序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
南西に富。北東に雄。中央を通り抜ける突風に乗って北へ進むは、妖馬を興奮させる白草の香。
東へ進めば最速。得られるは敵地の兵站部隊。西へ進めば欲。長期的に見て価値のあるものが眠る場所に辿り着ける。
二つに一つ、選ぶのは、さぁさ。
「……と、申しているように思います」
「良い託だ。ならば我らは東に進もう。──
「は、はい。大丈夫です」
魔馬を駆り、二十人ほどの隊を率いて森を抜けていく将を見送り……少女は溜息を吐いた。
その少女を、尾で撫でてやる。
「あ、ありがとう。……あなたのおかげで、食べていけるようにはなったけど……すべてあなたのおかげなのに、私、あなたに何も返せなくて」
撫でる。二本目の尾も使ってモフモフ地獄に鎮める。余計なことを言う口が閉じられるように。
君は俺の味変大望の同行者なんだから、そんなこと気にしなくていーの。
俺がこの国へ来た理由がそれだった。味変の「──ですよね?」。つまり──。
「わっ、とと……あ、ありがとう。危うく落ちるトコだった……。ルーはよく見てるね」
あわや川に落ちかけた少女を尻尾で引き戻し、ぐる、と喉を鳴らす。
そう、喋れない獣「──ですよね?」──!!
さすがに見た目が変わり果てすぎていると「──ですよね?」もされないので、魔力の質……この世界で言うところの気功の癖を人間の時と同じにしてある。
それ以外は似ても似つかない。真っ白で、毛が深くて、尾が三本ある……鼻の無いマンモスみたいな見た目の魔物。それが今の俺だ。
ただまぁヴァルカンの時にも考察したけど、どーやってもどー頑張っても魔物の魔力の質、というのは作れなかったので、多分見る人が見れば元の俺ですよね、の前に人間ですよねが挟まる。今のところ魔族らしい魔族や精霊なんかは見ていないから大丈夫だとは思うし、仮に人間ですよねされても鳴き声で誤魔化せばワンチャン。
魔物も魔族も明確に元の動物や人間とは違う……多分涅月に由来するなんらかの形質を受け取っているようで、それがなんなのかがわからないと、且つ俺が模倣できないと難しいっぽいんだよななるの。普通に作ると普通に人間か、ないしは動物になっちゃうし。
で、これまたいつぞやのキロスの通り、魔物はデフォルトで霊質が見えるのか魔力の質が見えるのか、俺の周囲にはどんな魔物も寄ってこない。人間っぽいのに魔物の見た目をしていて、且つ霊質がなんか弄られている、っていう、超近寄りがたい存在になっているのだと思われる。
ここ
人里にはしっかり雄……英雄未満、みたいな戦士が結構いたから大丈夫だと思う。
そして、この少女は
刺棘の森は前述した通りそれなりに危険な魔物がたくさんいたんだ。そこに食料を取りにいかせるワケがないんでね。マー口減らしが悪なのかどうかは俺にはわからん。必要なことにも思えるから。でも魔物に餌を与えて人間の味を覚えさせるのは逆効果だと思うよ?
