序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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74.『ライツ! 湯に煙ふは見覚えのある人影たち2』- 試作没入版殺人推理遊戯

 被害者、カリアン・V。

 物言わぬ姿となり果てた彼は、露天風呂の中で溺死していた。

 

「そんな……カリアンさん……。うち、あんたのこと苦手でしたけど……死んでほしいとまでは……」

「あれほど酔ったままお風呂に入ったら、そういう事故が起きるのだって目に見えていたわ。なのだわ」

「事故?」

 

 あなたはその言葉に引っかかる。

 

 現場を見る。この旅館は現場の露天風呂を凵の字型に囲うように作られている。

 昨晩あなたが通った廊下を含めて、どこからでも露天風呂を見ることができるつくりだ。露天風呂へは湯着を着用して入る形になっていて、凵の左右辺に男女それぞれの脱衣所が存在している。

 

「周囲ではなく、露天風呂自体を注意深く見るだろうね」

 

 あなたが露天風呂を注視すると、幾つかの気になる点が挙げられた。

 一つは深さだ。

 天然の露天風呂であるから、深さは人が利用することを考えたものにはなっていない。だいたい0.57athlほどだろうか。

 あなたはそのまま、宿泊客たちの身長を確認するだろう。

 まずニツァ=Hは0.85athlほどだ。隣にいるN・ルーナは0.92athleほど。

 

「彼女らは恐らく可変だと思うのだけど、そのあたりは考慮しないんだね?」

 

 考慮しないため、次を見るあなた。

 トム・Yが1.03athlほどで、一番高い。参考までに、あなたの身長は1.01athlである。

 

「女将さんとカリアン君は?」

 

 ジュノ・Nは0.9athl、カリアン・Vは0.98athlである。

 

「……つまり。私が昨日見た、向かい合って並んでいる二つの影は、女性陣である、という可能性が高いといいたいのだね。最初に見た一人でいる影がカリアン君ならば、彼より身長の高い者は私やトム君は容疑者から外れるわけだ」

 

 このまま何も無ければ──。

 

「いやいや、まだ全く見えていない。次に、被害者が抵抗したような痕跡が無いかを調べたいね」

 

 あなたは、あなたの趣味が探偵業であることを理由に、検死を始めた。生憎とこの島に医療班や警備隊が来るのは、早くても二日後である。だからこれができる者が必要だったため、皆納得してくれたようだった。

 死体には目立った傷は無かった。あなたは爪なども注意深く見たが、皮膚片が挟まっているとか、欠けているとか、そういうこともなかった。

 

「ふむ。第一発見者は、女将さんなのかな」

「え、ええ。そうよぉ。明日の朝の準備をしようと思って入ったら、カリアンさんが温泉に沈んでいて……悲鳴を上げはしたけれど、あわてて彼を引き上げた時には……もう」

「湯着は、女将さんが着せ直したのかい?」

「いいえ……最初からこうだったと思うわ……?」

 

 あなたの見た通り、確かに遺体の湯着に乱れはなかった。

 

「酒で酩酊状態にあったとはいえ、どんな人間でも、意識がある時に溺れかければ暴れるものだよ。だというのに彼には暴れた形跡が欠片も無い。まるで、溺れる前に意識を奪われていたかのように」

「それって……誰かがカリアンさんを殺したってことですか」

「そうなるね。だから、彼が死したと思われる時間帯、君達が何をしていたのか、というのを聞きたいかな」

 

 ステッキを取り出したあなたは、それをカツンと地面に突く。

 シーンの切り替わる音がした。

 

「ただし、今日はもう遅いから、明日の朝、朝食を食べたあと……それぞれの事情を聞きに行こう。それまでは自分たちの客室で待機していてほしい。出歩いていたら疑われる、ということを念頭に置いて、ね」

 

 一日目が終わる──。

 

 

 まず、一人目。ニツァ=H。

 

「昨夜の日付が変わる前くらい、ですか。……うちは女将さんとお話をしていましたよ。一人でこのデカい旅館の戸締りをするの大変そうだったんで、手伝って、そのまま談話スペースで喋ってました」

「ええ、昨日は本当に助かったわぁ」

 

 カリアンが死亡したと思われる時間に、彼女たちは凵の右隅にある談話室にいたという。

 

