序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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58.刻まれた言葉を刻んで消した

 ()はその日初めて他者というものを知覚した。

 天より遣わされた()は、定められた刻限の通りに、起きては眠り、起きては眠りを繰り返す。定められた空腹の通りに全てを食らい、定められた寿命の通りに全てを破壊する。

 ()に感情は無い。()に理性は無い。()に選ぶ意思など無い。

 ()以外に誰もいない世界で、何も感じないままに、何も選ばぬままに、()は覚醒と休眠を、時の円環の中で、行い続けるだけ。

 

 そうだったはずだ。

 

 けれど、今、()は初めて他者を知覚した。

 破壊すべきと定められた場所。そこに、()以外の何かがいる。

 その時初めて()は「己」というものを知覚した。あれではないものが「己」だ。

 その時初めて()は「感情」というものを知覚した。己に無いものが「感情」だ。

 その時初めて()は「使命感」というものを知覚した。この感情が「使命感」だ。

 

 今。己の使命を阻み、世界を乱さんとするあの敵の排除こそ、()が果たすべき使命である。

 

 ──意思を持ちて、殺す。

 

***

 

 ファウンタウンからどんどん精霊が消えていく中で、とんでもない殺気が届く。世界に命を狙われたのかと勘違いするほどの、純粋で、巨大な殺気。

 咄嗟にファウンタウンを包む結界を強化したのは間違いではなかった。直後、ブレスの威力が四十倍近くまで膨れ上がったからだ。

 

 が、こっちだってやられっぱなしじゃあない。

 老精霊たちが『災晶』と呼んでいた巨大水晶。地属性の、恐らくは魔力結晶体。

 魔力結晶体というのは魔鉱石とは違って魔力が凝縮されていないものを言う。圧力下にない場所で生成された魔晶石だ。凝縮をしないとああやって巨大にならざるを得ないんだろう。

 つまりまぁ、かなり遠い親戚ではあるものの、大枠、魔鉱石亜種である。

 ──流石にもう慣れたよ、魔鉱石の扱いは。

 

 前にやった通りさ。

 加工ができるんなら、解体だってできる。

 

 凝集加工ができるのなら、解膠加工だってできる。

 

「──解膠加工。槌魔石・災晶」

 

 魔力マニピュレータを殺到させ……一つの『災晶』を無数の魔力素にまで戻す。

 さらにその魔力素を手元に持ってきて、魔鉱石にまで固め、さらに魔晶石にまで加工する。

 

「ハッハッハ! 誰も見ていない空間というのは最高だなァ! ──ほら、魔晶石版魔力素爆弾(シュライン)だ。なんか後世ではこの現象の事シュラインって呼んでるらしいぜ。皮肉家サイコーかよ!」

 

 テンションが高いのは許してほしい。ここまで一切の枷が無い状態で、ここまで周囲を気にしなくて良くて、ここまで強大な敵というのも中々お目にかかれない。

 さしもの俺も楽しくなっちゃうってものさ。「──ですよね?」が潰された恨みもあるし。……最初から無理そうだったとはいえ。

 

 目視可能範囲で『災晶』は既に百二十六個ある。どういう法則で増えているのかは知らないけど、無制限に増えるんだとしたらこんなチマチマ削ってんのは意味が無い。

 けど、()()()としては最適だ。どうせだから危険すぎて試していなかったこと全部試してやろうじゃないか。

 

 周囲にある『災晶』の魔力を分解しながら魔鉱石、魔晶石へと変換しつつ、放出分の魔晶石以外を一か所に押し固めていく。

 魔晶石は本来形を変えるにも苦労をするレベルのエネルギーが詰まっているんだけど、魔晶石を涅月の魔力で包むことで、エネルギーを外に出さない状態を保つことができる。その状態で高密度の魔力により外皮を融解させ、さらに押し固めることで成立するは──ロストランドの『魔力の受け皿(ソーサリーソーサー)』で見たあの液状化した魔晶石。重力に逆らって逆流する魔晶石の泥と、各種属性が反発せずに混ざり合っているあのマーブル。

 

 夜をオーラのように纏い、成長していくカボション型のマーブル水晶は……ハハ、ゼルパパム洋を蒸発させられる程度の力はあるだろう。

 

 それを、密集している『災晶』のところへ、ぽい、と放り投げる。

 

