、ベルグハルト・アンシュッツ」

「……素直さと誠実さの点で、バリムケラスくんの方が元帥に向いているでしょうな」

 

 どういうことだよ、とシュエンはツッコミを入れようとして……口を噤んだ。

 ひたひたと、水音を含むような足音が聞こえたからだ。

 

 これは。

 

「──っぱいるか、黒靄(ダークミスト)!」

「核はありそう? 無い場合は、ダンジョンの黒靄(ダークミスト)と同じで、倒してもキリがないかもしれない!」

「ならばこの黒靄(ダークミスト)の相手は私に任せていただきたい! 三人は先へ!」

「僕に色々言ったんだ、死なないでくださいよ、アンシュッツ大佐! ハーゲンくんに見せる顔が無くなるんで!」

「無論である!」

 

 任せる。狭所で不定形の相手は不利な戦闘になるが、彼が持っている剣の効果を考えれば……。

 

 三人は更に奥へと進む。

 

 

 階段を下った先にあったのは、巨大な空間だった。

 

「……んだ、ここは。鉄櫃(エイバス)宮にこんな広さの場所は無いはずだぞ」

「高密度の魔力で空間が撓んでいるんです。……つまり、封印はかなり解かれていて、魔力が漏れ出し始めているってこと、」

 

 ハウル少年が言い終わるか言い終わらぬかのタイミングで、黒靄の狼のようなものが三人へと襲い掛かる。

 前足の振り下ろし。それを受け止めたバリムケラスが驚くように声を漏らした。

 

「重い──この黒靄(ダークミスト)は他とは違う、攻撃が重い、気を付けろ!」

「ただの魔物として考えればいいってこったな! セィアッ!」

 

 黒靄の狼を両断するようなシュエンの斬撃。

 それによって真っ二つになった狼は……そのまま二匹となりて、再度彼を襲う。

 

「おわ!?」

「どっかに魔法使いがいる! それ、魔物じゃなくてコンストラクトです!」

「ちょこまかとうるせぇ──おりゃ! ……っておい、また増えたぞ!?」

 

 一匹が二匹へ。二匹が四匹へ。

 身体が小さくなる、ということはなく、斬られたそばから身体に黒靄を充填させ、元の大きさになって攻撃してくる。

 ひっきりなしに──その身が埋もれ行くほどに。

 

「ぐ、お──ガ──!?」

"ツァーク"!」

 

 槍のような水が出現し、何も無い虚空へ飛ぶ。

 それは、しかし何か透明なものへと当たり、飛び散った。

 

「そこか」

「ギ!?」

 

 バリムケラスの拳が振るわれる。直後、透明だった場所から首の折れた魔法使いが出てきて……黒髪の狼も雲散霧消した。

 

「っぶねぇ……死ぬところだったぜ。助かった、バリムケラス」

「問題ない。……少し息を整えるべきだな。ハウルも、見事な刻印魔法だった」

「僕の実力じゃ、四文字-一単語の出来損ないが限界だけどね……。シュエン元帥、首の噛み傷隠してないで見せてください。治しますから」

「お見通しか。……頼んだ」

 

 暖かな光がシュエンの首筋を包む。

 治癒魔法。どの練度においても治癒される過程が似通うから判別は難しいとされているが、シュエンは治癒魔法の練度を見抜くことができる数少ない人間の一人だ。

 それをして……やはり、恐ろしい練度のそれであると言えた。

 

 だから。

 

「バリムケラス」

「どうした」

「……ってのはよ。魔王国の、首都の名前、だよな」

「!」

 

 強張る雰囲気を出すフードの少年。

 それはもう、シュエンの懸念が正解であると言っているようなものだった。

 

「が、まぁ、落ち着けよ。戦争直後のこの国で魔族が何やってんのかはしらねえが、害になることじゃあねえんだろう」

「……そうだ。人間を害するつもりはない」

「旧ドランシア軍は人間じゃねえってか?」

「……いや。そう……だな。今のオレの言い方は……そう捉えられてもおかしくないものだった。善良な人間を害するつもりはないと言い換えたいところだが、善良の基準など個人によって変わる。……何も言い返す言葉を持たない」

「そうか。んでまぁ、旧ドランシア軍に闇の魔晶石の位置を教えたのは俺なんだがな。お前さん、俺をどうする?」

 

 あっさりと。あっけらかんと。

 フードの少年がポカンとするままに……シュエンは、ハウル少年の方へも首をかしげる。

 

