序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
見上げれば、真っ暗な視界に微かな光が見える。
ハインケルは痛む足を押さえ、溜息を吐いた。
「やらかしたな……」
伐開の魔族は適性魔力の都合上治癒魔法が使えない。その分を卓越した結界で補っているのだが、大気中に魔力が欠片もない環境に体が慣れ切っていなかったのだろう。咄嗟の時に魔法を発生させられず、目算45athlはある大地の罅に落下してしまったのだ。
永遠に落ち続ける、というのは単なる比喩表現であるとわかったけれど、
『パイセン? パイ……、……えるッスか? 生きて……』
「む……メトンか。ああ、生きてはいる。だが、足をやってしまった。どこかからこの地割れの底へ降りられないか探してみてくれ」
『わか……! ……センはそこを……ないように!』
耳飾り型の通信水晶があって本当に良かったと彼は安堵の溜め息を吐いた。
これがなければ今頃ハインケルは死亡者扱いになっていたことだろう。ただ、雑音が酷い。落下中にぶつけでもしてしまったか。
足音。
「っ、ゴース……ト?」
「ゴーストじゃないですよ。いやびっくりしました。ここで誰かに会うことがあるだなんて」
痛む足を無視して振り返ったハインケルの目に映ったのは──魔物の骨で出来たヒトガタ。
いや、違う。骨の装備を纏っているだけの何者かだ。
「……調査キャンプの……者、か?」
「調査キャンプ? ……ああ、少し前から地上に住み着いている魔族たちのことですね。僕は彼らとは違いますよ。僕はロストランドの地底に興味があって、ここに住みながら研究をしている者です」
「ロストランドの……地底」
魔族ではないと、ハインケルは直感的に感じていた。ただ……微かに王族のような気配もある。
「おや、怪我をしておられるので?」
「ああ……上から、落ちてきてしまってな」
「そうですか。治癒魔法をかけることはできますが、ここじゃ無理です。ちょっと待ってください、簡単な杖を作りますので」
真っ暗な地底ではあるが、そこかしこにある蛍光茸やぼんやりと光る藻がある。
それが照らす微かな灯りを頼りに、骨の青年は杖の材料を集め、それを作った。魔法杖ではなく、腋窩支持クラッチのほうだ。
「足、固定しますよ。触っても大丈夫ですか?」
「問題ない。……しかし、治癒魔法が使えないというのはどういうことだ?」
「あれ、知らないんですか? 地上ではあまり馴染み無いのかな。あなた、伐開の魔族ですよね。適当な結界をここに張ってみてください」
「わかった。……なに?」
小さな結界を張るハインケル。しかしそれは、瞬く間に破れ、消えてしまった。
目の前の青年が何かをした、という様子はない。
「ロストランドは魔力が枯渇している土地です。地上にいる魔物のどれ一つとして体内に魔鉱石を持つモノがいないのは、ロストランドという土地に魔力を吸われてしまうから。その吸収は地底深くへ行けば行くほど強くなります。この近辺だと、体外に放出して成立させる魔法は一つだって成立しないんですよ」
「……そうか、それで……この罅の上で、俺の結界が発動しなかったのか」
「結界は込められた魔力が形成時間を決めますからね。一瞬にして維持魔力がすっからかんになって、
「ああ、ありがとう」
骨の青年の肩を借り、ハインケルは立ち上がる。流石に足はまだ痛むが、行動できないということはない。
両脇に杖を差し込めば、青年は杖の先端に何かを塗った。それにより仄かに輝き出す杖先。
「クロヒビタケの抽出物です。地面の凹凸に杖を取られて転ぶのが一番危ないので、ちゃんと杖の先端を見て歩いてくださいね。前方は僕が見ますから」
「わかった。……どこへ向かうんだ?」
「僕の研究スペースです。少し離れたところにあるので、ゆっくり向かいましょうか」
