序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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62.気を待て守を水

 ここ仙実国(シァンシーグァオ)は国土が広いこと、内乱・内紛が多いことも相俟って、竜災が多い。

 他国と比べ物にならない量の竜が出る……のだけど、この国は独自の手段でこれらに対処をしている。

 

 それが、封印である。

 

 連邦やキロスでやった封印であるが、封印というのは結界の応用だ。

 結界というのが「内側の物を外に漏らさない」、「外側のものを内に入れない」、このどちらかの性質を有するものであるならば、封印は「内外を隔て、閉じる」ことに重きを置いている。

 中の物を止める、時間を停止させる、みたいな効果は無いのだ。それは別の領域。であるため、充分に弱らせた上で封印を行わなければ簡単に破られてしまう。

 

「破邪顕正──令・由・内!」

「ぐ……これ以上は保たない! 永純、代わってくれ!」

「相わかった! 鎖袋、反対側を任せます!」

「任せておけ! 筋──肉ぅぅぅうう!!」

 

 眼下、六角形に作られた方陣の中で、(リー)と名付けられた「なりかけの竜」が激しくもがいている。

 尾を抑えつけるは重村鎖袋。頭蓋に対して止めどない雨のような突きを入れるは永純。その周囲で符を指に挟んだ仮面の者達……魈覡(しょうげき)と呼ばれるシャーマンたちが祝句を唱えていて、そこから溢れ出る呪いによって(リー)が侵されゆく。

 ただ……少し遅いな。もうすぐで永純の息も切れる。あいつの無呼吸による貫鉄掌は充分強力だが、今回は「なりかけの竜」の方が強いかね。

 

「──まだだ! まだ見限るな、玄妙(シェンミャオ)! こいつらの輝きは、まだ、ここからだぁあああ!!」

 

 ……そうか。

 より間近で見えるお前がそう言うのなら、少しだけ待ってやる。だが気を付けろ、ソイツはまだ幼体にも満たないモノだぞ。

 

 メキ、と、(リー)の背で音が鳴る。骨の折れたそれではない。むしろ、骨が形作られるそれだ。

 自身の背、その皮膚を突き破って出てくるのは、骨組みだけの翼。それは一度空振りのような羽搏きをして──じゅるりと水音を立てて巻き付き、上ってきた筋線維により、膜が作られる。

 一度、二度、三度。何度もの羽搏きをするたびに翼は完全なものへとなっていって……。

 

「──もう無理だ! 永純、鎖袋、逃げろ! 抑えられない!!」

「ッハ……クソ、未熟……!」

 

 息切れでダウンする永純。その頭上で大顎を開くは(リー)だ。成長に消費したカロリーを補充しようという算段だろうな。

 全身の力を使い果たした彼は、憐れそのまま「成りそこない」の餌食に──。

 

「大丈夫かァ、兄弟子ィ!」

「……ああ、すまない、助かった」

 

 ならない。重村鎖袋が助けたから。

 他、逃げ遅れた者を次々に抱え、戦線を離脱する重村鎖袋。

 

 その隣にふわりと降り立つ。

 

「限界と見ても?」

「ああ、大言壮語を吐いた! 助けてくれると助かるぜ、玄師!」

「よろしい」

 

 眼前。

 短時間に何十回もの脱皮を繰り返し、太く、大きく、硬く……強くなっていくその躯体。

 ゴロゴロと口元で逆巻くは水属性のブレス。

 高圧水流もたるや、凄まじい貫通力を発揮するそれ。

 俺、そして俺の背後にいる永純たちをも狙った一刺であるが──軌道上へと正確に掌を合わせ、握り潰す。

 

「──っ!!」

「竜も、そうなれなかった方々も、皆さん同じ反応をしますよね──まるで私が、警戒すべき天敵であるかのような警戒色を」

 

 肌を撫でる冷気。飛んできていた水流が根元から凍り付き、俺の拳まで凍った。

 おお、短時間で属性の応用変化まで覚えたのか。カリアンより筋が良いぞ、お前。

 

 俺の腕が使えなくなったと見たのだろう、突進してくる(リー)

 その鼻っ柱を凍った方の腕で叩き落とす。

 

「!?」

「氷属性の練気が凍らせているのはあくまで気。ならば、気を体表付近に纏い、常一定量を保ってさえいれば、練気に由来する属性損傷というものを受けずに済みます。その上で氷ですから、棘付きの鈍器を敵に与えるようなもの」