「坊主、お前は? お前は全部わかってて俺の話を進めたっぽいが」

「僕が邪魔だったんでしょ。邪魔だったか、怪しく思ったか。そして、上手い具合に僕を処理する方法を考えた。『薔薇の棘』が守っているといえる僕を上手い具合に殺す方法に選んだのが、魔晶石だ。僕の能力(スペック)を考えれば、魔晶石程度はなんとかできそうだから、安全に魔晶石を処理しつつ、魔晶石の暴走によってハウル・ハーミッドが死んだ、ってことにするのが一番丸い。一挙両得、連邦が一番損をしない未来を引ける」

「おおすげえ。やっぱ野放しにしておくにゃ危険すぎる頭脳だな。お前さんの経歴、怪しい所が一つもないっつー怪しさの塊だったが、やっぱり実はどこぞの賢者がガキのふりしてる、ってパターンか?」

「僕はちゃんと成人前の子供だよ。出生記録は確かに書き換えたけど」

 

 にこやかな会話だった。バリムケラスをほったらかしにして、狐と狸が楽しそうにカードの見せ合いをする。

 

「目的を果たしたらこの国を出ていくつもりなんだけど、それじゃ許してくれない?」

「その目的次第だな。害の無いものなら考えてやらんでもない」

「嘘吐き。初めに無力化や拘束じゃなく、処断する計画を立てた時点で殺すことは決まっているんでしょ」

「ま……待て。なんだ、どういうことだ。この……騒動は、すべて……シュエン元帥、貴様が作り上げた茶番だとでもいうつもりか」

 

 どーやらかなりピュアな魔族くんみたいだな、なんて思いながら、シュエンは溜息を吐いた。

 

「その通り。決死の覚悟は美しかったが、それはそれこれはこれってな。とはいえ知られちまった以上はハウル・ハーシェルもお前さんも消すしかなくなったわけだが」

「どこまでも嘘吐きだね、元帥さん。茶番なのは半分だけ、でしょ。旧ドランシア軍がこの国で闇の魔晶石を探していたのは本当の話だし、元帥さんが情報を流したのも本当の話。でも、旧ドランシア軍じゃ封印を解くことはできない。そうでしょ?」

 

 ──今度こそ。

 後頭部を掻いて……苦笑いするシュエン。

 

「わかんのか」

「わかるよ。遠目で見ても一瞬でわかる。この封印は難しいから解けないんじゃなくて、鍵が無いから解けないタイプだな、って。で、その鍵はシュエン元帥の魔力だね」

「……ああ、正解だ。だからこの突破作戦は安全なものだった。坊主、お前の言う通り、連邦軍が旧ドランシア軍なんてゴロツキに負けるはずねえからな」

「オレにもわかる言葉で話せ。……ハウル、貴様は……どういうつもりだ。この男の狙いがわかっていて、どうして話に乗った。貴様はこれから、魔晶石の封印に体良く使われて……殺されるのだと……わかっているのか?」

 

 ハウルもまた、笑う。

 

「言ったでしょ、バリムケラスお兄さん。この人嘘吐きなんだよ。僕もお兄さんのことも消すしかなくなった、っていうのは嘘。というより、ギリギリまで本当だったけど、ここに入った瞬間嘘になった、って感じかな」

「どういう……」

「おーおーそろそろ言い当てるのやめろガキ。色々考えてるおじさんが馬鹿みたいじゃねえか」

「想定以上に封印が解かれている……というより、多分ガタが来ているんじゃないかな。封印って、別に永続する魔法じゃないからさ」

 

 シュエンは溜息を吐いた。

 そう。その通りだ。

 闇の魔晶石の封印は、仮にシュエンという鍵で解除されずとも、そう遠くない日に決壊を迎える。

 

「俺の爺さんの名は、オットー・クロイツヴァルト。稀代の盗人、『大怪盗』シンプトムその人なのさ」

「……この国に、闇の魔晶石を持ち込んだという……怪盗か」

「そう。遡ること101年前……紫輝歴532年。爺さんはある魔法使いに闇の魔晶石の封印を頼んだ。だが、封印を行った魔法使いはすぐにいなくなっちまったらしくてよ。その後知り合いの封印術師に封印を見せたら、この封印は100年しか保たねえということがわかった。元々の封印場所はキロスの一般家屋地下っつーどうにも危ない場所で、だから封印を長く保たせるためと、その封印が暴かれてしまわないように、連邦の然るべき場所……爺さんの持つ特殊な魔法、『霊体化』で辿り着くことのできる最も深い場所にそいつを封印し直した」