 カボションの頂点部分が『災晶』にぶつかって砕けた瞬間、オランダの涙よろしく全部が割れるマーブル水晶。

 直後、空間を力が満たした。

 

「ヒュウ。今ので百個はいっただろ。じゃあ皮肉を込めて、これは混合魔晶爆弾(クィロー)という名前にでもしようか? 誰が使うんだってソレ」

 

 さて残り二十六個……になった『災晶』が、一気に二百個近くまで増える。

 ……やっぱり一撃で全部消し飛ばさないとダメか。

 

「液状魔晶石で描く刻印さ──"引き留めることのかなわぬ名前""届けることのかなわぬ言葉""射ち落とされる果実""忘却と眠りの中""いつか辿り着く地平線"!」

 

 それぞれ『残滓』、『末路』、『未練』、『自己満足』、『憧憬』を指す古代魔族語。

 そこに書き足す最後の文字は。

 

"篝火を持つ者"

 

 この古代魔族語が持つ意味は、『継承』。

 六文字-六単語で作り上げるは、一見、単なる魔鉱石にしか見えないもの。紅色の魔鉱石(オルガナサイト)

 

 これを、場に満ちている地属性の魔力を錬金術に変換して作ったハルバードに嵌めこんで、と。

 さぁて今の俺にできる最強の一撃を──、と。

 

 思った、んだけど。

 

 ……最後の最後まで残っていた()が逃げることを選んで……中身が完全に空になったことがわかった。

 じゃ、ちゃんと精査して。……良し、誰もいないね。

 

「──災厄よ。災厄竜よ。おまえは自身の名すら知らんのだろうから、そう呼ぼう。世界を終わらせるその使命、興味深く、面白い。そうしておまえはすべての文明を食らい、すべての知識を断絶させるのだろう。災厄竜よ。おまえの知っている通り、世界というのは、脆くて、頼りなくて、潰すに味すらしないものだ。誠に実に至って甚だ極めて非常に大いに全くもっていといみじくも著しく格段に相当同意しよう」

 

 最近はずっと武器を握っていなかったから、軽く感触を確かめて。

 

「──だが!」

 

 刻印魔法で作り上げた魔鉱石でも魔晶石でもないソレが、場にある魔力を全て俺の制御下に置き、その(かいな)を振り上げる。

 

「有無としあらむ限り! そうであるものがそうであり続けようとする時、何者にも捻じ曲げることのできない力が生まれることを知るが良い──」

 

 そこには当然、俺の魔力も、ファウンタウンを包む涅月の魔力も、ファウンタウンそのものの魔力も含まれる。

 さぁ、夢を成そう。

 

「──未来への第一歩(FRASHOKERETI)

 

 未来が過去に追いついてしまう世界であるというのなら。

 ここから新たな可能性を作り出せばいい。

 

 前へ進めよ。それを、変えられぬ生き方であると、誇りを持って言えるように。

 

 

***

 

 

 木漏れ輝と子供達の遊ぶ声に、彼は目を覚ました。

 本来必要ないのにググ、と伸びをすれば、体内の魔力素配列がいくらか整えられたような気になれる。

 

「あ、シュラウン起きたー?」

「おはよーねぼすけシュラウン!」

「アチアたちは先に起きて食堂にいるよー。今日はお客さんが来るから、早く食べちゃいな、ってさ!」

 

 シュラウン・ゼンノーティ。

 彼の名前だ。けれど、その姓を名乗る機会には、最近恵まれていない。なぜなら。

 

「ああ……今行く」

 

 起き上がった彼の視界に映るは、小さな村だ。

 かつての集合住宅など見る影もないが、平和で、長閑で、暖かい場所。

 ここなるはゼンノーティ村。ゼンノーティ一族の住まう村。

 

「……涅月が昇る前には、シャキッとしなきゃな。……あいつが、見ているだろうから」

 

 三人の精霊を祖として、世界中から家なき子親なき子を集め……村という規模に、一族という規模にまでなった、精霊もオーガもハーフリングも人も魔も関係ない、家として在るための村である。

 

 

