序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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56.ED5 - 挿し木に花を結わえ付け

 涅月歴570年薄黄の季節。

 第十代魔王トルヴィッシュ・"エリメス"・ロフトヘッドが配下、予言者アルゴニーがその予言を言葉にした。

 ──二百年後、未曽有の災厄が世界中を襲う。文明が途絶えるような災厄である。

 

 トルヴィッシュがアダンを外部研究者として迎え入れた五年後の話であった。

 

***

 

 無数に響き渡る、「おかえり」とか「良く生きて帰った」みたいな言葉を耳にしながら、魔馬車の籠に背を預ける。

 

「とんでもない人数がいますね……」

「そりゃあ、なんてったってバリムケラスだからな。新設された魔王城も見物だけど、バリムケラスの景色も壮観だと思うぜ」

「アダンは……もしかして、こういう"国"、というものを見るのも初めてなの?」

「初めてということはありませんが、遠い昔の記憶ですよ。それも……こんな人数はいませんでした」

「世界各地に魔族の村はあるけど、魔王様がいるのも、魔族がこれだけ集まっているのも魔王国だけだからな。ああ、種族を聞かれたら間髪入れずに仮面の魔族だと言えるようにしておけ、アダン。そうそう出会いはしないだろうが、人族を差別する者もいなくはないし、機密資料のある施設なんかを利用中は間者であると間違えられかねない」

「堂々としてれば大丈夫よ。こそこそしてるとみんな疑いたくなっちゃうけど」

 

 魔王国。

 来るのは二度目だ。それも、遥か未来が一度目だから、ある意味初めてなのやもしれん。

 

 ロストランドでの研究が一段落した。流石にこの星の全てを解き明かしたとは豪語しないけれど、あの土地のことならなんでも答えられるってレベルにはなった。

 ということもあって、いつもの三人が「一度魔王国に来てみないか」と誘いをかけてくれたのだ。

 あんまり他者との関わりを持つ気はなかったんだけど、結構助かった部分もあるし、どうせフラっといなくなるつもりだったから、まぁ最後くらいはいいか、と思ってついてきたら、なんか凱旋パレードが起きている。

 詳しく聞けば、ハインスくんたち『ロストランド調査隊』も大部分を引き上げる予定だったとかなんとか。俺が研究を終えて、その研究成果が魔王国に上げられているのだから、さもありなんではある。で、彼らは結構な英雄扱いらしい。魔族というのは基本「旅よりも自国内!」みたいなやつが多いんだと。人族と交流しようにも見た目で迫害されることが多いし、思わぬ力みで人族や精霊族を害してしまうこともあるしで、外では生き難い。

 だから周囲全員魔族、みたいな場所の方が生きやすいらしい。なるほど確かに? って聞いてたんだけど、どうやら俺の『ロストランド生態系図鑑』を読んで、まだ見ぬフロンティアに憧れる奴が相当数増えたらしくて。トルヴィッシュくんもその一人で、魔王を辞めたらまだ見ぬ秘境を探しに旅をするとか言ってるらしくて。

 そういうやつらにとっちゃもうあの本はバイブルなわけだ。んで、黎明期にロストランドを調査し尽くした調査隊も憧れの的。バイブルの著者と英雄チームが帰ってくるのなら、これは盛大に歓迎せねば! ってのが現状なう。

 

「僕、アダンと名乗らない方が良いですかね?」

「ああ、それは問題ないと思うぜ。アダンの著に憧れて、子供にアダンって名付ける親も少なくなかったって聞くし」

「魔族は……予知名以外の部分は割と直感的に決めがちよね。私の名前だって、庭のカルクミントが可愛らしく咲いていたから、って理由での名付けよ? 猫の魔族はミント食べられないのに。風に乗って飛んできて咲いていた……言わば雑草なのにね」

 

 その辺どうなんかな、とは思ってるけどな。

 直感とは言うが、その直感は霊質を悟ってのものであることが多い気がしている。俺が適当に名付けたゼンノーティやマイズライト、カルストラも全部意味があったし。いや、そもそも意味は込めたんだけど、思わぬ意味がついた、っていうか。

 この世界は特に「テキトー」というものが存在しないんだろうな、って感じがある。無意識が恣意的に何かを決めているというか。

 アダンは一応「まだ見ぬ」って意味だから、さもありなん。

 

