序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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7.よろめく前のめり

 その後、マルガナレちゃんよりオーリエ(仮)の方が訪れる回数の多くなった画材屋イコノグラフ。

 まぁいいんだけどね。俺は俺の夢さえ達成できたらそれで。

 ただこのまま恋愛ルートだの子飼いルートだのに落ち着くのはごめんだなー、とか考える日々。

 

 そんな最中のとある日の話。

 この日は久しぶりの雨が降っていた。ハンラムが内陸にあるからか山があんまり無いからなのか、この辺あんまり降らないんだよなー、とか思いながらのハンティング。

 雨の日は良い画材素材が採取できるのだ。

 

 小柄な身体を生かしてぴょんぴょん跳ねて素材魔物をハンティングしていると、遠くから馬車が走ってくるのが見えた。

 雨の日だってのに爆速だ。馬も車輪も滑るだろ、アレ。

 ああいう無茶な走行は長続きしない。ああほら横転した。言わんこっちゃない。

 

 その……後方100mくらいから迫る、泥で出来たワニ、みたいな見た目の魔物。

 成程追いかけられていたのか。そりゃ全速力も当然。

 馬車から這い出てくるのは……ロクな加工もしていない剣を持った騎士らしき男性一人。んー、無理☆ パワー差が歴然だ。

 助ける、という選択肢は無い。それは俺の望ましい物語じゃあないからね。

 

 ただ近くで狩りしてるとなんで助けなかったんだって言われたりして面倒だから、見て見ぬふりしてさっさと退散──しようとしたのだけど。

 

「剣を地面に突き刺して、馬車の陰に隠れろ!」

 

 という怒号にも似た命令と、泥のワニを抑えつける複数の影。

 おお、通りすがりの冒険者パーチーか、すごい、そんな物語性を持っているパーチーがいるのかぁ、とかって遠巻きに眺めていたら。

 

「ジル! トドメ任せた!」

「任せろ! うぉりゃあああ!!」

 

 ん。

 ……聞き覚えのある、名前、が?

 

 出来上がるは氷のオブジェ。ああ、『氷瀑加工』だね。威力の底上げもかな。

 覚えのある武具加工ズラねぇ……。

 

「ハナカラ、メギス、治癒魔法を頼む!」

「はいよー」

「おっけー」

 

 治癒の力が粒子となって集う。片方はノータッチだけどもう片方は凄い魔力効率ズラねぇ……。『効率化XI』とか付けた覚えがあるズラ。

 ええっと。

 

「大丈夫ですか?」

「ああ……すまない。助かったよ」

 

 雨でも遠巻きでも関係なくわかる。

 アレは……カズラくんズラねぇ……。

 

 

 

 ということがあったのだ、と。

 説明された。ジュリアちゃんから。

 

「へえ。お兄さんたち強いんだね。騎士でも敵わない魔物をやっつけちゃうなんて」

「そんなことはないさ。彼女の騎士クリスの積み上げた技には、おれたちの誰も敵いやしない」

「ご謙遜を。深紅の炎……大陸じゅうを巡って魔王討滅の旅をしているのだとか。特にリーダーのカズラさん。あなたのお噂はかねがねです。先程は失礼しました。名前を知るばかりで、顔を認知しておらず……恥ずべきことです」

「勘弁してくれ。それを言ったらおれはこの国のこともあの魔物を倒して良かったのかどうか、というのも知らなかった。知らずに動いてしまった。冒険者なら……そういうところ、確認しておくべきことなのに」

「ジュリアお姉さん。この論点の違う謙遜し合い、止めないと終わらないと思うよ」

 

 追われていたのがジュリアちゃんとその騎士──正確には領騎と呼ばれる兵士──で、たまたま通りがかったのがカズラ君パーチー。

 そんな偶然ありゅ??