青年が歩き始める。怪我をしているハインケルを気遣ってゆっくり歩いてくれている彼。
疑う理由も反発する理由もない。ハインケルは彼の後を追う……。
大地の罅のそこに、それはあった。
横穴に作られた部屋、上質な研究施設のように見える。
「……呼吸がしやすくなったような気がするな」
「魔族は魔力依存生物ですからね。僕ら人族と違って、生理的な影響を受けやすいのかもしれません」
「……人族、なのか。やはり」
「おや、何か人族に対して思うところが? まぁ今は飲み込んでください。もう二度とここへ戻ってくることはないでしょうし」
「ああいや、俺自身には無い。だが、俺の姿は人間には奇異に映るようで、何か害を為すものだと勘違いされるんだ」
「それは、失礼しました。僕にそういう偏見はありませんよ。特殊個体魔族にはたくさん出会ってきましたから、今更伐開の魔族程度じゃ怖がりませんよ」
特殊魔族はちゃんと希少種であるのだが、調査キャンプの面々を考えると何とも言えなくなるハインケル。
「さ、患部を見せてください。治癒魔法を使います」
「頼む」
治癒の魔力が練られる。ハインケルには使えないが、治癒魔法に特化している清浄の魔族曰く、治癒魔法とは糸紡ぎに似ているのだそうだ。素早く行うには基礎がしっかりしている必要があって、また使う者の練度によって一秒ごとの治癒力に差が出る。
痛みなく、心地よささえ感じさせるままに、植物交じりの肉体が修復されていく。
恐らく最高練度の使い手だ。人族の国で大病院を持っていておかしくない程の。
「これで良し。動かしてみてください。痛み、ありますか?」
「……いや、大丈夫そうだ。感謝しよう。……ああ、そうだ。俺はハインケルと言う」
「アダンと言います。……しかし、どうしますか? この研究室の外に出ると、あなたは魔法を使えなくなってしまいますから……救助を待ちますか?」
「とりあえずこの……通信水晶を直せないだろうか。これが直れば、地上にいる仲間と連絡が取れるのだが」
耳に付けていたそれを取るハインケル。道中何度か通信を試みたのだが、うんともすんとも言わなくなってしまっていた。
恐らく魔力が吸収されてしまったのだろうと彼はあたりをつけているが。
「詳しく見ても?」
「問題ない」
アダンにそれを渡すこと数分。
「魔力切れですね。魔鉱石の魔力が全て吸い出されてしまっています。機能的には問題なさそうなので……この洞窟で魔力を充填すれば再度使用可能になると思いますよ」
「魔力の充填……? 魔鉱石への魔力補充というのは、できるものなのか?」
「特殊な道具が必要にはなりますが、できますよ。問題なければ僕がやっておきますが、どうしますか?」
「頼む」
「はい。この規模のものだと二日ほどかかるため、その間はここでお過ごしください」
過ごせ、と言われても……とハインケルが周囲を見渡すと、いくつか興味のあるものがあった。
とはいえ彼も研究者としての感情は理解できる。即ち、素人にあまり自分のスペースを荒らされたくない、だ。だから大人しくしていようとその場に座り直すハインケル。
「といっても退屈ですよね。どうぞ、好きに触ってください。洞窟の奥には食料を生育しているスペースもありますよ」
「下手に触って壊れるものなどはないのか?」
「あるにはありますけど、ハインケルさんは変に力を込めたり見知らぬ薬品の匂いを嗅いだりはしないでしょう?」
「成程、研究材料と適切な距離感を保て、ということか」
「はい」
なら、早速。
この洞窟に入って真っ先に気になったモノを見にいくハインケル。
「これは……なんだ? 羊皮紙の束のように見えるが……」
「それは図鑑ですよ。ああ、というか、そうか。本に馴染みがないんですね」
「本……」
「羊皮紙を束ね、こういう厚紙で綴じたものを本と呼びます。魔族の皆さんは、紙葦のスクロールが主な記録媒体ですよね」
「そうだ。羊皮紙も使われ始めてはいるが、ここまで上質で整ったものは……見たことがない」