俺が「ですよね」を得るための同行者に再利用したけれど、彼女を捨てた村の大人が訪れてきた時にどうなるかはわからん。
彼女をメッセンジャーにして行っているのは、土地と人間の気を読んで行う易占だ。
この森へ入ってくる雄……
最初は剣を向けてきた将の人だったけど、ちゃんと害意の有無を見極められる奴だったから、すぐに打ち解けることができた。
ちなみに実狼に声を届けているのは雨の神や
そのため俺の声が聞こえるのは彼女にだけだし、且つ聞こえている声は俺の喋り口調っていうよりかは意思が再変換されたものになるため、まるで俺の思念を感じ取っているという風に聞こえるってワケ。
「ルー、考え事?」
「……?」
「だって、呼びかけても気付かなかったし」
「……」
「ううん、大丈夫。そうじゃなくて……ルーはお腹空かないのかな、って」
「……」
「そうなの? なら……いいんだけど」
傍からみるとこんな感じ。
少女の側に立てば、ちゃんと俺の意思が聞こえているから、何の会話をしているのか、なんて言うまでもないけれど……外から見たら本当に魔物と会話しているように見えるだろうな。
ちなみに彼女のことはちゃんと育てる気でいる。というか今こうして移動したりなんだりをしているのはそのためのことでもある。
会った時は栄養失調だったし、骨や肉も年齢の割に脆く、目を離したら死んでしまいそうな感じだったけど……今なら多少は大丈夫だろう、と思えるほどにはなった。
「……!」
「ルー?」
おっと血の臭い。実狼を尻尾で掴み、身体に乗せて警戒態勢。
「……ここは、刺棘の森か。……チッ、オレもとうとう運の尽きってか?」
とんでもない血の臭いを纏って森に入ってきた……というか崖から滑り落ちてきたのは、とんでもない出血をしている男。
「ルー、あの人……」
「……」
「あ? ガキの声……? なんだ……幻聴か? ハッ、オレの死に際にガキの声……なんざ……。……皮肉が効いてら」
これは……実狼の今の
身体強化の魔力はネー、どこまでいっても自分に向かうもの、なんだよね。一時的に他者の肉体を自らのものと誤認させて自己治癒力を促進させる、っていう技はあるにはあるんだけど、マージで気休め。だし、爆速で治すんなら莫大な量の魔力を注がないといけないから……うん。
あれだ。すまんな。実狼の道徳の教科書になってくれ。──すべての命を救えるわけじゃない、っていう。
「大変……! ルー、この人運べる? 癒しの泉に行こう!」
「……」
「ルー? どうして動いてくれないの?」
あまり気が乗らない。あの泉は周囲の植物にとっての大切な水源だ。
そこを、どの道助からないモノのために血で汚すのは……。
「もういい! 下ろして! 私が背負って連れていくから!」
言って、俺の身体を滑り降りて、男の元へと向かう実狼。
彼を背負おうと頑張っている……けれど、体格的にどうやったって無理だ。むしろ傷口を広げるだけになるだろう。
「……」
「どうして助けようと、って……。……そんなの決まってる! 何の役にも立たない、食べ物すら取ってこられない私が助かったのに、……誰かのために戦って、こんなになるまで傷ついたこの人が助からないなんて、嘘だもん!」
「……」
「だから、先に助かった私が助けるの! 運が良かっただけ、なんて言葉で……私を助けてくれたあなたを、片付けてしまいたくはないから!!」
……俺が君を助けたのは、丁度良かったから、だけどね。
いいよ。いつかのマルガナレちゃんと同じだ。自分がたったそれだけだというのなら。それだけだと思うのなら。
俺を動かす価値に、なってくれると……多少は、面白い。
尾を使い、実狼ごと男を持ち上げる。
「わ、わ!?」
「……なん、だ……?」
汚れた水源は、まぁ、俺が浄化すりゃいいか。
魔力が使えないんだ、身体強化の魔力で浄化する、ということができないかの模索にもなる。いい方向に考えよう、何事もな。
癒しの泉。
この刺棘の森の中央に存在する泉であり、大地の魔力を含んだ水が湧き出ている。大地の魔力は……別に全部が全部、というわけではないのだけど、身体強化の魔力に変換する際の相性がかなり良い。そして竜や神、人族の王族・貴族が大地の魔力を有していることから考えると、この魔力は生物を強靭にする力を有しているのだろうと推測できる。レスベンスト冒険隊とか全員大地の魔力だしな。
その泉に男を浸けて、木々にお願いして少し枝葉を退けてもらい、紫輝の光も当てる。
「……」
「わ、わかった。やってみるね」
その上で、実狼に自己治癒力促進の気功を使わせる。
こんだけ整えても望み薄だとは思うがね。
「……な……んだ。暖か……い……」
「喋らないで! 眠ってて! 必ず助けてあげるから!!」
「……さっきの……ガキ? ……おい、あぶねえ、ぞ。ガキが……こんなとこに、いんな」
そういえば、こいつはなんだってこの大怪我で落ちてきたのか。
森の外へ気を巡らせれば……なんだ、森を囲んでいる集団がいるな。いつもの雄じゃあない。
「……」
「ちょっと出てくるって……ルー? どこ行くの?」
「ガ……ガキ、そいつ、止めろ……。あいつら、つえぇんだ、一般人が……敵う……相手、じゃ」
「……」
「殴ってでも眠らせておけって、そ、そんなことできないよ!?」
ま、どっちみちあの男は動けまい。
俺が対処せにゃナー。
ってことで出てきたんだが……。おいおい。──森に火を放とうってお前、そりゃ踏んじゃならねえドラゴンテイルだぜ?
