序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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65.示唆されていた怪物

 涅月歴250年。モゴイ丘陵を中心とした超巨大地震が発生する。

 これが原因で起きたとされる『大崩落(ラノエ・バウン)』により、モゴイ丘陵にて遊牧民と交渉を行っていたホーロー・コンテイン大佐が行方不明になっており、その行方は依然として知られていない。

 本件については、捜索を打ち切ることなく、引き続き調査を行うものとする。

 たとえもう、『大崩落』から五十年の月日が経とうとしていても──。

 

***

 

 という話を聞く。

 

「そういうわけで、ついでに聞き込み兼調査をしてきてほしいんだよ。モゴイ丘陵で彼の姿を見かけなかったかどうか、って」

「構いやしませんけどね。五十年前なんか、オレっちだって生まれてねえんだ。そいつ、牛の魔族だったんでしょ。じゃあもう骨になってんじゃねーですかね」

「だとしたら、彼の遺骸があると嬉しいよ」

「へいへい。……センバーさん。くれぐれも魔王様を甘やかさないように。オレっちがいない間、マジで頼みますからね」

「ああ、安心していってらっしゃい」

「ッス」

 

 ヤン・ガーダロイという、仙実国(シァンシーグァオ)の人族の血が多少混じっているらしい青年、及び彼の隊を見送って……ひと息。

 

「無事に調査を終えられると良いのですが……」

「ガーダロイ君なら大丈夫だよ。彼、強いし」

「まぁ、狼の魔族ですからね。戦闘力はそうでしょうが」

 

 ここはタナスクロウンというところにある魔王城。その門前。

 俺達は今、モゴイ丘陵調査隊の見送りをしたところだ。

 俺の隣でにこやかに笑っている男性が当代魔王。ウォロ・テンタットラ。ウォロは第四代魔王だから、ハインケルくんの上司である第五代魔王マグヴァル・テンタットラは、親族か親戚か、そんな感じだと思う。会ったことはない。

 

 今回は久しぶりに魔力の質を魔族に変えて、さらに肉体も完璧に魔族にしてみた。

 そう、前回のルーを参考にしたのだ。ずばり毛象の魔族。他にそういう魔族がいるかは知らんが、特殊個体魔族以外の魔族は割と雑種や交配種……リカオンの魔族、みたいなのも出るらしいので行けるだろ、っていう。両親の形質を受け継ぐわけじゃないからマージでランダムらしいよ。

 だから寿命差で子供が親や兄弟より長く、親が子より長く生きる、っていうのもそこまで珍しい話じゃないらしい。

 特殊個体魔族はその種ごとに違う。たとえば伐開の魔族はそのままその子供が生まれるけど、前もあったみたいに仮面の魔族は突然変異だし、時計とか夢妄とかのレア種は、たとえ時計同士、夢妄同士が子を産んでも遺伝はしないとか。

 

 魔族の元になった動物は基本哺乳類だ。特殊個体魔族よりはレア度は下がるけど、それでも希少なのは水棲哺乳類の魔族。つまり鯨。トルヴィッシュくんが鯨の魔族だったかな。

 レアっぽいので言えば……えーと。書庫に帰んないとちゃんと思い出せないけど、ハインケルくんの仲間の魔族が蝙蝠の魔族だったはず。吸血鬼、みたいにはならんらしいね?

 

「さて、そろそろ仕事に戻ろうか。今日のこの後の予定はなにかな、センバー君」

「はい、この後は──」

 

 ちなみにウォロは犀の魔族。俺が会ったことのある犀の魔族は、あのアインという青年くらいか。リュオンの隊の彼な。

 

 今回の俺の名前は、センバー・アークライト。ポジションは──魔王秘書。

 

 

 涅月歴300年現在、まだ紙というものは現れていない。パピルス的なのさえ無いため、すべての情報は手持ちの『保たれる石板(ラルフ・マウフーズ)』で管理される。

 これは……なんだろうな。粘土板というか、固まり切らない粘土板みたいな。マグネットボードとかそんな感じの、「持ち運びできて、文字を書いておける板」である。簡単に文字や絵を消すことができるため、メモをしておくくらいのことには向いているけど、同じく簡単に消えちゃうから記録には向かない感じ。

 記録は、本当に後世に書き残すべきことしか記録されない。記録される場所は、『我ら再び希望の灯を得たり(スペム・イテラム・レッペリムス)』と呼ばれる超巨大オベリスク。ここに、涅月歴0年からずーっとずーっと文字が刻まれていっている。

 いつぞやに話したヴェルナーの話を思い出すなら、涅月歴402年まで使うんだったかな?