「その前は?」

「その前? あー……なにしてましたっけね。特になんでもなく涅月を見ていたと思いますけど」

「成程。……それと、君はカリアン君とはどんな関係なのかな」

「それ、なんかかんけーあるんですか」

「あるよ。怨恨による殺害の線も考えなくてはならないからね」

「……。……カリアンさんは、いちおう、うちの叔父です。といってももう随分と前に縁を切られているんで、うちからしたら以前は親戚面していたくせに、自分たちの稼業が調子よくなったらいないものとして扱ってきたサイテー野郎集団、って感じです」

「カリアン君の稼業を、君は知っていたんだね」

「ええ。マリト・マフィアでしょう。ゼルパパム最大規模のマフィア。そのドンの息子が彼ですよ」

 

 あなたはこれらの情報を手帳に取った。

 

「つまり、カリアン君に何かあった場合、君にも何か恩恵があったかもしれない、ということだね」

「はぁ? 言ったでしょ、縁切りされてるって。ありませんよそんなこと」

「あくまで可能性の話さ。……ありがとう、参考になったよ」

 

 あなたはニツァ=Hの部屋を出た。

 

 

 あなたが次に向かったのは、先程証人として来てもらっていたジュノ・Nの部屋だ。ここは客室ではなく、従業員用の部屋、ということになる。

 

「君にも同じ質問をしよう。昨日の日付が変わる前あたりの時間、そしてその前には何をしていたのか、をね」

「夕食のお片付けをして、宿の戸締りをしていたわ~。その途中でニツァさんが手伝いにきてくれて、いつもより捗ったから、お礼も兼ねて談話スペースでお菓子を振る舞っていたの。彼女と別れた後、厨房周りの準備をしているときに、あなたがワインをもらいに来て、それらが終わった後、お風呂の準備をしに行ったら……発見、という感じよ~」

「忙しないね。この旅館は君一人で回しているのかい?」

「ええ、そうなの~。秘境としては知名度の高いここだけど、年中お客さんが来るか、っていうと微妙だから、人を雇うにも難しくって……」

 

 夜遅くまでお疲れさまだね、とあなたは思うだろう。

 

「その上で、聞きたい。昨日ははぐらかされてしまったけれど、君もカリアン君と浅からぬ縁を持っているようだった。どういう関係なのか、教えてほしいかな」

「……実は、少し前に……この辺一体はマリト・マフィアの管轄だから、マリト・マフィアに営業の許可を取れ、って……黒服の人達が言いに来ていて……」

「『天の至泉』は連邦とゼルパパムの共有財産じゃなかったかな?」

「私もそう言い返したのだけど、彼らは聞かなくて……。そのままあれよあれよの間に、契約書には勝手に血印が押されていて、この土地はマリト・マフィアのものだ、っていう権利書まで作られてしまって……」

「他国の想像する通りのマフィア、って感じの所業だね。彼らはカタギに迷惑はかけないはずだから、本物のマリト・マフィアを相手にする時はここの内容変えた方が良いよ」

 

 修正案として記録しておきます。

 

「他に何か変わったところとか、気になったことはなかったかな」

「そういえば……昨日の夕食の時、テーブルの上の燭台の火が、時折風に流されるように動いていたでしょう? だから私、雨漏りや隙間風の入る場所があるんじゃないかって、念入りに食堂を調べたのだけど……何も無かったわ~」

「確かに。それは私も確認していたよ。……うん、ありがとう」

 

 女将の話は以上だった。あなたは次に、N・ルーナの元へ向かう。

 

 

 あなたは同じような問いを彼女にもした。

 

「昨日のその時間には、自室にいたのだわ。美味しいご飯を食べて、普通に寝ていたのだわ」

「それを証明できる人や証拠はあるかな」

「人はいないのだけれど、証拠ならあるのだわ。ほら」

 

 N・ルーナが取り出したのは、何枚かの現像写真だった。魔道具カメラで撮ったものだろう。

 全て涅月の写真であり、涅月が少しずつ動いているのがわかる。

 

「月面にいるとわかり難いのだけれど、こうして写真を撮ると、動いている、というのがよくわかって面白いのだわ」

「涅月が動いていることを知覚した上で写真を撮っていた、と?」

「ええ! それがあるから私は露天風呂になんか行っていないのだわ。行っていたらここまでたくさんの写真は撮れないのだわ!」

 