本と呼ばれているもの。それを手に取り、開けば、……ロストランドで目にする様々な魔物や植物についてが、図説付きで事細かに記されている。
羅詞源語、継詞基語だけでなく旧魔族語での記載まであるのは一体どういうことなのか。
「これは……凄いな。これを読んでいるだけで時間は潰れそうだが」
「何をされていてもいいですよ」
「……そうだな。好きに過ごさせてもらうか」
洞窟内を見て回るのもよかったが、なんせ二日もあると来た。
読み終わってからでも時間はあるだろう。
***
……というわけで、好きなところ見てってって言ったのに図鑑に夢中になってしまった伐開の魔族を視界の片隅に収め、音の魔鉱石に魔力を注入していく。
紫輝と涅月の関係性が気になって、さらにこの惑星のことも気になったので、アスミカタにいる時にちょくちょく気になっていた場所、ロストランドに居を構え、研究をしていたのだ。
今回はエチェロエグズル教戒院の時と同じく「──ですよね?」目当てじゃないので人里離れた地底でひっそりと生活している。
これを始めちゃうとマジで一生穴倉から出ないって可能性まであったのでかなり時代を昔にしたんだけど……。
ンマー面白い。この星、地球とは全然違う。
いや正直言って全体の一パーセントすらわかったかわかってないかってレベルではあるんだけど、ちょっと調べただけで常識との乖離がすごいすごい。
たとえばだけど、ハインケルくんが陥っていた魔力吸収による事故なんかは良い例だろう。
ここロストランドに魔力は無い。魔物は体内に魔鉱石を持たず、非実体も持てないから割と早めに雲散霧消する。
なぜそんなことが起きているのかと言えば、ここが
魔力は通常星の自転と一緒に動いているのだけど、ちゃんと測ると、魔力の動きの方が少しだけ早い、ということがわかる。つまり魔力とは普通にしているだけで流されているものであるのだ。ちなみに魔力というのは生命から汲み出されるものと自然に存在するものの二つがあるけれど、この二つは特に分けて考えられていない。マナとかオドとかは無い。紫輝由来か涅月由来か、という区別もあるっぽいけど体感はしていない。
で、その流れがどうしてできるのかの説明が、
俺はまだ見つけられていないが、この星には恐らく
そこかしこから魔力が運ばれてくるのだからむしろ魔力が潤沢に満ちていたっておかしくないだろうに、とは初め考えたんだけど、ロストランドに辿り着く前に大抵の魔力は地面に潜ってしまっているっぽいな。アスミカタの滞積妖雲も恐らくこの
というわけでここは枯渇した土地になった。地表はまだマシだけど、地底では魔力を練ろうものならこの洞窟みたいに特殊なコーティングでもしておかないと一瞬で魔力を持っていかれるってワケ。
「竜が……いたのか、この地にも」
「ええ、何匹かいましたね」
「単位が少しおかしいが、人族と魔族で認識が違うのか? それで……どれほどの大きさだったんだ」
「20athlくらいのが一匹、30athlくらいのが一匹。40前後が二匹いましたかね」
竜。まだアスミカタに竜が縛り付けられていない時期であるため、そりゃあもうバンバンわんさか出る。通常ポップって感じはしないけど中ボスくらいの間隔では出る。強さは漏れなくラスボスなんだけど。
とはいえ連中もロストランドにはあんまり近寄んないかな。魔力依存生物な竜とそうでない竜がいるんだけど、どっちもこの辺の上空へ来るとバランス崩して墜落している印象ある。飛行に魔法を使っている可能性も高いし、その辺デリケートなんでしょ。
「俺達はここに、170athl級の巨影が目視されたとして調査に来たんだ」
「ひゃ……170athl、ですか。……あーでも、アレなら……」
「何か知っているのか!?」
170athl。ここでようやくメートル換算すると、297.5mである。ゴッドジラフさんですか?