 

「ですわね……。ええと、まずは用事を済ませてしまいましょう。黄色の十二番と赤の八番をくださいな」

「ああ画材買いに来たんだ」

「画材屋に画材以外を買いに来ることがありまして……?」

「雑談しに来たのだとばかり」

 

 実は少し前からひっそりとではあるけれど、ジュリアちゃんも画像生成画法……昨今潜在主義(Latentism)と呼ばれるようになった画法に手を付けている。

 想像力が如実に巧拙へ関わってくるこの画法は「全く新しい感覚」だそうで、「楽しいけれどおじい様たちに見つかったらコトですわ」とのこと。

 折角マルガナレちゃんが遠くへ行ったのに、今度は孫娘が、なんてなった日には横転卒倒ものだろうね。

 

「……すげぇな。見ろよカズラ、ここに置かれている画材……どれもこれも高位魔物と宝石の混合だ。こんなもん、どうやって……」

「ああ、すごいな。おれたちでも狩猟と採取で一ヶ月はかかりそうなラインナップだ」

「こちらは……アンダーカーバンクルの柘榴石と炎魔石の細粉でしょうか。美しい色合いですね……。芸術系はとんと疎いのですが、ここにある画材すべてが新しい宝石に見えます」

 

 おー、鑑識眼も随分磨かれたねえ。ジルベルト君なんか昔は「魔物なんざぶった切っちまえば全部同じだろォ!」とか言ってたのに。

 

「はい、黄色十二番と赤八番ね。確認して」

「ありがとうございます」

 

 マルガナレちゃんみたいにぶつくさ言うことなくしっかり中身を確認するジュリアちゃん。蓋を開けた中身と、手で仰いで行う臭いの確認。自分で使う画材だからね、何がどうなら正しいのか、まで把握しておかなくちゃ。

 ひとしきりの確認を終えて、彼女は「ええ、問題ありませんわ」と呟いた。

 会計もしっかり数えて確認して済ませる。オーリエ(仮)も来るたびに何か買っていくから、妙に今懐が潤っているんだよね。

 

「なぁ、これら画材は君が仕入れているのか?」

「さぁ、どうだろうね。画材屋にとってそういう仕入れルートは命なわけだから、そう簡単に教えると思わないでほしいけど」

「あ、そ、そうか。すまない……無知だった」

「別に言っても構いませんわよ。この方々は信用できますから」

 

 俺が個人なら全然答えるんだけどね。今はもうジュリアちゃんに雇われている身だから、こうして許可を貰わないと言えないのサ。

 

「じゃあ、改めて。そうだよ、僕が狩っている。子供……っていうのはまぁその通りなんだけど、少しは戦えるんだ、僕は」

「それこそご謙遜でしょう、セレン少年。忘れはしませんよ。初めてジュリアお嬢様がここイコノグラフへ訪れた時の、私を含むすべての護衛を煙に巻いての大立ち回りを」

「手品みたいなものだからね。決して謙遜しているわけじゃ、」

「え?」

「ないよ。……えっと、今の言葉、なんかおかしかった?」

「あ、いや。……知り合いに、口癖が……似ていて」

 

 ……ああ。

 そうじゃん、俺インゼンの時も「こんなものは手品みたいなものですよ」ってよく言ってたわ。

 ……まぁよくある口癖ってことで!

 

「知り合い、ですか?」

「ああ……故人だから、そうだな、ごめん。おれが……未練を持っているだけだ」

「僕のこの口癖は、僕を拾ってくれたおじいさん由来のものだからなぁ。おじいさんも故人ではあるから、同一人物ってこともあるのかな?」

「いや、おれの知るその人は少なくともお爺さんって年齢じゃかったよ」

「ですが、血縁ということもあり得るでしょう。少年、その方のファミリーネーム……いえ、フルネームを教えてくださいませんか?」

 

 え、えー。突然生えたおじいさん(架空の人物)のファミリーネームか。

 えーとね。変な匂わせは趣味じゃないからー、えーと。

 

「ガルベン・、」

「──ガルベン・ゼンノーティ。古くは魔力を失った魔鉱石を細かく砕き、染料や顔料としていたある一族出身の男性。……ハンラムにおいては約五十年ほど前に【バトルブラシ】の異名を取った戦い方で芸術大国としての在り方を他国へ示した、半ば伝説的存在。……ですよね、セレン君」

 

 言葉を繋いだのは、いつの間にか来ていたオーリエ(仮)だった。

 ええと。

 そマ?