 たくさん……というには「何枚かの」写真であるが、彼女は自信満々だった。

 

「それで、君は、カリアン君とはどんな関係なのかな」

「関係なんて無いのだわ。私は、まりと・まふぃあが嫌いなだけ、なのだわ。夕食の席ではごめんなさい、と、言っておくのだわ」

「個人的にカリアン君とは知己だった、ということも無いのだね?」

「無いのだわ!」

 

 これ以上彼女から出る情報はない。

 

「じゃあ最後は、トム君だね」

 

 あなたはトム・Yの元へと向かう……。

 

 

「昨晩は、そうデスネ。夕食の席で荒れていたことを見て、酔いが覚めた頃合いを見計らって、彼の部屋を訪問したのデスガ、もぬけの殻デシタ。恐らく夕食後露天風呂へ行ってからはずっと帰ってきてなかったのでショウ」

「ずっとカリアン君を待っていたのかい?」

「ハイ。色々見て回りもしていマシタガ。ああそういえば、その時間帯に、廊下の……向こうの方から話し声が聞こえていマシタ。おそらくニツァさんと女将さんデスネ」

「ナルホドナルホド。……して、君にも聞こうか。君とカリアン君は、船の甲板でも、何か親し気な様子だったけれど、なにかあったのかな?」

「ワタシはカリアンサンに呼ばれて今日の予約を入れたのデス。ワタシ、こう見えてもエリスフィア帝国の方で資産家をしておりマシテ、相談したいことがある、ト、カリアンサンの方から申し出がありマシテ」

「……うん、ありがとう。ちなみに君は、昨晩なにか怪しい人影なんかを見ていないかな」

「そういえバ、夜……日付が変わる前くらいデスカ? なにか、甲高い音を聞いた気がシマス」

「甲高い音?」

「そう……ガラスが割れるような音だったカト」

「……成程ね。ん、ありがとう。参考になったよ」

 

 あなたはトムの部屋を後にする。

 

「これ以上拘束するのも悪いし、全員の軟禁状態を一度解除しよう。この後の動きも知りたいしね」

 

 あなたは彼らにその旨を告げた。

 このまま何もしなければ昼まで時間が飛ぶことになる。

 

「そうだね。今は待ちのターンかな。何かが起こるまで待ってみようか」

 

 あなたが自室で時が去るのを待っていると、あなたの部屋を訪ねてくる者はあった。

 警戒しつつもあなたがドアを開ければ、そこにいたのは、先程別れたばかりのトム・Yが。

 

「おや、トム君。何か用かな?」

「死体も引き上げられたことデスシ、女将さんが浄化の魔法を使ったと聞いたカラ、露天風呂に入ろうとしたのデスガ……」

「豪胆だね。今の今まで死体の浸かっていた湯船に、か」

「エエマァ、そういうのあまり気にしませんノデ。……それで、男性の脱衣所に、こんなものが落ちていたノデス」

 

 彼が見せてきたのは、教養の感じられる字で書かれた書類だった。

 丁重に受け取って中身を見てみれば、それは遺言書。カリアン・Vの遺言書であった。

 

「"僕に何かあった場合、マリト・マフィアの全財産は、すべて冒険者ギルドに寄付するものとする。血縁関係者には一銭も与えないこと"……か」

「彼がワタシに相談したがっていた話も遺産関係のものだったようナノデ、恐らくこれらが法的に問題ないか、などを聞くつもりだったのカト。ア、ワタシ他国の法律にも詳しいノデ」

「……この紙。ゼルパパムの郵便局が発効している材質だね。この紙は公的書類に使うためのもので、売買取引は禁じられていたはず。郵便局内で手続き書類を書いて、郵便局から国へ、という部分でしか使われないものだ。……それが外に出ていること自体問題ではあるのだけど、これを書いた場所が公の場である可能性が高い、というのも……ふむ」

 

 もう少し考えたかったところだろうが、昼食の時間である。

 あなたとトムは共に食堂へ向かうことにした。

 

 既にあなたたち以外の全員が揃っている。だが、言い争いが起きている様子だった。

 