「問題は、仮面の魔族としての証拠を見せてみろ、とか言われた場合か。そこまで言ってくる奴はあまりいないだろうが……」

「……まぁ、皆さんにならいいですかね。僕、こういうことくらいならできるんですよ」

 

 言って、魔力の質を魔族に変化させる。

 

「え。……え、やっぱり『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』だったの?」

「違いますよ。人族と魔族の違いって、実は些細なんです。その違いを用いて魔族のフリをしているだけ」

「……っぱアダンはすげーな。俺らからしても伝説的存在だがよ」

「そろそろ開いた口が塞がらなくなりそうだが、うん、これなら問題ないだろう。基本は俺達がついていてやる、と言いたいが、実は帰ったらすぐ報告書を纏めなくてはいけないから……」

「ざっと十年分のレポートだ。気が遠くなるぜ……」

 

 なら……まぁ、折角だし観光とかするか。

 ヴァルカンの時は「いや元からここにいた魔族だが?」って顔してたから、そういうのろくすっぽやってないんだよな。

 

「……まぁ、多分、俺達以上に親父が会いたがっているから、案内も全部親父がやるだろう」

「ああ……そうか、ハインケルさん、まだご存命なんですね」

「伐開の魔族の寿命は300年から400年はあるからな」

 

 その寿命は、生まれた時に身に宿している樹木によって左右される、んだったか。

 一応括りとしてはハインケルくんもハインスくんも杉の魔族、らしい。ヴェルナーは確か接骨木(ニワトコ)の魔族だっけな?

 つまり、銀杏の魔族や楠の魔族がいたら、千年以上生きるかもしれない、ってことなんだろう。杉は杉でも屋久杉だったら最長老だったんだろうなぁ。

 

 魔族の元となった生物の法則もよくわかんないんだよな。この世界には動物がいないから動物の代替として魔物が出てきた、まではわかるんだけど、じゃあ魔族(獣人)ってなんの代替だったんだろう、とか。

 特殊個体魔族は『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』の派生みたいだけど、王族や貴族と言われているのとは何が違うんだ、とか。

 

「と、俺はそろそろ降りるぜ。またなー」

「ええ、また」

 

 アダンでやるつもりは無いんだけど、魔族や魔そのものを調べるのもいいかもしれない。……人体実験みたいなことはしないつもりだから、研究は遅々としたものになるだろうが。

 

「私もこの辺りで降りるわ。ハインス、アダンを送り届けたら、すぐに来てね。逃げないように」

「誰に言っているんだ誰に。提出物を家に忘れたと言って期限を延ばすのはむしろお前の常套句だろう」

「ちょ、どんだけ昔の話してるのよもう!」

 

 ああそれ、魔族も使うんだ、なんて密かな発見があったり。

 

 そこからしばらくを行く。伐開の魔族というのは大抵族里離れたところに住んでいるようなので、これくらいになるみたいだ。

 ハインスくんが、そろそろいいか、と言って魔馬車のカーテンを開ければ……そこには、大自然が広がっていた。

 

「おお。……緑色の森、というのは、はは、なんだか不思議に見えます。おかしなことに」

「ロストランドは基本的に麹塵色だからな……。本当だ。十年前とあまり変わっていないのに、色合いだけ鮮やかに見える」

 

 この世界の面白い法則の一つに、発色の良さと魔力濃度の高さが比例すること、が挙げられる。

 発色の良さ……鮮やかさと言った方が良いか? 彩度が高いものには基本高い魔力が宿っているため、毒かどうか、食べて何か効果があるか、危険な生物かどうか、というのが割とそれで見分けられる。

 勿論人間……人族魔族のファッションはその限りではないけれど、毛髪とかはそのケがあったりなかったり。精霊とかも発色が良ければ良いほど高位の精霊ってことらしい。

 じゃあお前全員黒髪の『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』はどうなんだよって……まぁその通りで、俺が今挙げたのは、恐らく紫輝由来の魔力で成立しているものに限る……んだと思う。この世界の生物は大抵紫輝の光と魔力を浴びて育っているからこの法則が当てはまる。『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』は涅月由来だから関係ない、って感じ。クロヒビタケも真っ黒なのに光るしなー。

 眼球に関してはまだサンプル不足でよくわからん。得意属性によって色が違う、とか、紫輝由来だとどう、とか……人間のサンプルを取り続ければわかるんだろうけど、そこまで人間に重きを置いてこなかったからな。その辺はやっぱりまだわからんで留めておこう。

