序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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67.続かない噂話

 真っ黒な空間。暗いのではなく、黒い。

 ……いや、そうか。涅月はそもそも黒い光を出す天体。ならここは、真っ白な空間であるとも言えるのかもしれない。ある意味で「眩しすぎて見えない」状態なのだろう。

 

 目を瞑り、感覚的な探知のみの状態になってみれば……しっかり建造物やら何やらがある、ということもわかる。

 よって黒い光だけを半分以上遮るサングラス的なものをこの場で作り上げ、かければ。……そもそも黒い光とは? というのはこの世界に来てすぐに済ませたので考えないでいい。光も魔力の一つっぽい、ってのは前に考察したしな。

 

「一軒家と、庭?」

「人間の真似をして建ててみたのだけど、おかしいかしら?」

 

 声のする方を向けば、先程の女性がいた。

 ……星全体が魔力を発しているから、魔力で気配を察するのは無理そうだなここ。

 

「おかしくは無いと思いますよ。場違いには見えますが」

「まぁ、そうよね。別に屋根が必要というわけではないのだし。……さて、涅月(ノクスルーナ)にいらっしゃい。改めて、私の名前はノクスルーナよ」

「はあ。それで、私にどんな用が?」

「まずは、あなたの感想を聞きたいのだけど。──この涅月を見て、何か思うところは?」

 

 アバウトな。

 ……位相空間の涅月。だから、普段俺達が見ているそれとは微妙に違うのだろうが……相変わらず黒い光を発していて、そしてとんでもない魔力塊だ。

 今俺達が立っている場所は一見普通の地面に見えるけど、奥底から刺し貫くように伸びる黒い光がこの地の異質さを醸し出している。

 感じ取った限りでは、この星は98%が魔力結晶体or魔力で、残りの2%に土とか岩とかの堆積物が乗っかっている……のかな。だからこの地面多分5.7athlくらいしかない。大きさは記憶にある月とそう変わらないくらいだ。

 

 何か思うところがあるとすれば……。

 

「この星が知性を持つとは考え難い。……いえ、あるいは、精霊に同じく……超高密度・高圧下に置かれた魔力は、一様に知性を持つモノと考えると……」

「ああ、それは正しいのだわ。私があなたに声をかけようと思ったのは、産まれ方こそ違うのだけど、あなたが涅月の精霊を名乗ったから。実際それらしい姿になっていたのだし」

 

 ……ああ。じゃあ、身から出た錆か。

 確かに名乗ったな、涅月の精霊。

 

「それで? 今、思うところを言いましたが」

「ええ? そうじゃなくて、こう、ないのだわ? おかしいと思うところや、違和感を持つところは」

「黒いことですかね。私にとってはそこがおかしいです」

「そうじゃなくて! ……生き物が私とあなたしかいないことを、もっと驚くべきなのだわ!」

 

 いや。……まさか月に兎が住んでいると信じるわけでもあるまいに。

 

「と言われましても。いたとしても精霊くらいでしょう。とてもじゃないですが、生物が生活できる環境とは思えませんよ」

「……はぁ、もういいのだわ。じゃあ改めて。私は涅月にも他の住民を増やしたいと思っているの。できれば精霊だけじゃなくて、魔族や人族も」

「無理でしょうね。ここ酸素ありませんし。魔力依存生物は魔力依存生物で、膨大過ぎる魔力に酔ってまともじゃいられないでしょう」

「ばっさりすぎるのだけどー!?」

 

 鍛えているとか耐性がどうとか、そういう話じゃない。これだけの魔力の中で普通に過ごせるのは……余程魔力に対しての感覚の薄いやつか、もしくはそもそも魔力を感じ取れないやつだけ。だが、そういうのも生命に必要な要素の無いこの星じゃあ死に絶えるのが関の山だ。

 テラフォーミングしようにもこんな土地じゃあやりようが無い。ノーチャンスも良い所だ。

 

 ……しかし、涅月の精霊を名乗ったのは涅月歴の770年だというのに、当然知っているんだな。しかも常昼のファウンタウンでのことだってのに。

 

「あなたも……涅月の精霊と呼ぶべきなのですか? いえ、あなただけを、でしょうか」

「うーん。意思を持って動く水を、あなたは水の精霊と呼ぶのだわ?」

「いえ、強いて言えばスライムですかね。なので涅月スライムと……」

「それは違うのだけどゼッタイ」

 

