序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
紫輝歴731年初頭。
第二十三代魔王、リュオン・"ハルカウオン"・マイヤーが、戦闘中の負傷によりその任期を終了した。
第二十四代魔王に着任したのはキアステン・バリムケラス。第二十一代魔王の妻であり、元S級冒険者パーティ『薔薇の棘』のメンバーであったことから、人族と友諠を交わすこれからの時代に最も適しているとされ、彼女が選ばれた。
そのあくる月、彼女とリュオン元魔王は、とある人族を訪ねることになる。
彼の名前は、カズラ・リアナ。御年七十五歳──平均寿命を二十五歳も飛び越えた、かつての英雄のもとへ。
ガルズ王国は王都ソノヴァキアに彼の家はある。
豪邸だ。かなり大きいその家には、冒険者時代の彼のパーティメンバーが集まっていた。
「……よう、カズラ。老いたな」
「お互い様だろう……。久しぶりだ、みんな」
ジルベルト・ノノフ。ハナカラ・リンヤン。フィノ・ルンテーニ。メギス=ヘカトン。
種族の関係上老いの遅い者もいるし、メギス=ヘカトンに至っては一切変わっていないけれど……時が過ぎたのだ。
成人前後。齢十四歳で世界を駆け巡っていたあの頃から、長い長い時が。
彼の妻、ユーノ・ロックスターは、三年ほど前に他界している。それでもやはり長生きをした方だ。
ベッドの上から動けないカズラを囲むパーティメンバーは……けれどそこに、悲壮は無い。
もう……悟っている。
「ああ、ですが、カズラ、死ぬのはもう少し待ってください。あなたに会いたい人達がまだまだ来ますから」
「お前なぁ。そういう言い方はねえだろ」
「フィノは相変わらずだね♪ しかもなんだか若々しいし、やっぱり僕たちの見立て通り、ちょっと魔族が混ざってるね♪」
「ええ、自分でも知りませんでしたが、生き別れの弟がゼルパパムにいまして、確認を取ったところ、私達はクォーター魔族なのだそうですよ」
そこから、カズラを放置して、たくさんの話が繰り広げられる。
皆集まるのは久しぶりなのだ。積もる話がある。語らいたい話がある。カズラはこの空気が好きだった。まるで、共に旅をして、歩き続けたあの頃のようで。
「失礼します。……ああ、カズラさん。皆さんも……お久しぶりですね」
そこへ、美しい髪の色をした老齢の女性が入ってきた。
様々な装飾のあしらわれた衣服から、彼女がハンラム王家の存在である、というのは理解できるだろう。
「……まさか、レディ・オーレリア? ああ……お久しぶりです。申し訳ございません、ベッドの上からで」
「構いませんよ。私が訪ねにきた立場です。……それに、『深紅の炎』の皆さんとは、浅からぬ縁でしょう?」
確かに彼らとオーレリア・セントグラフフィエは共通の目的のもと仲良くはなったけれど、結果から言えば、成果を上げることはできなかった。
その後は長いこと会っていなかったから、カズラたちがこういう態度になるのは無理のないことである。
「その……失礼ですが……どうして今日はここに? 御身も……その、あまり動ける状態にないと聞きましたが」
「ええ。あと幾日か生きられたら良い方な命です。お友達も……同世代はみんな亡くなってしまって。……けれど、私と、そしてあなたが……今日まで生き残ることができたことには、何か意味があるんじゃないかって思ったんです」
「意味……ですか?」
それが何かを問おうとして……カズラは、覚えのある魔力に驚くようにして目を丸める。
「来たようですね。……ふふ、私も、直接お会いするのは初めてですから……緊張します」
「この魔力は……」
やがてその部屋に入ってくるは、二人。
浮遊する椅子に座った……獅子顔の青年と、黒髪黒目の少女。
「よ、カズラ・リアナ。流石人族。見た目の老いが早すぎて、魔力の質が一緒じゃなかったらわかんかったぞ」
「私は……一度だけ会ったことがあるけれど、多分覚えていないでしょうから、初めましてね」
