序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
ウォロの細い目が、さらに細くなったような気がした。
その口が、重く開かれる。
「『王貴の決定』についてを教えるのは構わない。約束だからね。けれど、君とは何者であったのか、について、ここではっきりさせておきたい」
満を持して。
「僕が魔王に着任する十年前……涅月歴240年、第三代魔王リストリア・トランデッドの時代に、とある組織が活動を終えた。調べるのは大変だったよ。議会の老人方々の、本当にごく一部の存在くらいしか知らなかったその組織の名は、『悠遠の燈』。古くは第一代魔王ナタリー・"オーラ"・ゼンノーティの代に設置された組織であり、その役割は"魔王の是正"。魔王という席に着任した者が、真に魔王に相応しきかを影から見定め──基準に達さないのであれば、殺してでも魔王から降ろさんとする超過激組織」
うんうん。ナタリーには迷惑を……まぁ別にアレクを迷惑だとは思っていないが、俺の十万ストレイル分を借りパクされたままなので、濡れ衣を着せてみた。
しかし自分で書き残したものではあるけど、魔王の基準ってなんだよ。誰が満たしてたんだよ。誰が定めたんだよ。
「君はその『悠遠の燈』で、副長という座についていた……組織内では『海嘯』と呼ばれていた存在。──エリック・ブレイツマイトだ。君は組織がリストリアの手によって解体されたあとも、密かに魔王の監視を続けていた。そして……『王貴の決定』を読んで、次代の魔王にまで手を掛けようとしていた。そうだろう?」
「……お見事です。よく調べ上げましたね」
うん。まぁ。……やっぱり薄味。苦労が無いというかさ。証拠は後付けで散りばめたけど、主人公パーティもいないし、だから「そんな人だったのか……!」もないわけで。
カレーじゃなくて米の水煮を食べているというか。粥ですらないというか。
「本当に苦労したよ。老人たちも朧気な記憶しか有していないし、唯一繋がりを持っていそうなソレイラが今モゴイ丘陵にいるからね」
「ソレイラ? ああ、ヤンさんの隊の。彼女が……どうかしましたか?」
「そこはとぼけるのかい? 無理があるだろう。彼女の姓もブレイツマイトなんだから、繋がりを見出さない方がおかしな話さ」
……マディ?
いやいや、確か彼女の姓はザットゥだったはずだ。ちゃんと調べたぞ。
「彼女も君の仕事を知っていたのかな。わざわざ母方の姓を名乗って魔王軍に入団していたあたり、筋金入りってやつか」
「無関係ですよ。彼女は何も知りません」
「……成程。あくまで輝陰は自分だけ、かい。……それじゃあ約束通り『王貴の決定』についてを教えよう。ただしお願いがある。次代の魔王を手に掛けるのは……手に掛けようとするのは、やめてくれないかな。罪無き命の殺害者に君が成り果ててしまうことを、許容できそうにないんだ」
「それが条件だと言うのなら、良いでしょう」
「約束は守ってくれよ? ……それじゃ、『王貴の決定』とはなんなのか、から話そうか。たとえ君が知っている部分だったとしても、黙って聞いてくれるかい?」
頷く。マーこの交換条件はでっち上げみたいなもんだしな。
大人しくしてやるよ。
曰く。
「星詠み、夢見、歌遣い、曳航者、予言者。魔王国・人族の国を問わず、この世界には数多の"未来を視る力を持つ者"が歴史に寄り添ってきた。『王貴の決定』とは、彼らが見定めた、『歴史の転換点を担うモノ』の名前を刻んだ巨大な柱を言う。魔王としての任期中に何もしなくとも、その行いが世界を変えるのならば、刻まれる。第一代魔王なんかは好例だね。彼女は任期期間中、任期終了後、海難事故に遭った時、奇跡の生還を果たした後。そのすべてで特に何もしていないのに、その名は深々と刻まれている」
……いや。
そいつはとんでもないことをやらかしているから、当然だろうな。
「予知夢で魔王となった者。そして王族と貴族。そも、魔族における王族貴族は"歴史にブレを生じさせるために"生まれたのだから、当然と言えば当然だけど」
「……王族。私は会ったことはおろか、見たことすらないのですが、その正体を知っているのですか?」
