序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

64 / 100
61.甘い蜜を啜る甲虫

 玄妙(シェンミャオ)仙人。

 仙実国(シァンシーグァオ)は南西に位置する刻黒山の中腹に建てられた唯殿に住まう仙人であり、武の極みに達したと言われている超越者の一人。

 刻黒山には今日も入門者が絶えないが、入門できるのは、霧の深い刻黒山を抜けて唯殿に辿り着けた者のみとされており、今までに辿り着けた者は数人しかいない。

 

 しかし今日、また一人、唯殿に挑みし者が現れる。

 

「──ここが噂に聞く武の頂点! 玄妙(シェンミャオ)仙人の居所ってやつか……良い()()()になってくれるといいんだが」

 

 身長1.37athl、体重51.4atms。筋骨隆々な姿はまるで岩石。そう、彼の名は──重村鎖袋。

 世界各国を旅する筋トレ命の青年である──!

 

***

 

 結局前回は身体強化の研究というか魔力の切り分けの研究になってしまったので、思い切って魔法の才能を封印。身体強化の魔力しか使えない肉体になって山籠もりをすること二百年。

 いつの間にか弟子が増え、玄妙(シェンミャオ)仙人と呼ばれ、月一ペースで道場破りに挑まれるようになった。

 

「ようやくたどり着けたんだ、早い所玄妙(シェンミャオ)仙人ってのに会わせてくれ。そろそろ腹が減る頃合いなんだ」

玄妙(シェンミャオ)仙人でしたら、私ですよ」

「……はぁ? あんたみたいなほそっこい兄ちゃんが、武の頂点? ──カァ、さてはてめーら門下生欲しさに嘘を、」

 

 チンピラがぶっ飛ばされる。壁の傷にならないよう弟子が受け止めた。……ま、ここに辿り着けるくらいの力はあったんだ。丁重に送り返してやんなさい。

 

 して……彼をぶっ飛ばしたのは。

 

「お初にお目にかかる! 俺の名は重村鎖袋! 武者修行のために各地を旅している鬼族……オーガ族ってやつだ」

「名前の感じからして、葦三方の方ですか?」

「おお、そうだ。確かに言葉の()()は似ているが、外国のひとで正確な発音ができる人には初めて会った。俺を見ても驚いてねえし、もしやオーガ族の知り合いでもいたか?」

「ええ、数人ほど。ですからあなたたちの怪力も知っていますが……あなたはそれだけではないようですね」

 

 ゆらりと沸き立つは魔力だ。

 身体強化の魔力──それも、練りに練り込まれた最上級。

 

 ならばこちらも応えよう。

 霊脈の魔力を呼吸により取り込み、全身に粒のようにして圧縮してあった魔力を血肉へ溶かし、円を描きて己に統一する。

 

(ルー)玄妙(シェンミャオ)と申します。ここ刻黒山の盟主を務めております者」

「改めて、重村鎖袋だ! 葦三方帝国は重永家傘下重村鎖条が末の息子、現在武者修行中につき武の頂点に挑む者なり!!」

 

 拳が来る。岩のような拳だ。

 何重にも重ねた異なる身体強化の相を層状にし、威力と防御力を底上げしている。

 これのウィークポイントは、本来微妙な調節が可能なはずの拳を一本の丸太と同じようにしてしまうこと。

 

「つまり、膝などで無理矢理支点を作ってしまえばてこの原理が作用する、と」

「ぬ──投げか! だが!」

 

 浮き上がっていた身体をくるりと回し、腕ごと俺を巻き込もうとしてくる重村。その手には乗らんと避けようとしたら、ガチガチに固まっていたはずの腕を捻じ曲げ、がっちりホールドをしてきた。

 どうやったのかと改めて見れば、成程さらに身体強化を上掛けして無理矢理捻じ曲げたのか。馬鹿力め。

 

飛燕(ひえん)肋血(ろっけつ)!」

 

 ならばと執り行うは、脇腹に集中する六度突き。それが終わった後、そのまま投げ返され、天井、壁を伝って着地する。

 

「……練気が上手くいかねえな」

「気を練る腎の臓周辺の魔絡に封をさせていただきました。そこまで時間はかからずに癒えるものですが、この手合わせ中には無理でしょうね」

「いいじゃねえか。気なんて小細工無しに、ただ己の筋肉のみの戦いをさせてくれるって話だろ?」

「ええ、その通り。ですが当然、私は気を使いますよ」

「わーってるさ! 縮!!」

 

 妙な膝の折り方からの、凄まじい縮地!