 

「ゼンノーティ……だって!?」

「ああ、まぁ、うん。多分ね。僕おじいさんのこと名前しか知らないから。血も繋がっていないしね」

「それって……」

「記憶喪失、だそうです。……ああ、申し訳ありません。盗み聞きをするつもりはなかったんです。私もこのお店に通う客の一人でして」

「オーリエさん。お久しぶりですわ」

「はい、お久しぶりです、セルベルタさん」

 

 ええと。色々渋滞しているけれど。

 まず、オーリエ(仮)の「──ですよね?」は望ましい「──ですよね?」ではないのであんまり嬉しくない。……けどハンラムでの「──ですよね?」はこれで出尽くした感がある。くっそー、俺の勘センサーも融通が利かないな。全部強キャラへのセンサーであれよ。

 で、ジュリアちゃん……は、オーリエの正体をわかっている。オーリエもバレていると知って通している。わかっていないのはマルガナレちゃんだけ。

 んでこの場、どう収集つけるんだ。

 つか俺の妄想のおじいさん実在したんか。しかもゼンノーティはマジか。偽名オブ偽名だぞアレ。

 

「詳しく……話を聞かせてくれませんか」

「ええ、何やらあなたたちにも事情がある様子ですからね。ただ……セレンくんには、何も聞かないであげてください。本当に……何も覚えていないようなので」

「わかりました。……じゃあ、ジュリアさん。おれたちはこれで」

「いえ、私もご一緒しますわ。助けられて、街までの護衛までしてもらって、何も返さずに、というのはセルベルタ家の面子に関わります。オーリエさんとのお話を終えたら私の家で夕食を食べていってくださいな」

 

 ぞろぞろと出ていくカズラ君のパーティメンバー。領騎さんもス、と目礼をして出ていく。あ、カズラ君もお辞儀してきた。初対面のガキンチョ相手に律義すぎるだろ……。

 そうして全員出ていって……出ていったはず、なのだが。

 

 一人。確かメギスって名前の精霊だけが、出ていっていない。

 

「えっと、なに?」

「……魔力の質が、凄く似ているから気になっちゃったー。……血縁ならわからなくもないんだけど、そのお爺さんと君、本当に血、繋がってないのー?」

 

 魔力の……質?

 そんなものがあるのか。肉体は再構成したからDNA的にもシュライン・ゼンノーティとは関わりのないものになっているはずだけど、そんなところからバレる可能性があるのか。

 ……これは、次はそのあたりを基軸にした研究をすべきかもしれない。行く先々でカズラ君たちと出会っちゃって、その都度この子に魔力の質が同じ判定くらってたら流石にバレそうだし。

 

「魔力の質って、なに?」

「んー。子供相手だと、なんて言ったら伝わるかなー。精霊みたいな魔力依存生物……っていってもわかんないか。まーメギスたち精霊は身体の九割が魔力でできてるからさー、他の精霊や大気中の魔力との自己他己境界を……えーっと、混ざらないようにするために、自分とどう違うか、っていう感覚を大事にしてるんだよねー。で、家族だと似たような魔力になることはたまにあってさー、そういうことなのかなってー」

「どうなんだろう。僕の記憶は数年前からしかないんだけど、もし家族なら……おじいさんはなんで黙っていたのかな」

「うわちょっと考えただけでも闇深そー……。うん、忘れて忘れて! 多分気のせいだからー」

 

 いやいや。

 参考になるご意見ご感想でしたよ。今後のためになるからありがたいことこの上ない。

 

「あ、変なこと言ったから、お詫びになんか買い物してくよー。純度の高い魔鉱石とかあったりしないー? メギスは精霊だから、そういうの食べるんだー」

「魔鉱石を食べるの? へえ……。んー、じゃあ、これとかどうかな」

 

 何の加工もしていない魔鉱石を取り出す。砕く用だから磨いてすらいないけれど、発色のいいものを選んでいるから純度は高いはず。

 

「おお、超高純度じゃーん。これなら……そうだなー、奮発して一万ストレイルでどうー?」

「五千ストレイルでいいよ。流石に一万は貰い過ぎ」

「子供が変な遠慮するなってー。メギスも子供だけど」

「……何歳なの、メギスさんって」

「千五百とちょっとー? 精霊からしたらまだまだ子供だけど、人間の子供からしたらお爺ちゃんかもねー」

 

 人間の大人からしてもだと思うけど。

 俺は幾つだろうな。ケレン少年は九歳……というか作成日を考えればまだ三歳とかだけど。

 

「じゃあ、間を取って七千五百ストレイルでどう?」

「そこが妥協点かー」

「うん、じゃあ、ありがとう」

 

 精霊、ね。……次の「ですよね?」はその辺にするか。

 いいね。良い出会い……良い再会だよ。

 

 あとは、どうやってセレン少年を消すか、だなー。

 

***

 