 ウォロから問うつもりでいる『王貴の決定』や『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』についてのことは、自分で調べたい。

 こんなネタバレの塊から何かを問いただすつもりはない。紫輝も同様に意思を持つのか、すら聞きたくない。

 

 今宇宙についても感覚子を飛ばして探っているけれど、取り立てて不可思議なことはないように感じる。俺の感知もそこまで遠くまで飛ばせるわけでもないし、こっちは切り上げてもいいが……。

 

「生命の創造というのはできないのですか? 神と呼ばれる存在には多少会ってきましたが、誰も彼もそれなりの力を有しているようには思いましたが」

「それは、親という役割を担う存在にだけ許されたことなのだわ。たとえそれが、小さな試験管を振るだけの役割であっても、その生命にとっての親にしか、生命というものは生み出せないのだわ」

「あなたは親ではないと? 別に、親を名乗って子を作っても良いのでは?」

「名乗ったところで役割は与えられないのだわ。私は親ではなく、祖。そういう意味で……子孫という意味での子供はいるけれど、母子の関係性にある子供はどうしたって作れない」

 

 ……ふむ。

 なら、たとえば。

 

「──たとえばこうして、()()()()()()()()()()

 

 魔力マニピュレータを使い、肉を、心臓を、骨を並べ、繋げ、……「一人」を作り出す。

 いつもやっていることだ。ここに俺が入って、新たな誰かとなる。今までの全員がそうして作られてきた。そうではないのはシュラインだけかな。魔力マニピュレータを開発したのはシュラインで、だから……シュラインだけは、別の方法で作り上げた肉体だ。

 

「倫理的な問題があるので、これをこのままリリースすることはありませんが……これと同等のことを行い、なんの意識も宿らせることなく解き放てば、新たな住民足り得るのでは?」

「だから、それができないの。──あなたは親だから、できるのだわ」

 

 ……親、ねえ。

 子を持った覚えなどないが。

 

「何かを育て、その行く末を願う。そういうものを親というのだわ。私にはそれができない。私ができるのは、照らし、探し、覆い隠すことだけ」

「……あなたも変えられない生き方(The innate)であると?」

「いいえ。……ああ、でも、今のあなたなら、私の霊質が見えるのだわ」

 

 確かに。

 視るか。……ふむ。

 

運命よ、貴方の名は(ソルスノメントゥム)、ですか」

「ふふっ、それは私の霊質ではなく、あなたの霊質だわ。作り上げた生き方ではない方の、あなたの本当の霊質」

「……」

 

 確かに。見えたから普通に読み上げてしまったけど、これは俺の霊質だ。

 ……反射しているのか? ああいや、だから。

 

実のところ映らざりしもの(リヴェライド・ウィデルンポテス)が、あなたの霊質。……成程? 普段見えている涅月は何か、虚像のようなものである、と? それともあなたは本当は誰からも見えない存在で、私だけが見えてしまった、みたいな話ですか?」

 

 二単語の霊質なんて初めて見たが、それも涅月ならでは、か?

 紫輝はなー。見ようにも眩しくてな……。

 

「どちらも正解なのだわ。普段世界から見上げる私の姿は、しっかりとした岩石塊に見えると思うのだけど、実際はこういう土と岩と魔力結晶体の塊なのだわ。そして、私を見ることができるのがあなただけ、というのも正しいのだわ。正確に言うと、あなたが涅月の精霊を名乗り、ああして存在してくれたことで、"どの程度ならば視認され、どの程度ならば負荷がかからないか"というのをようやく知ったのだわ。だから、これからはもっとたくさんの存在に気付かれる……予定! なのだけど」

「もしかして、生物たちの可視光が狭すぎて調整しづらいし、すぐ受けてはダメな刺激量にまで達してしまうから、その辺の塩梅が取り難くて半ば諦めていた、みたいな話だったりしますか」

「すっごいのだけど。本当に呑み込みが早いのだわ。ええ、その通り。ちょっと小さいと気付いてもらえないし、ちょっと大きいと感覚器がダメになってしまうから、難しくて!」

 

 ……マー。

 ちょっと、わかる。生物とかいうの、低すぎても高すぎてもダメだし、「丁度いい」の環境下でないと上手く生きられない超脆弱存在なんだよな。

 種族毎にその域幅も違うし……。

 