 クィローによって逃がされたあと、精霊たちは各地へ散った。

 ただ、精霊というのは、魔力依存生物の中でも極めて高く魔力に依存した生物であり、その場の魔力の影響を受けやすい。

 紫輝の魔力が充満している場所ならば安定はするが、その他の魔力……大地の魔力や涅月の魔力があると、かき乱されてしまう。

 だから大部分の精霊はどこか一か所を定住の地とし、ファウンタウンの名をそのまま使ってそこに住んでいるとの話であるが、シュラウンらはそうしなかった。

 

 災厄によって居場所を失った者同士を集め、身を寄せ合い、前を向くことにした。

 それがゼンノーティ村の始まり。集めた者達の中で、姓を持たない者にはゼンノーティの姓を与え、本当の家族のように生活をする。

 あの日失ってしまった彼の弟という傷を埋めるかのように。

 

「ただいまー」

 

 食堂で魔晶石の欠片を食べたシュラウンが向かったのは、客が来ると聞いていた場所。

 長老の家……つまり自宅のツリーハウスだ。そこへ入った彼が見たのは、なんともまぁ、懐かしい光景だった。

 

「お帰りなさい、シュラウン」

「おかえり、シュラウン」

 

 あの時からずっと、心の温かくなる「おかえり」を受けつつ、シュラウンはその名前を叫ぶ。

 

「ルーティア先生! ……に、校長先生と、法霊院のお爺さんたち?」

「久しぶりね、シュラウンくん。きっちり二百年ぶり。元気にしていた?」

「……。……なんか先生、オンナになったな」

「はぁ? 全くもー、昔から失礼なんだから。……まぁ、恋人ができたから、ちょっと性別が顕著にはなったカモだけど」

 

 余談であるが、シュラウンの初恋はルーティアである。精霊学校に通う幼子は皆担任の先生に惚れるものだ。

 流石に今も、ということはなかったのだが、ちょっぴり苦い味が口の中に広がった気がしたシュラウンである。

 

「シュラウン、久しぶりじゃの。昔語りをするのであれば、ルーティアと外へ行っているのも良いじゃろう」

「あ、いや。聞くよ。なんか用あって来たんだろ。父さんと母さんに並んで、俺だってゼンノーティ村の顔なんだ。聞かなきゃな」

「ホー……なんともまぁ、たった二百年ぽっちで大人になったもんじゃのぅ」

 

 精霊の寿命は長い。というより、寿命が無いというべきだ。精神の熟達と共に見た目も老いてはいくが、だからといってそのまま死に絶えることはない。

 魔力のある限り、外部的要因さえ無ければ永遠を手にできる生物の名が精霊である。

 尤も大半の精霊は()()()()()()()()災厄によって命を落としてしまうのだが。

 

「では改めて話をしよう。お主らもそれでよいかの?」

「ええ」

「お願いします、長老」

 

 先に話を聞いていたらしいシュラウンの父親、母親が頷き、その話は初めから話されることになった。

 

「あの災厄の時、儂らの前に現れた『涅月の精霊』は、姿を消してしまった。儂ら精霊は言うなれば『紫輝の精霊』であるが、そんなことは関係ない。命を救われたのだからお礼をしなければと……この二百年、世界各地を探して回ったんじゃがの。元々ファウンタウンのあった位置にはあの浮遊島の一切が残っていなかったし、あれなる者の痕跡は世界のどこにも無かった」

「……」

「じゃが、儂らはあの時の『涅月の精霊』の魔力の質を覚えておる。澄み渡るように滑らかで、音すら奏でられそうなほどに洗練されたあの魔力の質を。それを頼りに世界中を再度探索していたところ、魔王国というところに痕跡を発見した」

「ほんと……か?」

 

 思ってもみないことだったから、口を開くのが何瞬か遅れた。

 それくらい衝撃的なことであったから。

 

「ああ、気を逸るでないぞ。……『ロストランド生態系図鑑』という、とても丁重に保存が為された本。そして、その著者が使っていたものとされる器具類。それらから、微かではあるが、『涅月の精霊』と同じ魔力残滓を感じ取ることができた」

「ロストランド……魔力の墓場。やはり、精霊は近付き難いですね……」

「その著者であるアダンという青年が精霊であった、という記録は残されていないのですよね?」

 

 先に話を聞いていた両親が紡ぐ。アダン。精霊語で「いずれ」という意味の言葉。

 