 少女オーリエ。それは世を忍ぶ仮の姿。

 彼女の名と正体を知り、そして彼女と少年セレン……否、ケレンに纏ろうすべてを聞いたカズラ一行。

 それを深く、そしてしっかりと咀嚼したあと、カズラもまた自分たちが追っているものについてを彼女に説明した。

 

「シュライン・ゼンノーティ。名を聞くのは初めてですが、至高の魔鉱技師の名はハンラムにも届いています。……そうですか、亡くなってしまわれましたか」

「わざわざおれたちを遠ざけるような情報を掴ませて……その後、魔王の四天王の一角、ゼイスウォルド兄弟……チャリホ・ゼイスウォルド、ジャルフ・ゼイスウォルドの二存在を道連れにしたと……希望の牙というパーティがそれを見届けた、と。そう聞きました」

「ふむ。……これがあなたたちにとってどのような情報になるかはわかりませんが、お伝えしておきます。ハンラムの英雄ガルベン・ゼンノーティは魔鉱石を日常的に取り扱うある一族の出身とされていますが、その一族が今どこで何をしているのか、どこに住んでいるのか、というのは実は判明していないのです。……私はハンラムを離れることができません。ですが……カズラさん。あなたたちのように旅ができれば、ゼンノーティ一族を見つけることができるかもしれません」

「はい。必ず見つけ出して……お礼を言いに行きたいと考えています。インゼン先生……シュライン先生への恩返しのためにも」

 

 空気は然程重苦しくはない。行われているのは情報と認識の擦り合わせであって傷の舐め合いではないのだから。

 ──しかしそこへ、とある情報が追加される。

 

「あの子、セレン、だっけー? 今確認してきたけど、多分インゼンせんせーの血縁だろーねー。親戚とかかなー?」

「メギス、それは……どういうことだ?」

「どういうこともなにもー、魔力の質が明らかに親族のソレだからさー。けど闇深だよねー。記憶喪失になった自分の孫を血縁関係ナシとして扱ってたってことでしょー?」

 

 新たに齎された情報に、カズラの普段はうずめている欲の部分……「ならば保護したい」というのが一瞬だけ顔を出したけれど、セレンの現状を考えて頭を振るう。

 オーリエもまた唇を強く噛み……少し空気の重さが気になり始めたあたりで、ずっと黙っていたフィノが口を開いた。

 

「……王女様。ガルベン・ゼンノーティは本当に亡くなっているのですか?」

「はい。死因ははっきりしていませんが、高齢でしたし、老衰であるかと」

「殺された、ということは……絶対に無いと言い切れますか?」

「フィノ、ちっと不謹慎だろ。王女さんの気持ちってやつを考えな」

 

 ジルベルトが彼を嗜める……けれど、フィノは真剣な表情だ。

 その雰囲気に、オーリエもまた居住まいを正す。

 

「いえ、お気遣いいただきありがとうございます。ですが……どういう意味でしょうか。気遣いは不要です。言ってください、フィノさん」

「確かにインゼン先生……シュライン・ゼンノーティは魔王が目の敵にするほどの技術を発表しました。武具加工に……未だ発表されていませんが、さらに深奥と言える技術まで。しかし、彼自身の強さはそこまででもありませんでしたし、加工技術を有するのも彼の高弟八人だけ。目に見えた脅威となるのはむしろ大規模な戦略魔法を行使できる【マギスケイオス】に名を連ねる方々……だと、私は個人的に考えています」

「そう、ですね。敢えてハンラム王女という立場から申し上げても……そうだと言えます。戦争、あるいは魔王との戦いにおいて必要なものが一人一人が英雄足れる兵士であるというのも理解はできますが、私達はそのさらに上を行く災厄としか言えない域に達した人々を知っていますから」

「私は【マギスケイオス】の一人と昔から懇意にさせていただいているのですが、その方の元へは魔王からの暗殺、刺客、というものは来ていないそうなのです。力量差から考えれば当然と思うかもしれませんが、寝込みや酒の席など、彼らも人間ですからね、隙の生じる場面はいくつもあります。ですが、そういうものが来たことはない、と」

 

 フィノはそこで一度言葉を区切り。

 そしてまた紡ぐ。

 

「やけに執心だ、と思いませんか? シュライン・ゼンノーティ一人を殺すのに……暗殺しようとしたり、人間のパーティを拷問してその所在を吐かせようとしたり」

「ゼンノーティ一族に何か特別なことがあって、だからシュライン・ゼンノーティは狙われた。そしてガルベン・ゼンノーティもまた人知れず殺された可能性があると……そういうことを言いたいわけですね」