「僕も見たことはないね。貴族ですら滅多に姿を現すものではないし。『王貴の決定』に関わらない王族・貴族は普通の魔族に紛れて暮らしているか、旅にでも出ているのだろうね。歴史をその名で撓ませることのできないのならば、王貴の血は呪い……枷でしかないのだから」
あの『王様』ですら、貴族だった。
王族というのが本当にいるのか、というのは眉唾だな、正直。そして貴族というのは、特殊個体魔族でないにも関わらず涅月由来の魔力を有している者達を指すらしい。
涅月があんだけポンコツ感溢れるというか、残念系な感じが否めなかったからそんな感じになる、ということはなく……今まで会ってきた特殊個体魔族以外の涅月由来魔力持ちを列挙すると……。
アンキア、連邦の執事さん、ナタリー、イリアちゃん、ザイラちゃん、アイン、キアステン、フィノ・ルンテーニくん、ギルドマスター、リチャード、あと多分覚えてないけど『魔女』もかな。
うーん見事にシリアス面子。
ポンコツ風味は……まぁ精霊二人がほんのりそうだけど、悲しい生い立ちだしなぁ。
血の性格を反面教師に育つとか? ……情報不足、だなぁ。
「とにかく、『王貴の決定』には、確かに君の求める通りの……これから先で魔王の席に着く者の名が刻まれているはずだよ。これで満足かい」
「ええ、まぁ。叶うことなら直に閲覧したかったですが」
「それは難しい。管理の重要度は『
「あなたが良いのなら、ですよ。私はあなたが基準から落ちたと判断したその瞬間、その命を奪います。そのような者を側においておく価値があるのか」
「じゃあ、これからもよろしくね。君は非常に働き者だし、有能だし、国民人気も高いから、君を解雇した時のデメリットの方が、命を狙われるリスクをはるかに上回るよ」
……まぁ、いいだろう。彼の任期終了まであと五十年。それまで秘書をしてやろう。
彼は結構信頼の高い位置にいるから、何かのタイミングで『王貴の決定』を目にする機会にも恵まれるかもしれないし。
「いやぁ、この十四日間気が気じゃなかったんだよ。君みたいな有能な部下を失うかもしれない、ってね」
「あなたは私がおらずともやっていけるでしょうに。……それより、ソレイラについて、本当に私とは関係ありませんので余計な勘繰りをしないように」
「わかっているよ。……しかし、そうか。あれほどまでにモゴイ丘陵調査隊の安否を気にしていたのは」
「ウォロ?」
「ははは、ごめんごめん」
というあっさいコントをしつつも、考えることはある。
エリック・ブレイツマイトは俺がセンバー・アークライトをアナグラムにして作り上げたスーパー偽名である。
だけどこれも……ゼンノーティやマイズライトと同じく、霊質を無意識に掠め取って名乗ってしまった名前であると仮定するのなら、ブレイツマイトにも何か強い意味があると見るべきか?
ドタドタという足音。
「魔王様! 緊急の報告があります!」
「どうしたんだい。言ってくれ」
「ハッ! モゴイ丘陵において調査を行っていた調査隊が、ホーロー・コンテイン大佐を連れて一時帰還いたしました! 大佐は酷く衰弱していますが、医師隊曰く命に別条はないとのことで……」
「本当かい? それは……良い報せじゃないか。緊急性が高いものには聞こえないけれど」
「ガーダロイ調査隊長から報告です! 腐敗竜シルヴィア復活の兆しアリ! 至急魔王軍精鋭をモゴイ丘陵に派遣されたし、と!」
……まーた竜ですか。さすがにワンパターン過ぎて飽きてきましたよ。「──ですよね?」がスーパーワンパターンってそれはそうなんだけど。
ああでも、もう「──ですよね?」が期待できないなら、ここで死ぬのもアリだなー。
医務室にて。
「まずはお帰りと言っておこう。そして、よくやってくれたね、ヤンくん」
「ほっとんど成り行きに身を任せただけですけどね……。一応ちゃんと報告しておきます」
ヤン・ガーダロイ曰く。
モゴイ丘陵の『
彼は発見したそれに『
そして、『
衰弱しきっていた大佐曰く、彼は『
これを放っておくことはできないとして、どうせ助からない命と悟り、自身を楔にして封印結界を作り上げ、そこから五十年あそこにいたのだと。
そして……ホーロー・コンテイン大佐を見捨てていくことができなかったヤン・ガーダロイたちが彼を救助する。その瞬間、魔力結晶体にあった紫色の魔力が腐敗竜シルヴィアに吸い込まれたかと思うと、最初に聞こえていた脈動が今度は腐敗竜シルヴィアから聞こえ始めた、と。
