序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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66.顔を出す姫君

 俺に睡眠は必要ない。というか肉体は常に休眠しているみたいなものだ。

 だから昼夜関係なくジャンジャンバリバリ働いていたのだが、ウォロからストップがかかった。

 

「あのね。君が休まないから、僕が働いていないと思われるようになったじゃないか」

「思われて何か困ることでも?」

「別に気にはしないけれどね。求心力が君に持っていかれるのは議会のお爺さんたちがうるさいから、ほどほどにしてほしい」

「……ま、約束の日まで残り七日。なら、今日くらいはお休みをもらいましょうか」

「おお、それはいいね。そうするといいよ」

 

 ということで、丸一日休みになった。

 

 

 モゴイ丘陵に関する事件はほとんど進展を見せていない。

 ただ、現地から命からがら伝達役として帰ってきた魔族がいて、内情はわかった。やっぱりパンデミックしているらしい。

 この世界のアンデッドは薬品がどうとか寄生虫がどうとかいうわけじゃないから、駆逐すればちゃんと減るけど、マザーみたいなのが操っているわけではないから一気に駆除ってのは難しい。

 救援物資や救援人員だけ送って調査をどうするかはヤン君次第、ってことになりそうだ。ウォロはそういうところ、一度任せたら信じ切るタイプだから。

 

 ……仕事のことを考えるのはやめるか。

 

 既に証拠群は作り終えたので、ちゃんと休日を過ごしてみようと思う。

 観光スポットとかではなく、そう、たとえば。

 

「おはようございます。パン、見ていってもいいですか?」

「あら秘書さんじゃない! なぁに、今日お休みの日?」

「ええ。魔王様に、そろそろ休めとどやされまして」

「ホントよ~、あなたまだ若いんだから、お仕事ばっかしてないで息抜きもちゃんとしないと。ああそう、で、パンは、勿論。人族の国のパンとか魔王国でも秘境にあるパンとか、いーっぱい揃えてあるから、山のように買っていって!」

 

 パンを買う、とか。

 魔王国のパン屋は日本のパン屋ほどの品揃えは無いんだけど、地域別・種族別に細かい区画整理がしてあって面白い。

 甘いパンは少な目でしょっぱいパン多目かな? チーズとかトマトっぽいソースとか使いがち。パン自体は結構モチモチしてて旨い。

 

 パン屋で幾つかのパンを買い、そのままの足で向かうは精肉店。

 

「おはようございます。幾つか干し肉が欲しいのですが」

「はいはいおはようございまーす……って、魔王秘書さん? 珍しいねぇ商店街に来るなんて」

「ええ、今日だけお休みを頂いたので、半日買い物などをして、残りは家でお酒でも飲もうかと思いまして」

「だったら干し肉なんて保存食より良いモノあるよー。エヌチュリアっていってね、薄くスライスした単眼ヒポポタマスの肉なんだけど、これに、このチーズで食べるのがさいこーにぐっど」

「でしたらどっちも頂きましょうか」

「いえーまいどありー」

 

 精肉店は牧場直結な場合が多いので、肉と乳製品がセットで置いてあることが多い。

 干し肉で良かったんだけどオススメされたしな。がっつりおつまみを買って、次に向かうは八百屋……。

 

 という風に街中をふらふらし、珍しがられ、色々買って……久しく帰っていなかった自宅へ戻り、様々を氷室に入れて、また出かける。

 

 公園の近くを通れば子供と親御さんから挨拶され、農家を様子見れば皆さんから挨拶され、魔導薬学研究所の近くへ行けば研究員から手を振られる。

 ウォロが割とこういう国民との関わりを気にするタイプで、それについていることが多かったから……俺も結構知名度がある感じ。

 現状の魔王国はかなり平和だ。よく戦争を仕掛けてくるヴァグス公国・ドランシア共和国が今人族の国と戦争をしている、というのも大きいか。明郷神権王政国やアパム多民族協約国家との交易は空路だから関係ないし、そもそもウォロは侵略という行為をしていない。

 兵士は死んでも国に戦火を持ち帰ろうとはしないから、国内は一生平和。それが魔王国。貧富の差も人族の国に比べたら無い方だ。やっぱり究極野宿でも食っていけるってのはでかいよな種族としてさ。

 