「はい。死因がはっきりしていない、というのも引っかかるのです。この言葉は失礼にあたるやもしれませんが、ハンラムは現在比較的平和な国であると言えると思います。五十年前は領土戦争があったようですが、それ以降は他国との衝突も魔族からの侵略もない平和な国。その国の、かつては英雄とされていた老人の最期を誰も看取っていない、ということはあり得るのか、と」

 

 むしろ盛大に悲しまれ、盛大に見送られそうなのに。

 そしてその疑問はオーリエの抱いていた疑念にも合致する。

 

「私が聞き込み調査をしたかぎり、ガルベン・ゼンノーティはひっそりと隠れるようにしてこの街に住んでいたそうです。姿を見かけた覚えがある方が数名しかいない程に。……シュライン・ゼンノーティの行動と、少し似ていると思いませんか?」

「インゼン先生はそこまで積極的に姿を消すことはなかったけど、王都から馬車が来たり、冒険者が来たり、って時には必ず顔を隠していた。その時おれは……無知だったから、会いたくない人がいるのかもしれないな、くらいにしか思ってなかったけど……この国より田舎がもっと田舎だから、隠れ住んでいた、という点は合致すると思う」

「それで言うなら僕らも気になってたんだよねー♪ 僕は色んな町に行ったことがあって、メギスは結構長い間生きてるんだけどさ、ゼンノーティってファミリーネーム、聞いたことがなくてさー♪ インゼンせんせーとそのガルベンって人だけが異端だった、ってわけじゃないのなら、()()()()()()()()()()()()って可能性、あるよねー、ってサ」

 

 消される。歴史の闇に葬られる。

 これほど魔鉱石に特化した技術を有しているのならば、もっと昔から名が知れていておかしくないのに……調べないと辿り着かない、というほどまで、希釈されている。

 どれほどの執着。どれほどの恨み。

 

「話を戻しますよ。つまり私が言いたいのは、セレン……本名はケレンでしたか。ケレン・マイズライト。その名が、たとえば母方のファミリーネームなどであり、本名がケレン・ゼンノーティである可能性がある以上……本人の意向を無視してでも保護すべきなのではないか、ということです」

「ゼンノーティ一族であるだけで狙われる可能性があるから、ですね。……あるいは最初に……王族抱えになったケレンが攫われた、ないしは暴行を受けたあの事件が発生したのも、彼がゼンノーティ一族であると露見してしまったが故……?」

「彼は利口な子供です。事情を話して堂々と保護したいと言えば、受け入れてくれるのではないですか?」

「んじゃアレだな。あいつの保護は王女さんに任せて、俺達はゼンノーティ一族探しに熱を入れようや。そいつらが見つかってねぇのも世俗から隠れて暮らしてるから、って可能性もあんだろうし」

「"天空船"なら深い森の奥とかでも見つけられるし、いいかもー」

 

 なら、決まりだ。

 

 そう考え、もう一度店に入ろうと各々が踵を返した──その時だった。

 

「──伏せて!!」

 

 普段はのほほんとしているメギスによる鋭い一声。

 すぐに動いたのは三人。カズラ、ジルベルト、そして近くにいたジュリアの領騎。

 彼らはそれぞれに守るべき対象の前に立ち、己が剣で防御姿勢を取り──。

 

 直後、空間の歪みさえ観測される魔力の奔騰を目にすることになる。

 風圧。圧壊。魔力乱流。

 

「うそ……ケレン!?」

「ッ、メギス、ハナカラ! 最大探知だ!」

「もうやってるけど、乱雑な魔力があるせいで上手く辿れない!」

「後方、480っ! 物凄い速度で遠のいていってる魔力塊が三つ! うち一つは多分セレン君!!」

「フィノ、頼む!」

「メギス、背負いますよ。探知お願いします」

 

 目まぐるしく動く状況。ただ流石は冒険者パーティ、困難への対処が早い。

 魔力弾の射出が如く速度で走り出したフィノ、それに背負われたメギスが頼みの綱だ。

 

 ああ、しかしそれは。

 約14kathlもの大追跡の末、対象ロスト、という結果に終わることとなった──。




※定義:1athlとは、標準魔力場において魔力波が 1/1000秒で伝わる距離とする。
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