第二十三代魔王、リュオン・"ハルカウオン"・マイヤー。
第二十四代魔王、キアステン・バリムケラス。
かつては不俱戴天の仇であり、それでも歩み寄ろうとした相手であり、そして……共に力を合わせ、第二十二代魔王、エステルト・"ヴァーン"・マイズライトを討った、種族の違う戦友。
そしてもう一人は。
「……鮮明に覚えているわけじゃないが……覚えている。確か……ユーノの五歳の誕生日に現れた人、だったような」
「え! すごいわ、そうよ。私、あの子のお父さんの知り合いだから……ぜひ来てくれって言われて、その時にね」
「レドミランさんの……。そうだったのか」
「さっすが。お前の雑学王は健在か」
「いえ雑学なのですかそれって」
既に故人であるが、カズラもレドミランにはお世話になった。彼の剣術の基礎はレドミランから教わった部分が大きい。
レドミラン・ロックスター。キアステンからすれば、その名前よりも、『剣士』の名前の方が馴染み深いが。
「お婆さんとは、ゼルパパムの冒険者ギルド設立の時のあれこれ以来かしら?」
「ええ、お久しぶりですね。カリアンさんやレベッカさんはお元気かしら」
「別に私はその子たちと行動を共にしているわけじゃないから何とも言えないわ。でも流石に寿命で死んでいるんじゃないかしら」
「ちょ、キアステン。デリカシーっつうか情緒っつっかさ……」
「ふふ、いいんですよ。寿命というのは誰しもが迎える終わり。それは悲しいことではないのです。だから……『深紅の炎』の皆さんも、悲しい顔をしていないのでしょう?」
悲しんでいる者は、いない。
むしろ皆、朗らかに笑って。
「……そうだ、それで……おれたちが生きた意味って、なんなんだ、レディ・オーレリア」
「先へ言葉を届けるため。私はそうだと捉えています。……恐らく、数多の過去を未来へ追いつかせることができるのは、キアステンさんとリュオンさんだけ。……いえ、あるいは、あなたたちでさえも、それはできても……未来を過去へ追いつかせることは、できないかもしれない」
「……未来を、過去へ」
「そう。あと少し……紫輝歴770年に訪れる災厄。私達は……居合わせることができないけれど、そこで途絶えてしまう未来を、新たに訪れる過去へ繋げられる存在。言葉は……その人に託さなければならない」
紫輝歴770年の災厄。
それについては、魔王国、仙実国、アスミカタ帝国、連邦などの予言者らが告げている。
文明を壊し尽くしてしまうほどの破壊。それが降誕すると。
各国では災厄竜ユランに対抗するための魔導兵器や魔法の開発が急がれているし、結界による防御ができないか、というところにも話が飛んでいる。
魔族をして、災厄竜ユランの脅威度は未知数。どれほど準備をしても足りないかもしれない、と。
「シュライン・ゼンノーティ。そして、ケレン・ゼンノーティ。彼らの死は、このまま……隠されたままになっていいものではない」
「おれは……もう、死ぬ。だから……言葉を、か。……。……頼んでいいのか、リュオン」
「おう。おれ達が人族より多少長く生きる理由は、人族が届けられなかった言葉を、次の世代に伝えていくためだって……そう思ってる。魔族とは人族の代替。人族が埋められない穴を埋めるための存在だ、ってな」
「昔なら、そんな悲しいことを言わないでくれ、って……言ってた。けど、違うんだよな。少なくともお前は、代替を、スペアとか補欠とかじゃなく……継承だって考えている」
「そうさ。魔族とは、いなくなったもの、消えざるを得なかったもの。そういうものたちを継承して生まれてくるものだ。……ここでお前達が途絶えるのならば、おれは、お前達を継承して進む。そんで……おれたちさえも辿り着けない場所があるのなら、潔く次代にバトンを渡す」
ここに行われたるは、継承だ。
友に戦った戦友。心の通じ合う親友。
「なんたっておれは、"
「……ああ。じゃあ……インゼン先生への、言葉を……託そう。道半ばにして死に行ったあの人への……おれたちからの言葉を」