 

 長々と語ったけど、つまりロストランドの魔力が枯渇した土地では鮮やかなモンなんか魔晶石くらいしかなかった、って話ね。

 

「帰ってきたんだな、俺……」

「故郷とは得難いものですよ、ハインスくん。仕事に没頭することもいいですが、これからは帰る頻度を増やしてみてもいいかもしれませんね」

「……アダンの故郷は、どこなんだ?」

「僕に故郷はありませんが、強いて言うならエチェロエグズル教戒院という場所ですね」

「アダンが言うと冗談に聞こえないな」

「本当ですよ」

「いやいや。……エチェロエグズル教戒院といえば、御伽噺の楽園だろう? 大海原で遭難した魔族が辿り着く、どこにあるかもわからない教戒院。昔から語り継がれる桃源郷」

「そうです。よく知っていましたね」

「親が子供に語って聞かせる冒険譚の定番だからな。……本当にあるのか?」

「ありますよ」

 

 ごくりと生唾を飲むハインスくん。

 いやー、教戒院も名前が売れてしまったようだな。全ての時代にあの島は存在するから、そうなるのも時間の問題ではあったか。

 ……過去に対して時間の問題とはいったい。ウゴゴゴ。

 

「海図なんかは、描けるのか」

「それは難しいですね。なんせ見えない島にあるので」

「……見えない島。数多の船乗りたちがそれを探したが、影も形も無かった……というのに、エチェロエグズル教戒院から帰ってきたと嘯く者が絶えない……失踪の口実の場所だと思ってきたが……そうか。あるのか」

 

 あそこがそういう場所として機能し始めた以上は、もう仕方がない。こういう宣伝(?)もしていくつもりだ。そこを目指して辿り着けなくて、っていうのは流石に知らんよ。そこまでは手に追えないし、俺が負っていい命じゃあないだろう。

 

「魔王様が喜ぶ。あの人は冒険譚に目が無いからな」

「……部下の方々に恨まれないといいのですが」

「ああ……折角最近収まってきていたのに、魔王様に夢を持たせないでください、くらいは言ってきそうだな。トルヴィッシュ様は仕事のできる魔王だから、余計に色々言われそうだ」

 

 そんなことをコロコロ話して……そうして。

 魔馬車が停まる。

 ドアを開けば。

 

「──おお」

「親父、帰ってきてすぐで悪いが、俺は報告がある。──アダンと、昔話でもしていてくれ」

 

 ハインスくんをもう少し年寄りな感じの──ぶっちゃけ半分樹木だからよくわかんないんだけど──魔族がいた。

 ……こういう再会をするの、やっぱ魔族は多いんだろうな。寿命関係で。

 

「アダン。……本当にあなたなんだな」

「ええ、お久しぶりですね、ハインケルさん」

「連絡を……というより、成果物を見た時は、何の冗談だと思ったが……本当に驚きだ」

 

 ハインケルくんと一緒にいたのは二日間だけだったけど、人柄が良かったからずっと覚えていたよ。カズラくんとか瓜良もそうだけど、人柄が良いと顔まで中々忘れないというか。……まぁ書庫を作る前はカズラくんのファミリーネームすら怪しいレベルだったけど。

 

「どうやら親子二代揃って地裂に落ちたと聞いて、その時は笑ってしまったが……まさかそれが同じ地裂だったとは、驚きが隠しきれんよ」

「あの頃より地裂は深く広くなっていますからね。その辺の地殻変動についても成果物として出しているので、お暇な時に読んでみてください」

「そうさせてもらおう。……いや本当に、懐かしい。寿命の関係で……今生きているのは俺と、ロビンくらいか」

「ロビン?」

「ん……面識が無いか? 今も調査キャンプ……ホルホラ村で装備品に関する店を営んでいると聞いているが」

「ああ、ロブさん。……ということはやはり、彼、『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』ですか」

「……立ち話もなんだ。家に上がっていってくれ。その辺の込み入った話もしよう」

 

 成程ね……最初は明かしていたけれど、時が経つにつれて隠す傾向になった感じかな。

 血や魔力は隠せても、霊質は隠せねーゼ、ってナ~。

 

 ──その後、ハインケルくんと、マー、かなり話し込んで……夜が更けていった。

 

 