「ニツァ! あなた、私の部屋に入ったでしょう!」

「だから知りませんってば。つーか、最も入ってそうなのは女将さんの方でしょう。マスターキーを持っているのは女将さんなわけですし」

「私は、皆さんのお食事の準備をしていたから、そういうことは……」

 

 話を聞けば、N・ルーナの部屋が何者かに荒らされていたのだという。幸いにして盗まれたものなどは無かったようだが、彼女は甚く憤慨している。

 

「私とトム君は、ほとんど一緒にいたから、それはできないね」

「ほら! やっぱりニツァしかいないのだわ!」

「そうやって……今度はうちまで殺す気ですか? 昨日の夕食の時、カリアンさんと言い争いしてたのはあんたでしたよね。適当に難癖つけて、殺害計画を立てて……ああ怖い怖い」

「なんですって!?」

 

 マァマァ、とトムが仲裁に入る中、あなたはふむと思案する。

 盗みが目的ではないとしたら、何を理由に犯人はN・ルーナの部屋に入ったのか。

 

「というより、N・ルーナは何をしにどこへ行っていたのか、の方が気になるけどね、私は」

 

 諍いもあって殺伐とした雰囲気の拭えないままに、一行は昼食を終える。

 否、終えようとした、が正しい。

 

 からん、と落とされるは食器。

 そのまま……力無く椅子から崩れ落ちる、トム・Y。

 

「え! なのだわ!?」

「トムさん!?」

 

 あなたは──。

 

「応急処置をするよ。騒がないでほしい。──斬空刃(ザエラ)

 

 何をしたのですか?

 

「腹部に対して局所的な斬撃魔法を使い、腹を割き、胃の内容物を処分。その後治癒魔法を使ったよ」

 

 そのとんでもない凶行に、皆、恐れおののいたように固まってしまっている。

 しかし……その中で、トムの止まっていた呼吸が再度動きだした。

 

「吸収した薬物の全てが抜けるわけじゃないから、油断はできないけれどね……」

「い……生きている、のだわ?」

「治癒魔法は外傷の全てを治癒する万能魔法だからね。こういう荒療治にも使えるのさ。……しかし、これでわかったね。犯人はカリアン君だけを狙ったのではなく──関係者全員を抹殺する気である、ってことが」

 

 誰かが生唾を飲む。

 恐ろしい夜が始まろうとしていた。

 

 

 トム・Yを寝かせ、あなたは一息を吐いた。

 

「女将さん、ありがとう。手伝ってくれて」

「ええ、でも……もし毒なら、私が一番怪しいのに、私に手伝わせてよかったのかしら~?」

「だけど、君はトム君を殺す動機が無いだろう? それに……二人きりになって、私に何か、打ち明けたいことがあると、そういう風に見えたけれど、違うかな」

「……なんでもお見通しなのね。……ええ、そう。実は……私、事件が起きた後、カリアンさんの部屋に入ったの。お掃除しなきゃ、って思って……」

「当然だね。それで?」

「それで……この『天の至泉』に関する、土地の権利書を、見つけてしまって。咄嗟に……盗んでしまったの。これが無ければ、もう、マリト・マフィアの恫喝に怯えることがなくなるって思って……」

 

 申し訳なさそうにジュノ・Nはそれを見せてくる。

 一方的且つ完全にマリト・マフィアの有利になる形で締結された権利書だ。

 

「でも、殺しては、いないのよ。私は……カリアンさんを、確かに憎んでいたかもしれないけれど……」

「魔が差した、と。……いいよ、権利書に関しては私もどうにかできないか掛け合ってあげよう。だから君は、今からは心を入れ替えて、トム君の看病及び見張りをしてあげておいてほしい。殺し切れなかったと犯人が判断してまた毒を盛ってくる可能性があるからね」

「わかったわ。必ず守ってみせるわ~」

 

 こうなってくれば、残る容疑者は二人だけ。

 あなたはどちらを犯人と見るか。

 

「気が早いよ。アタリはつけているけれど、まずは証拠を見つけないと。露天風呂に移動しよう」

 

 あなたは露天風呂に移動する。

 

 死体は既に別の場所に安置されていて、温泉は変わらず湧き出ている。昨晩のように、湯気がもくもくと出ているのがわかるだろう。

 