 

 歴史は刻まれていくが、本当に大切なことしか記録されないから、たとえばどこどこで誰々が何々した、みたいなのは、たとえ凶悪犯罪であっても記録されない。

 基準は多分「五十人以上が関わっていて、八十日以上長引いた事件・事柄で、五人以上が死していること」。それ以外は魔王が誰から誰に変わったとか、戦争が起きたとか、それくらいしか記録されない。

 別にこのオベリスク以外に記録される分は関係ないけどね。壁画とか、それこそ本当に粘土板とか。

 

 俺も『我ら再び希望の灯を得たり(スペム・イテラム・レッペリムス)』を見せてもらったのは一度きり。まぁそのあと勝手に感知して見たんだけど。

 魔王秘書だからどう、とかは無い。記録をすること……刻記というのだけど、専門の魔族しか刻記を許されていない。絶対に文字を間違えない、そして最も美しく文字を描ける魔族。やってることレタリングとかそういう領域だしな。

 

「センバーさん、ちょっと」

「はい?」

「モゴイ丘陵についてなのですが、空泳船が妙なものを視認したと」

 

 さて、記録媒体に関してこれほどに原始的な現魔王国であるが、今にあって未来に無いものが幾つかある。

 その一つが、空泳船だ。

 未来でいうアスミカタの位置にある明郷神権王政国というところや、ゼルパパムの元になったのだろうアパム多民族協約国などと輸出入を行っている……文字通り空を飛ぶ船である。

 

 とおーい昔の記憶だけど、そういやカズラ君たちはそれを作ろうとして半年待たなきゃいけないとかで、シュラインのことを調べるムーブをしてくれてたんだっけなぁ、みたいな。

 

「妙なもの、ですか?」

「はい。こちらが同乗していた速写家が描き起こした絵です」

 

 そう言って俺を呼び止めた魔族が見せてきたのは……巨大な穴の周辺にいる、無数の人影。

 この穴は、恐らく『大崩落(ラノエ・バウン)』だろう。だがこの人影は……?

 

「……通信水晶を。ヤンさんたちに連絡します」

「それが、今朝から不調で」

「……そうですか。調子が戻り次第すぐに報告してください」

 

 音の魔力はそのまま電波みたいな振る舞いをするけれど、衛星なんて無いので直に飛ばしている。

 魔王城に備え付けられた巨大な音の魔鉱石を使って音の魔力を飛ばし、その方向にある他の音の魔鉱石に音を届ける、という仕組みだから、音の魔力を遮るものがあると使い難い。

 俺だけ探知の感覚子を飛ばして探る、ということもできなくはないが……。

 

「心配しないでも大丈夫だよ」

「魔王様!」

「ヤン君はやる時はやるからね。……問題は、この人影が……まるで外へ向かっているように見えること、かな」

 

 そう、俺もそれが気になっていた。

 まるで……『大崩落(ラノエ・バウン)』の穴から逃げるように、人影はモゴイ丘陵の外へ外へと向かおうとしているように見える。

 

「念のため周辺諸国に国境警備を増やすように注意勧告をしようか。勿論魔王国とモゴイ丘陵の国境の守り、監視も強化してね」

「承知いたしました。そのように手配します」

 

 ……なにも無きゃいいが。

 多少の保険は張り巡らしておくか?

 

 

 三日後、恐れていた事態が起きた。

 

「ウォロ、先日上がっていたモゴイの件ですが、国境警備隊の者が、モゴイ丘陵の中からうめき声を聞いた、と。そう報告を入れてきたのち、何者かに()()()()()()と」

「……噛み殺された、かい」

「はい。通信水晶は繋ぎっぱなしになっていたのですが、通信を行っていた警備隊の悲鳴と共に、皮膚や骨を噛み砕く音が入っていた、と。その時、低音のうめき声のようなものも聞こえたと」

 

 俺は既に何が起きているか心当たりがあるが、ウォロ。お前はどうだ。

 

「アンデッド……かな」

「良かったです。私が不思議な声を出してまで気付かせる必要はありませんでしたね」

「不思議な声?」

 

 あれれー? おかしいぞー?