 

 もしそれが行われていなければ、去年、キロスで魔晶石が暴走していた可能性もある、ということだ。

 ……なお、これは少年の胸中で呟かれたことであるが、「そのために百年後に来てメンテナンス兼厳重封印するつもりだったんだけどな」という弁明がある。時間が無くて百年封印しかできなかったから、と。

 さらにこれは少年ですら知らぬことであるが、だから古物商の彼はこの時代にいたのである。

 

「知っての通り、それを掘り当てちまったのが旧ドランシア軍ってやつさ。俺達が爺さんの言いつけを守って誰にも明かさねえで、ひっそり守り続けていたもんが掘り出されたと知った時は度肝を抜かれたよ。その後旧ドランシア軍を埋め立てて魔晶石を回収するまでは、生きた心地がしなかった」

「回収はできたけど、回収した時には封印がかなり解けかかっていたとか、そんな感じ?」

「ああ。最初の百年封印と同じくらいまで期限が無くなっていて……これをどうするか、ってのは、ずっとずっと考えていた。……そこに現れたのが、坊主。お前だ」

 

 シュエンは……座った姿勢のまま、頭を下げる。地面に頭がつくほどに。

 

「初めの計画じゃ、封印状態の闇の魔晶石の奪取に成功したあとは、アンシュッツ大佐を含め、真実を知った奴は口封じするつもりだった。だが、んなこと言ってられねえほど封印にガタが来てやがる。空間が歪むほどなんて……もう俺達の手に負えるモンじゃねえ。殺そうとしておいて状況の急変に態度を変えただなんて勝手が過ぎるってのはその通りだ。だからまぁ、俺の首が落ちる程度で連邦が守れるのなら、安い買い物であると言える」

「オレは……初めから死地のつもりで来たからいいが。……ハウル。貴様は、自身の命の使い道は決めてあると、そう言っていたな」

「……そう、なのか?」

「うん。決めてあるよ」

「ならば、即刻帰るべきだ。この男の言い草が正しいのなら、旧ドランシア軍では封印を解くことができない。この男がいなければ解かれない。ただし、そう時間があるわけでもない。……ならばここを制圧したのち、セウプウルクルム海にでも投げ入れればよかろう」

 

 現実的な話だ。命の危機に晒される必要性のない、最も安全な道。

 シュエンがそれを選ばなかったのは。

 

「そんな時間無いからでしょ。この空間に入って初めてわかったことだろうけど、封印そのものもガタが来ていれば、中の魔晶石も既に暴走傾向にある。物の弾みで封印が解けたらドカンと行ってしまいそうなほどにね」

「……だが、貴様がやるべきではない。軍にも封印を行える魔法使いはいるはずだ」

「僕の命の使い道はね、お兄さん。何か人のためになることをする、っていう、大したことないものなんだよ。僕が殺されるとわかっていてこの話に乗ったのは、僕がこの話を自らの死地であると見定めたからだ」

 

 ハウルが立ち上がる。そして……頭を下げているシュエンの首に、チョップを入れた。

 どわ、というへなちょこな声を出すシュエンをケラケラ笑って──集中を開始する。

 

 その肉体の、あらゆるところから、とくとくと……純粋な魔力が汲みだされているのがわかった。

 それは、バリムケラスでさえ、息を呑むほどの量で。

 魔力に対しての嗅覚がそこまであるとはいえないシュエンであっても、その肌にピリピリとした粟立ちが走っている。

 

「貴様……それは」

「僕にも魔族の血が流れているかも、って。お兄さん、言ってくれたでしょ。だから、魔族の使う魔獣形態(オーバーウェルム)ってやつを、僕なりに再現してみたんだ」

「交戦経験あんのかよ。ホントに何者なんだ、お前さん」

「──紫輝の愛し子。魔族史においては、これまでに現れたのはたった三人であると言われている……魔族と人族の血の双方を持ちながら、紫輝の持つ純粋な魔力に接続することを許された……紫輝の嬰児。ハウル・ハーシェル、貴様……そう、だったのか」

 

 一瞬、ハウルの眉が少しだけ上がる。

 彼は、苦笑して、その身に魔力の翼のようなものを纏った。純粋な魔力で構成された、天の遣いが如き翼を。

 

