序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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71.捧げられた数理の変改

 報酬、一人につきストレイル金貨四百枚。及び、宮殿周辺に各自の持ち家を与える。

 

「素晴らしい羽振りの良さダ・ネ。流石は王家。ストレイル金貨百枚で持ち家一つは買えるわけだから、実質五百枚ン・ダ・ネ」

「……あたしは生きてて……宮殿付近の家なんてものにありつけるとは、全く考えてなかったよ」

「野宿か宿屋しか経験に無いが、自らの家があると言うのはどういう感覚なのだろうな!」

 

 とんでもない報酬である。この時代のストレイル金貨は、一枚あれば二、三か月は働かずに過ごせるくらいの金額だ。

 それが四百枚と考えれば、まぁ、この先もうトレジャーハンターをやめたって、という話。

 

「しかし、こうなると『深淵の瞳』は解散かい?」

「え。……なんで?」

「砂にまみれて魔物と戦って、ストレイル銀貨にも満たない財宝を見つけ出して、……なんて生活をする必要がなくなったからさ。あとの人生は平穏に暮らしていける」

「まぁ、そうだなぁ。俺たちはともかく、ルミアは子供なんだ。自分の生きたいように生きたっていいんじゃないか、とは、思ってしまうな!」

 

 フードで見えないけれど、多分絶望の表情になっているルミア。

 ……ま、トレジャーハンターなんて一過性の熱病みたいなものだが、さて。

 

「三人は……やめる、の? トレジャーハンター」

「ボクは続けるよ。そもそもボクは、お金のためにトレジャーハンターになったわけではないから・ンネ」

 

 まだ「──ですよね?」されていないのだからやめるわけがない。

 

「俺もだなぁ。盾というものに出会い、剣や槌ではなくこれを極めることにした俺の人生において、戦い以外の場に身を置くこと自体があり得ない!」

「あたしだってそうさ。別に裕福な家庭で生まれたわけじゃないけどね、地味な生活に飽き飽きして日常を飛び出してきたんだ。金が入ったからってやめるわけない。……ってことは、ありゃ?」

「……なんだ。おどろいて損をした。みんな、やめないんじゃん。ディミトリのばか」

 

 金目当てならとっくに解散していただろうしな。俺達結構金は持っている方だし。

 

 そういうわけで、『深淵の瞳』は続行になったのである。

 

 

 して……王家宮殿地下。

 この『ルメンタルプリズンアイ』を見つけてきた者であることを考慮して、特別にその「立ち合い」の場に招かれた俺達である。

 目の前にあるのは、外装がところどころ壊れている『ルメンタルプリズンアイ』と──それの時を戻したかのような、傷一つないもう一つの白い箱。

 ガルズ王が一歩前に出て、その箱を見るよう皆を促す。

 

「これは、王家に伝わる秘宝、『ルメンタルプリズドノア』。元々一対の魔道具だったようなのだが、なぜかこちらだけしか残っておらず、長い間この魔道具は使用法すらわからぬままに伝えられてきた」

 

 非常用・設置式扉(ルメンタルプリズドノア)、ね。

 じゃあ俺の考察は多分正解だな。刻まれている刻印式も完全に『穿孔式結界陣(バウンダリースピルアウト)』だ。いや完全に、は嘘か。九割がただ。改良した痕跡がある。

 

「二つの箱が揃いし時、ガルズ王家は再び栄光の煌めきに包まれるだろう。……それが、災厄から逃げ延びた王族の遺した言葉だ。……準備は、いいかね」

 

 それは「早いところ入り口の魔道具回収してくれよ」って程度の言いくるめだろうなー、とか思いつつ……『ルメンタルプリズンアイ』の取っ手が引かれるのを見守る。

 皆が注目する中、それが──トリガーされて。

 

「……? 何も起こりません……ね?」

「やはり……伝説は伝説か」

 

 ネムリの言う通り、この場には何も起きていない。

 けれど。

 

「……ヘンリー・エカスベア。キミ、さては……天才だね?」

「ディミトリ?」

 

 ヘンリックの子孫、というだけではなかったのか。

 いや、そうか。アレクやアルカたちが協力したとか言ってたっけ? だとしても……マジで天才の発想だが。

 俺が遺してきたもの全てで合作アレンジするとか、合唱動画でもアップロードした方がいいぞ。

 

「ガルズ王。失礼ながら、発言を許してもらえるカ・ナ」

「無論である。礼を失したなどとは思わぬよ。どうしたのだね、ディミトリ殿」

「外へ出てみた方が良いね。さっき少し揺れがあった。それも地震ではなく、空間震の方だ。──きっと外には、とんでもない光景が広がっているヨ」

 