「ケレンへの言葉は、この手紙に封入してあります。……お願いしますね、キアステンさん」
「任せなさい。ま、といっても私はあきらめないけどね。災厄なんて知るものですか。ちゃんと生き延びて逃げ延びてやるわ」
言葉が。
「災厄かー。ボクも死んじゃうのかなー?」
「僕らも戦うんだよ♪ そっちのオーガとクォーター魔族は見た目が若くても中身お爺ちゃんだからね♪」
「四十年後じゃ、さすがに俺もおっ死んでるなァ。フィノ、てめーは?」
「私も流石に無理でしょう。既に関節等々痛いですし」
「……つーかハーフリング族だって寿命百年ちょいとかじゃなかったか? 実はテメーもジジイだろオイ」
「あ、バレちゃった♪」
そんな。
最後の最後まで……いつも通りの雰囲気に囲まれたままに。
英雄カズラ・リアナは……その生を終えた。
紫輝歴731年。七十五歳のことであった。
波の音が、聞こえている。
***
バ、と扇子が広げられる。
煌びやかな装飾品が揺れて、彼女の美しさが引き立てられた。
「……アルカ。私、これでもお嬢様でしてよ。というかあなただってストレイルは持っているでしょう。なぜ毎回毎回ファストフードなのかしら」
「え? おいしーじゃん。なんやかんやで私達どれだけ食べても太らないんだし、おいしーものを食べたいじゃん?」
「はぁ……。おかしいですわね。レスベンスト冒険隊と共にいた頃は、教授の作る料理を好んで食していましたのに」
「そりゃ勿論教授のご飯が一番おいしかったけど、これが美味しいって思うのにおかしいとまで言われる筋合いは」
「教授の作る料理は全て栄養バランスや身体に与える影響度などが考えて作られていましたのよ。その上で美味だったのです。これとはコンセプトが真逆ですわ」
「だから、その影響を考えなくてよくなった身体になったんだから、美味しいものを食べるのにそこまで気を遣わなくてよくなったってことで」
あーでもないこーでもない。ガミガミガミガミ。
美しさはどこへやら、この二人が揃うと毎回毎回こうなので、普段彼女らの周囲にいる者達は気にしていない……のだが、今日はそういうメンバーでもないため、若干引かれている。ちなみに消音結界は張ってある。
彼女らの対面に座っているのは二人の男性。
なんなら若干どころじゃなく引いている青年、アレクサンダー・フォノン・"ルベント"・ドノヴァと、フードで顔を隠している青年。
「あー、なんだっけ。聞いたことがある。レスベンスト冒険隊ってのは、喧嘩したままを放っておくと、店どころか街を吹き飛ばすんだったか?」
「おや、それは恐ろしいね。僕や君にもできないことではないですか?」
「……私達を彼らと一緒にしないでくださいまし。そういう……口喧嘩からすぐに手を上げるのはアルジオかレベッカのどちらか。私、アルカ、ヴィクニはいつも隅で縮こまっていましたわ」
「おや、私の記憶違いですか? ヴィクニもあなたも、さりげなく魔法で火に油を注ぎ、仲裁に動いていたのは『船長』……アルカだけだったと思いますが」
レスベンスト冒険隊を一緒くたにしてくる二人に苦言を呈するエレオノーラ。そんな四人のもとへ追加のファストフードを運んできたのは、糸目の青年。
リチャード・スミスだ。
「そう、そのとーり。やっぱリチャードは流石だよね。よく見てるしよく覚えてる」
「……人族の癖に無駄に長生きして……あの頃から、余計なことを吐くことしか学べませんでしたの?」
「おや、あなたも人族でしょう? 妙法で無駄に長生きをしているのはお互い様なのでは?」
まーたバチバチし出した二人。
アルカはそれを止めるでもなく、食事に勤しんでいる。
──その二人と、さらに追加でアルカの頭部に、ゴスッと鈍い音を立てて……本が突き刺さった。
「あ痛ァ!?」
「おい……やり過ぎじゃねえか、トラッド」
「問題ないですよ。彼女らは頑丈ですからね」