「だとしても、私の事に気付けるのは限られた存在だけなのだけれど。紫輝の光を見ても、そこに色があると思わないように、私のことは普通意識できないのだわ」

「はぁ。そうですか。それで、結局用件はなんなんですか? 親になりたい? それともこの星に生物を住まわせてほしい? もっと他者と触れあいたい?」

「その三つなら、やっぱり二番目なのだわ!」

「無理ですね諦めてください」

「あなたならできるはずなのだわ! 何も無い空間に書庫を作り上げたかと思えば、その周囲に居住スペースを作って、あれよあれよの間にあれほど大勢の人間を住まわせたあなたなら!!」

 

 あー。……成程。

 教戒院が……「こんな場所でここまでできるなら、涅月だってどうにかなるはず!」って思わせたのか。

 まーあれはほとんど運というか、アレクやミンヤが居ついてくれたから、みたいなところあるしなぁ。

 

 うーん。勝手に名乗ったのが悪いと言えばそうだ。涅月の精霊を名乗らなければこいつは俺に目を向けず、俺に話が来ることも無かったのだろう。

 だが勝手に勘違いした、あるいは勝手に期待を抱いた点と差し引きして……。

 

「……生物が生きられる数値を教えます。親となれるかは運次第です。というので、どうでしょうか」

「私は他者を育めないのだけど」

「今そうであることは、この先ずっとそうである、ということの理由にはなりません」

「可能性がわずかでも芽生えていたら、今この瞬間、ここには生物が溢れているはずなのだわ。ここは全ての時代と繋がっているのだから」

 

 成程。それも教戒院と同じか。

 まぁ……だろうなー。たとえ地球環境と同じ数値を教えたからといって、この星が魔力結晶体でなくなることはないだろうし。

 しかしそう考えると、俺が今から何を考えたって「結局生物は住みつきませんでした」がオチになるのでは? だって今いないわけだし。

 

「それは違うのだわ。あなたは時の円環から外れているから、あなたがインクを垂らすかどうかで未来は変わるのだわ」

「インク?」

「そう……人間の発明の、ろくろ、というものがあったのだわ。何年か前に見たのだけど、知っていて?」

「ええ、まぁ」

 

 ろくろ、ねえ。まぁどこの国でも見るものだわな。

 

「時というのは、ろくろの台座のように、円を描いているもの。あなたの行いはそのろくろに一滴のインクを垂らすようなものなのだわ。それによって出来た"短い軌跡"があなたの痕跡となるのだわ」

「私の認識もそんな感じですね。……なるほど。私がインクを垂らすかどうか、その決定があって初めて過去にも未来にも全てが刻まれる。あなたたちは回り続けるだけだから、変わろうと思っても変わることができないと」

「本当に頭がいいのだわ、あなた!」

 

 それは小動物が知能テストをクリアして「お前は本当に頭が良いねえ~」って言っている時のようなそれに聞こえるけれど。

 んー。ん~。

 生命を作る。他者を作る。

 それは……あんましなぁ。やりたくはないんだよなぁ。

 

 世界というのは、偶然と未知に満ちているから面白いんだ。

 そこに……「あ、こいつ俺の作った異物種族だな」みたいなのが入り込んでみろよ。一発で冷めるじゃん。

 技術や知識ならともかく、種族レベルとなると後世に残る確率が跳ね上がるし、悪環境で生きられるってことは良環境でも然りなわけだから、ううんううん。

 

「……何か、私が動きたくなるものを提示できませんか。何かこう……生物に住んでほしいと思う……あー、悲しい事情とか」

「悲しい事情? 私に?」

「そうです。えー。……なんでしょう、同情を誘う、みたいな……善人エピソード……みたいな……」

 

 俺が……親切にしたくなるエピソード、というか。

 自分から求めるのはアレだけど、あるならワンチャン……。

 

「無いのだわ。私、涅月だし」

「えー……そもそもなぜ生物が欲しいので?」

「にぎやかでたのしそうだったからなのだわ! あなたにやったような遊びもできるのだし! ……実はあなた以外にも何人かに試遊を兼ねて幻術をかけてみたのだけど、みんなあなたみたいに推理なんてしてはくれなかったの。真相に辿り着くことなく、混乱や、狂ってしまったように泣き喚いて、そのまま無言になってしまったり……」

 