 そうして歩いていると、誰もいない公園……というかベンチが置いてあるだけの広場を見つけた。

 ので、折角だし座らせてもらう。……缶コーヒーでも手に持っていたい気分。

 

 紫輝が燦燦と輝光を吐き出している空。

 ぼーっと空を眺めていたら……俺の顔を覗き込んでくる顔があった。

 

「ん……何か用ですか?」

「あなた、魔王の秘書さん、よね?」

「ええ。そうですよ」

 

 真っ黒い髪色の少女。瞳も黒い。

 多少懸念ポイントを覚えつつも、特に反応はしない。

 

「ちょっとついてきてほしい所があるのだけど」

「構いませんよ」

 

 という会話があって、やってきたるは少しばかりの山中。

 先導する少女を見失わないように、結構な速度で移動するその子を追っていった先に……小さな小さな村があった。

 

 ぱっと見七軒しかない家。それがまばらに円形を描いている……森の奥の小さな村。

 中心には焚火の痕跡があり、周囲には足跡が無数についている。

 

 ……というか、この村。

 

「お爺さん、連れてきたの。褒めてほしいのだけど」

「おお……偉いのう。して誰を……と、おお、魔王の秘書さんかの?」

 

 少女が駆け寄るようにしていって報告を行った相手は、恐らく狒狒の魔族だろう老人。ちゃんと老いているように見える。……霊長類の魔族は年齢感がわかりやすいのかな。

 

「何か困り事でしょうか?」

「そうなんじゃよ、困り事でのぅ。──殺害事件がの、あったんじゃ」

「はあ。軍に通報でしょうか?」

「いやぁ、できれば軍には知らせずに終えたくてのぅ。なんせ小さい村じゃ、できるのなら殺害者だけを処断して、そうでない者は仲良くやっていきたいんじゃよ」

 

 ──曰く。

 この村では、毎年のこの時期になると、ある御子……生まれた時から保存されていた、「生え変わった歯、切った爪、抜けた髪」を全てもう一度自身の体内に戻すことで、産まれた時の姿に再度なった御子を、ナカサラナ様へ捧げる、という慣わしがあるらしい。

 そうすることで、この村は、長らくの平穏無事を叶え続けてきた、と。

 しかし此度、新たな御子を捧げるこのタイミングで、儀を執り行う予定だった魔族が立て続けに二人殺害された。

 

「一番怪しいのはやはり、御子の親ですかの。紫輝歴の頃から続くこの村の慣わしを受け入れられなかったと見ることは容易。しかし御子には、恋する相手がいた、という話もありますのぅ」

「村民はあなた達を含めて何人ですか?」

「十六人じゃ。一軒に二人ずつと、この子と、御子で、十六人」

「それは生存者の数ですか?」

「おお、すまぬの。そういう意味では、十四人じゃのぅ」

 

 ふむ。六縄だけど、殺害者数がわからんと計算しても意味ないな。

 とりあえず乗ってみるか。

 

「殺害現場を見せてはもらえますか?」

「もちろんですじゃ。ルビィ、案内してあげなさい」

「はぁい」

 

 少女はルビィというらしい。そのルビィについて歩くこと数分。その家の前にまで来た。

 

「一人目、エヴァンスさん。一緒に住んでいる奥さんが朝起きたら、頭を斧で割断されて死んでいたのだって。ごめんくださーい」

「ひ……な、なに? ルビィ……なんの用?」

「協力者さんを呼んだから、げんばけんしょーってやつをしたいのだってー」

「……水の魔法でもう血痕はふき取ってしまったから、何も無いわ! 帰ってちょうだい!!」

 

 肩を竦めるルビィ。彼女は、「じゃあ次!」と朗らかに言って、別のところへ歩き出す。

 特に何か意見があるわけでもないからついていけば、そこは、エヴァンス家の隣の家。

 

「二人目、キースさん。エヴァンス殺害に使われた斧を持っているのが、この村唯一の木こりであるキースさんの斧だって断定されたから、軟禁されていたところを……って感じ。奥さんは村長の家に避難していたから助かったー」

「死因は? どういう殺され方を?」

「首を縄で絞めてー」

「それだと自殺の可能性もあるじゃないですか。どうして他殺であると?」

「直接の死因は縊死だけど、後頭部にでっかいたんこぶがあったのだって」

 

