序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
これまで何度も考察して来ている通り、通常、竜は肉体部分をどれだけ削っても……BBのように一撃で消し飛ばしたとしても、関係なく復活するものだ。
俺が今まで竜を食べてこなかったのは、食べる段階に行く前までに俺が死んでいた、という部分が大きい。殺し切る前に消滅した、ないしは殺したと同時に死んだパターン。
……けど、今。
この通常ポップかってレベルで湧いて出てきている竜は、通常の魔物と同じ感覚で殺せるし、食える。
違いは何か、と言えば。
「……明らかに弱いんだよな」
「そうね。災厄竜ユランに比べると、天地の差があるわ」
そういう話じゃない。
再生しないのはあるけど、それ以外でも、なんというか……戦闘力が著しく低い。
以前、征武乱禍の大蛇を退治するために使った計算を覚えているだろうか。
わかりやすく数値化した場合、カズラ君の戦闘力が10、魔晶石武器が50,000を与えて、総合戦闘力50,010。
アルジオは武器無しで10,000くらい。レスベンスト冒険隊はそれぞれが10,000前後あり、アルカは単体で20,000くらい。あの時点での話だ。
そして魔竜は平均50,000の戦闘力を有していて、戦う者達の総合戦闘力がこれを上回っていないと討伐は厳しい、という話。
今、ここ……癪だがノクスルーナのいうところのクィロー'sタウン周りに出ている竜・魔竜は、強くて戦闘力20,000行くか行かないか、くらい。今までに出てきた奴と比べるとかなり弱い。
いやまぁBBが戦闘力200,000くらいあるから比較がおかしいというのはあるのかもしれないけど、やっぱり目に見えて弱いと思う。
「それに、竜のポップ頻度が落ち着いてきている。……このままこいつらを狩ってたってユランは出てこないだろう」
「でも、おびき寄せる方法なんて無いでしょう」
「どうかな。俺は一回災厄の力と交戦しているから、その時の雰囲気を纏えば向こうさんからやってきてくれる気もするが……何の対策も無しに迎え撃つのは違うだろうし、なにより災厄竜ユランをぶっ飛ばしたからはいハッピーエンド、ってことも無いと思うんだよな」
「……なんの話?」
そも……【マギスケイオス】が負けた、っていうのもちょっと疑問。
確かにBBや重村鎖袋は火力方向に尖った魔導士だろうが、アルカのやつは別に火力以外でも戦えたはずだ。それこそ封印とか結界とか。鎖袋は……あー、つかそうか、年齢から考えるともう次代なのか? まぁなんにせよ正面からぶつかる組以外までもが死んでいるのが引っかかる。
たとえば……突飛な考えだけど、「敵対者との戦闘に必ず勝利する魔法」とか、「敵対した者を一人残らず死に至らしめる魔法」みたいなのを使ってきておかしくないって話。
そこに加えて、果たして災厄竜ユランさんを打ち砕くことだけが問題の解決なのか、という話もしたい。
災厄を打ち砕けるのは俺だけ、っていうのはナタリーの論だけど、あいつは竜を殺せとは言ってなかった。そも、ファウンタウンに現れた『災晶』は災厄竜ユランの力なのか、って部分もある。つまり、災厄→ユラン→災晶なんじゃなくて、災晶←災厄→ユランなんじゃないかっていう話ね。
もしそうであった場合、ユランをぶっ飛ばしてワッチャリウェーイしてたところで何の解決にもならないんじゃないか、っていう。
俺が考えるべきは、なぜ涅月が墜ちたのかについてと、どうして大地は災厄を遣わしてきているのか。
ここであるように思うんだ。
「BB」
「ん、なに?」
「お前達【マギスケイオス】は確か、招待されなければ辿り着けない場所に普段はいると……アルカから聞いた覚えがあるんだが」
「ああ、それは正しいわ。
「だが、結界の性質からは逃げられないはずだ。つまり、外殻……その形がなんであれ、それは外側をこの世界においていなければならない」
「そうね。正しい認識」
「災厄竜ユランによってその外殻が破壊されると踏んだから、お前達は災厄竜ユランを迎え撃とうとしたのか?」
問えば……彼女は、きょとんとした顔をする。
何を言っているのかわからない、と。
「ああ……あそこで災厄をやり過ごせばいい、って……そう言いたいわけね?」
「位相結界なんか、うってつけのシェルターだろう。ヘンリー・エカスベアが開発した『
まぁ、あれはあれで、どこからでもアクセスできてどこからでも出られるっていう利便性があるんだが。
──しかし。
「あなたは、【マギスケイオス】のことをわかっていないわ。──だって、災厄よ? 人類が未だ踏破したことのないもの。文明をリセットしにかかり、千年周期で目覚める"歴史の壁"。……そんなものに自分たちの思う最強最高の魔法をぶつけないで、どうするっていうのよ」