「あん? つーと、魔族でも人族でもねえやつ、ってことか」

「魔族であり人族でもある者、ということだ。……このオレが守るべき()()ということでもある」

「同じだろ。……さ、休憩終わりでいいな。つか、今の休憩時間で封印の場所を探ってたんだろ? 破壊行為を許すぜ、俺は。元帥だからな」

「ありがとう。この宮殿壊していい? って聞こうとしてたんだ。──封印まで一直線で行くよ。敵居たら、お願いね」

「オウ」

 

 穴が──開く。

 

***

 

 なんでもなく魔晶石を守っていた者と封印解除を試みていた魔法使いを倒して、俺達はそれを目の当たりにした。

 渦を描くようにして歪んでいる空間と、引き千切られたものと思われる、マーブル色の傷跡。

 

「……とんでもないな。元帥さん、お兄さん。その裂け目から落ちないようにね。亜空間の裂け目に落ちると、僕でも助けられないかもしれない」

「恐ろしいこと言うじゃねえの」

「……元帥、構えろ。……黒靄(ダークミスト)がいる」

 

 黒色の塔。成人男性の腕半分くらいの大きさの、黒色の光を放つ方石(ほうせき)

 久しぶりに見たけど……なんか大きくなってね? さらに魔力を取り込んだか?

 

「うわ、封印がぐちゃぐちゃだ。余計な……なんだこれ。なんか変なツール使って解こうとした形跡があるな……。まずはこれを元に戻さないと」

「魔晶石に集中しろ、ハウル! 黒靄(ダークミスト)はこちらでなんとかする!」

「今更だが俺おじさんっつーかお爺さんだよなぁ」

「ふざけている余裕は無いぞ──この黒靄(ダークミスト)、質が違う!」

 

 外側で大規模な戦闘が開始される。が、すまんが頑張ってくれとしか。

 ちょい、真面目にやんなきゃダメだな、これ。

 

 俺の封印を解いた後に施したっていう方の封印は……綺麗なものだ。教科書通りって感じ。優等生だろうな、これをかけた奴は。

 けど、その後でこじ開けようとした痕跡と、なんでもいいから厳重封印しようとした痕跡、さらにそれを力業でこじ開けようとした痕跡で……もう、めちゃくちゃ。

 スパゲッティ通り越して空を飛ぶモンスターになっている。

 

 これは……使わざるを得ないな、流石に。

 

 先程汲み出した純粋な魔力を魔力マニピュレータの形に形成し、封印全体を包んで解除を試みていく。無駄に修復機能まであるせいで解き方ミスると余計に解けなくなるなコレ。

 ん……なんだ、マニピュレータが一本持っていかれた?

 あ、やっぱこの魔晶石……まだ成長しようとしてんだな。だから、解除の魔力を奪ってさらに大きくなろうとしているんだ。

 これ……間に合うか? 解除しながら吸収に抵抗しながら、……マズい、思ったよりヤバいぞこの魔晶石。

 

 ちょっと小出しにしていたけど、プールしている魔力ドバドバ使うか。しかし、クソ。レイン・ヤーガーの時ならいざ知らず、今回は五年前からしか活動していない。五年分の魔力じゃ……ちょい、厳しい、かも。

 

 ……さっき、『王様』のやつ、気になることを言っていたよな。

 紫輝の愛し子、みたいなの。……人族と魔族の力をどっちも持っていて、紫輝が持っている純粋な魔力にアクセスすることを許された、って。

 

 天上にあるあの天体……魔力の塊なのか。

 

「──ハウル!?」

「ん……ごふっ、ど……したの、お兄さん」

「どうしたぁ! 何してんだ坊主、なんで血を吐いてる!」

 

 あ? ……おい、なんだこれ。反動か?

 ちょっと触っただけじゃねーか。そんな怒んナッツ。

 

 出血しすぎると面倒なので治癒魔法さんしますよ。……内臓ぶち破れてやがる。そんな禁忌かコレは。

 ──馬鹿野郎が。この局面で楽しそうなもんチラつかせんな。もっと時間ある時に研究させろ。

 

「その魔力……まさか、紫輝から直接魔力を引き出しているのか!?」

「それが、どういう意味を持つかは知らねえが、よそ見するなバリムケラス! 死ぬぞ!」

 

 涅月の方は魔力の塊っぽいな、とは思っていた。『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』って涅月の使役物なんじゃね、みたいな。

 けど、紫輝の方はその影響力に対して見合う存在がいない。地球でいうところの太陽であるこれには、暦の名前くらいしか対応していないのだ。

 だから魔法的に干渉することのできない単純天体なんかな、とか思っていたけど……違うのか。

 