──放たれた火矢を掴んで止め、火を消す。
「なにっ!? ……なんだ、この足音は!」
「
「さしずめ刺棘の森のヌシってところかぁ? お頭、やべーモン怒らせちまったかもしれねえぞ」
尾を伸ばし、なんか書いてある旗を掴み、引き摺り込んで破壊する。
既に彼らが乗っている魔馬は恐慌状態に近い。魔馬らの目には、絶えず霊質を変化させながら自分たちに向かってくる巨塊が見えていることだろう。
やがて、彼らの持つ篝火の照らす範囲にまで足を踏み入れれば。
「なんという大きさの……妖獣だ」
「ンなことより纏ってる気の方がやべぇって。……こいつは噂に聞く、仙獣ってやつの可能性があるぞ」
「
まで喋ったところの青年の持っていた弓を絡め取り、握り潰し、捨てる。
さぁ。そこまで殺生は好きじゃあないんだ。用が無いなら帰ってくれないか。
「……
「聞いてる場合じゃねえって──退避だ退避! どうせ
「……この妖獣と戦えば無駄な血が流れそうですね。落及、指示を」
「うむ。皆の者、陣地へ帰るぞ! ──それと、刺棘の森のヌシよ。騒がせてすまなかった。この森に対し、今後火を放つような無策は犯さぬと誓う。だから……見逃してはくれぬか」
尾を引っ込める。
そして、背を向けた。のっしのっしと去っていけば……。
「人語を解するか……。やはり仙獣。殺し合いにならず、本当に良かった……」
「ちなみに落及、あなたの言う通り、私の弓は蛟の肋骨で作ってありました。それを容易く砕くなど……人体程度、あっさり握り潰せていたでしょうね」
「最初から旗や弓を狙ってきていた時点で戦闘の意思は無かった、ということか。やはり我々人間、自然には学ぶことが多いな……」
いえ中身がっつり人間です。
みたいなことをやった後、癒しの泉に帰ってきて。
「あ、ルー! ……大丈夫だった?」
「……」
「そっか、よかった……。……あのね、ルー。血が……止まらないの。どうしたら……いいかな。血って、どうやったら止まるのかな……」
うーん。生命力残り0.7%くらいだな。さっきまでは1.2%くらいあったから、マーどんどん死に近づいていっているということで。
「棘のついた葉っぱ……。わかるよ、私。それ……取ってくるから、ルーはこの人を見てて!」
あ、おい。結構辺り暗くなってきてて危険だぞ。
君は大切なメッセンジャーなんだから死なれると困るんだが。
「……あん、た。……あのガキの……保護者、だな」
「……」
「はやく……とおざけろ。ガキを死なせたくねえなら……あんたも、死にたくは……ねえだろ」
喋れば喋るほど体力が損なわれる。体力が損なわれれば治癒力も奪われる。
そんなことわからないやつでもないと思うんだけどな。
だとしても……死の間際にあっても、戦えない民草の生を祈るのか?