「……そうか。お前達は……別に、生きたいとかじゃ……ないのか」
「そうよ。『不死』、『全開』、『財宝』、『観察者』、『業運』、『到達』、『解体』、『四毒』、『最小限』、『蓋然』、『薄明』、『別界』。みんな自分の生き方に忠実に生きてきたし、時には罪を、時には善を為してきたけれど、根底にあるものは魔導の追求。即ち、自身の思う究極であらゆる事象を打ち砕く、というところにある。此度それが……その一切が通じなかったということは、糧でもあるの。次に生まれていく【マギスケイオス】は、自分たちに継承が無かったことを理解して、さらに高みを目指すのだから」
魔導を追求する十二人。天才というより狂人。天賦というより呪縛。
彼らの霊質に刻まれるそれらの諱は、彼らを生にすら目を向けさせない、惹きつけて止まない甘美なのだと。
死することは重要でなく。
ただ、自身のそれが災厄というシステムに通用するか、試してみたかっただけ。
それだけで……死に行った十一人。
「あっぱれだが、マー結果を出せてないんじゃ意味が無い。少なくとも今の俺達にとっては」
「同感ね。私は……最初の『全開』で負けたんだけど、色々あって生き残っちゃったから……もう一回『全開』をぶつけるつもり。でも期待しないで。前回、全然効いてなかったから」
「なぜだと考察する?」
「え? 単純に火力不足でしょう。ユランの外皮に傷一つつけられなかったのだし」
「だから、なぜ傷一つつけられなかった。災厄竜ユランの外皮はそこまで魔力抵抗が高いのか? ……たとえば、魔族が体表に纏うマジックアーマーは、基本的に術者の魔力量*魔力抵抗を基準にして生成される。魔力抵抗の定義は"対象が、外部からの魔力干渉をどれだけ無効化・無害化できるかを示す指標"だ」
単位はRst。魔力抵抗が低いところへは魔力が通りやすくなり、魔法の効きも良くなる。高ければ激しく減衰させ、魔法の効きも悪くなる。
魔法使いは無意識に大気中の魔力……無主魔力の魔力抵抗の最も少ない部分を選んで魔法を通している、という話は前にした通りだが、生物が有する魔力抵抗を無意識に察知することは難しい。体内結界の中へは探知が届かないから。
事象成果式はAcn = (Spl/Rst) * h * Etrであり、正常な大気は常に1Rst持っている。つまり、Acnが1より大きくなれば魔法がより効果を出し難い場所・物。Acnが1未満であれば魔法が暴走しやすい。伝導しやすい対象であると見ることができる。
他の単位と一緒に考えると、「あの魔法使いは、技術は一流(Etrが高い)なのに、相手が悪い(Rstが高い)から、魔法が通用していない(高いAcnが出せない)」ということになり、多少はわかりやすいだろうか。
もしユランが魔族の持つマジックアーマーを纏っていたとして、マジックアーマーは魔力流量と魔力構造の安定係数の乗算で計算される。仮にユランの持つ魔力量が大地のそれに匹敵するのだとしても、魔力抵抗が低いと(安定係数が低いと)ただの魔力風船になる。よって魔力抵抗も十二分に高いと見るのは正しい。
BBの魔力砲は極めて純粋な紫輝の魔力を砲撃として撃ち出しているだけ。多少零距離用にアレンジはされているけれど、言ってしまえばカノンの砲撃魔法とそう変わらない。
魔力砲はその名の通り魔力を砲弾のようにして飛ばすものであるため、これに当たったもの、及びこれが通り過ぎた場所は、著しく魔力の構造安定が乱れる。魔力抵抗が高いからってノーダメはあり得ない。況してや大地の魔力と紫輝の魔力のぶつかり合いなら、必ず安定性は損なわれるはず。
種類の違う魔力は互いを嫌い合い、減衰までする。つまり、BBが魔法を一度打ち込めば、たったそれだけでデバフになるということ。こいつが一撃目で諦めるとは到底思えないので、何度も何度もやったのだろう。やった上で効かなかったと言っている。
ってことは、別の要因があるとしか思えん。
こいつは紫輝に接続し、その魔力を貰い受け、その上で自壊しないでいられるスペックを持っている。
紫輝の魔力に直結したホースがこいつの腕の中を通っている、みたいなことだ。その上で『
ドバドバどころの騒ぎじゃないのだ。『涅月の涙』による
なぜ負けた? 紫輝の全面バックアップがあって勝てなかった理由がわからん。
もっと分析が必要だ。『零距離最大限』……いいや、『全開』はそこまで欠陥のある魔法じゃない。術者が切り上げない限り、一生魔力砲を……ビームとして撃ち続けることのできるつくりをしている。直撃で傷がつかなかったから照射を諦めた? いや、だから、なんで紫輝の純粋な魔力がたかだかデカいだけの蜥蜴の外皮に負ける?