「ところでお主ら、ガストリンという名の青年を覚えておるかの」

「勿論。五十年前くらいにこの村を出てったやつだよ。魔鉱石を使ったジャグリングが得意で、周りから危ないからやめろって騒がれてたっけ」

「五十年前ではなく七十年前だよ、シュラウン」

「……十年二十年くらい誤差だろ誤差。で、ガストリンがどうしたんだ?」

「うむ。その者は今、ガストリン・ゼンノーティと名乗って、第十四代魔王をしておる」

「へー」

 

 魔王という言葉の重みがわかっていないから、シュラウンの反応はこれくらいだ。

 村出身者がその村の名前をファミリーネームにするのはおかしな話ではないし、シュラウンたちも家族だと思っているから、嬉しい限りであるし。

 

「……あんまり驚かんのぅ。まぁ良い。その魔王ガストリンから、先日儂らファウンタウンへ要請があったんじゃよ。ゼンノーティ村の位置がわからなくなってしまったから、連絡を取ってほしい、と」

「位置が……って。ああ、この村は隠蔽結界の中にあるから……」

「そうじゃ。儂らでも見つけるに苦労した、ゼンノーティ一家本気の隠蔽結界。精霊より感度の低い魔族では見つけられるはずもなく、里帰りができない、と嘆いておったぞ」

「……この村の出身者ならば通ることのできるトンネルのようなものを作るべきね」

 

 この村では多様な種族が分け隔てなく暮らしているが、外はそうではない。

 別にこの村が誰彼に何か迷惑をかけるというわけでもないのに、()()()()ことが何度かあったから、村は完璧な隠蔽結界を纏い、隠れることにしてしまった。その弊害であると言えるだろう。

 

「とにかく、そういう次第で……魔王ガストリンと儂らは繋がりを得た。そこで探検家アダンについての話を聞いてみたら、そのアダンなる青年は、涅月歴570年に行方不明になってしまったきりなのだそうじゃ」

「丁度四百年前か……流石に生きてない、よな? 魔族の寿命ってよくわかってないんだけど」

「普通の魔族であれば、の。じゃが、その者は仮面の魔族という特殊な魔族であったらしく、そして仮面の魔族の寿命は千年に達することがあるそうなんじゃ」

「仮面の魔族っていうのは?」

「魔族と人族、二つの顔を持つ魔族であるとかなんとか。よくわからんかったが」

「……つまり? クィローと同じ魔力の質を持つアダンが仮面の魔族だったのなら、その親族だっただろうクィローもハーフリングや『涅月の精霊』だけじゃない仮面があったかも、って話であってるか?」

 

 魔力の質が同じでも、同一人物であるとは限らない。

 大抵の場合は親族や同じような性格の人物がこの「魔力の質が同じ」という性質を持っているから、アダンとクィローが兄弟ないしは家族であった、という可能性は高い。孫にまでいくと魔力の質が同じになることは少ないからだ。

 

「アダンという青年は死亡したわけではない。行方不明になったという。わざわざ周囲の者の記憶を短期間封印し、失踪の瞬間を誰にも見せなかったと記録されているらしくての。それは……彼がまだ生きていると言っているようなものに聞こえぬか?」

「聞こえる。……クィローの家族、か。あいつは……魔力結合崩壊に飲まれたって言ってたけど……」

「それはまぁ、嘘だったんじゃろうな。当時ファウンタウンに住んでいたハーフリング全員に聞き込みを行ったが、そのような家族は知らぬと言っておったし。……シュラウンとルーティアの前で話したという、自身のせいで不幸になりかけていた、という話や、かつてお主の体内にあった涅月の魔力が関係していそうな気もするが、儂にはさっぱりじゃ」

「ああ。わかるのは、あいつが嘘吐きだったってことだけだ。でも……どういう意図があって俺に接触してきたんだとしても、あいつがいたから俺達ゼンノーティ一家は仲良くなれた。愛情を取り戻せた。そこだけは、変わらない」

 

 頷き合う一家。その純然たる事実を消すことは、クィローにだってできやしない。

 

「儂らもあの『涅月の精霊』にはお礼がしたい。アダンという青年であれば『涅月の精霊』の行方を知っているかもしれぬ。あるいは居場所がわからぬかもしれぬ。そして魔王国はアダンという青年の行方を知りたい。……そういうわけで、儂らファウンタウンは魔王国の一部になって、利害の一致から彼の青年を探すことにした。じゃが、一番探したいのはお主らじゃろうなぁ、と儂は考えて、こうして話を持ってきた、というわけじゃ」