 数日後。

 当初の懸念はどこへやら、変にVIP待遇を受けている俺になんか食ってかかってくる輩なんていなかったし、かなり快適に過ごせている。

 今いる場所は──。

 

「こちらです。内部の本は全て持ち出し禁止ですが、アダン様であれば申請をしていただければ許可が通るかもしれませんよ」

「あはは、いえいえ、ルールに従いますよ」

「では、ごゆっくり。ご帰宅の際はお伝えください。お迎えに上がりますから」

 

 魔王国大図書館。

 いつぞやの司書の男が務めていたのは、大魔導図書館だったかな。多分未来で出来た図書館か、ここじゃない図書館なんだろうけど……魔族は記録が使命なんだっけ? だからそういうの建てたがるんだろうなーって。

 流石にIDカード、みたいな近代技術は無いため、何か手続きをするわけでもなくそのまま入館。

 

 静寂──。……ページを捲る音だけが響く、なんとも心地の良い空間がそこにあった。

 

 背の高い本棚がずらりと並ぶそこ。こんだけ本が出てるけど、実はまだ活版印刷すら出てきてないんだよな。だからここの本は多分全部手書き。

 俺の研究データも色々な用途別に写本・書き換えが行われたんだろうけど、それも気の遠くなる作業だ。俺、データ取るのとかクリエイティブなこととかは好きだけど、写経みたいな書き写す作業は割と苦手めなんだよな。だったらその本読み込んで自分なりの言葉で書いた方がまだいける。

 つまりここにある本はたくさんの魔族の努力の結集ってワケよ。

 

 ……ここに来たのはなにも、俺の本を見つけてニヨニヨしにきた、とかそういう俗いアレじゃない。

 

 魔族史、というものが読みたくてきたのだ。

 

「魔族史……魔族史。……お」

 

 あったあった。それを取って、近くにある読書スペースに持っていく。

 藺草や竹っぽい植物で編まれたマットに座り、本を開けば。

 

【挿絵表示】

 

 おー。

 ……もっと〇○の戦い、とか、羊皮紙が初めて使われたのがいつか、とか……見たかったんだけど。他の本はないかな。

 えーと、お、あったあった。『魔王国生産技術の歴史』こっちか。……その隣は……『デーン大公放浪記』? ジャンルで分けてあるわけじゃないのか。気にはなるけど。

 ほー、他にも『竜についての研究』とか『魔族、その未知なる我々』とか気になるものもあるけど……。

 

 ……ん。『異邦見聞録』? 大分古い本だな。……著者は……トラッド・ユニト。

 へえ、トラッドが書いた本か。トラッド・ユニト。エチェロエグズル教戒院で世話をした子供の一人だ。魔族と人族のハーフの幼子だったと思う。絵本と結界が好きな子だったな。

 

 あの子は卒業できたのかなー。まぁアレクが卒業できたんだし、みんな続くだろう。

 

 ……しかし、第一代魔王、ナタリー・"オーラ"・ゼンノーティ、ねぇ。

 こいつのせいで……という思いと、こいつのおかげで……という思いが混在している。再会は……まぁ、嬉しいけど、無くて然るべきものだからなぁ。

 つーか俺の十万ストレイル返せよ。もっといいことに役立ててくれると思ったから払ったのによー。

 

「相席、よろしいですかな」

「ええ、どうぞ」

 

 図書館は割と混んでいて、且つ読書スペースは人気だから、こういうことがよくある。立ち読みより座ってゆっくりがいいというのは人族も魔族も変わらんのさ。

 

 ……っていうか。

 

「伐開の魔族……さんですか」

「む。見るのは初めてですか? おっと」

 

 遮音結界が張られる。ああ、確かに。ナイス判断。つーか図書館で誰かに話しかける俺がバッドマナーだったわ。

 

「いえ、初めてではないのですが……知り合いによく似ていて」

「お知り合い、ですか。伐開の魔族の見分けがつかない、という話であれば……」

「大丈夫ですよ。その辺り、わかりますから。接骨木(ニワトコ)の魔族さんですよね」

「おお。ええ、そうです。いえ失礼しました。伐開の魔族は誰も彼も同じだ、などと言ってくる失礼な輩に出会うことの方が多かったもので」

「僕も仮面の魔族なんで、似た気持ちを味わったことがありますよ。人族かと思って捻り潰しそうになった、とか」

「ああ仮面の魔族の方でしたか。偶然というものは面白いですな。我々、希少なはずですが、ここに二人も」

 