 疑問符を浮かべる王族方々、そしてルミアたちを引き連れ、地下を出て、外へと出れば。

 

「──な」

「え……え?」

 

 そこには──ガルズ王国が広がっていた。

 

***

 

 紫輝歴769年末……。

 国立ソノヴァキア魔導科学研究所にて。

 

「改めて説明をします。この異界再現結界陣『偽・永遠の子供時代(エルヴァホイ)』を展開すると、その時点の外界を、装置を起点に半径5.7kathlだけ写し取って異界を生成します。この空間には理論上どのような災厄も現れませんが、こちらの展開陣が破壊されてしまうと強制的に異界から吐き出されてしまいます」

 

 ガルズ王国王家、エリスフィア帝国皇帝家、ハンラム王国王家など、人族の高貴なる血脈たちに対し、まるで教鞭を振るかのように講義を行っている青年がいた。

 彼の名はヘンリー・エカスベア。曾祖父、エカスベア魔導博士の再来とも呼ばれている、稀代の天才の一人である。

 

「こちらの『ルメンタルプリズドノア』で外に出ても同じです。異界再現結界陣を刻んである『ルメンタルプリズンアイ』を探し出し、再起動しない限りは、同じ異界に入ることはできません。即ち異界で何かを作ったり、保管したりしても、あまり意味が無い、ということです」

 

 災厄の差し迫るこの時で、人類は必死に生き残る術を探していた。

 和平を結んだ魔族から、涅月歴770年に起きた災厄についてを詳しく教えてもらったから、というのもある。これにより、この、異界というシェルターに避難し、災厄をやり過ごす策が生まれたのだ。

 

「そして……ここからが、『博士の博士』という名の天才に対し、僕が突き付ける挑戦状になります。非起動状態の二つのルメンタルを並べて置いて、特定の魔力に反応させることで……この写し取った時点の異界を、現実世界に上書きする魔法陣が発動します」

「上書き……」

「ハンラム王国の方々にとってはわかりやすいでしょうか。絵を上から塗り潰すと、その行為に等しいことが起きます。必ず人々を退避させたうえで行ってください。また、ルメンタルが酷く破損していたりしても魔法は成功しませんので、ご留意を」

 

 その後二、三の説明をして、説明会は終わりを告げる。

 王族に用意された「逃げ道」。これを上手く使えるか、という部分に関して、ヘンリーのできることはここまで。

 あとは天命に祈るしかない。

 

 

 ふぅ、とひと息つくヘンリーに、紅茶の注がれたカップが置かれた。

 

「ああ、ありがとう、キアステンさ……。キアステン」

「いいのよ。お疲れ様。……にしても、あなたって本当に天才なのね。初めて会った時はちょっと心配だったけど」

「まぁ……刻印に関しては、アルカさんの助けがかなりあったし……異界で現実を上書きする技術に関しても、連邦の天才の技術をそのまま拝借させてもらった感じだから、僕のアイデアはほとんど入ってないんだけどね」

「連邦の天才?」

「知らない? ハウル・ハーミッドっていう、薬学界の異端児。幼くして亡くなったらしいけど……瀛毒を完璧に駆逐した、どころか、ほとんどの病・毒素に対する万能薬『恵蓼剤』を作り上げた、僕なんかこの先を生き延びたって追いつけなかっただろう大天才さ」

 

 出てきた名前に驚くキアステン。知らないわけがないのだから。

 

「本当は黒靄(ダークミスト)っていうのを駆逐した時に使ったっていう魔法の詳細を知りたかったんだけどね……。その作戦のもとになったっていう『恵蓼剤』でも、十二分の価値があった。元の細胞を捕食し、正常な細胞を模倣し、代替品となる。使うごとに魔族に近付いていくことから、一部じゃ魔薬なんて呼ばれ方もしているこれだけど、この理論はもっともっと広くに拡張できるんだよ。それが今回の異界再現結界」

 

 世界を食らいて代替する。

 それが人体結界の中で起きるか、『永遠の子供時代(エルヴァホイ)』の中で起きるか。違いはただそれだけだ、と。

 

「知っている、というか……会ったことあるのよ」

「それは、羨ましいね。『博士の博士』もだけど、僕は天才というのに巡り合ったことがない。成果物はこれだけ利用させてもらっているのにさ」

「そこまで特異な子じゃなかったと思うわ。愛国心や正義感が強いわけでもない。……ただ、自分にできることを、しないでいる、というのが……我慢ならない子だった。私より私の夫の方が親しかったんだけどね」