この世界の人間はこんなんばっかかよ。もうちょっと保身だけを考えた善人だって居ても良いと思うんだけどな。
「採ってきた! ルー、これ、どうすればいいの!?」
おお、早かったな、って……傷だらけじゃないか。
この森の植物はみんな棘持ってるからなぁ。……でも、俺のイメージをちゃんと覚えて、その通りのを持ってきたのか。
ま、いいよ。こいつの生死はともかく、この先彼女が生きていくなら必要な知識だろう。植物を使った止血剤の作り方を教えよう。
「葉っぱを切って、少し濡らして……」
頑張れ、実狼。
すべてはお前の手際の良さにかかる。
そして……俺が見限った命をお前が救い得るというのなら、お前はもう、何もできない、何の取り得もない少女ではなくなっているよ。
数日後。
「……ここ……は」
男が目を覚ます。鎧は全て剥ぎ取られ、衣服もほとんど纏っていない男。
彼が傍らを見れば……手先をぼろぼろにして、すやすやと、安らかな寝息を立てている実狼がいた。
「……助かった。……いや、……助けられた、のか?」
「……」
「──うぉ!? よ、妖獣!? っ、槍……クソ、落としたか! っ……おいテメェ、近付くな! こいつはテメェの餌じゃねえよ! 食うなら……そうだ、オレにしろ! オレの方が流石に美味い! こんなガキより肉がある!!」
ふん、元気じゃないか。
まだまだ生命力に翳りはあるが、峠は越えたな。
「足が……クソ、折れてやがる! だが、なんでもいい、何か武器があれば……」
「……」
「んぅ……? なぁに……ルー。ルーが私を起こすのは……めずらしいね……。ふわぁ」
このままだと無理に動いて余計な怪我をしそうだったので、実狼を起こす。お前の看病で疲れ切ってんだから起こさせるなっちゅーに。
「……え」
「ガキ、起きたか! じゃあ逃げろ! できればなんか良い感じの枝とか棒とかあったら投げてくれ! 無かったらすぐ逃げろいいな!?」
「目……目を、覚ましたの? 生きてる? 怪我……あ、ダメだよ、足も左腕も折れてるんだから、動かしちゃダメ!」
「そうかお前が助けてくれたのかガキありがとうでも今はそれどころじゃねえ! 妖獣がいるんだよ気付け危機感無さすぎだろ!?」
「妖獣? ……ルーのこと?」
「名前は知らんがそうソイツ……ん、ルー?」
そこでようやく余裕ができたか、人の話を聞く気になったか。
最大限の警戒をしつつも……男は実狼から事情を聞いて、敵意を消した。
折れてはいるが、男の得物だろう槍も返してやる。……返してやったら杖代わりに立とうとしたのでやっぱり取り上げた。実狼もカンカンである。
「ぜったいあんせい! なんだから! まだ立っちゃダメ!」
「あ、ああ。……わかったから、そんな怒んな……つか、オレの服とか、鎧は?」
「怪我……肩のところからお腹の横にかけて、でーっかい傷があったから……治すために、脱がしたの。全部洗って近くに置いてあるよ」
「そうか。……何から何まですまねえな。……あんた。ルー、っつったか? あんたも、……正直まだ信じられねえが、このやり取りの中襲ってきてねえあたり、本当なんだろう。……恩に着る」
座ったままの状態で頭を下げてくる男。
……口は悪いが礼儀は正しいのか? ふん、あんまり俺に礼儀を尽くすなよ。親切にしたくなるからな。
「……オレの身体についてるのは、なんなんだ」
「これはね、苦露草っていうの。ちょっとべたべたするし、口に含むと苦いけど、血を止めてくれるし、強くぶつけた場所とかも早く治してくれるんだって」
「へえ……薬草なのか。……誰に習ったんだ。ガキ、お前の年齢だと……山下りの僧でもいたか?」
「ガキじゃなくて実狼! 名前教えたでしょ! それと、教えてくれたのはルーだよ」
「……妖獣に教わった……ってのか?」
「お兄さんの怪我を診て、どの葉っぱがどこに効くのかとか、どれを使っちゃダメとか、癒しの泉でもずっと浸しておいちゃダメとか、ぜーんぶ教えてくれたの」
……いやまぁ、そこまで懇切丁寧に教えた覚えは無いけどさ。
罷り間違って実狼が与えた薬が原因で死んだ、とかになって……今は隠し通しておけても、彼女が今後薬学を学ぶなりして真相に気付いちゃったらコトじゃん?