 いやまぁ凄惨な因習村&人狼ゲームを目の前でいきなりされて……しかも処刑場にあんな罵詈雑言や断末魔を聞かされりゃそーなるっつーの。

 モデルにしたっていう因習村がそういうのだったのかなぁ。

 

 まー……賑やかで楽しそうだから、は……つまり、寂しいから、ではあるか。

 寂しいのが嫌だから、は……まぁ、理由にはなる、か? そんなやつを全員助けるようなヒーローなつもりは無いんだが。

 

「……賑やかならいいのですか? 生物でなくとも?」

「まぁ……そうね。遊戯をやって、楽しんでくれるのなら、別に生物でなくともいいけれど」

 

 じゃあ、いつも通りの感じでコンストラクトを編む。

 永続文字結界で構成された真っ黒なカラスだ。涅月の魔力に乱されないように魔力遮断に重きを置いた構成にしてみた。

 

「わぁ。……成程、確かに魔法的知性体なのだわ」

「これならいくらでも作ってあげますよ。まぁあなたの方が得意だと思いますが」

 

 俺がこれを知ったのは伐開の魔族から。伐開の魔族は漏れなく涅月由来の魔力をしているからな。

 

「そうでもないわ。というより、あなたが親だからできることなのだわ、これは。完全に自身と切り離された知性体を使役するのは、私は現地にいる生物と契約を結ぶことでしか成し得なかったから」

 

 ……これが嫌で来たくなかったんだよ。

 だいたい考察してあったとはいえ……やっぱり『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』は涅月と契約した生物、ってことね。キアステン本人がしたというよりは、先祖がして、それが隔世遺伝で出てきた感じだろうけど。

 ネタバレきついデース。

 

「あー……こういうのがあっちに行くの、私が嫌なので、涅月の魔力で形作って、涅月の魔力が強い場所以外では成立しないようにしましょうか」

「ええ、ええ、たくさん作って! ヒト以外の形でも、お話できるなら大歓迎だから!」

「わかっています、全部自立型にしますよ」

 

 他人が作ったAIなら話し相手になるってのは、すでに別世界が証明しているしな。

 こいつらはそれよりちょっとだけ高度だから、体験型人狼ゲームも楽しんで参加するだろ。

 

「そうなのだわ! あなたを一人ここに置いていってちょうだいな!」

「何を言って……。……ああ、コンストラクトで、ですか。まぁ……そうですね。それなら管理もできますし」

 

 作るのは『院長』と同じ感じの……うーん、カタチは、クィローでいいか?

 涅月の精霊だしな。AIのこと人工精霊っていうのよく見かけるし、マッチしてるだろ。クィローは死んでないからここにいても不思議じゃないし。

 そう考えるとアダンがいるのもアリではある。ある意味で天国かね、ここは。死んだ人間との再会を好ましく思えないから、『博士の博士』やモーガンを住まわせることはしないんだが。ああ、なら、ケレンも居ていいな。ヴァルカンも一応居ていいか?

 

「まぁ、まぁまぁまぁまぁ! すごいのだわ……頭どうなっているのだわ? 考え、会話可能な自立知性体をこの速度で量産できるとか、親であることを加味してもおかしいのだけど」

「そうなのですか? できるのでやっているだけですがね。……こんなところですか。あとは彼、クィローが、時間はかかるでしょうが、新しい住民を増やしてくれますよ」

「ありがとう! 本当に感謝しているのだわ! あ、そうだ、名簿リストを作りましょう! ……実は私、ヒトの名前を覚えるの苦手なのだわ」

「わかっていますよ。自分が作った世界だというのにあんな名簿を用意しておかなければ個体名を覚えていられなかったのだろうな、ということは」

 

 見分けつかないのはわかるよ。魔力や霊質で覚えているけど、それ以外は髪色とかなんか特徴的な部分しか覚えられん。

 顔写真だけリストアップされて「これ全員あなたが関わってきた方々ですよ。名前、全員合致しますよね?」みたいなクイズ出されたら一問目でトチる可能性あるくらい。カズラ君でさえ顔の特徴って言われても……になるしな。

 顔以外なら……重村鎖袋とかは特徴の塊じゃん。名称は知らんが、袴っぽい材質のボトムはそれ意味あんの? ってレベルでビリビリに破かれていて、トップスはTシャツで、その上にゼルパパムで良く見た革のジャケットを着ている、という……どういうアイデンティティなのかわからない組み合わせだった。おかげで強烈に印象深い。

 ……顔は、あれよ。金髪だった……っけ? いやアスミカタ出身なら黒……だっけ? 瓜良は別に黒くなかったような。……わからん!