 ふむふむ。

 それで……一番怪しいのが我が子を殺されたくない御子の両親、と。

 

「しかし、御子の両親には何の拘束もしていないのですね。キースさんは斧が彼のものだった、というだけで軟禁されたのに」

「確かにー? 軟禁するとまた殺されちゃうかもって思ったのかな?」

「彼らが最有力候補なのに?」

「そんなに聞かれても、子供だからわかんないのだわ」

 

 子供、ねえ。

 ……ふーむ。

 

「村長のところに戻りましょうか」

「あら、キースさんの殺害現場は見なくてもいいの?」

「ここでも見せてはくれませんよ。何かと理由をつけて断られます」

 

 だから、時間の無駄です。

 そう言って、今度は俺が先導する形で戻る。然程の距離でもないしな。

 

 村長宅に戻ると、先程と変わらない笑顔で彼が迎えてくれた。

 

「おお、秘書さん。おかえりなさいじゃの。何か、進展はあったかの?」

「多少ですがね。それよりも、この村に住まう魔族全員の名を記した石板などはありませんか?」

「ありますじゃ。ほら、この石板に刻まれている名前が村民の全名簿になりますじゃ」

 

1ルビィ9キース
2エノ10スパイン
3イヤモン11トゥオ
4ラウフ12ユクレス
5パルズ13ラピス
6イトレイ14ヴェッフィ
7エヴァンス15アンビー
8メノー16ジェレメ

 

「これは何の順番なんですか?」

「特にこれといった決まりは無いのぅ。こういうものを作っておこうと提案したあの子が一番上で、儂が二番目のエノ。それ以外は目に付いた村民順じゃ」

「そうですか。まぁ、次の犠牲者はヴェッフィさんでしょうから、今日誰か処刑するつもりであればヴェッフィさん以外だと良いと思いますよ」

「……処刑の話。ルビィから聞いたのかの?」

「いえ。ですがざっと見、この村には十三人しかおられないようでしたので、昨日の内に誰か一人怪しい者を処刑したのかな、と」

 

 初日吊らないのは珍しいが、そういう「ルール的経験値」すら無いだろうしさもありなん。

 

「御見それいたしましたじゃ。パルズ、という者が、エヴァンスの殺された前日に彼と言い争いをしておりましたでの、怪しきを罰した形になりますの」

「なるほど。……それにしても、ヴェッフィさんが殺されるという話を聞いても一切驚かないのですね」

「魔王の秘書の言うことならば、と……あなたの言葉には他者を信じさせるものがありますのー」

「そうですか。御子、というのには、会えるのですか?」

「申し訳ないんじゃが、御子……メノーは二日前から面会謝絶でのぅ。儀が終わるまでは、儀を執り行う者以外とは接してはならんのじゃ」

 

 ああ……初日ちゃんと吊ってんのね。

 じゃあ結構頑張って考えたんかなー。

 

「気を付けたところで無駄だとは思いますが、犠牲者はヴェッフィさん、ラウフさん。イトレイさん、トゥオさん、そして最後にあなた、エノさんの順で出ます。お気を付けください」

「儂が……最後の犠牲者、と?」

「何かおかしなことでも? 充分あり得る未来でしょう」

「……いえいえ。気を付けておきますじゃ。……して、パルズを処刑したにもかかわらず、キースが殺されてしまったことを見るに、まだまだ殺害犯はこの村に息を潜めておると思うんじゃが、誰を処刑すべきじゃとお主は思うかの?」

 

 んー。別に、誰でもいいが。

 

「エヴァンスさんの奥さん、怪しいですよね」

「ジェレメのことかの」

「はい。私とルビィさんで調査に赴いたのですが、ヒステリックな声を上げて入れてくれませんでした。何か隠したいものがあったに違いありませんよ」

「うむ。わかった、では今日はジェレメを処刑しようかのぅ。──処刑は十九時に執り行う。村中央の焚火で串刺しの刑に処するのじゃ」

 

 はいはい悪趣味悪趣味。

 

 

 絶叫を上げたままジェレメさんが処刑された夜、無駄だとは思うけど一応寝ずにいたら、いつの間にか朝になっていて、いつの間にかヴェッフィさんが殺されていた。

 