これを復活の兆しであると見た彼らはホーロー・コンテイン大佐を引き連れ、地底を脱出。倒したはずのアンデッドが悉く蘇っているのを見て失策を悟りつつも、意識を失った大佐を連れて魔王国まで帰ってきた、と。
「申し訳ねえ。リスクリターンをわかってなかった。俺達の勝手な行動が……魔王国を、ひいては世界を危険に晒した可能性がある」
「いいや、君達は間違っていなかったよ。命を楔にした封印結界なんか、いつかは壊れるものだ。だったら早めに処理した方がいい」
思うところは勿論ある。
命を犠牲にした封印結界。『
が、そんなことは後で考えるとして。
「──兄さん」
「……なんだ」
この医務室に入った時点でわかってはいた。
ソレイラ・ブレイツマイト。そう名乗る彼女が誰なのか。
そいつは俺に対して「兄さん」なんて言葉を使う。話を合わせろ、という合図だろう。
「兄さんが本気を出せば、竜の一匹や二匹、簡単に倒せるでしょ」
「莫迦を言うな。私の専門は魔族であって魔物や竜ではない。……お前は今、どこまでやれる。どれを使い得る」
「やろうと思えば、いくらでも?」
……はぁ。あーあ、やっぱりフラグだったわけだ。
こっから五十年秘書生活も良いと思ったんだけどなー。
「ソレイラ、何の話だよ」
「なにって、シルヴィアを倒す話だけど。軍を編成している時間なんて無いから、私らだけで片付けようって話」
「それが何の話だっつってんだよ。……つか、センバーさんが……兄さんって、なんだ?」
「言葉の通りだけど。わけあってファミリーネームは違うけど、センバー・アークライトは私の兄だから」
肩を竦めておく。本当に勝手を言ってくれる。
それとも、俺が濡れ衣を着せることをわかっていてそう名乗っていたのか?
「センバーくん。ソレイラくん。そう自分たちだけで背負い込むことはないさ。魔王軍は屈強な軍隊だから、それこそ竜の一体や二体、どうってことないよ」
「悠長な言葉を吐くね、魔王様は。腐敗竜シルヴィア……アンデッドであり竜である、まず間違いなく災厄の類の一つ。加えて元のシルヴィアではなく外部から注入された魔力で強化に強化が為されている個体だよ? そんじょそこらの魔族じゃ時間稼ぎにすらならないって」
「おい、魔王様に失礼な口利くな!」
「いや、いいよ。……そのとんでもない竜を、君達兄妹二人ならばどうにかできると、そう言うのかい?」
はぁ、すっかり兄妹扱いだ。
誰がこんなやつと。
「できる。兄さんが頷いてくれたら、だけどね♪」
「……はぁ。ウォロ。『
「それならダメだ。多少被害が出たとしても、君達二人が確実に生還できる術を取ってほしい」
「その多少の被害に、私達でない魔族兵方々の命が含まれていたとしても?」
「しても、だよ。僕は魔王だから、命の優先順位をつけさせてもらう。心苦しくも勝手ながら、ね」
そうか。
なら、仕方がない。
「不合格です、ウォロ。戦乱の時代ならばともかく、平穏な時代にその考えの魔王は基準落ちです。──
凍らせる。ウォロを……その口が何かを紡ぐよりも早く。
「冷たくないけれど、一日経たなければ
「……センバー、さん」
「魔王様を頼みましたよ、ヤン・ガーダロイ。そちらで気を失っているレイネーさん共々、ウォロを支えてやってください。彼、優しいので、私とソレイラの損失を重く受け止め過ぎるでしょうから」
「え、ちょっと兄さん、私まで失われちゃうの?」
「焚き付けておいて逃げる気ですか?」
「……ちぇ。このポジション楽しかったのに。じゃあね、ヤン。レイネーとお幸せに」
彼が何か言う前に、ソレイラと共に医務室の窓を開け、飛び出る。
さーて、最後のお仕事に向かいますか。毎度毎度、そろそろ顔なじみになってきた竜さんのもとへ、ね。
モゴイ丘陵。丘陵地帯に砂漠地帯が重なっている、なんともおかしな見た目の場所。
そこに……これでもかという量のアンデッドと、さらに後方には紫色に染まりつつある元灰色の竜が佇んでいるのが見えた。
「で? 大人しくついてきはしたが、本当に死ぬつもりなのか?」
「どうでしょうか。死なずに仕留められるのならそれが一番なのですが、今、私に心臓が無いので、それも難しいかもですねえ」
ソレイラ・ブレイツマイト。なんてどこかの誰かさんじゃあない。