 一瞬にして俺の眼前へ現れた彼の掌底──に、完全に同型の掌底を合わせ、さらに弾く。

 

「な──ぐ、ぉ!?」

鏡華掌(きょうかしょう)といいます。簡単に言えば敵の技を真似る技ですが、あくまで技を真似るだけ。体格などは模倣できません。かわりに、技が真似られるのならば、咄嗟の防御において最適解を出せる、ということでもあります。その技はその技で潰すのが一番ですからね」

「ハッ、言葉通りに受け取る奴もいるんだろうが、俺はそうじゃねえよ、兄さん。今の、勁だろ。いや、噂に聞く鎧通しってやつか? 俺の筋肉を突き抜けて骨や神経にまで威力を通したな」

「おや、神経についての知見が?」

「ああ……知り合いにな、人体の中身に詳しいやつがいんのさ。──よし、もう痛くねえ」

 

 嘘吐け。クソ痛くなるように殴ったっつの。

 大抵のやつなら肘から下が麻痺して使い物にならなくなるはずなんだがな。この筋肉塊相手じゃ無理ってか?

 

 なら……。

 

「あんたの武の種はわかった。その身に宿す膨大な気を、練晶石でも扱うかのような精密なコントロールで一切の遅延無く操り、ぶつけてきている。今の俺は、こーんなにもでけえ巨人を相手にしているのと同じってこった」

「ええ、そうです。突破はできそうですか?」

「いーや、無理だね。どこまで鍛えたところで人間は海を飲み干せない。鬼という種族そのものの限界値。その先にいるのがあんただ」

 

 とか言っている割に……魔力が練られていく。

 腎臓の封を無理矢理外したな? 破裂するほどに汲み上げて、無理矢理に。それがどんなに激痛かって話でさ。

 

「だがそれは! 辿り着くことを諦めたという意味じゃない! 俺の誇り高き筋肉は、破壊と再生を繰り返し、二倍に、三十倍に、四百倍にと膨れ上がる!!」

「あにはからんや……思い出しました。サティ・シゲムラ。──『到達』、でしたか」

「まさしく! 俺の名にして之なる魔法の名は『到達(ペルウェニーレ)』! 自らの限界に到達し、それを更新し、更なる限界を作り出し、それに到達する──無限の可能性を秘めた突破術だ!!」

 

 赤熱し、膨れ上がるは筋肉と身体強化の魔力。

 はち切れ、折れ、ぐしゃぐしゃになっておかしくないその腕を身体強化の魔力が疑似的な治癒魔法として機能し、押しとどめているのだ。

 正しく自爆技。けれど見込めるリターンは、眼前に垂れ下がった勝利。

 

栄光の最高到達点(グローリー・マッスル・パンチ)!!」

「ならばあなたのために、それを上回りましょう。──取歩角(トリホガク)

 

 身体強化一本で真正面から轟音纏う拳を受け止める。

 そして、思いっきりその腹に膝蹴りをかました。その際腕を引っ張って威力を上げることも忘れない。

 ドン! と大気が爆ぜて、道場の床が割れた。……かってぇ腹筋だなオイ。防御力を考えて直径1athlの隕石が5.8athl/sで突っ込んできたくらいの威力は出したんだが、防御を間に合わせやがった。

 

 そのままズシンと沈む重村。……気絶したか。ここからまだまだ強くなるって本気かよ。

 

「玄師、お疲れ様です。この者も麓へ帰しておきますか?」

「いえ、新たな入門者として迎えます。起床したのちその旨を話してください。断られたら断られたで結構です」

「わかりました」

 

 ……しかし、グローリー・マッスル・パンチは……どうなんだ。もうちょい無いか、名前。

 

***

 

 (ジン)永純(ヨンチュン)の朝は早い。

 まだ紫輝も昇り切っていない頃合いに起床し、気功を再形成し直し、同じく起きてきた数人の弟子と共に唯殿の掃除を行う。

 そののち、唱の間にて『武笠(ぶりゅう)歳旦(さいたん)』を唱和し、心身を整え、目指すべき姿を明確に思い浮かべる。

 これを終えたら、次は刻黒山北に位置する滝にて滝行だ。身を清め、精神を統一し、雑念を捨てる。

 朝餉は師の作ったものを食べる。自分たちが用意すると言っても彼は聞かないから、甘えることを恥じ入りながら、身体を作るために必要なものの入った美味なる食事をする。

 