 こういうことを繰り返すこと三日。ついに昨晩トゥオさんが殺された。

 村民も残すところ四人。ルビィ、村長エノ、御子の父ユクレス、狩人アンビーだけ。

 

「秘書さん、秘書さん。犯人はもうわかっているのでしょう? どうして何も言わないのかしら?」

「わかりませんよ。推理を悉く外し、罪の無い村民をたくさん殺してしまいました。彼らの断末魔が耳から離れず、夜も眠れないくらいです」

「本当かしら?」

 

 そうして今日、処刑されるのは、特に怪しいということもなかった狩人アンビーさん。彼はあらん限りの罵詈雑言を俺に吐いて死んでいった。

 翌日、村長エノが無残な姿で見つかる。まるで「あり得ないことが起きた!」みたいな顔のまま首が飛ばされていた。

 

「あーあー。これで残りはユクレスおじさまと、私と……そして、魔王の秘書さんだけ。今日は誰を処刑するのかしら」

「私でしょう? あなた方二人が殺害犯……というか村長もそうなので、昨日のはただの茶番。昨日の時点でPPは決定していましたので」

「PP?」

「パワープレイ。こういう多数決系の遊戯において、本来議論して決めるべき処刑される者が、議論を無視して決められる状況を指す言葉です」

「……多数決系の遊戯? ……嘘、こういう遊び、他にあるの?」

 

 パチン、と。

 絵に水をかけたかのように……どろどろと崩れていく村。そして村民たち。

 崩れていかないのは俺とルビィだけ。

 

「ええ、世界は広いですからね。あれは確か……()()()6()4()8()()()()()()()()()()()()でしたか。災厄前の人族の国で同じような遊戯を見かけましたよ。あそこではマフィアゲームと呼ばれていましたが」

「嘘ー! 絶対誰も考えついてない、面白い遊びだって思ったのに!!」

 

 時間は然程経っていない。へえ、体感まで加速できるのか。確かに後半スキップ続きだなとは思っていたが。

 

「しかし、幻術と……多少の催眠術でしょうか。そういったものを織り交ぜて、体感型の遊戯に仕立て上げる、というのは、中々良い発想です。面白かったですよ」

「そう言ってくれるのだわ……? はぁ、でも、もっと右往左往する秘書さんが見たかったのに……。ちなみにどのあたりでわかったのだわ?」

「村長さんが私を魔王の秘書さんと言ったところですかね。年配の方は基本魔王様の秘書さんと言いますし。あとはまぁ、普通に、あなた以外から生命の気配を感じなかったことでしょうか。夢妄の魔族の一部がそういった気配を持つことも無くはないので一応静観していたのですが」

「むむむ……細部がダメダメだった、ってわけなのね……」

 

 あとは俺にそういう知識があったから、だな。ノー知識なら取り込まれてたんじゃね? それくらいには色々リアリティあったよ。

 名前がわかりやすすぎた、というのもある。ディティールはこれからだな。

 

「それで、あなたは? というか前半のナカサラナ様、というのはどこへ?」

「それは、モデルとなった村がそういうことをしていたから、そのまま流用させてもらったのだわ」

「あくまで名乗りませんか。あなた自身も夢妄の魔族かと思いましたが、違いますね。……これは推理でもなんでもない直感ですが、あなたがそのナカサラナ様なのでは? おかしな因習をもっていた村で祀られていた、生贄の御子を取り込むことで平穏無事を齎すモノ」

「……びっくりなのだけど。え! どうしてわかったのだわ?」

「ですから直感ですよ。そこだけディティールに富んでいましたから、実体験なのかな、と。そして御子という風には見えなかったので」

「それは失礼なのだわ。御子の可能性もあるのだわ」

 

 無いだろ。そんな──アルカやヴィクニにも勝る魔力量しといて、生贄、だなんて。

 ムリムリ。普通に前回の巨竜より魔力あんじゃん。

 

「ナカサラナ様。……ふむ。nksln様。……ああ、涅月ですか」

「あっさりすぎるのだけど!? もうちょっと悩んでほしいのだけど!!」

「……ふむ。私の知っている魔王に鮮やかなオレンジ色の髪の魔王がいるので、涅月に由来する者はオレンジ色の発色をするのかと思っていましたが……クロヒビダケよろしく黒が涅月由来の色なのですね」