「ああ……アンキアさん、だっけ? 四つ前の魔王様」

「そ。アンキア・"カルストラ"・バリムケラス。豹の魔族の寿命限界って言われている百五十年を十年通り越して百六十年生きた、心優しき魔王様」

 

 紫輝歴631年の中頃あたりで、彼は天寿により、静かに息を引き取った。

 キアステンはその日のことをずっと覚えている。悲しい記憶ではなく、あれだけの凄惨を目の当たりにしながらも、安らかな面持ちで逝くことのできた最愛の存在への、大切な思い出として。

 

「人族は六十年生きたら長生きな方だからね……。どれほどの凄さなのかはわからないけれど。……けど、そっか。もしかしたらキアステンさんに聞いた方が早かったのかな……」

「もしかしてわざわざ『恵蓼剤』を買ったの?」

「うん。安くはしてもらったけど……世界の終わりにストレイルを持っていったって、仕方ないしね」

 

 元は災害だった『永遠の子供時代(エルヴァホイ)』。そこを行き来できるようにした『博士の博士』なる存在。ヘンリーの曾祖父は彼の名を知っていたようだったけど、どの記録にもその名は記されていなかった。恐らく尊重を持った結果なのだろう。

 エリスフィア帝国が当時彼らを……目の前のキアステンを含む七人を描いた絵には、成程生き写しと言われるだけはある、青年期の曾祖父が、『博士の博士』と親しそうに映っている。

 もしハンラムの潜在主義がこの時代にもあったら、もっと多くの絵が残っていたのやもしれない。あれはその場その場を写し取ることに長けた画法だから。

 

 そして連邦の天才、ハウル・ハーミッド。万能薬『恵蓼剤』を一代……というか数年で完成させたこともそうだが、「薬に刻印魔法を使う」という概念は、魔導医学界、魔導薬学会を四十年は未来へ進ませたと言える。

 ヘンリーにとって医学は専門外であるけれど、刻印魔法の、及び魔道具の権威として名を馳せたのだ。それくらいの知識はある。

 

 彼らだけではない。ここに至るまで、歴史には数々の天才がいた。ブレイクスルーを起こした者達がいた。

 後世の誰もが彼の著作を参考にしたとされる竜の研究者にして『竜体の叡秘』上下巻の作者、ロイド・ルカス。

 複数の国々を渡り歩き、災厄からの復興を援助し、さらには世界から約五百年間竜災を消し去ったと言われている賢者、トラッド・ユニト。

 食事から戦闘能力や思考能力をすら発達させる、という概念を生み出した、アスミカタ帝国の天才料理人、瓜良兼継。

 ヤーガーのレリックと呼ばれる魔法刻印装飾をばらまき、そして自ら回収することで裏社会を一掃した、『大怪盗』としても知られる存在、ヤーガー・シンプトム。

 帝国の『永遠の子供時代(エルヴァホイ)』事件をほとんど一人で解決した『博士の博士』。

 連邦に生まれ、医学界を四十年以上進ませたと言われている少年、ハウル・ハーミッド。

 魔鉱石による武具と防具の加工技術を確立させ、魔晶石にさえ手を届かせた、平和と兵器の父、シュライン。

 

 たくさんの天才がいた……いたけれど、ヘンリーはその誰にも会ったことがない。残念ながら、だ。

 

「羨ましいよ、素直に。僕も……その時代に生まれていたかった」

「……でもあなた、【マギスケイオス】には遭っているでしょう。一応彼らも世界でたった十二人の魔導士たちよ」

「彼らは天才というか、狂人だからなぁ……」

 

 ヘンリーが会ったことがあるのは『不死』、『全開』、『財宝』、『観察者』、『最小限』、『別界』の六人だけだが、誰も彼もがとんでもない才能の持ち主たちだった。……が、なんというか、その、性格があまり一般受けするものではないというか。

 彼は頭を振るう。これ以上は不適切な言葉しか思い浮かばなかったからだ。

 

「……」

「……ヘンリー?」

「……キアステン。生き延びるつもりなら……いますぐ出発した方が良い。僕は、王族たちに知らせてくる」

 

 出しかけた言葉を飲み込んで……顔を蒼褪めさせて、彼が言う。

 ──遅れて、キアステンの感覚も、それを捉えた。

 

 地鳴りに近い──轟くような咆哮。

 肌の粟立つ感覚は、つまり、そういうことだろう。

 

「諦めない。絶対……生き延びてやるんだから」

 

 世界の、文明のリセットが、すぐ後ろにまで。

 

***

 