「ナタリー・"オーラ"・ゼンノーティ」
「はい、なんでしょうか、『院長』さん?」
というわけだ。涅月歴10年から今に至るまで、名を変え顔を変え、生き続けてきた元魔王、ってやつ。
「確認するが、お前は『
「ええ、そうですよ。ただし魔力に関しては三種類使えます。未来の賢者さんと同じですね」
「俺はその賢者とやらを知らんが、ふん、まぁ今回は涅月由来にしろ。奴さん、協力姿勢なんでな」
「奴さん? ……まさか涅月とコンタクトを?」
「ああ。友を与えてきた。その礼に、涅月の魔力を好きなだけ使っていいそうだ」
「……アレクさんじゃないですけど、進歩の段階をすっ飛ばす癖、やめられませんか? 私はただ眺めているだけですけど、追いつく子たちが可哀想でなりません」
知ったことかよ。あの時も言ったけど。
それにこれは進歩っていうか、ちょっと優しくしたら懐かれた程度のアレだしな。
「……どうせだ、派手にいくか、ナタリー」
「いいですね。大好きですよ、そういうシンプルなの」
丘にしっかりと立ち、ナタリーと背中を合わせ、右腕を前に出して、右手を立てる。
裏面にいるナタリーが鏡合わせのポーズを取ったことを確認。
「これは1378年後に得た知見だが、竜を殺す場合は、その根源たる魔力を集中的に削り取ればいいみたいだ。肉体の消滅は竜の生命反応に一切関係ない」
「成程、つまり私達はひたすら蛇口に徹底すればいい、と」
「蛇口ねえ。竜が蛇に負けるわけだ。滑稽だな」
──涅月に接続する。
瞬間、俺の毛象の魔族としての体毛が真っ黒に染まった。そのパスをナタリーに渡せば、彼女は自身の変装らしきものを解く。
そこにいたのは、どこかキアステンを彷彿とさせる……黒髪黒目の少女。いやまぁ黒髪黒目の少女なら多分俺は誰を見てもキアステンを思い出すんだろうけど。
「思考リソース削減。……
連邦でのそれやソノヴァキアでのそれなど、今まで培ってきた魔法に関する様々をつぎ込んでいく。
「肉体的禁忌領域解除。周囲30athlに生命反応なし。魔力飽和率100%に到達。砲撃魔法、発動プロセスへ移行」
黒き月光が周囲を満たし始める。それらは雷鳴のように地を抉り、大気を叩く。
「精神負荷がとんでもないんですけど。やっぱり『
「それはお前が天を愛していないからだ。霊質を自覚しているのなら、愛し返せ」
「……いいんですか? 私に助言、だなんて」
「ふん。ここで死にゆくつもりなのだろう? まぁ、そうでないにしても、一度あの教戒院に籍を置いた者を、俺が不当に扱うはずがない。どれほど個人的に苦手な相手であっても、な」
「……そういうところ、本当に親ですよね、あなた。──"オーラ"。私をまだ愛してくれるのならば、あなたに愛を返しましょう」
一気に様々な部分が安定する。おら、安定したならもう少しこっちの制御持っていけ。
「『
「わくわくしますね。私、この規模の魔力を扱うのは初めてです」
「3、2、1……
俺達の肉体をコンデンサに、腕を主砲バレルに見立てて行う涅月魔力の砲撃魔法。
極大にして莫大。モゴイ丘陵の全てを覆い尽くすレベルの魔力砲。
当然──俺達の肉体も崩壊を始めるけれど、治癒魔法をフルスロットルでかけて保たせる。
「命中確認。標的の魔力減衰を確認。続けるぞ」
「淡々としてますねえ。この範囲とはいえ、この距離で直撃させられたことをもう少し喜べばいいのに」
「喜んで何かが得られるなら喜ぶさ。……魔力波形に乱れはないが、奴さんも相当だな。まるで削れた気がせん。薬にもしたくない量だ」
「魔力結晶体と押し合い勝負をしよう、というのがおかしな話なのでは?」
「元も子もないことを言うなよ。……
砂を、地を這い、大気を波打ち、魔力砲直撃による反動波が俺達を襲う。砂が逆立ち、風が轟々と唸る。
……まてよ? これが来るってことは、つまり最短ルート以外なら……。
「ナタリー。今から俺は、さらに一歩を踏み出す。失敗したら……まぁ、モゴイ丘陵が地図から消えるくらいだ。安心しろ」
「わぁ何も安心できない。いいですよ、好きにやってください、兄さん」
「兄であるつもりはないが。──遠隔解膠加工」
魔力反動波の伝ってきたところから解析し、魔力マニピュレータを2,285kathlはあろうかという奴さんにまで届かせる。