 紫輝が山間を越えて昇ったあたりで始めるは、峯入りと呼ばれる山登り修行だ。全身の気功を一定に保ち、定められた道を進む。刻黒山は強い力を持つ霊山であるため、気を抜けば自身の練気が霊山の気に押され、乱れてしまう。

 峯入りの道には峡谷や断崖絶壁も含まれ、軽身を用いてそれらを越える。

 

 昼時に入る前に帰還し、また滝にて身を清め、昼前最後の修行に入る。

 玄師の命取り──そう呼ばれるその修行においては、一刻の間、どのような手段を用いてでも師の命を狙う。即ち殺す、ということだ。無論、それくらいのつもりで、ということであるし、それくらいの殺気を込めねば師には指一本触れられない。

 玄師はその間に昼餉の支度を終えている。一刻を経てそれを食し、消化する際は軽身修行を行う。

 傾の間という床の少しずつ傾いた部屋で、ただ立ち続けるという修行をする。永純は長年の修行によりほぼ垂直に近い壁に立つことができるが、玄師は天井にすら立てる。まだまだ修行が必要である。

 

 昼を過ぎて、ここから己が伸ばすべき武術ごとに修行が変わる。

 数ある選択肢の中から永純が選んだのは斬鉄であり、腕一本で剣や刀と対峙して、勝利を勝ち取るための稽古を行う。

 鎧の一つ程度であれば素手で貫き刳り穿てるようにはなった永純であるが、まだ刃の鋭さに負けてしまうことがある。攻撃は良くなってきたが防御が疎か、とは玄師から良く言われる言葉であり、中々うまくできないことを彼は恥じている。

 

 夕刻に差し掛かるあたりで一度唯殿を掃除し、身体を滝行にて清め、刻黒山の麓にある練化洞に入る。

 ここで行うのも気功維持だ。ここは霊山の心臓のような場所であり、昼前での峯入りよりも精密な気功操作が求められる。

 

 帰還した永純らを待っているのは夕餉だ。朝・昼よりも肉の多いこの修行における「楽しみ」の一つである食事であり、勿論美味。

 そのまま自室に戻って眠る者もいれば、足りない修行の穴を埋める者、玄師の夜間修行を見学する者などに分れる。眠る場合は気功を全身にかけ、朝起きた時にも継続しているようにすることが求められる。

 

「……というのが、ここでの大まかな一日です」

「そうかぁ。……筋肉には良さそうだが、気になるのはメシだな。僧というのは大抵質素で味気のしないメシを食っているものだが」

 

 ここまでのことを永純が説明していたのは、今永純の前にいる彼……重村鎖袋なる男が玄師に弟子入りするかどうか、という選択を迫られているからだ。

 筋骨隆々の鬼族。仙実国(シァンシーグァオ)にも鬼族の戦士はいるが、ここまで見事なものはそうそうお目にかかれない。それに、玄師があそこまで力を込めて蹴っているところを永純は初めて見た。余程の防御力、というわけだ。

 

「こんなことを言うのは修行不足に取られてしまうかもしれませんが……食事は正直、下界のどれよりも美味です。肉体作りのために必要なものが全て入っているそうですが」

「ほーぉ。食の仙実国(シァンシーグァオ)とまで呼ばれたこの国のどれよりも美味いメシ、だと?」

「ええ。僕は元商家の息子です。この国で流通する食事、外国の食事……様々なものを食べてきました。なんでしたら、魔王国の食事すらも。その上で言います。──うまいです。本気で」

「──いちど食わせちゃくれねえもんか。流石に言葉だけじゃ……じゅるっ、ああいや、決めきれねえ」

 

 永純からすればあくまで食事はおまけであり、本来の目的は修行だ。だから彼の動機は不純なものに映った。

 それでも、師もよくもちべぇしょんが大事、と言っていたし、日々の意欲としては正しいことなのだろう。

 

 して、永純は玄師にそれを相談する。

 玄師はこれを快諾。その日の昼の食事が振る舞われることとなり──。

 

「刻黒山にて教えを受ける次第になった、重村鎖袋だ! 兄弟子方々、どうぞよろしく頼む!!」

 

 それを食べた鎖袋は一瞬にして弟子入りを決意した、とか。

 

 

 さて、刻黒山の修行形態には、他に類を見ない「休日」というものがある。

 ずっと修行をしていた方が良いんじゃないか、という意見を持つ者はいるし、休めと言われているのに無理に修行を行おうとする弟子もいなくはないのだが、そのたびにどこからともなく現れた玄師がピンとその弟子のデコを指で弾き、強制的に麓の街に流れる川にまでぶっ飛ばし、休ませる。一度食らったことのある弟子曰く「どんな修行よりも恐怖した」、「一瞬だけとんでもない殺気が飛んできた」らしい。