 間違いない。こいつ、ヴェルナーだ。

 足がどっちもあるから……失う前。必然的に、エチェロエグズル教戒院に来る前でもある。

 

 あいつこんな時代から生きてたんだなぁ。

 

「失礼しました。私はヴェルナーという者です」

「ああこれはご丁寧に。僕はアダンといいます。家名はもっていなくて、すみません」

「謝ることはありませんよ。生い立ちを謝ることなどないのです。……え! 仮面の魔族で、アダン……探検家アダンですか!?」

 

 遮音結界張ってるからって叫ぶなや。思い切りよすぎだろ。

 

「ああはい、ええ、まぁ……最近はそう呼ばれることも増えましたね。探検家のつもりはないのですが」

「有名人とこんな場所で出会えるとは……。感激です。二百年以上を生きる方だとも聞いています。……あ、もしかして、私に似ている伐開の魔族というのは、リガード隊長のことですか?」

「いえ、エリオンベルグという名の魔族で」

「……なんと。まさか……私の先祖、でしょうか」

 

 ええい必殺、「そうだったことにする作戦」!!

 記録命の魔族とて、記録されていない領域ならどうとでもならぁ!

 

「失敬……一人で盛り上がってしまいました。改めまして、私、ヴェルナー・"アウノフ"・エリオンベルグという者です。よろしければ、いつ頃出会ったのか、というのをお聞かせ願えますか?」

「遇ったのは多分、500年ほど前ですよ。ロストランドの外れ、モゴイ山脈の麓にある大峡谷で出会いました」

「おお……恐らくそれは、世界中をまたにかけて冒険していたと言われる冒険家エリオンベルグ……初代エリオンベルグです。人族の国、魔族の国、言葉を解する生物のいない秘境、竜ばかりが棲むと言われる『天の至泉』など、様々な場所を冒険したと……記録が残っているのです」

 

 記録残ってたァ!

 だ……大丈夫か?

 

「もしかして僕のことが何か書かれていたり」

「いえ、日誌形式のものは見つかっていないのです。というか、紙がありませんでしたからね。紙ができる前の歴史は壁画や石板彫刻画として残されているのですが、冒険家エリオンベルグを確認できるのは外部記録ばかりで」

「ああ……そういえば、そうですね。……じゃあこの本に乗っている製紙成立以前の歴史は」

「どれどれ……ああ、はい。新設された魔王城にはありませんが、涅月歴0年から涅月歴402年までの間に使われていた魔王城にある、歴史を記した巨大な石碑『我ら再び希望の灯を得たり(スペム・イテラム・レッペリムス)』に刻まれていたものを書き写したものでしょう。冒険家エリオンベルグの日誌も……もしかしたら石板という形でどこかに残されているかもしれませんが、望み薄でしょうね」

 

 あびねーあびねー。記録大事つったってそうか、記録媒体が無きゃーな。キャナァーリ。

 

 ……けど、だから余計なこと書いてないのかこの魔族史。ナタリーの余計な追記はともかく。

 

「初代とは、どのような会話を為されたのですか?」

「初めはお互いにお互いのことをゴーストだと勘違いしていて、そこからだったので紆余曲折ありましたが……」

 

 記録が残っていないとわかったので、話を盛っていく。ちなみに話しながら本は読んでいる。本に探査系の魔法を走らせて中身を判別するだけでいいからな。

 ガルベン・ゼンノーティに続いて二人目の被害者である。お爺さんは、あの三人の絵をなんかの間違いがあって描いておいてくれ俺のために。

 

 

 ……大分盛り上がったあと、帰路に就く。

 お迎えの魔族がいるの忘れてたんだ。だからちょい早めに切り上げさせてもらった。お迎えの魔族には歩いて帰りたいと告げておいた。

 

 ま。

 観光もちろっとできたし、本も面白かったし。研究も良い所までいったし、思わぬ再会と思わぬ「──ですよね?」にも恵まれたし。

 

 ──さいならさんだ、魔王国。

 騒ぎになったり付き添いできてくれていた魔族の責任問題にならないよう、俺に関する記憶を二、三日封印させてもらう。それが解かれたら普通に思い出せるし意識もできるようになるから。

 楽しかったけど、主目的はそれじゃあないし、まだ見ぬ「──ですよね?」が俺を待っているのでね!!

 

 ĝis revido!

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