 ぶちぶちと肉が嫌な音を立てて千切れる。千切れるたびに治す。

 んー、ハウル・ハーシェルの肉体じゃ器として不十分か。

 でも替えの肉体とか無いんで、まぁ、お高くとまっているところ悪いが、嫌がろうとなんだろうと、ここに入ってもらいまさぁ。

 

 そんで、魔力マニピュレータ……一万五千を三万に、三万を六万に、六万を十二万に、十二万を二十四万に。

 脳機能を身体強化により向上させ、情報処理能力を引き上げていく。鼻血とか血涙が出ることは無いけど、凄まじい頭痛と眩暈が来ている。そういうのすら感じないレベルにまで強化する。強化強化強化……!

 次はやっぱ身体強化についてを研究しよう。こんな荒いものじゃなく、もっとスマートなやり方だってあったはずだ。

 

「ハウル!!」

 

 ……う、うるさ。感度まで上げてたか。その辺下げよう。

 

「ぐ、お……立ってられねえ……! 大丈夫なのか、坊主!!」

「……大丈夫だよ。黒靄(ダークミスト)は?」

「お前さんからのこの圧力で、そんなもんぶっ飛んじまったよ!」

「それは良かった」

 

 よし。外側にあったぐちゃぐちゃしたものを取っ払えた。

 あとは、教科書通りの封印と俺の封印を維持しつつ……再封印をしよう。

 今度は千年か、一万年か。永遠に続く結界を知ったからな、できる。

 

「莫迦者!! ハウル、貴様、その身体強化は……命を湯水のように使い捨てているのと同じだぞ!?」

「ああ、やっぱり? だよね、これほどのことができるのなら、みんながこれをしない理由がわからないし」

 

 だよなー、やっぱデメリットあるか。

 しかし……莫迦者、ねぇ。これは大分心を許してくれたんじゃないか?

 

 ま、いいのさそんなことは。俺は君達と違って体温の無い存在らしいからさ。

 シュエン元帥の魔力を模倣し、第三封印解除成功。トムさんの協力者が施したのだろう第二封印も解除成功。第一封印も……よーし、俺の制御下に戻ったな。

 

 ギリギリと引き絞るような音。

 ……周囲の空間や構造物が、この魔晶石に引き摺り込まれている? それでいながらあの二人が無事なのは、俺が紫輝の魔力を降ろしてその圧が二人を押しのけているからか、か。

 いい仕事するじゃん。俺が愛し子だからってサービスか?

 

 なら、借りたモンを返してやらなきゃな。

 

「元帥さん。この魔晶石、連邦に必要?」

「前にも言ったが要らねえよ! 害しか齎さねえモンだ!」

「そうかい。もう返してくれって言っても聞かないからね」

 

 魔晶石を──(ほど)く。

 

 マニピュレータを逆流してくる魔力。その全てを、アクセスして開きっぱなしになっている紫輝へ還していく。

 けれど、その時、硬質な破砕音が鳴り響いた。

 

「は──なんっ、なんだ、剣が、折れた!?」

「ああそうか。……そうなるのか」

 

 魔晶石の引力と紫輝の斥力、そして魔晶石が解かれる際の圧力。この三つが混在するこの空間においては、空間であろうが魔法であろうが物質であろうが非実体であろうが……その全てが関係なしに引き裂かれてしまう。

 たまたま剣だったからよかったけど、これ、次の瞬間には二人だな。

 

 一芝居打つか。流石に片手間になってしまうことは許してほしいが。

 

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「……なにを」

 

 出現させるのは『万能』。この世界に転移魔法というものは無いため、プロセスが謎でなければならない。

 この『万能』は一目で解析することができないという点において、他のどの魔法よりも優れていると言える。

 

「なん……だ、それは……涅月(ノクスルーナ)、か……?」

「ただの手品みたいなものさ。君達が目を瞑れば次の瞬間には外だ。そのあと障壁を堅固にするから、全力を以てこじ開ける、とかしないように」

 

 魔力マニピュレータで描いていくは、刻印式だ。

 

"岐える取捨""灯台に誘われて""招いの合図""最後の欠片""奇跡の代償""私の背を押す暖かな風"

 

 それぞれ『別離』、『帰路』、『再出発』、『思い偲ぶ』、『恩返し』、『目的地』を意味する刻印の、六文字-六単語。

 