「オレンジなら、紫輝の愛し子だわ、きっと」

「紫色のなら大地の愛し子であっていますか?」

「ええ、呑み込みが早いのだわ!」

 

 司書の男、改め……あの時代の魔王。

 紫輝の愛し子、なのか。なんだっけ名前。書庫には記録してあんだけど……えーと。エス……エスタシオン……エストニア……。

 まぁいいや。"ヴァーン"でマイズライトの奴。

 ……え、カズラ君大丈夫か? 紫輝の愛し子で……モーガンを瞬殺する魔獣形態(オーバーウェルム)使いとか、魔晶石加工あっても勝てる未来見えないんだけど。

 

「それで、いい加減用件を教えていただけないでしょうか。ただちょっかいをかけにきただけだというのなら、私は帰ってお酒とおつまみを嗜んで寝ます」

「じゃ、単刀直入に言うのだわ。──涅月に来てほしいのだわ!」

 

 ん。

 ……んー。ペイトランの時に感じた「ミツケテホシイ」って何か関係ある?

 

 っていうか、ン、待って。大事なことを聞き逃しているような。

 

「ナカサラナ様が、あなただとして。ナカサラナ様というのがノクスルーナ様のことであったとして」

「ええ、なにかしら?」

「あなたは……自身が、ノクスルーナである、と?」

 

 そう呼ばれて祀られてきた一般化け物さん、ではなく。

 涅月本体である……と?

 

 少女が──くるり、と回転し、優雅なカーテシーをする。

 瞬間少女はその姿を女性に変えて、その黒く長い髪を掬いながら、言葉を紡いだ。

 

「ええ、そう。私がノクスルーナよ。初めまして、──名も無き観覧者(Sine nomine spectatoris)さん?」

「……格好つけてもらったところ悪いのですが、具体的な用件をお聞かせください。涅月に行くというのは、そこでなにかをしろ、ということなのでしょうか」

「もう少しリアクションしましょうよ。ほとんどあなたが振ったようなものなのだけど」

「確かに私はそういう生態を持つ何者かやもしれませんが、今の私はセンバー・アークライト。魔王秘書でして、明日からもたくさんの予定があるのです。一日を超過するような予定を入れることはできません」

 

 なんか「──ですよね?」関係なそうなことっぽいし断ろう。

 この世界の秘密には興味あるけど、自分で調べて辿り着いてこそだろ。なんでネタバレの宝庫に自ら突っ込まなアカンねんっていう。

 

「大丈夫よ。時の円環からは外れたところにあるのだから。あなたのエチェロエグズル教戒院と同じなのだわ」

「……んー。もう一押し」

「えぇ……? ……えーと、じゃあ……うーん。……、……まぁ、特に……魅力は、無いのだわ」

「えぇ……。……何か無いのですか。食事が美味しいとか、絶景があるとか」

「……食事は……無いのだわ? 絶景は、まぁ、宇宙というものを見たことが無いのなら、絶景に思えるのだわ?」

「ええ、はい、じゃあ、それで。いいですよ。行ってあげます」

「本当に!?」

 

 マー宇宙か。この世界の宇宙がどうなっているか、ってのは、マー知っておくべきだ。そしてこの世界の性質上、何かをしない限りは何万年経ったってロケットは疎か飛行機すら出てこないだろう。空泳船はあるのに。

 そんな限りなく来ること無いだろうものを待つよりかは、今か。流石にな。

 

「じゃあ、──いらっしゃい、なのだわ」

 

 ──意識が暗転する。

 肉体は最初から休眠している。霊質も俺とは連動していない。

 だというのにこれは……引き摺り、込まれる!

 

「抗わないでほしいのだけど。連れていけないのだわ!」

「──結構です自分で行きますので。これ解除してくれないとそっちの魔法破壊しますよ」

「強情ここに極まれりなのだけど……。はぁ、わかったのだわ」

 

 強力な強制力みたいなものが切れる。一応フィードバックを保存しておいて──涅月に目を向け、そこに存在する位相結界に扉を構築する。

 

「え、器用すぎるのだけど。なんなら私より器用なのだけど」

「来客用の扉も無い内から客を招待するからです。──先に行きますよ」

 

 返事も待たずにその扉を開ければ──。

 

 そこは、真っ黒な空間だった。

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