 よき休息を取ることこそが真の修行だと玄師は常に言っている。睡眠や休息を行える者が初めて武の骨頂を手に入れられるのだと。

 

「おお、ソイツは理解できるな。俺も毎秒毎秒筋肉を鍛えているってわけじゃあない。それをやったって身体を壊すだけだ。適度に休み、適度に厳しくする。それが良い筋肉を作るコツってやつよ」

「外界でも……そういう考え方なのですね。やはり学ぶところが多い……」

 

 というわけで、重村初の休日に、麓の街の観光がしたい、ということで、永純が付き添いをする次第となった。

 永純はいつも休日を持て余す側の人間である。これで一日が潰れてくれるのなら幸いであった。

 

「あー、喫茶『先天遇』ってとこに行きたいんだがよ」

「……ああ、小人(ハーフリング)族の夫妻が経営している店ですね」

「そうなのか。……大丈夫か? 俺、小人族には怖がられた試ししかないんだが」

「問題は無いと思いますが、先に僕が行って事情を話しますよ」

「おおそうか。恩に着るぜ」

 

 豪快な見た目とは裏腹に、重村は気遣いのできる男であり、そして強さに対して誠実なその姿勢から、刻黒山の者達ともすぐに打ち解けていった。

 切磋琢磨こそが刻黒山の在り方である。強き者、強さを目指す者を厭う者は、まず弟子にはなれない。そういう者は霧が近付けさせないからだ。

 あの霧は妖霧であり、管狐という妖が吐き出すものを玄師が採取して作り出した特殊な結界である。刻黒山に挑みに来る者の選定や悪意ある者を近づけさせないための弁を担い、二百余年余りの間、刻黒山を守り続けているものでもある。

 

「ごめんください、今って──」

「だ・か・ら! さっきも言ったけど、ここはクリームあんみつが一番おいしいの!」

「チッチッチ、わかってないねーアルルンは。仙実国(シァンシーグァオ)に来てなんでわざわざ外国産のお菓子を食べるのかなぁ~? 涅月餅、饅頭、花捲……仙実国にはね、外国と違って甘すぎない、ほんのり甘い系のお菓子がたくさんあるんだから!」

「確かに。その国行ってはその国の物を食べよ、ということわざもありますからね。僕は銀に賛成ですよ」

「僕は……おじさんなので、甘味類より川魚のフライとかが食べたいかなぁ」

「喫茶に何求めとるんじゃ? つーかお主がおじさんじゃと儂や『薄明』、『蓋然』が枯れ木老人になるじゃろ」

「はぁ、どこにいってもうるさい方々ですわね。どれかを選ぶのが難しいなら、全て頼んでしまえばいいでしょう?」

「エレオノーラがいちばんわかってない!!」

「エレレンは風情ってモノがないよね~♪」

 

 思わず扉を閉める永純。

 どうやら迷惑な団体客が来ているようである。見た目からして外国人だろう。刻黒山の僧の一人として、注意をしなければならない。

 だから、重村に、「少し待っていてください」と言おうとして……彼がいないことに気が付いた。

 

「おお、始めているようだなお前達! ──だが流石に静かにしてくれないか? 他の客に迷惑だろう」

「え? 消音結界生きてるでしょ? 聞こえるのは私達か、余程優れた感覚を持っている人だけだと思うけど」

「結界は……問題なさそうですわね。けれど、あなたの同行者が、たまたま余程優れた感覚の持ち主だった、という次第のようですわ」

 

 どこへ行ったのかと見渡せば、既に店内へ入っている重村。しかもうるさくしていた者達のところに座って。

 同時に、扇子を持った身なりの良い女性の言葉に店内を見渡してみれば、確かに他の客や店主の夫妻は迷惑にしている様子が無いどころか、騒いでいることに気付いてすらいない様子だった。

 

「すまぬな、永純。あれらはあれらなりに弁えてはいたようだ。ここは俺に免じて見逃してほしい」

「いえ……こちらこそ、配慮に気付かずに申し訳ありません。……知り合い、ですか?」

「ああ。昔馴染みだ。観光もしたかったんだが、今日、急遽来ることができるとなったらしくてなぁ」

「わかりました。でしたら、門限の二十時までに帰ってきてください」

「話の分かる兄弟子だ! ありがとうよ、また今度何か、俺にできるもので埋め合わせはするからな」

「弟弟子がそこまで気を遣わずとも結構ですが……そうですね。あなたの冒険譚などお聞かせください。そういうの聞くの、好きなんです」

「おうよ! 寝かせねえくらい語ってやらぁ!」

 