 

 下顎と水平になるような膝蹴りを入れ、(リー)の顎を砕く。

 大きく仰け反ったその首筋へ凍った腕を突き入れ──大きく右に薙げば。

 

「──!!」

「そう騒ぐことでもないでしょう? あなたたち竜は頑丈だ。首に大穴が開いた程度、何度か脱皮をするだけで再生可能でしょうに」

 

 まぁ、驚いたのはそこじゃないだろうが。

 最も自信があったのだろう、その硬く、しなやかで強靭な外皮。

 それをいとも容易く切り裂かれたことに驚き、怒り……そして、怯えている。

 

気功(身体強化の魔力)といってもあくまで(魔力)ですからね。圧力をかければ練化石になる、ということは、むしろあなたたちの方が詳しいでしょう。──私のこれは、晶化寸前の気を固めているに過ぎません」

「!!!」

 

 魔力の風。……いや、これは。

 

「ほう、昇水泉ですか。気の扱いがどんどん上手くなりますね。──ただ、攻撃に伸ばすのではなく、逃走のためにその進化の形質を使うべきでしたよ」

 

 足元から突き上げるように昇ってきた水流を手刀で割り、それを引き起こした魔力を掴み、そのまま(リー)を引き摺り倒す。

 作用中の魔法は常に術者と繋がっている。放出系はその限りではないが、放出系の魔法は逆に脆弱性が露になって、外部からのクラックを許すからな。一長一短って話。

 

 身体を翻して……逃げるかと思えば、尾による攻撃をしてくる(リー)

 

「おやご自身の身体であるのにご存知ないのですか? 蛇の腎臓がどこにあるのか──だいたいこの辺りです」

 

 尾の辺りに飛燕肋血……腎臓封印の魔力を打ち込む。

 これにより、(リー)はもう魔力が使えなくなった。これでは飛行もままならないだろう。

 

「ところで先程私の気を体内に入れたかと思いますが、危ないのでやめた方が良いですよ。──透槍(トウソウ)爆結(バッケツ)

 

 先程通した魔力が俺の元へ戻ってくる。その際、障害物である(リー)の肉体を掻き分けて、……だから、あたかも(リー)の口から尾までを透明な槍が貫いたかのようになった。

 

「……──!!」

「いや本当に。どうしてまだ生きているのですかね、あなたは。──封」

 

 描かれていた方陣から蜘蛛の糸のようなものが出てきて、(リー)の身体に巻き付いていく。

 

 竜。何度か交戦したが、理解したことがある。こいつらのヤバイところはその巨躯や凶暴性ではなく、尋常じゃない再生力だ。

 心臓をぶっ壊そうが脳を消し飛ばそうが、生命活動の全てが肉体に依存しないまま再生する。その魔力のある限り。これは腎臓を封印してもかわらない。腎臓を消し飛ばしても変わらない。

 俺のようにどこかにプールでもしているのか、とにかくこの竜というものがその生の終わりに墓碑へと刻む、ありとあらゆる魔力を削り切ってからでないと死してはくれない。

 

 茜座……痣火で相対した征武乱禍の大蛇も、身体を両断したってのに殺し切れていなかったし、そのまま海を渡って渡った先で大暴れし、魔力を使い果たして討伐されたらしい。

 レスベンスト冒険隊と倒したあの魔竜もそうだ。いくらダメージを与えても死に切らず、恐らくこちらの魔力とアレの魔力の削り合いでようやく死んだ。

 単純な戦闘力における対比は以前考察した通りのものだけど、こいつらは第二ラウンド第三ラウンド第四ラウンドとあって、そのたびに全快になってくる……マトモに相手をするのがアホらしい生物である、ということだ。

 

 だからこうして弱らせて封印するのが一番ってこと。

 

 糸によってミイラにされて、励起した方陣が水晶を形作り、晶柱となって地に突き刺さる。

 ここまでやってこうして封をすれば、向こう十年くらいは大丈夫。封印されている間にも彼らは再生するが、同じく空腹にもなり、飢餓状態になった挙句、餓死する。再生と餓死による生死の境目を彷徨い続けたあと、魔力不足でお陀仏、って事。

 それくらいしないと殺せん生物is何。

 