「私がいた廊下と反対側、つまり景色の見える凵の上側の部分の峡谷に、何か落ちていないか確認したいね。……そうだな、取った覚えはないけれど、私の弟子が『観察者』となる時、『遠見』という魔法を作ったようだし、それを使おう」

 

 あなたが『遠見』の魔法で峡谷の底を見ると、そこには割れてくだけたガラス片らしきものが無数にあることがわかった。

 

「ガラス片。いいやそれは、鏡、だね?」

 

 そう、鏡だ。鏡の破片が散乱している。

 

「あとは……そうだな。女将さんに許可をもらって、女性脱衣所の方も調べておこうか」

 

 あなたの言う通り、ジュノ・Nに許可を取り、女性用の脱衣所にやってきた。

 作りは男性の脱衣所とほとんど変わらない。

 

「籠、あるいはダストボックスを調べたい」

 

 ダストボックスを調べると、その中に、濡れたタオルが入っているのがわかった。

 

「ああ……うん。充分だね。──それじゃ、皆を呼ぼうか」

 

 シーンが切り替わる──。

 

 

 未だ昏睡状態にあるトム、あなたを心配そうに見つめるジュノ、未だ怒り心頭の様子のルーナ、どこか冷めた様子のニツァを従業員用の部屋に集めたあなた。

 

「やぁ、よく集まってくれたね。安心してほしい。犯人がわかったから、それを伝えよう、という話だから」

「へえ、探偵が趣味って聞いて大丈夫かこいつとか思ってましたけど、ちゃんとやるんですね」

「その前に一つ、言っておきたいことがある」

 

 あなたは。

 

「私は確かに『探偵』だけど、正義には属していない。今これを聞いている犯人君をどこかに突き出す気はさっぱり無い」

「そうなのね~」

「そう。【マギスケイオス】が元第四位、『先見』のオンドウとは私のこと。『先見』とは即ち、"謎は解き明かされる"という安全を行使する者の諱を言うのさ。だから、どうか解明を行った私を恨まないでほしい。私は人間の愛憎には頓着しないからね」

 

 そう前置きをした上で、始めるのである。

 

「──さて」

 

***

 

 オンディーヌは指を一本立てる。

 

「まず、カリアン君殺しの犯人。これは特に複雑なことはなく、君だね、N・ルーナ君」

「なにを……私はその時間部屋にいたのだわ!」

「あの夜、カリアン君は一人で露天風呂に入っていた。睡眠薬入りのお酒を飲んだ状態でね」

「……睡眠薬。そんなものが……」

「ちなみに女将さんの仕業ではないよ。私がワインをもらいに行った時、酒蔵から酒類を客に出すまでの間で細工をする場所がない、というのは確認済みだし、何よりあの時、食事が始まってからカリアン君はお酒を開けていた。つまり、食べている最中に盛られたんだ」

 

 彼は皆が分かりやすいように席順を確認していく。

 そして、カリアンの隣にいたのがニツァとトムであることを指摘した。

 

「カリアン君のお酒に睡眠薬を入れたのは、君だね、ニツァ君」

「……なんか、うちが犯人っていう証拠でもあるんですか。席が隣だったから犯人、なんて暴論じゃたまったものじゃねーんですけど」

「女将さんと私が確認していることだけど、昨晩の食事の時、そしてトム君が倒れた食事の時のどちらもで、テーブルの上の燭台の灯がおかしな方向に動いていたんだ。旅館は閉め切られていて、昨日女将さんが念入りに風の漏れる隙間が無いか、というのも確認したというのにね。つまり、テーブルの上で、なんらかの風の魔力が動いていた、ということになる」

「だから、それだけで──」

「誰にも気付かせない上での風魔法の行使。魔法名の短文詠唱も無しにそれをやってのける存在は、精霊くらいのものなんだよ」

 

 あるいはまぁ、()もできそうだけれど、なんて心の中でウィンクするオンディーヌ。

 

 不機嫌そうに押し黙ったニツァを見て、オンディーヌはその次だ、と話を進めていく。

 