 

 作るだけ作って、クィローも設置したから、うん。

 

「これで私の仕事は終わりですね。じゃあ私は帰りますが」

「ああ、待って。お礼がしたいのだわ。何か欲しいものはないのかしら」

「ありませんよ。欲しいものは自分で手に入れます。知りたいことは自分で調べます。願いは全て、自らの手で叶えます。──だからこそ、私は、天命を待たなければならないものを好むのです」

「……なら……うーん。前に私から魔力を得ようとしたことがあったと思うのだけど」

「はい、やりましたね」

「あの時もぜひ持っていってとしたけれど、これからも使っていいのだわ!」

 

 ……もし、反発の有無が精霊の人格に影響を与えているのなら、マージで紫輝の精霊はツンデレかもしらんな、とか思った。

 ミツケテホシイに関しては、自分で調べるさ。宇宙は特におかしなところがない……というか、魔力に満ち満ちている、ということもわかったし。

 

 オーケー。これからも自分のプールだけじゃ足りないってことがあったら使わせてもらうよ。早々ないとは思うけどな。

 フラグか? 今の。

 

「またねー! なのだわー!」

「お幸せに」

 

 何はともあれ一件落着でいいですかね。

 

***

 

 彼、センバー・アークライトもとい、「名も無き観覧者(Sine nomine spectatoris)」が立ち去った涅月。

 すべては夢幻で、またあの突き刺さるような静寂が襲ってくるかと思えば──。

 

「それじゃあ、ルーナお姉さん。まずは街の名前を決めようか。これだけのコンストラクトが住まう街の名前を」

「え……ええ! わかったのだわ!」

 

 言葉が交わされ始める。クィローだけではない。彼が残していったコンストラクトたちが皆口々に話し始めた。

 それらは確かに生命ではないけれど、知性体だ。己で考え、己の意見を持つ者だ。

 彼女はそれが、心から嬉しかった。

 

「そうだね、涅月の都なわけだから、ノクス、」

「クィロー'sタウンでどうなのだわ!?」

「……お姉さん、もしかしてネーミングセンス皆無かな? これは責任重大になってきたね」

 

 溜息を吐くクィロー。管理者としてやることは山積みである。

 目を輝かせているノクスルーナだけでなく、他……「名も無き観覧者の続き」として自立したケレン・マイズライト、ヴァルカン・ゼンノーティ、アダン・ゼンノーティを見るクィロー。

 

「ふむ。吾輩は、練兵場と……将棋の盤でも作るであるか」

「じゃあ僕はチェスでも作りましょうか。元自分同士ではあるけれど、今は他人です。面白い勝負ができそうではないですか?」

「なになに? それはどういうものなのだわ?」

「ああ、マフィアゲームが好きなら、ボードゲーム全般に適性があるかもしれませんね。僕らの知る限りのボードゲームを全て吐き出してしまいましょうか」

「……カードの裏面に絵を描くくらいはするよ。あとは……天体望遠鏡でも作って、この世界の宇宙でプラネタリウムを描くのはアリかな」

 

 元々同じ自分である、という感覚はあるけれど、だからといってどうということはない。

 既に別個の他者だ。それはあの「名も無き観覧者」さえも。

 ここにいるすべてのコンストラクトが同じ思いだった。だから、各々、ノクスルーナに気を遣うことなくやりたいことをやり始める。

 

「いつか人類が涅月に手を掛けたら驚くね。地上よりボードゲーム文化が発展している、だなんて……誰も思わないよ」

「どうせですから、幻術込みの体験型ボドゲも色々開発していきましょう。ある意味でVRですね。電子機器が生まれないのに時代を先取りです」

「……将棋やチェスといった既存のものだけではなく、何かオリジナルの戦略遊戯を作りたくなってきたな。アダン、知恵を貸せ。他人となった以上はディベートも意味があろう」

「チェスを超えるとなると厳しそうですけどね……。完成され切っているので」

 

 ──こうして、涅月に出来上がった楽園は、末永く幸福を描き続けるのでした。

 

 彼女が地に墜つ、あの日まで。

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