「……それはつまり、私達ゼンノーティ村も……魔王国の一部に、と?」

「人族含め、他種族を差別するつもりはない……というか、別に今までと何も変わらなくてもよい。だから、アダン、及び『涅月の精霊』については情報共有をしないか、というお誘いじゃの。魔族側の寿命を考えて、五十年に一度くらいのペースで情報共有会を開き、それまでは世界を旅したり旅人から話を聞いたりして、情報を集める」

 

 一聴してデメリットは感じられなかった。というか、ガストリンがゼンノーティ村を害そうと思うわけがない、というのもあるが。

 シュラウンは。

 

「母さん、父さん。俺は良いと思う。この村の……隠れ里的な体制はあまり変えずに、情報共有をするという意味で、魔王国の一部になることは……この村の魔族も生きやすくなるかもしれないし」

「そうね。……私も賛成だわ」

「うん、問題は無いと思う。ただ、魔王国から命令やら何やらをされた場合は、僕たちゼンノーティ一家の全力を以て跳ねのけさせてもらう、とは言っておかないと」

「それは魔王ガストリンに直接言うてくれ。ここに帰りたがっておったからの。……さて、こんなところか。あー堅苦しい話は肩凝るのー精霊じゃけど」

 

 とんでもなくシームレスに声のトーンを日常会話へ落とす元長老。

 けどまぁ、精霊なんてこんなものである。

 

「ああそうじゃ、もう一つ、言い忘れておった」

「ん、なんだよ法霊院のお爺さん」

「それじゃよ。名前。実は、こちら……ファウンタウンの外で生まれた精霊は当然のようにそれをしておるんじゃがな」

「?」

 

 必要ないのに、コホン、と咳払いをして。

 

「儂の名はヨリ=アルマテヤじゃ。……というように、名前+霊質で名乗るのが当たり前らしくての。……まぁ多少の羞恥心はあるんじゃが……」

「霊質を名乗る……ですか。それは……」

 

 霊質。これを知覚できる者にとって、それを知られるというのは、自らのコアを相手に見せるようなもの。わかり難ければ、体内に他者の侵入を許すくらいには恥ずかしいものである。

 抵抗のある精霊も多いだろう。だが、確かに、ここがゼンノーティ村である以上、名前だけ、というのはなんだか物寂しい。

 

「俺は……じゃあ、シュラウン=マルカイトラか」

 

 マルカイトラ。精霊語においては、「ずっと忘れない」、そしてシュラウンは知らぬことだが、古代魔族語においては、「篝火を持つ者」を意味する。

 周囲にいるのはみんな家族のようなものである。恥ずかしさなど彼には無かった。

 

「それと、新ファウンタウンの方に、ニツァという精霊が来ていての。この精霊の生まれは涅月歴571年じゃったから、話を聞いてみたんじゃ。結果から言うとその子はなにも知らなかったんじゃが、それとなく探してみるとは言ってくれた。そして、儂らが思っているより、一か所に定住せずに旅をしている精霊は多い、とも」

「……そうなのか」

「ああ。じゃから、誰彼構わず聞いてみると良いぞ。精霊というのは例外なく長生きをするもの。どんな知識を蓄えておるか、見ただけではわからぬ」

「……それを聞いて、思ったんだけどさ」

 

 ──俺も、旅をしてみたい。

 

 言葉を零して……恐る恐るシュラウンが両親を見れば。

 そこには、満面の笑みがあった。

 

「言うと思ったわ。誰かに頼ってばっかりじゃなく、クィローを、自分の足で探しに行きたいんでしょ」

「さっき母さんの言っていたトンネルはすぐに作っておくから、いつでも帰ってきなさい。その上で、世界を見てくると良いよ。一般的に言えば、ファウンタウンの精霊は世間知らずの部類に入るからね」

「まぁ、ファウンタウンは都会過ぎて田舎というか、外界からほとんど切り離されておったからの……」

「ん。じゃあ、決めた。俺……旅に出る。出て、色んな所を回ってくるよ。……俺が帰ってくる頃には、ルーティア先生の子供も発生してるかな?」

「余計なお世話よっ!」

 

 笑いが満ちる。

 いや、笑いだけではない。

 そこには、希望もまた、満ちていた。

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