「……お疲れ様です、玄師。未熟者の後始末をつけていただき感謝します」

「未熟者……というよりは、技や人員資源の吐きどころが問題に思いましたね。魈覡(しょうげき)の方々とよく話し合い、どのようにすれば封印を成し得るのか、というのを今一度考えてみなさい。少なくともあなたの雨垂突は効いていましたよ」

「吐きどころ……」

 

 リソースをどこで吐き、どのリスクを取って、どのリターンを得るか。

 重村鎖袋が言っていたように、人間じゃあ海の水は飲み干せない。じゃあ何が目的で海の水を飲み干したいのか、その目的を叶えるための代替手段をどのようにして構築するか。

 基礎力は大分ついたからな。こっからは応用問題のターンって話さ。

 

 ……俺も、もう少し効果的な気功術を開発するか……もしくは竜についてを調べようかな。

 そしてもう少ししたら──失踪しないと。

 

 

 永純と重村が魈覡(しょうげき)たちの総本山へ向かったのを見送って、一人、刻黒山の地下へ降りていく。

 俺がここに居を構えた理由。それがこの先にあるのだ。

 

 70athlは地下へ降りたそこ。地底。

 この国の方陣とは似つかわしくない円形の描かれたそこは儀式場。これでもかという量の術符(じゅつふ)によって封印を施してある場所。

 

 一つ、溜息を吐く。

 

「害意が無いのであれば、でてきてくださいませんか。気になります」

「……気付かれたか。流石は武の頂点、(ルー)玄妙(シェンミャオ)だね」

 

 岩陰より出てきたのは……懐かしき、オレンジの頭髪をしたなよっとした男。肩には雨の神も乗っている。

 

「あなたは?」

「初めまして。私の名前はエステルト。……エステルト・"ヴァーン"・マイズライト。当代の魔王をしているよ」

 

 ──……え、昇任したってこと? 司書から魔王に? 大抜擢が過ぎない?

 しかもヴァーンでマイズライトってお前、盛り過ぎだろ。

 

「何用かを問うても?」

ゲェロ(我の紹介もしろ、エステルト)

「……その前に。こちらはサラード・懈星(ダルオホス)。雨の神だ」

ゲェロ(まぁ、この者には必要なかろうが)

「君ね、だっていうんならさせるんじゃないよ、まったく」

 

 雨の神、ね。

 竜にも神にも魔王にも縁があるというか、そうなりやすい世界というか。

 

「人語は解せても、喉の作りが変えられない。そんなところでしょうか。──この符を」

「これは?」

 

 風に流すはとある呪符。

 込められている呪いは自白。それを拡大解釈し、「思念を汲み取り音の魔力に変換する」というプロセスを取る。

 ゆえにこれを貼られた生物は。

 

「おお。……便利だ。毎度毎度ヒトの喉に近付けなくていいというのは、心底に」

「マジックアイテムまで作れるのか……。人族というのは、本当に」

「いえ、これは符ですよ。私に魔法や呪いは使えませんからね。身体強化の魔力による刻印魔法の模倣と取っていただければ」

 

 身体強化の魔力についてはめちゃくちゃ研究したんだ。それでわかったことが幾つもある。

 そのほとんどを『武笠歳旦(ぶりゅうさいたん)』という本に認め、門下生たちに渡して読ませているが、果たしてどれほどが最奥にまで辿り着けるやら。

 

「……符とマジックアイテムの違いは?」

「術者の込めた魔力が切れると、符は単なる紙切れになります。刻印魔法は所有者の魔力、でしょう」

「成程、みだりに他者を強化することはできない、と」

「ええ。身体強化はあくまで裡に向くモノですからね。……それで、改めて問いますが、何用でしょうか。魔王に神に、一端の武人が答えられる問いも少なく思いますが」

 

 霊質を変えられるようになってからは初遭遇だ、神とは。

 けど、さっきの言葉を信じるのなら、半ば見通されている、か? 名前自体は前も名乗ってきていた気がするし、全部じゃない気がするが。

 

「私達はその少女に用があったんだよ。──竜の核心(コア・ハート)にね」

 

 少女。──そう、円形の儀式場の中心に封印されている者。

 それが、この少女……魔王エステルトの言う通り、竜のコアに近しい気配を持つ者。

 恐らく世界中の竜災、及び竜の発生に彼女が関わっている。……気になるのは、術者の気配が……トラッドに似ている、ということか。

 

「どうかな、サラード。彼女は君達の同胞足り得るかい?」

「否。今はまだ、殻の中で蠢く要素にすぎぬ。声をかけるかどうかは貴様の好きにしろ、エステルト」

 

 ……そういや「なりかけの竜」は、成れば神に、成りそこなえば竜になるんだったか。

 新しい同胞……新しい神の気配に誘われて来た、って感じか?