「……わかった。知識の出所を言いたくねえんだな? だったらいいよ、そういうことにしておいてやる」
「ホントだもん!! ルーが教えてくれたんだもん!!」
「確かにオレは気にしねえが……軍を抜けた奴はそういうとこ気にするだろうしな。ああ、妖獣に教わったってことにしといてやるよ」
「違うって言ってるのに……。……それで、私、まだ聞いてないんだけど。お兄さんの名前は?」
「ああ……
「じゃあ、塔お兄さん。……お腹、空いてるでしょ」
「……いーや? この程度どうってことな──」
意識をしたからだろう。塔勝……塔の腹から虫の音が響く。
まぁコイツに意識は無かったけど、ちゃんと数日経ってるからな。この森には実狼用の食料しか無いから食わせるに食わせられなかったし。
「どうってことねえよ。ガキは知らねえだろうが、大人は空腹を我慢する術を持ってんだ」
「はいはい。大人すごいすごーい。……はいこれ。私のだけど、半分あげる」
……お前さんも一応元栄養失調なんだがね。
まだまだ食べ盛りなのにそんなことして……次にあの雄らがいつ来るか、ってのはわからないんだぞ。
「要らねえよ。テメェで食いな、ガキ」
「だから実狼! 食べないなら寝てる時に無理矢理口に突っ込むよ!」
「そりゃ窒息しそうだな……。……わーった、食べるよ。……しっかし、実狼、ねえ。男らしいかっけえ名前じゃねえか。にしちゃあ弱そうだが」
「私は、女の子! もう、塔お兄さんはホントしつれーなんだから!」
「……女児に付ける名前じゃねえだろ、実狼は。どういう……。いや、そうか。……そうだな、俺が失礼だったよ」
何か察したか。
やっぱり口が悪いだけで空気が読める系か。はぁ、善人ばっか俺の近くに寄越すなっつーに。
……しかし、どうするか。
この森に食料らしい食料は無い。実狼の手の届かないところにある果物も、全部毒入りだ。魔物や魔族なら食せるが、こいつら純人族には無理だろう。
なんかの間違いであの雄らがもう少し早く来てくれるのを願うしかない。こいつら二人が生きるには……。
俺が食い物になってやる、っていうのも考えたんだけど、心に刻む傷がエグいってレベルじゃねーだろうし、人間を食らうのがこの世界でどれほど悪影響を与えるかわからんからやりたくない。
あとは……まぁ、毒入り果実をどうにかして調理する方法を編み出すか、だなぁ。
こんにゃくみたいな手順辿ったら食えるようにならんかね。
さらに数日後。
骨折と空腹以外は健康になってきた塔勝。だが、食料問題には気が付いている様子だ。
普段より節約して食っているからなぁ、疲労で先に眠ってしまった実狼に葉っぱとかを被せて……何か言いたげな塔勝に向き直る。
「わかってんだろ。オレがこのままここで看病を受けたら、共倒れだ。──殺しな。今の際の夢物語としちゃ、上等だった。ガキには怪我が治ってどこか遠い所へ行ったとでも言っておけ。本当にあんたが言葉を伝えているんならな」
……。
……はぁ。なーにが殺しな、だ。お前さんを助けるのはこの子が決めたことなんだよ。
食料問題含めてこの子が解決すべきことだ。余計な覚悟キメてねーで勝手に助かってろすっとこどっこい。
けど。
「言葉が……本当に分かるのか。ああ、それでいい。その槍でオレを突き刺せ。そして……食うなり捨てるなりしろ」
馬鹿が。
「──っ、練気!? 何を……」
折れた槍。構成物は木材と数個の鉱石。魔鉱石の類は無し。
身体強化の魔力では金具をどうこう、ということはできない。だが、木であるのなら──折れたそれを、「樹木の怪我」であると見做し、治癒を促進させることができる。
余計な方向に治らないよう魔力を調整しつつ……こうしてやれば。
メキメキと音を立てて、繋がり、元に戻っていく槍。
それを、塔勝の近くに突き刺す。
そして、その隣に、全く同じ形をした……少し小さい、子供用の槍を作り出した。すまんな、あとで治すから枝を貰うよ。
「……まさかとは思うが、教えろっていうんじゃねえだろうな」
「……」
「今ド素人のガキが手習いでやったって……食料が尽きる前までじゃ、形にすらならねえよ。況してやオレは右腕しか動かせねえんだぞ。それで何が教えられるって……」
そうか。じゃあ、できませんでした、で死ねばいい。
今の俺は、たとえ目の前に躍り出た善人であっても、何が何でも助けたいとは思わない。
「それに……オレの槍なんか……何の役にも」
決心するまでを待つつもりはない。