「カリアン君の死んだ時間。ニツァ君と女将さんは談話スペースにいて、トム君は二人が会話をしているのを聞いていたそうだ。どの二人かも言い当てていたから、本当だろうね。そして私は廊下から露天風呂の中の人影を見ている。消去法でカリアン君を殺せるのはN・ルーナ君。君しかいないね」

「目撃証言なんて情報にならないのだわ! ここで私が、私も廊下から人影を見たと言えば、それだけで外れてしまうのだわ!」

「ほう? それなら、湯気の中の身長はどれくらいの高さだったかな」

「それは勿論男性一人くらいの大きさだったのだわ」

「私が見た人影は、0.35athlほどの小さな影だったよ」

「……だったらどっちにせよ私じゃないのだわ! ハーフリング族の可能性が高いのだわ」

「いやいや。どうして露天風呂にいる人間が、露天風呂の外で突っ立っているんだよ。当然その人影は湯舟に浸かった状態で立っていたのだろう。あの温泉、結構深いからね。私は最初、それをカリアン君だとアタリをつけた。けれど彼は酩酊状態だったから、ピンとまっすぐ立つのは難しかったはずなんだ。つまり、私が見た影は、意識を失ったカリアン君の頭を押さえて溺死させている誰かの影だった、ということさ」

 

 そしてそれができるのは。

 

「だから……証拠が無いのだわ!」

「女性用の脱衣所に濡れたタオルがあったから、まず間違いなく君だね、ルーナ君。ニツァ君は自力で乾かせる……というか濡れないだろう?」

「ええ、まあ」

「ちなみにその後私は露天風呂に"向き合う人影二人"がいることも確認しているのだけど、あれはニツァ君と女将さんだね。峡谷の底に割れた鏡があったから、湯気の向こうに鏡があって、そこに映る二人の影を見たのだろう。大方殺害時間の後にその人影があったのだから、死亡推定時刻がズレている、みたいな攪乱をしたかったのだろうけれど、私が言いふらさなかったから無駄になってしまった。違うかな?」

 

 反論は──無かった。

 探しているようだけど、見当たらない。

 

「整理すると、この事件には二人の犯人がいたんだよ。溺死させたのはルーナ君だけど、そもそも薬物で殺そうとしていたニツァ君もいた。ニツァ君の方がスマートだったね。ここに来たのが私でなければ恐らくバレなかったよ。あるいは、すべての罪がルーナ君のものになっていた、か」

「……じゃあ、やっぱり、私の部屋を荒らしたのはニツァ、なのだわ!?」

「恐らくはね。多分探せば君の部屋から出てくると思うよ。二人に使った睡眠薬や毒物の残骸が。まるでルーナ君が殺人に使ったものを処分し損ねた、みたいにね」

 

 オンディーヌは胸中で独り言ちる。

 というより、犯人は三人だ、と。溺死させようとしたルーナ、毒殺しようとしたニツァ、そして盗もうとしたジュノ。

 命と財産を三人に狙われた挙句、殺され、恐らく分配しようとしていた相手も昏睡状態になって……やれやれだね、と。

 

「一応聞いておこうか。動機は?」

「……うちは、まぁ、うちのものになるはずだった遺産を全て冒険者ギルドに寄付するとか言い出しやがるから、その遺言書ごとカリアンを闇に葬ってやろうとしただけですよ」

「私は……えーと、確か、まりと・まふぃあに多額の借金があるのだわ。なんなら私はカリアンの元部下で……その借金も、カリアンの指示で作らされたものとかどっかに書いてあったような気がするのだわ? ……あ、このあたり一切反映できてなかったのだわ」

「私はお話したとおりよぉ~」

 

 なんにせよ。

 こうして犯人がわかり、他者への殺意はないということで、トムの回復を待った一行は……その事情を話し、マリト・マフィアの暴虐が理由であることを加味し、事故死としてゼルパパムの自治組織に報告することになった。

 トムはニツァを許したが、妙なことも言っていた。「ワタシにはワタシのやり方での報復があるのデネ」と。

 

 後日。

 ニツァ=H、N・ルーナらが、財布の中身に至るまでの全ストレイルを失った状態で発見される。

 実は二人のもとには、『大怪盗』シンプトムからの予告状が届いていた、とかで──。

 

 オンディーヌが、この物語をその一言で締めくくった。

 

 

「──杜撰。30点」

「なんでなのだわ──!?」

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