それくらい遠隔で行う、魔力結晶体の解膠。『災晶』相手にできたことがなぜあれにできないというのか。
かっぴらいた左手に集中していくは魔鉱石だ。さらにそれを凝集加工によって魔晶石にしていく。
「……魔力結晶体を魔鉱石にするだけでも大分禁忌ですけど、魔鉱石を魔晶石にする技術、ですか。……教戒院で魔力マニピュレータに関する概論を聞いた時まさかとは思いましたが、さてはそっちが先ですね? 魔鉱石を魔晶石にする方法を見つけたから、それを簡易的に行いうる魔力マニピュレータという技術を作った。違いますか?」
「素晴らしい推理だナタリー・"オーラ"・ゼンノーティ。お前は小説家になった方が良い」
この魔晶石の魔力を用いて行うは、あの魔法だ。
「二倍。四倍。八倍。十六倍。三十二倍……」
「うわー、なんですかその魔法。面白いですけど効率がアホですね。誰が考えたんですか」
「エルフだよ。見たことあるか?」
「御伽噺の一員とまで面識があると? ……しかし、御伽噺のエルフが考えたにしては、なんというか雑な魔法ですねえ。……こんな感じですか? 二倍、四倍、八倍……」
かける対象は放出している魔力だ。
これにより、とんでもない規模の魔力放出が可能になる。──そして竜の魔力減衰が火を見るよりも明らかになっていっているのがわかった。
腐敗竜シルヴィアくんはもう何もできていない。最初こそブレスを吐こうと口を開けたように見えたけど、その口も極大魔力によって破壊されていた。
やがて……三十二倍が二門並ぶ。
極大光線。最大範囲にわたって破壊の限りを尽くした、魔族という魔力依存生物だからこそできる荒業。
この砲撃により、『
……モゴイ丘陵の地に、とてつもない傷跡を残して、だが。
「疑似魔力炉心冷却行程へ移行。接続終了。標的の魔力反応、生体反応共に消失。対象の討滅を確認」
「流石涅月。魔力に一切の衰えは見られませんが……私達が限界ですね」
「それと、モゴイ丘陵全域に高濃度の魔力が散乱してしまったな。魔族は勿論、人族ですら酔うぞ、これは」
「あー。……その旨を伝えるコンストラクトを飛ばしておきましょうか」
言いながら……コンストラクトを編もうとしたその腕が、ぶち、と嫌な音を立てて、落ちた。
肉体がもう肉体機能を失っているらしい。涅月の魔力に内側から灼かれたって感じだな。
「タイムリミットですか。……一般魔族になって国外の調査をするの、楽しかったんですけどねー」
「別にお前、死なんだろう。また別の誰かになると見ているが?」
「どうしてそう思うんですか? 私はただの元魔王様ですよ」
「魔族における宗教。転生の概念が誰から生まれたものかと考えた時に、そういう体験をした魔族がいると考えた方がしっくりくる。……それに、お前がアレクに渡した心臓は、恐らくお前と密接なかかわりを持つものだ。あれが生きている限りお前は死なないとかそんなところじゃないか?」
つまり、あの時代にもナタリーはいたのだと。
誰だったかは知らんがね。
「お互い崩れる前に、問うておこうか。お前の目的はなんだ、ナタリー」
「ん~、長生き? とりあえず二千年を生きてみたいんですよ。そして……未来で、生まれてくる自分に会う。それが目的です」
「お前が生まれたばかりの頃に、お前らしきものとは出会わなかったのか?」
「魔王になる前の私はのほほん少女だったので、覚えてないんですよねえ。……とにかく、そういうことで、あなたには期待をしているんです。──災厄を打ち負かすことのできるかもしれない唯一の存在があなたですからね。あなたがどうにかしてくれないと、紫輝歴770年に起こる災厄で……アレクさんも、その他あなたが子に思う方々も、全員死んじゃいますよ~?」
涅月歴770年と紫輝歴770年に必ず起こる、災厄。
いうて……カズラ君とかもその頃には老衰で亡くなっているだろうし、どうでもいいっちゃどうでもいいんだが。
アレクは、どうするのかね。俺と出会って……その後、どうしたいのか。
「それではお先に失礼します。あなたの目的は、あなたと再会した時に改めて伺いますよ。──またね、兄さん!」
「はいはい。また会いましょう、愚妹」
妹だとは絶対に認めないが。
……俺も崩れて、この時代とはさようなら、だ。
***
今はまだ、涅月は、黒く輝き美しく──。