「な、なんで私まで! 私は喧嘩売られた側なのにー!」
「話が進まないから、喧嘩両成敗というやつさ」
納得いかない、という顔をしている三人だが、まぁ、自分たちが悪いというのもわかっている。
今しがた……魔法陣から本を生成して落した、フードの青年。
魔法使いトラッド・ユニトは、ようやく静かになったことを確認して……言葉を切り出し始めた。
「来年。紫輝歴744年。エリスフィア帝国のどこかにて、ヘンリー・エカスベアという少年が生を受けます。かのヘンリック・エカスベア魔導博士の再来とも謳われることになるこの天才ですが、彼が生まれるその年、その月に、エリスフィア帝国を竜災が襲います。──依頼です。可及的速やかにこれを排除してください、レスベンスト冒険隊の方々」
「その天才というのは、そこまで替えが利かないのですか? たとえばあなたとて、天才の括りでしょうに」
「ええ、認めますよ。ただ僕の天才性は"何かを犠牲にした場合"にのみ成り立ちます。このヘンリー・エカスベアという天才は、他者の成果物を繋ぎ合わせ、一つのものに昇華する天才です。僕とは比べ物にならない才能であり、そして……
歴史に点在するように現れ、技術や知識を残していく
「
「ちなみに紫輝歴744年に竜災が起こるのは、こっちのデータとも合致してる。竜が出現する時、大地の魔力が渦を巻くんだけどよ。来年のエリスフィア帝国に向けて今まさに渦を巻き始めたところだ」
「具体的にどれほどの竜か、というのは、わからないのでしょうか」
「魔力の集まり具合からして、あんたらがマリト・マフィアとのいざこざの時に戦った竜と同規模だと思うぜ」
「あのレベルかー。……ローレンス先生ばりのヒーラーがいないと厳しいかも? 私達今火力も不足しているしさ」
アルジオ・レスベンストとヴィクニ・レスベンストは紫輝歴714年に、レベッカは紫輝歴719年に没している。
半身をもがれたレスベンスト冒険隊は、遊撃のリチャードと後衛二人しか残っておらず、そもそもレスベンスト冒険隊自体かなり前に解散している。
三人だけで竜退治、というのは、多少の不安が残ると言えた。
「一応俺が前衛を務めることはできるぜ。アルジオ・レスベンストとは比べ物にならないくらい弱っちいけど」
「アレク。君が危険になれば、ナタリー……今はナタリアでしたか? 彼女が出張ってくるかもしれませんから、火力は上がりますよ」
「ああ……あいつどこにいんだろな」
「あ、僕は前衛とか無理です。見ての通り魔法使いですからね。……他の【マギスケイオス】方々には声をかけられないのですか?」
「今はみんな世代交代なんだよねー。幼少時点で充分強力な魔法を使うんだけど、それでも全盛期には劣るっていうかさ。私とかエレオノーラが特殊なの」
「……強いて言えば、『全開』は呼べるかもしれませんね。彼女に生まれ年とかありませんし」
生まれ年が無い。
その言葉に、アレクとリチャードが疑問符を浮かべた。
「パイル姐さんがいれば百人力だけど、来てくれるかな。竜とか倒し飽きてそう」
「あなたが可愛らしく頼めば来てくれるでしょう。彼女、あなたがお気に入りですし」
「それを言うならエレオノーラだってそうじゃん。一緒にかわい子ぶって頼み込む?」
「私の全財産に匹敵するストレイルを積まれてもやりませんわ」
パイル姐さん、そして『全開』の二つ名から、それがドリルパイル・バンカーバンカーという【マギスケイオス】第二位のことであるのはわかる。
彼女が何者なのか、というのは──。
ほどなくして到着した彼女を見て、トラッドが口元を押さえ、納得の呼気を吐く。
「……あなたは、……初めて見ました。『院長』以外に……本源から世界と乖離している存在がいたとは」
「あら……なんだか覚えのある魔力ね。さてはアスミカタ帝国のあの趣味の悪い封印結界を作った賢者じゃない?」
赤い光沢の入った銀髪。エメラルドグリーンの瞳。人種や時代といった特徴の一切が削ぎ落された、「美」を体現する容姿。