 涅月歴70年。その年、ガルズ王国が繁栄のチケットを手に入れる。

 一夜どころか一瞬にして現れた、「災厄前のガルズ王国」。生物や魔道具の類の一切が残っていなかったけれど、建築様式や治水工事の痕跡など、役に立つものは数多くある。

 国を蝕んでいくばかりだった砂漠の大部分が消えたことも大きい。これで、マイナスからのスタートから、スタートダッシュを決めた、というところまで戻ることができたと言える。

 

 豪華絢爛と言えた宮殿も、こうなってしまえば古代遺跡のそれだ。よって王家は元ソノヴァキア城にお引越しをしたし、俺達の新しい家もその周辺にある家から選ぶ、ということになった。

 ……のだが。

 

「お! 見なよ、鏡だ! こりゃあ高く売れるね!」

「ガッハッハ! やはり俺達はこうでなくちゃな!!」

「うん。へいおんな暮らし、似合わない」

 

 みんなマージでテキトーに選んで、上書きされなかった外周の砂漠でトレジャーハンター稼業を楽しんでいる。

 トレハンから足を洗う探検者も多い中、だ。報酬のことは知らされているから、奇人変人を見る目が集まっているけど、知ったこっちゃない。俺達は生粋のトレジャーハンターなんでな。

 

 ……という、傍から見れば「そうして末永く彼らはトレジャーハンターを続けたのでした」なんてテロップの流れそうなところに、前と今とで、一つ変わった要素が。

 

「これ、なんですか? メリアートさん!」

「ん? ああ、こいつはミズタメサボテンって言ってね。まぁ正式名称じゃないんだろうけど……こうして、矢やナイフで果肉を切ってやると」

「ひゃあ!? み、水が噴き出しました……!」

「さばくを行くときの、大事な飲みもの。ほのかにあまい」

「そうなのですか? ぺろ……ほんとだ、ちょっぴり甘い。……どうしてだろう」

「どうして、か。ガッハッハ、確かにどうしてだろうな! 理屈を考えたことはなかったが、興味深い視点だ!」

 

 えー、ネムリ姫です。『輝耀の姫君』さん。

 やんごとなき方が、気持ち程度の変装をして……俺達の探検に混ざってきているのである。

 

 ええ。説得しましたよ。ナルシを一時的に捨ててでも王と妃に、危険ですよと。無理矢理にでも引き留めてください、と。

 そうしたらなんですかあの方々。「ディミトリ殿が側にいてくれるのならば問題あるまい」とか「ええ、ええ、私達は純血とかそういうの気にしませんからね。ぜひ、くっついてくださいね」とか……。娘が心配じゃないのカネ!!

 ……あまりに興奮して『博士』が出てしまったが。

 

 そんな感じで彼女がいる。……俺一応ちゃんと「キミが目指したいのは探検者じゃなく冒険者」っていうの言ったと思うんだけどなぁ。

 つーかこのままだとアルカの二の舞になりそうなんだよな。つまり、目の前で「『輝耀の姫君』……ですよね?」が発生しそうでさぁ。実力「──ですよね?」じゃないから嫉妬はしないけど、俺のための天命が消費されちゃう感じがさぁ!

 

 なんか俺以外の三人は歓迎ムードなんだよな。わかるよ。王家との食事会の時、あれだけ目を輝かせてトレハン冒険譚を聞いてきてたんだ、気持ちよくなるのもわかる。

 でもさぁ。危ないんですよこれ。遊びじゃないんですよ。

 

「とぁっ!」

「おお、上手いじゃないさ、ドルミーレ! デザートブルースネイクの首にナイフを刺すなんざ、始めたての探検者ができていい芸当じゃないよ!」

「護身術で、投げ技と短剣術は少し習っていましたので……」

「投げ技。こんど教えて。やってみたい」

「ガッハッハ、投げか。しかし俺のように体躯の大きなもの相手には通じんぞ!」

「いえ、そんなことはないですよ? こうして──こうして、こう!」

「のわぁぁああ!?」

「すごい。ヒーサーアーサー、体重51atmsはあるのに……なげた」

「腰が入ってないからさね! けど良いよドルミーレ! そのままあそこで黄昏ている馬鹿も投げてやんな!」

 

 ドルミーレ。ネムリ王女の偽名である。

 い……いのかなぁ。大丈夫なのかなぁこれ。一応少し離れたところに護衛さんはいるっぽいけど……大丈夫? 俺達マージで危ないトコいくよ?