 旧知が来たとあらば、そちらを優先すべきだろう。

 あんなに騒がしい……けれど仲の良さそうな面々。血の繋がりは無いだろうに、なんの集まりなのやら。

 

 永純は溜め息を吐いて店を後にする。そして、結局潰し方を知らない休日をどうしようかなぁ、なんて考えながら、なーんにも思いつかずに帰路へ就くのであった。

 

***

 

 さて、喫茶『先天遇』内に……その十人はいた。

 

「なんだ、やっぱり『解体』と『別界』は来られねえのか」

「ローズは来たら脱獄になっちゃうし、ライっちは引きこもりだからね……」

「千年に一回あるか無いかってレベルの親睦会なんだから来たらいーのにね」

「ハッハッハ、アイツも色々あるんだろうさ。まぁ折角ここまで年代の揃った【マギスケイオス】だ、一度くらい、とは思うがな」

 

 そう、彼らは【マギスケイオス】である。『解体』と『別界』を除いたフルメンバーがそこにいた。

 

「しかし、『四毒』は久しぶりだな。指名手配されて以来会ってなかった気がするが」

「まぁ君達に迷惑かけるのも悪いからね。知り合いの子が開いたっていう葦三方の学校も見てみたかったし」

「へえ、葦三方に学校? 俺のいねえ間に面白そうなモンできてんじゃねえか」

「いやお主が旅立った時には既にあったはずなんじゃが……」

 

 運ばれてきた甘味を片っ端から頬張る青年、『四毒』。かつて四国にわたって被害を齎した《四毒(フォア・ラベンダ)》の主犯であり、国際指名手配を受けている者。今は羽澤蛙と名乗っていたはずである。

 

「チッ……なんだってテメェの弟子入り祝いなんぞのためにこんな場所まで出向かなくちゃならねえんだよ」

「へえ、『業運』ともあろうものが、賭けの結果に文句を言うって言うの?」

「……フン。負けは負けだ。俺の魔法がまだ甘かった。テメェの運命力に負けた。……あークソ、『財宝』! ほんとに全部持ってくれんだろうな! やけ食いするぞ俺は!」

「この店のメニュー端から端まで何万回食べたって私の財産に一切の傷はつきませんわ」

「あークソ、妬ましいぜ……俺もあんな台詞言ってみてぇなぁ!」

 

 金銀財宝をじゃらじゃらと身に着けた、非常にガラの悪い男、『業運』。歓楽国家ザミザイフェスにて賭博に明け暮れている彼であるが、その対面で不敵な笑みを浮かべる女性『全開』とのなんらかの賭けに負け、こうして赴いたらしかった。クイン・ジェック・カインは本名であるが、この名前にはなるべくしてなったと彼は言う。

 得意げな顔で胸を張り、珈琲を嗜んでいる『全開』ことドリルパイル・バンカーバンカー。その仕草と美貌は非常に洗練されたものであるが、彼女がどこの出身であるか、といったあらゆる特徴が消えている。

 

 彼らの隣で扇子を開き、涼しい顔をしているのが『財宝』のエレン・"オーラ"・マイズライトだ。基本的にどの場面においても【マギスケイオス】でかかる金銭的な部分は彼女がケアするのだとか。

 

「エレオノーラ、はい、あーん」

「ぅ……あなた、それの意味わかっていまして?」

「え~? なに~? エレレン照れてるの~? アルルンにそんな気ないってわかってるのにぃ~?」

「べ、別に……。ああもう、食べますわよ!」

「きゃー! カワイ子ちゃん同士がいちゃいちゃしてるー!」

「お主はいったいどの立場になりたいんじゃ……?」

 

 "かつての彼女"ではない、本当の彼女の顔を知ってからというもの、『最小限』のアルカ・ダヴィドウィッチはいつもこんな調子である。どこか一線を置こうとする『財宝』の手を掴み、こちらに戻す。

 彼女らをニヨニヨした目で見ているのが『蓋然』の(イン)結糸(ジェミィ)。一応この国出身であるのだが、きらびやかな髪色や目の色があって、顔立ちくらいでしかそうだとは判断できない。顔立ちも純粋な仙実国(シァンシーグァオ)人かと言われると微妙だったりする。