そんなん生物にはおらんやろ~……と言おうとしたのだが。
「スカイネットルを知っていますか?」
「あ……ああ。身体はスライム状の傘と、針を持つ胴体で構成されている空中を漂うようにして浮遊する魔物だと認識しているが……」
「ロストランドにはシフォノスカイネットルという超長大ネットルがいるんですよ。僕が見たことあるもので、目算最大171.4athlはありました」
スカイネットルというのは空飛ぶクラゲである。結構な群れで存在し、毒針もちゃんと備えているからそれなりの害獣だ。
シフォノスカイネットルというのはその空飛ぶクラゲのクダクラゲ版だと思えば良い。とんでもなく巨大だから、これのことなんじゃないだろうか。
「……いや、話によれば、そいつはのしのしと歩いて霧の中へ消えていったらしい。スカイネットルにそのような挙動はできまい」
「それは確かに。……ハインケルさん。良かったら、『
「『
というわけで、彼に『
そしてその上で。
「『
「……目的の如何に関係なく興味があるな。ぜひ案内を頼みたい」
「わかりました。そうしましたら、ハインケルさん用の防護服が必要ですね。ちょっとこちらへ来てもらえますか?」
しかし面白いものである。
今回は特に「──ですよね?」を狙っていなかったから誰かを迎える用途の部屋や道具は作っていなかった。とはいえ、凝り性というかなんというか、ユーザビリティを気にした設計──俺が毎回使う時にイラつきたくないから──にしていたのがここで役立つとは。
洞窟の奥。食料の生育プラントではなく、装備や道具をしまっておくそこに彼を案内する。
そして、地面に生えていたポンプみたいなキノコを踏めば、天井からもわーんと薄い膜を作って垂れてくる、緑色の液体。
「これは……?」
「この洞窟の周囲には、ソイルドライアドという地中に生え、地中に花を咲かせ、地中に実を付けるという変わった植物が生えています。これはその抽出物。結構な強度があって、このように」
腕を通す。それに対し、ぴったりではなくある程度の空気を纏ったままくっつく液体。
ナイフを使って膜を切り、手に着いた膜をぬるんと剥がし、その端を結ぶと……ちっちゃな水風船みたいなものが出来上がる。
「これは魔力曝露から身を守るものです。魔力曝露は知っていますか?」
「ああ……魔晶石の洞窟など、濃い魔力に曝露された時、体内の魔力をかき乱されて……酔ってしまったり、眩暈を覚えたり……酷い場合は昏倒する、のだったか」
「そうです。『
「そうなのか。……まて、岩石よりも魔晶石の方が多い空間、だと?」
「はい。ああ、利用しようとかいう考えは……まぁ、現地に行ってみれば無理だとわかりますよ」
ささ、と彼の背を押し、膜をくぐらせる。
もわーんと彼の身体に張り付いた液体をささっと切って、剥がして、俺の装備を錬金術で以て拡張したものの裏地に織り込んでいく。
「おお、見事な錬金術だ。治癒魔法についてもそうだが、アダン、あなたは非常に高い練度を持っているようだな」
「あはは、長いですからね、ここでの生活。こうならざるを得なかったというか。……はい、完成です。着てみてください」
目視で全体のサイズは測れるし、ヴェルナーから伐開の魔族についてを色々聞いていたから、注意すべき点なんかも頭に入っている。
ちゃんと植物由来の衣服にした。魔物由来だと思わぬアレルギー反応が出ることもあるみたいだからな、伐開の魔族は。
「着替え終わった。……不思議だ。顔が覆われているのに、呼吸が苦しくない」
「それもソイルドライアドの効果ですね。土の中で呼吸をするための様々な要因がこの液体に詰まっているようで。じゃ、行きましょうか」
「あなたは防護服を着なくていいのか?」
「人間はそこまで影響を受けませんよ。あとはまぁ、割と慣れが重要ですね。僕も最初に見つけた時は十時間ほど昏倒しましたが、そこから徐々に耐性をつけていった感じです」
「……それはつまり、種族に関係なく影響はある、ということのような」
俺自身が意識を奪われることはないんだけど、かなーり堅固に作った肉体が昏倒した時は流石にビビったね。なんか毒でもあるんかと思ってその場でめっちゃ研究したわ。
まぁ住めば都よ。人間は適応生物ってな!