 

 投げられながら、空中で美しく回転し、目を瞑って髪をかき上げ、着地する。

 

「ふふ……キミのように可憐な女性に振り回される、というのも男子冥利に尽きる話だ・け・ど……ボクはそこまで軽い男じゃないのサ・サ・サ……」

「けいはくな男だよディミトリは」

「……ルミア。キミの気持ちは嬉しいけれど、その告白は……受け取れない。なんたってボクには百万人の愛を受け止める使命があるか・ラネ!」

「しね」

「ストレートな罵倒!?」

 

 まぁ……なんとかなるか。考えごとをしながらにはなるけど、守ればいい話だし。

 にしても、この時代の言葉は継詞基語が多いから日本語的なボケがしやすくていいな……。

 

 

 そんな感じで月日が過ぎていく。

 俺達はいつの間にか五人パーティとして認識されるようになっていて……そこからさらに時が。

 

「ディミトリー。これ、鍵を開けてくれ」

「もちろん」

 

 遊撃がネムリ……ドルミーレになったので、俺は専ら回避タンクのような役割をすることが多くなった。耐久タンクと回避タンクの二枚盾になったことでパーティの安定感が増したし、ドルミーレを通じて……ほんっとーに何を考えてんのか、魔物討伐の依頼が直接俺達に届くようになって、名実ともに「冒険者」みたいになってきている。

 それで俺達のトレジャーハンター熱は終わらない。

 俺が今回「──ですよね?」を起こすために極めたこと。その応用たる鍵開けの技術で、財宝の鍵という鍵を全て開いていく。

 物理鍵は五秒かからない。魔法鍵も二十秒くらいでいける。スーパー鍵開けスペシャリストだ。

 

「本当に器用ですよね、ディミトリさんは」

「確かにボクは綺麗だね」

「言ってないですね」

 

 このように、あの日の夜の夢はさっぱり忘れたか、あるいは俺を俺として認識していなかったか、ドルミーレからの俺の扱いもどんどん酷くなっていっている。誰も優しくはしてくれないのである。

 

「っと、ルインズバタフライのお出ましだ! こいつの鱗粉を吸うんじゃないよ! 毒だからね!」

「クラウン=ビューティフル? ハハッ、わかっているよ」

「最近耳悪くなりすぎだね! ……ってバカ、鱗粉を吸うなって!」

「大丈夫。ボクは毒耐性があるからね。効かないよ。──蜃斬」

 

 遺跡の中にだけ出る蝶の魔物を細切れにする。鱗粉? そんなもの効かないネ。

 

「……どうしてディミトリさんには毒が効かないのですか?」

「ボクが完璧な存在だからサ!! 完璧で、完成された──」

「ディミトリがふだん咥えているばら。あれには毒がある。今のりんぷんよりずっときけんな毒が。……それを咥えているから、きせきてきに耐性ができた……と、思う」

「ガッハッハ! ちなみにオーガ族だろうと舐めるだけで昏倒する毒だぞ! 絶対に真似するなよ!」

「……どうしてディミトリさんはそんなものを口にしているのですか?」

「ふふ……バレてしまっては仕方がない。そう、毒耐性をつけるためなのサ! ボクはシーフだから、自分で毒を武器に塗ることもある。その時、自分の毒で自分がやられちゃ世話ないから・ンネ!!」

「ちがう。ただのおしゃれ。おしゃれにはみえないけど、ほんにんはおしゃれだと思ってる」

「薄々気付いていましたけど、ディミトリさんっておばかさんなんですね」

 

 して、戦闘中にかちゃかちゃやっていた財宝の鍵を放って、宝箱を開ける。

 中にあったものは……お、魔道具じゃーん。……ついでになんか日用品が詰まっているから、誰かのトランクケースだったのかもな。

 

「ん、なんだいそりゃ」

「……携帯用の鍋、カナ? どこでも温かいスープが飲めるって類のものダ・ネ」

「ほう! いいじゃないか!」

「ディミトリはなんでそんなに魔道具にくわしいの。ぼけふよう」

「フッ、それはボクが全知全能だから、サ・サ・サ……!」

「ディミトリさんは、本当はすっごい魔法が使えますから、その知識だと思います」

「すっごい魔法?」

「ええ! 空を覆い尽くすほどの魔法です!!」

「……ディミトリにゆめを見るのは、やめたほうがいい。ひげきを生む」

 

 このように、覚えていないわけではない……というかちゃんと覚えているっぽいんだけどなぁ。

 あの日の妖精さんなんだから、もう少し扱いをさぁ。

 

 ……みたいな感じで、五人の珍道中は続いて。

 

 そして、ある日。

 

「──見つけたぞ、ディートリヒ」

 

 その時が、来るのである。

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