 

「──私と一緒に来るかい」

 

 封印が軋む。……別に良いけどな。出ていってくれるなら出ていってくれても。

 俺は……その辺、なにがなんでも封印したい、ってタイプじゃないし。っていうか俺が望んでやったことでもねーし。

 

「魔王国とは、魔なる者……つまり、選ばれなかった代替品(オルタナティブ)が集まる場所です。動物に代わる魔物。人族に代わる魔族。そして、竜に代わる魔竜。君のような"意図されていない特別(ボランティア)"も私達は受け入れる」

 

 封印の軋みが……収まる。

 何か言いたげだな。いや、問いがある、って感じか。

 

「『それは、罪を犯した者達であっても?』」

「なにを……」

「ほう、魔声か。……エステルト、そう驚くことではない。我に貼られた符と同じく、声無き者の意思を音の魔力に変換する術法だ」

「『答えて、魔王さん。あなたとあなたの国は、罪人であっても受け入れると、そう言えるの?』」

「無論だよ。魔なる者であるのならば、罪人であっても──、ッ!?」

 

 地底の空気が刃に形成され、魔王に飛ぶ。

 それを一応、まぁ、叩き落としといて。

 

「『帰って。わたしのせかいに、罪あるモノは不要なの。受け入れるのではなく殺すといってくれたら、少しはミリョク的だったけれど』」

「ク、こっぴどくフラれたな、エステルト。王たるもの、臣民の願いを正しく受け止めることができねば、斯様な末路を辿るだけだ」

「……だとしても! こんな場所に閉じ込められて、封印されて……君は自由になるべきだ。私は、不当な拘束を、許すことができない!」

「『私がこの人に封印してほしいと頼んだのに?』」

「な……」

 

 まぁ、そうだ。俺がこの子を封印した。一応俺の後始末……俺じゃない俺がやった結果起きたこと、だからな。

 

「あなたがどこまで知っているかはわかりませんが……今から162年前のことです。葦三方にあった竜の楔はある者達によって破壊され、世界中に竜が解き放たれた。その際、世界中の竜を繋ぎとめるために使われていたこの少女もまた解き放たれました」

「……知っているとも。事件自体は私が生まれる七年前にあったことだけど、よく知っている。誰がそれを企て、実行したのかさえも」

「私は封印した者が誰なのか、については知りませんが、封印を解除した者とは少しばかり縁がありましてね。彼がつけきれなかった後始末を……不始末を片付けることくらいはします。その一つが、この少女の封印でした。彼女は魂だけの存在で魔力流の中にいましてね。そのままだと災厄の材料にされてしまいかねなかったので、保護したところ……罪無き人間を殺したいわけではないから、封印をしてほしい、と」

 

 茜座の不始末。そして、クィローの不始末でもある。

 この世界における魂というのは霊質よりも肉体的な存在であり、肉体が(ほど)かれることで感情の制御を失い、限りない悲嘆、果ての無い憤怒、終わりない喜色、再現ない幸福など、端的に言えば狂気に陥る。

 それが悪意に絡みつき、且つ魔力を取り込んで非実体としてこの世に再度現れたものをゴーストと言う。死者がそのまま現れるというよりは、死者の一面だけが強調されて、縛られ、捕らえられて、囚われて……この世界に縫い付けられる、という表現が正しい。

 とんでもない苦痛だった、というのはこの少女談。彼女の中にあった父母を殺した者への憎悪。それが行き場を失い、魂を苛み、苦痛となって彼女を襲い続けていた、と。

 コアだった頃は竜に魂を移し入れることで本懐を果たせていたからよかったけど、それができなくなって苦しみが増した、とも言っていたか。どうやら彼女を楔の要にした術者はとんでもない欠陥品封印術を使ったらしい。つーか一個存在を使わないとできない封印が意味わからん。やり方なんて山のようにあっただろうに。