それとも紫輝の魔力は……紫輝本体から離れると減衰する、とか? そんな感じせんかったけどな。
「──ろくろにそう刻まれていたから、なのだわ」
……。
……なに?
「あら、ノクスルーナ。こんな遠くまで来て大丈夫?」
「このあたりは全部涅月の魔力が湧いているから、何も問題ないのだわ?」
「どういう意味だ、ノクスルーナ。そう刻まれているから、ってのは」
「言っていいのだわ? そういうことを先回りして言われるのが嫌、って……一応私、学んだつもりだったのだけど」
ろくろ。時の円環。
そこに「書き換え」が行えるのは俺だけであるという話を聞いた。
俺以外はそれができないと。ろくろに回されるままにいるしかないと。
……どれほど足掻いても、どれほど変化を望んでも……無理矢理、強制的に、決められていた流れを準えさせられる?
だとしたら……なんだ。災厄竜ユランに紫輝の愛し子が絶対に勝てない……攻撃を当てられない、というシナリオは、どこから発生した。何を準えている。
「そういえばBB、結局弔いの歌を聴いていないのだわ。前回は邪魔されてしまったし。私、あれが好きなのだわ。歌ってほしいのだけど」
「え、今? なにか真面目に考えているようだし、静かにしておいてあげた方が良いと思うけれど……」
「今聞きたいのだわ。お願いなのだわ」
「……。わかった。それじゃ、ごめんなさい。歌うわね」
弔いの歌。
今それを、無理矢理に俺に聞かせようとする理由。
「──
歌。どこかで聞き覚えがある。いや、この感じは。
思考が急速に回転する。
見聞きした情報が流れていく。
紫輝の愛し子による全力の攻撃。大地の魔力の竜によるその攻撃の無効化。
この地に眠るという知り合いの霊魂のラインナップ。俺が作った、名前を記した名簿リスト。博物館に飾られていた、作った覚えのない石板。
二階へ続く階段と二階から上を失った四角い住居。外殻が必要な位相結界とそこに属する者が全員集合することができた理由。
そして──クィロー'sタウンという名前。
「──まさか、ここは……キロス、なのか?」
ならば大地の魔力に該当せしは、トムさんか。そうだ、思い出した。あの夜……知っている魔力が家の外にいた気がしていたんだ。
確かあれは、紫輝の愛し子の魔王と、エレオノーラだったはず。
あの二人がトムさんを追ってきていた理由。トムさんについていた傷。そして……彼に渡した、二つのレリック。
死の回避。それが、ユランの無敵の理由、か。
待て……待てよ? 確かあの時……トゥーン君と主任さんが追っていた事件が殺人事件だったよな。一回全部書庫で読み直したから、覚えているぞ。
路地裏であった殺人事件。凄惨な事件の下手人は、確かトムさんに『
災厄竜ユランがトムさんに準えられているのならば、湧き出てきている竜たちはキロス自治領民なのか? だから……こんなに弱い? この後、もっとたくさんの悪党たちに該当するそこそこ強い竜たちが出てくるのか。
けどそいつらの一部も『
……竜たちをバッタバッタと倒しているから、『
全てがあの時のことをなぞっているのならば、紫輝の愛し子はユランを殺すことはできない。
だが、手傷は与えられるやもしれない。かつて若かりし魔王がトムさんの腕をぶった切ったように。
「──
「ええ、とっても! なのだわ」
……こいつは、どこまでを意識的にやっているんだ?