さて、ハインケルさんを連れて歩くこと一時間ほど。彼もわかっていると思うけど、かなーり降下している。
寒さの方が問題になってきたな……なんて頃合いで、そこが見えてきた。
「なん……だ? 明るい……?」
「ええ、この先が『
明るくなっている洞窟。そこへ踏み込めば──。
「──……」
見渡す限り、その全てに魔晶石。マーブルで玉虫色で、視覚情報を圧倒される色彩の暴力。
俺達の立っているところは台状になっていて、それなりの低さにある地面には、無数の魔晶石とそれを埋める液体が満ち満ちている。
開けているこの洞窟の中心近い場所には粘性のある液状化した魔晶石、としか表現できないものが
ところどころにある突起物のような形の魔晶石から噴き出しているのは高濃度の魔力だ。あれに曝露すると昏倒する。コンストラクトで試してみたけど、改良型コンストラクトでさえ一瞬にして粉々になったので、精霊みたいな超魔力依存生物の場合は尋常じゃないダメージを負うものと思われる。
「こんな場所が……世界にあったのか」
「僕も同じ感想を持ちました。ただ、気をつけてくださいね。ここにあるものはすべて魔晶石──つまり、足を滑らせてどこかに手を着いた時、割ったり砕いたりしようものなら……」
「まさか、この洞窟ごと……いや、ロストランドごと、か?」
「魔物でさえもその辺細心の注意を払って過ごしているみたいですからね。何が起きるのかは最早想像の段階を超えているでしょう」
まー目算だけで言えばロストランド丸ごとどころかモゴイ丘陵やアスミカタ、ゼルパパム、V・D連邦の一部を巻き込んだ
……ちなみにこの時代だとモゴイ丘陵以外全部名前が違う。
「……だが、確かに……生物の痕跡がある。それも……魚のような小さなものだけでなく、何か巨大なワームの通ったような、引き摺った痕跡があるように見えるな……」
「魔力は
「ああ。これは……魔蛇か、竜のような生物の……鱗があって、身体の長い生物だ。……俺は生物学が専門ではないからな……ここにヨハンナがいれば、また何か違ったのかもしれないが」
「おや、ハインケルさんは何が専門なのですか?」
「結界術や隠蔽を見抜くこと、位相結界、亜種結界などが専門だな」
伐開の魔族だけあって、か。しかし位相結界まで弄れるとなると、かなり高位の使い手だな。
ヴェルナーはその辺無理だったし。俺も……今すぐにやれ、と言われてできるものではない。
ふむ。こちらからも情報や知識を与えつつ、彼にも多少その辺質問してみるか。
「……そういう観点で見ると、あなたからは……位相結界と似た気配を感じる」
「僕から、ですか?」
「ああ。霊質や魂が時間流から切り離されているというか、なんといえばいいか、見た目の存在はこの世で安定しているのに、本質はどの時間軸にも好きな時に表出できるような……俺達が時間に流されることしかできない浮遊物である中で、あなただけは魚のように水の中を泳ぎ得る、というような……そんな感覚だ」
へえ……。
もしかしてこの人なんか凄い人か?
視るか。ハインケル・"
あるいはこの時代にはこれくらいのやつが結構いた感じか?
「すまない、失礼だっただろうか」
「いえ、思い当たる節があるかなぁ、と思って記憶を探っていたのですが……特には。もしかして僕、未来で何か凄いことを成し遂げる感じですかね」
「それは……あるかもしれないな。あなたの知識量や魔法の練度を考えれば、人族の国へと帰った時、英雄や賢者と呼ばれておかしくないだろう」
この人ええ人やなぁ。
単純に人柄が良い。こういう相手には親切にしたくなっちゃうんだよなー。
「面白い話を聞かせていただいたので、お礼と言ってはなんですが、さっきの図鑑あげますよ。書きかけで申し訳ないのですが、二日後までに読み終わるとも思えませんし」
「良いのか? あなたの研究成果だろう」
「すべて頭に入っているので問題ありません。いつか誰かに見せる時のことを考えて色んな言語で説明していた甲斐がありました。その170athl級の生物がいたら、あなたが新たなページを書き足してください」
「……それは、本当にありがたい。学術的興味だけでなく、このロストランドで生活していくにあたって……あの書はかなり有用だ」
うんうん。ちゃんと魔族には毒、とか猫の魔族だと触れただけでもアレルギー反応が出る、とかまで書いてあるからな。
役立ててくれ。
「さて、じゃあ戻りましょうか」
「そうしよう。……素晴らしい光景だった。俺はこの光景を、生涯忘れないだろうな」
「同意しますが、防護服無しでは決して来ないように」
「無論だ」
帰るために踵を返し──。
「?」
「む、どうかしたか?」
「……いえ。今、視界の端で何かが動いたような気がして」
「魔晶石の逆滝ではないだろうか」
「……かもしれませんね」
感知しようとして、飛ばした魔力波が全部吸い取られて、そういえばそうだったと思い直す。
……マジでいんのか? 170athlの生物が。
だとしたら……流石にワクワクが止まんないけど?
おいおいこの世界「──ですよね?」以外のところで楽しめすぎだろ。