──死ぬなら勝手に死ね。俺に介錯など頼まず、舌でも噛み切って窒息死すればいいだろう。その勇気すら無いのなら、せめて可能性に賭けるくらいの輝きを見せろ。
己を生きていると、そう誇るのならば、だが。
さらに数日後。
「妖獣さん、ごめんなさい。私達の生きるために、あなたを食べます」
「おう……そうやって、感謝を忘れないようにするんだ。オレ達は……常に、命の上に立っているんだ、ってな」
血抜きのやり方や肉の処理の仕方は塔勝が教えた。
そう……狩りを成功させたのだ、実狼が。
俺が近くにいると魔物が逃げてしまうので、俺が見守らない場所で、塔勝もついていけないままに……しっかりやり遂げた。
毎度毎度思うが、子供の成長の早い世界だよ、本当に。
「で、ガキ。火の練気は使えるんだったな。火力の調整はできるか?」
「うん、大丈夫。ルーが教えてくれたから」
「……それも信じざるを得なくなってきたな。っし、いいか。オレ達人間は妖獣の肉をそのまま食うと、大抵腹を壊す。だから火を通すんだ」
塔勝は……昔そうして生きてきたのか、サバイバル知識が結構あった。
薬草については知らないっぽかったから、サバイバル知識っていうよりは盗賊とか流れ者とか、文明の無い場所で生活した経験があるって感じかな。
とにかくだから、実狼の先生には結構丁度良かったんだ。別に俺が教えることもできるけど、現地人目線じゃないとわからんこともあるだろうし。
血の抜き方、捌き方、肉の焼き方、焼き加減の見方。
色々な知識を吸収し、食べ物を食べて、力をつける。
生きていくためのすべてを学んでいく。
これは近いうちに俺が要らなくなるかもしれない。
その前に「──ですよね?」を発生させてくれると嬉しい。そうしてくれたら風に吹かれる粉薬みたいにいなくなるからさ。
十五日後。
「実ィィィ狼ァァアン! そっち行ったぞォ!!」
「わかってる──せゃああああ!」
木々の間、枝から枝へを飛び移り、その間に拾ったのだろう石や枝を投擲して熊の魔物の行く手を塞ぎ、誘導を行う塔勝。
その向こうで槍を構え──気を練り込んだ必殺の一突きを放つは実狼だ。
「──!!」
「ごめんなさい! 私にあなたの言葉はわかりません!! だけど謝ります──そのお肉、私達にください!!」
凶刃……振り下ろされた爪を穂先で弾き、身体へ巻き付かせるようにして操った槍の一撃をそのどてっ腹に入れる実狼。
けど、それじゃあ止まらなかった魔物が、再度爪を振り下ろそうとして──後頭部を塔勝に蹴られた挙句、彼の槍のひと薙ぎで首が飛んだ。
ずしゃあ、と仰向けに倒れる熊の魔物。
「こんの──アホガキ!! 二足歩行する妖獣は基本全部頭飛ばせっつったろ! 連中だって命がかかってんだ、腹が痛ェ足が痛ェ程度じゃそれを無視して襲ってくる! 死にてえのかアホガキ!!」
「よ、四足の妖獣は背骨を折れば勝ちだって塔お兄さんが言ったじゃないですか!」
「あァ!? あいつは二足だっただろうが! 四足で走ってたのは四足の方が速いからで、攻撃する時二足なら二足歩行扱いだ、覚えておけ口答えアホガキ!!」
口は悪いし声もデカい……が、まぁ、良い先生なのだろう。
骨が繋がるのもかなり早かったし、その後の動きも大分ヤバかったから、もしかして、と思って瞑想を眺めていたら、わずかではあるが大地の魔力を汲み出していた。
だから……まぁ、あの癒しの泉に漬けておいたのは最初から間違いじゃなかったってことだな。
そして、英雄と呼ばれる彼をあそこまでボロボロにした敵があの時森に火を放った奴ら、ということになる。
そこまでの脅威は感じなかったけど。
「とはいえ……オレの助けありとはいえ、鋭爪熊まで倒せんなら、もう一端の戦士だな。冒険者協会に行けば……それなりの箔はつくだろ。それで食っていけるようになるぜ」
「冒険者協会?」
「ああ。オレたち軍人とは違う、この世界を冒険する奴らのことさ。行く先々で魔物の被害をどうにかしたり、困り事を解決したりして、須取要を稼ぐのさ。定給じゃない分くいっぱぐれる心配はあるが、身寄りがねえやつらの救済だよ、あそこは」
「……ルーは連れていける?」
「いや……流石に無理だろ。この図体を連れ歩くのは……妖獣使いつったって限度がある」
「じゃあ、ならない」
「ならないって……死ぬまでここにいるつもりかよ」
実際冒険者が一番預け先としては無難だよなー。次点でこいつらに任せる、だが……もし三国志的なことをやってんだとしたら、危険が過ぎるし。
ま。一生涯の面倒を見るつもりはない。いつか別れはやってくるよ。
それまでに、色んなことを覚えるといいさ。