今BBに歌を歌わせて……俺の記憶を刺激して、ユラン対策を思いつかせた。それは……完全な無意識による行動なのか?
──涅月はその正体を知られてはいけないし、裏側を見られるわけにはいかない。
まさか?
っていうか、そうか、なら「大地は何かを盗んでいて、それの露見がいけない。それ以外の部分では気にする必要が無い?」は正しくトムさんの暗示なんじゃないか?
あのマーダーミステリー自体、「大地の魔力の持ち主が経営する場所」に集まってきた「涅月の魔力の持ち主」と「紫輝の魔力の持ち主」が殺人を企てて、「大地の魔力の持ち主も被害者から物を盗もうとする」っていう……かなり示唆的な内容だった。
拡大してみれば、大地が経営する場所……つまりこの星に紫輝と涅月がやってきて、誰かの殺しを企てていて、その裏で大地が何かを盗もうとしている、になるんじゃないか。
カリアン。奴はなぜ、あの役になっていた? 被害者がハマり役だったから、だけが理由じゃないのだとすれば。
順当に行くのなら、カリアンはレインに準えられていたと見るべきか? キロス警察や他のマフィアが封じ込めようとしたレイン・ヤーガー。それを盗み出したトムさん。
ゲームでは殺害に成功し、ジュノさんの良心の呵責から盗みは失敗に終わり、キロスでは殺害に失敗し、盗みはトムさんの奮闘により成功しかけたけど俺が雲散霧消。
そして此度。キロスであったこととゲームであったことがそれぞれ集約するここで……俺を完全なる亡き者にしようとしている、とか?
いや、なんでもかんでも俺狙いだと思うのはちょい自意識過剰かも。別の……カリアンとレインに該当する何かに対して、大地の魔力がそれを盗み出そうとしている。
何を?
「……とりあえず、災厄竜ユランの無敵のからくりは分かった気がする」
「嘘、敵対してすらいないのに?」
「ああ。……お前の『全開』、ああいや『零距離最大限』を改良しても良いか? 回避を抜けるようにする」
「……私はまだ……そこまで研究者じゃないから良いけれど、他の【マギスケイオス】に対してお前の魔法を改良してやる、なんて……言わない方が身のためよ」
「ん……ああ、そうか。確かに、凄い侮辱だったな。すまん、わかってなかった」
その魔法の真髄を追い求めている奴らに対し、改良してあげるよ、とか。
お前じゃそれ以上できないから諦めな、って言ってるのと同じだもんな。悪かった。
それと。
「ノクスルーナ」
「なにかしらなのだわ?」
「おまえ、誰かを殺そうとしていたりするか?」
「するわけないのだわ!? ……さては! まだゲームを引き摺っているのだわ? 確かに没入型は実体験と勘違いしやすいけれど、あれは物語の話なのだわ。現実とは違うのだわ~」
この……クソガキみたいな態度は、果たして演技で作れるものなのか?
でもあの「ミツケテホシイ」のこともあるしな……。シリアス面は持っていると思った方が良いだろう。
あのままの考えでいけば、紫輝も何かしらの不正を働いている。だからそっちも警戒を……って。
……ちょい面倒だな。警戒とか、必要があるやつがするものだろう。俺今回そこまでマジになってないからちょっと温度差あるんだよな。
頼まれはした。それを叶えにきた。
けど……やる気が出ないのは、やっぱり、これが「──ですよね?」に何ら関係のない話だからで──。
「かの【マギスケイオス】の魔法すら改良を、しかも思考の片手間でできる知識と技術の深さ。細い糸のような魔力を動かし、その先端で魔力素を操る魔力マニピュレータという技術。そして何より、目の前で起きていることを、たとえそれが伝え聞いた話であっても『解析』してしまえる抜群の分析力! 間違いありません! あなたが『鏡の工房』の工房主、シュライン・ゼンノーティさん──ですよね?」
……え、なに? だれ?