 

「連れていってくださるのでしたら、どうぞ連れていってください。私、そろそろいなくなる予定なのですが、この子の封印を弟子に引き継ぐのもなんだかなぁ、と感じていたので」

 

 ちょっと、お断りだって言ったでしょう!? と言わんばかりのカマイタチが飛んでくるけど全部叩き落として、と。

 

「決めろ、エステルト。無理矢理にでもこの童女を保護するか、見て見ぬふりをして帰るか」

「……どうしてそういう言い方をするかな。見捨てられなくなるじゃないか」

「我は貴様の善性に賭けている。その善性を信ずるのは当然であろう?」

 

 クツクツと笑う雨の神。トライギル・括石と似たタイプか。……フ、書庫で確認したからな。名前はばっちりだぜ。でもトライアスロン吉村の方がアイコニックで良いと思うよ。マッスルボディ重村と並びなよ。

 

「……お願いしよう、禄・玄妙。彼女の封印を解き放ち、私に預けてほしい」

 

 無数のカマイタチが飛んでくる。

 どうどう。落ち着けって。

 

「このように怒り心頭のようですが、魂だけの存在をどうこうするアテはあるのですか? このままだと狂暴なゴーストになってしまって、余計に苦しませるだけですよ」

「アテは、正直言うと無いんだ。君は何か、知らないかな。器として相応しき容れ物があるといいのだけれど」

「心当たりがあれば、私が真っ先に使っていますよ。……まぁ、そうですね。伐開の魔族か夢妄の魔族を頼ってみなさい。策を与えてくれるでしょう」

「……人族から、魔族を頼れ、と言われる日が来るだなんて」

「貴様が勉強不足だからだ、エステルト」

「神からも人からもそれを言われたら、ううん、立つ瀬がないな……」

 

 少女の封印を手元の小さな符に移し替え、それを三角錐で囲み、再封印する。

 

「この小ささですと、保って半年ですね。それよりも前に解ける可能性も高いです。──どうぞ、時間には余裕を持って行ってください」

「感謝するよ。……そして、その上で聞いておきたい。君は、魔との争いに出向くことがあるのかな」

「ありませんよ。同じ椅子を取り合う合わせ鏡に落とす水滴は持ち合わせていませんから」

 

 さーてこれで思い残すことも無くなった。

 今回はちょっと味変というか、やってみたいものがあるんだ。その方向性でいくつもりだから早めにケリつけたかったんだよネー。

 

「我からも一つ、問いをかけよう」

「はい、なんでしょうか?」

「なぜ災厄を起こせしが竜なのか。会ってきたのだろう? 我以外の神にも。その中には、竜が可愛く見える程の悪神もいたはずだ」

「……」

「しかし、天は我ら神にではなく成り損ないに災厄の翼を授けた。──その理由を探しておけ、名乗らじの怪(アウィス)よ」

 

 ……言われてみれば、そうだな。

 なんで……竜なんだ。知能も低けりゃ融通も利かないだろうこいつらを、どうしてわざわざ使うのか。

 というか、若干ネタバレ風味だけど……災厄はやっぱり意思によって為されているんだな。それも多分、この大地の。

 

「私にもわかる言葉で話してくれると嬉しいかな」

「フン、貴様にはまだ早い。……いや、遅すぎたか。クク……ああそうだ、この符。どれほど保つか、というのも聞いておこう」

「一刻も経たば効力は消えますよ。追加が欲しかったら、魔王さんに頼んでください。模倣はお得意なのでしょうから」

 

 さ、話は終わりだ。失踪に向けて準備をしなければ。

 颯爽と階段を上り、颯爽と去っていく。これ以上呼び止められないように。

 

「最後に私からも一つ、いいかな!」

「質問の多い二人組ですねぇ。なんですか?」

「ヴァルカン、という者に訊き覚えはないかな。一年前に行方不明になってしまった大切な部下なのだけれど」

「知りませんし、そのヴの発音、この国であれば目立ちますから、聞いたことも無いと思いますよ」

「そうかい! ……何から何までありがとう、人族に君のような存在がまだ残っていたことを嬉しく思うよ」

「いえいえどういたしまして。──さようなら」

 

 逃げべ逃げべ。これ以上はお断りだーい。

 

 そうして、その日よりきっかり一年後、刻黒山を後にした俺であったとさ。

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