「テメェ、どっちが嘘吐きだ! 四文字-一単語が限界とか、全然できるじゃねえか!」

「さっきまでの僕にできなかったのは本当だよ。今この状態になって初めてできるようになった。……さぁほら、目を瞑って。1、2の3で消えますからね……もとい、消えるからね」

 

 そして正門組、さらには外側にいるキアステンも掴んで……あの天幕の位置でいいか。そこを目的地に定める。

 旧ドランシア軍も、生きているやつは出してやろう。たとえその先に待ち受けるものが尋問や拷問の末の死であるとしても。

 

「つーか、おじさんは許さねえぞ! 殺そうとしていた手前ちゃんちゃらおかしい話だが、テメェにゃ生きて──」

「死ぬ気はないよ。これでいい?」

「イイ訳、」

 

 先に飛ばす。すまん、お別れの言葉を言いたい度で言えば、さすがに『王様』の方が上なんだ。

 

「これしか……方法は、無かったのか?」

「うん。見えていると思うけれど、この魔晶石、とんでもないからね。君達を守りながら制御しきる自信が無いんだ」

「オレたちは……貴様の荷物にしかならなかったのか」

 

 ちなみにこれは本当。既にそこらじゅうから切り裂かれる音がしていて、このままここに留まると、空間が千切れることに従って物体まで千切れる、という現象に巻き込まれかねない。

 封印を制御しながら魔晶石を解きながら結界を強化する、っていうのは……ちょい厳しい。身体強化と魔法を同時に使う、っていうこの世界で最初に気付いた「無理」を今通している状態なので、俺が……もう少し早く身体強化についてを知っていれば、なんとかなったのかもしれないけど、すまんな、怠慢により無理だったわ。

 

「『元魔王様』、アンキア・ヴァーン・バリムケラス」

「……なんだ、ハウル・ハーシェル」

「君は世界を見るべきだ。世界を見て、酸いも甘いも噛み分けて、清濁を知って、明暗を見極めて。尊敬できる人間ばかりではないし、軽蔑する人間ばかりではないように。尊敬できる魔族ばかりでなく、軽蔑されて然るべき魔族ばかりではないように。決めつけずに、諦めずに、自分の目指している明日を見失わないようにして歩くんだよ」

 

 話してみてわかった。

 この子はまだ幼いんだ。しっかりしているし、大人びてもいるけれど、まだまだ幼い。『永遠の子供時代(エルヴァホイ)』から変わらない子供だ。

 子供が経験するには凄惨すぎるものが彼の身に降りかかったのかもしれないけれど、悲劇的な経験は思慮を深めるばかりで、成長の糧にはならない、ということを知らなかった。

 

「君がそれほど世界を愛しているのだから……君も、世界から愛されるべきだ」

「愛を……貴様が語るのか」

「語るさ。僕はそれを知っているからね。……君は世界に愛を注ぐばかりで、愛され方というものを知らなかった。知らぬままに旅を終えようとしていた。存在を認知していながら、自分には関係ないものだとしてしまった。愛こそがこの世界で最も強き力であるのにね」

 

 だから……俺からの、友愛を君に贈ろう。

 

「アンキア・"カルストラ"・バリムケラス。初めに君へ渡すのは、この名前にするよ」

「"愛おしき大地(CarusTerra)"……」

「さ、お別れだ。いつか君が、そのフードを被らなくていい未来がくることを、紫輝の中からでも祈っていよう」

 

 悲嘆の慟哭を上げる前代魔王よ。

 その身にいつか、溢れんばかりの喜びが齎されんことを。

 

「──合流点(ルーツ)

 

 さようなら。またいつか。

 

 

 ……というのはまぁ、すべて一芝居のうちの一つ。

 申し訳ないけどただただ意識を割くリソースが無いから邪魔ですよ、ってだけの話。

 

 さーてもう何も気にせず魔晶石を解体できるぞ~っと。

 

「芝居を打つためだけにわざわざ難度の高い意訳を持ってきて刻印に刻むやり方。六文字-六単語の最後のワードに感情移入しやすいような語句を持ってくる構成方法」

「実はちゃんと人情があるために、悲しい別れというものをしたがらず、無理矢理であったり力任せであったりする別れ方ばかりするその手法!」

「──見つけたぜ、院長。流石に間違えてねえよな?」

「──ス・バラ・シイ! 毎回毎回そうだとは彼が調べ上げていましたが、まさか今回もそうだとは。──お久しぶりですね、レイン先生?」

 

 き……キタ?

 いやいや流石に。

 

 ……え、なんでいんのお前ら?

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