 

「なんでもないです。……原因は、数日前に明郷神権王政国に現れたという腐敗竜シルヴィア、という可能性もありますね」

「ああ……可能性はあるね。けれど、三日前の人影の量から考えるに、それだけが原因じゃないかもしれない。あるいは……『大崩落(ラノエ・バウン)』の原因がシルヴィアと噛み合ってしまったのやもしれない」

「追加の調査隊を手配しますか?」

「ただし、気配察知と速度に長けたメンバーを構成しないと……二次被害を齎すだけになるだろう」

 

 同感だ。

 しかし……ゾンビパニックなんかやるなら言ってくれよ。そっちの方が断然「──ですよね?」しやすいだろ。

 今からでも行きたいくらいだが……。

 

「センバー君。そう焦る必要はないよ」

「……ええ、そうですね。ヤンは……できる子です。それでも気になってはしまいますよ」

「僕たちは待つのも仕事さ。死地に部下を派遣して、無事を祈り、国民を守るための非情な決断もする。……気持ちはわかるよ。つらいよね」

 

 そうだな。待つだけってのは、歯痒いものだ。

 まぁ……慣れてはいるんだけど。「──ですよね?」待ちの時は大抵こんなだし。

 

 ロストランドとモゴイ丘陵は隣国同士。まぁどっちも国じゃないんだけど。

 で、今もロストランドの地底で研究しているだろうアダンの時、ゾンビなんてものは見なかったわけだから、ロストランドには来なかったのか……来たけどゴーストにやられたか。

 

「──ゾルハ・サガ。旧魔族語で、『王貴の決定』。……君が探しているのはそれだよね? センバー・アークライト君」

「はい? 何を突然……」

「十四日間何もせずに成り行きを見守っていられたら、教えてあげるよ。当然君が三日前に飛ばしたコンストラクトなんかで探るのもナシだ」

 

 ……。

 いや流石にこれは「──ですよね?」とは本質からして違うから喜びすらしないけどさ。

 

「わかりました。十四日、大人しくしましょう。たとえこの魔王城が焼け落ちたとて手は出しませんよ」

「その時はちゃあんと魔王様を守ってほしいなぁ。君がそもそも魔王秘書などではないとしても」

「今あなたが見抜いた通り、魔王秘書は仮の姿でしかありませんからね。魔王様を守る理由がありません」

 

 ……まてよ?

 まだ……まだ芽はあるんじゃないか?

 

 これで潰れたなーとか思ってたけど、これ、もしかして、チャンスなんじゃないか?

 

「参考までにお聞きしたいのですが、なぜ気付いたので?」

「文字だよ」

「文字? 何か癖でも出ていましたか?」

「違う違う。刻記担当官か何かかって疑うほど綺麗な文字を書いていたから、怪しいなってちょっと観察していたら……『我ら再び希望の灯を得たり(スペム・イテラム・レッペリムス)』だったり魔王城地下のあの石碑だったり、全てに対してなんらかの魔力を飛ばしている君がいたわけだよ。何か多分、視覚系の魔法をね」

 

 成程。次からは気を付けるとしよう。

 そして、そう。言い当てられた通り、俺が今回「──ですよね?」のついでに探しにきたものは、『王貴の決定』と呼ばれる、『我ら再び希望の灯を得たり(スペム・イテラム・レッペリムス)』とは別のオベリスクだ。

 そこには魔族の王族・貴族とは何であるかに関してが刻まれていると、未来の図書館で知識をスキャンした時に読んだ。

 

「それだけで私が『王貴の決定』を狙っていると?」

「まあね。君は種族というものを細かく気にする魔族のようだし。そんな魔族が魔王城で探すものといえば、あれくらいかな、と」

「お見事です。しかしその感じだと、私が本当は何者か、というところには思い至っていないようですね」

「それはね。ヒントが少なすぎるよ」

「では十四日後を楽しみにしておきましょう。──そして」

「……そして?」

「このあと、昼休憩前に第八師団と会議です」

「……いつもありがとうね」

 

 さて。

 ──証拠作りと行こうじゃあないか!

 普段はやらない、後付けの「──ですよね?」だ!!

 

***

 

 ヤン・ガーダロイは舌打ちをして、唾を吐き捨てた。

 

「レイネー、魔力、残りどんくらいだ」

「んー、あと三割くらい?」

「ハッ、俺もそんなもんだな。こっからは魔力攻撃を控えて近接で行くか……」

「インファイトはダメだよ。爪が引っかかるだけでもまずいっぽいから」

 

 モゴイ丘陵。高低差の激しい丘陵地帯に、砂漠かと見紛うほどの砂が溜まっている。ここの景色は一言で言えばそんな感じだ。

 そしてその上で、ど真ん中には『大崩落(ラノエ・バウン)』の痕跡である大穴が口を開けている。

 

 ヤンたちがモゴイ丘陵についた時点で、それは起きていた。

 先遣隊曰く、竜の咆哮のようなものが響いたあと、大穴から人影が……否、アンデッドたちが出てきたというのだ。

 それも、無数に。

 