 

「魔力、薄い……。味、よくわからない」

「そうですか? こういう素朴な食材は、ゆっくり舌で味わうんですよ。あ、お醤油ください」

「ぶち壊してないかのぅそれ。素朴な味楽しむ気がないのぅ?」

「誰か魔力吸わせて。……『到達』」

「ああ、別に構わねえよ。それも良い筋トレになる!」

 

 薄味があまり肌に合わない感じにしているのが『薄明』こと精霊のハクメイである。彼女の隣で素朴な味付けの食事にドバドバと醤油や沙司をかけているのが『観察者』、ザイカ・オンドウで、さっきから忙しなく皆にツッコミを入れているのが『不死』、フラニー・ハニー・オーケストラ。

 重村はうんうんと頷く。よく見る光景であり、そして、初めて見る光景でもある。

 普段は『別界』が作り上げた空間の方で顔を合わせている。こうして実際にどこかへ赴き、親睦会をすることがあるとは思ってもみなかった。

 それがまさか自身の弟子入り記念になろうとは。

 

「で、気付いてるんでしょ、シゲシゲ。あの山、迷い家だよ~?」

「おう、それがどうかしたかよ」

「知らないわけないよねぇ。迷い家は益を齎してくれる一方でぇ、関係者の誰かが必ず一人は死んじゃうらしいよぉ? 自分が当人になる覚悟はあるのかなぁシゲシゲはぁ」

「銀。テメェこそ知らねーのか? ──筋肉は全てを解決するんだよ」

 

 迷い家。そう呼ばれる物の怪が刻黒山全体を襲っていることになど気付いている。

 気付いていて重村はあそこへ道場破りをしに行ったのだ。

 

「というか別に、誰も死なんかった迷い家もある。そう脅すようなことを言うでないわい」

「それよりも留意すべきは、迷い家現れるところに試練あり、の方じゃねえのかよ。あれが現れた以上、必ずどこかで人類が乗り越えにゃならねえ出来事が発生するんだろ。そいつは」

「それも、筋肉で解決できる!」

「……そうかよ」

「シゲのそういうところ、好きよ。私もそういう性質だし」

「エレオノーラが全部お金で解決するとこと一緒だねー」

「一緒にしないでくださいまし。私の方はもっとスマートですわ」

「っていうかジェック君こそ全てを運で解決しようとするじゃないですか」

「っるせーよ」

 

 結局、自身が得意とする魔法で全てを解決できると思うのが【マギスケイオス】という話である。

 そして、そうであるならば──。

 

「安心しろ。この試練を乗り越えたあと、お前達が聞くのは、四方千里に轟き渡る『到達』の二つ名だけだ! あるいは筋肉男やもしれないがな! ハーッハッハッハ!!」

「よ! マッスルボディ重村! 人類最強の男!」

「アルカ、あまり調子に乗らせないでくださいまし。あなたが毎度毎度そうやっておだてるから──」

「その通り! 俺はマッスルボディ重村! あ、人呼んで筋肉お化けのマッスルボディ重村! ──よーしノってきたァ! このまま今度は飯処に行こうぜ! 肉食いてえ肉!」

「いいね。この国の定食というものも食べてみたかったところだし」

「套餐のお店かー。がっつりお肉ってイメージないから、もっと肉メインに押し出してるトコ行った方が良いかも?」

「これこれ、さっき『財宝』が全メニュー頼んだばかりじゃろ。全部食べ終わってからそういうことを」

「ああ、はい。ごちそうさまでした。美味しかったですよ」

「食い終わっとる!? 『観察者』お主、このメンバーの中じゃ最も普通の人族じゃろうに、なぜお主が誰よりも食べるんじゃ!」

「脳って一番エネルギー消費するんですよ」

「ザイカおじさん今私達が頭使ってないって言ったよね!?」

「聞き捨てなりませんわ。私を他の方々に含めないでくださいまし」

 

 消音&隠蔽結界の中、実際には初対面の者もいるとは思えない喧騒に包まれながら、重村は思う。

 

 筋肉に一番()()のは、美味なる食事でも、過酷なトレーニングでもなく……こういう日常である、と。

 ここに戻りたいと強く願うから、人は武を、強さを求めるのである。

 

 ……この後二次会どころか五次会までやって、案の定門限を超過して怒られることになるのだが、酔いまくって食べまくって騒ぎまくった重村の顔は、それはもう幸せそうだったとか。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。