 そして今日に至るまで、彼らは魔王国との通信もできないままに、戦っている。

 

「ヤン、レイネー! こっち! 良い高台を見つけた!」

「でかした! レイネー、いくぞ!」

「りょーかい!」

 

 アンデッド。

 ゴーストとは近縁種の、生ける屍。

 ゴーストが魂を寄る辺に一側面だけを抽出された存在であるのなら、アンデッドは肉体にナニカが憑依した存在である。

 名前の通り死なず、止まらない。完全に解体し尽くしてしまえば動けなくはなるが、動かなくはならない。

 

「走って!」

 

 駆け出すヤンと相棒のレイネー。その先にあるのは、確かに高台と呼べる土地。

 魔法を準備して構えているのは彼ら調査隊の仲間の一人、ソレイラだ。彼女は二人が高台に上り切るの見てから、その魔法を放つ。

 

「──烙花星(ラフスタラ)

 

 立ち昇るは極光。広がるは緋色。

 ヤンたちを追っていたアンデッドらは跡形もなく消し炭にされ……。

 

 補充するかのように、次が、次がと、わらわら周囲から集まってくる。

 

「ソレイラ、早く中入れ!」

「もちろん!」

 

 ソレイラが屋内へ逃げ込めば、ヤンはなけなしの魔力を使って結界を張った。

 これでもう少し保つ。その間に作戦会議をしなければならない。

 

 

 魔力切れを起こしながらも、都度都度作戦をひらめき、なんとかヤンたちがキャンプへ戻ってきた時には紫輝が落ちようとしていた。

 キャンプ。先遣隊の魔族とヤンたち調査隊で作り上げたセーフティエリアだ。といっても関係なくアンデッドは襲ってくるから、ただただ交代制で周囲を警戒し、近付いてくるアンデッドを排除することでできる安全地帯、というだけなのだが。

 

「戦利品だ。喜べ。ヨシュクの果実さ」

「おお、ナイスだ。これで飲料問題が大分解決する」

 

 砂漠に生える木、レムドウッド。これに生るヨシュクの果実は、非常にたくさんの水分をその果肉と共に溜めている。

 モゴイ丘陵は丘陵地帯と砂漠が折り重なっている場所であるため、砂漠越えに必須である知識がヤンたちには叩き込まれていた。

 幸いにしてお隣のロストランドと違い、生身の魔物も多い。食料に困ることは早々ないだろうが、だとしてもアンデッドのせいで魔物が縄張りを追われていることが多々あるから、楽観はできない。

 

「通信水晶は?」

「ダメだ。ずっと……何かで阻害されているように、音の魔力が届かない」

「そうか……。追加の人員なんかが来ちまえば、二次被害が出かねない。やっぱり一度誰か戻るべきだな」

「この中で、走力に自身のある者は?」

 

 キャンプのリーダー的存在が問いを掛けるけど、誰も手を挙げない。

 

「いないか……。……ん?」

「あ、えーと。……その……走力じゃなくて……」

「すまんはっきり喋ってくれ」

「あ、いえ、なんでもないです!!」

 

 どいて、と。まるで尋問するかのように発言者を睨みつけていたヤンを退かし、レイネーがその魔族へ問いを入れる。

「走力じゃなくて、何か得意なことがあるのね?」

「あ……はい。……私、蝙蝠の魔族なので……ちょっと、飛べます」

「適任じゃない! 空中ならアンデッドも追い縋れないだろうし」

 

 適任だった。

 では、その女性魔族に言葉を伝達してもらう、ということで、『保存される石板(ラルフ・マウフーズ)』が手渡される。

 彼女はそれを大事に大事に背負い袋に入れて、飛翔していった。

 

「……」

「なに、気にしてんの。自分があの子を怖がらせたこと」

「してねえ。あの場でもごもご言ってる奴のが悪い。……考えていたのは、魔王国のことだ。アンデッドが……外に出ていなきゃいいが」

「確かにね。でも、ウォロ様は敏腕だし、センバーさんもいるし、大丈夫じゃない?」

「センバー・アークライト、ねぇ」

「んだよレイネー。センバーさんになんか不満でもあるのかよ」

 

 ヤンの、侮辱は許さない、とでも言いたげな口調に……レイネーはふふ、と笑う。

 

「なんでもないよ。……さて、そろそろ寝よ? 明日も激務なんだからさ」

「……おう」

「変なレイネー」

 

 果たして彼女は、何を知っているのか。

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