「っと、初対面で失礼すぎたかしら。初めまして、私は……そうね。BBって呼ばれているから、そう呼んで」
「パイル姐さんでも可!」
「それを許しているのはあなただけよ、アルカ」
恐らく普通の人間が彼女を見ても、感じるのは「浮世離れしている」だとか、「異質だが美しい」というくらいのものだろう。
だが、トラッドと、そしてアレクにも……わかる。
彼女には時間が流れていない。たとえ円環を描いていたとても流れ続ける時の潮流。それに流されることなく、ただ、立ち止まっている女性。
あるいは、その円環の中心にいるが故に、立ち止まっているように見える……のやもしれない。
「……それに、隣のコは、また面白いというか……なんというか。魔族に心臓を移植されたのね。しかも王族じゃない?」
「そう……なのか? 確かに移植はされたけど……あ、これ言っちゃダメなんだった」
「大丈夫ですよアレク。彼女の周囲は"整合"の影響を受けません。だからこその制約も多そうですが」
「……そろそろ私も輪に入れていただけませんか。現レスベンスト冒険隊で私だけが【マギスケイオス】ではないため、なにも話についていけていないのですが」
苦言を呈するはリチャードだ。この場にいて、彼だけがとんでもない疎外感を覚えているのは火を見るよりも明らかだった。
「輪に入れる入れないでいうなら、私、呼び出されただけでなんにも聞いていないのだけど? エレンがあんなにも可愛らしい声でおねだりするから、何事かと思って飛んできただけで」
「え。やったんだ」
「やっていませんわ!? ちょっと『全開』、おかしなこと言わないでくださいまし!」
「"BBお姉様……私、勝てるかわからなくて、不安な相手がいますの……どうか助けてくださいまし……"って言ってきたじゃない」
「何千兆ストレイル積まれたって言いませんわ! ああもう、これだから他の【マギスケイオス】を頼るとロクなことになりませんの。もういいですわ、前衛問題は私がストレイルを積んで各国のS級冒険者を集めます!」
「拗ねちゃった」
「ハハッ、可愛いなこの子。初対面の時はとっつきづらいタイプかと思ったけど、良い子だな」
「ふふ、良い目をしているわね、あなた。そうなのよ。エレンは可愛らしいの」
むがー!! とさらに怒り狂うエレオノーラに、これはまだまだしばらく蚊帳の外だろうな、とはリチャードの胸中である。
彼女が落ち着きを取り戻すまで、約三十分ほどを要した。
その後。
「成程ね、未来の竜災。……あなたは夢見? それとも星詠み?」
「夢見です」
「それ、違いってあるの? 予言者の種類色々あるけど」
「はぁ。……基本的に、予言者、星詠み、……あと魔族の予知夢などは、霊質から未来を読み取る行為を指しますわ。反面、夢見や歌遣い、曳航者という者たちは、未来や過去にいる自身と同質の霊魂を持つ者と一時的に繋がることで未来や過去を読み取りますの。前者は個人や国の行く末といった固定されたものへの未来視に特化していて、後者は世界全体に影響を及ぼすタイプが多い……という印象ですわね」
「それだけじゃないわ。前者はそれが過去に起きたことなのか未来で起こることなのか、という判別がつかないの。たくさんの予知を重ねることで絞っていくんだけどね。でも、夢見や曳航者らは、それがいつ起こることなのかまでわかる。自身との相対年数がわかるから」
エレオノーラとBBの解説に、「その通りです」と頷くトラッド。
「承った。過去に未来を追いつかせるために、その子の命を助ける。最後の未来がちゃんと芽吹くようにする。……いいじゃない。やる気が出るってものよ」
「では、ようやく話に入れますね。今から想定しておきたいのです。BBさん、あなたの戦闘スタイルを教えてください」
「近付いて、魔力で殴る!」
「……なるほど、アルジオと同タイプ、と」
間違っていなかった。
そういう、未来についての話し合いが一段落したあと……魔道具技師を兼業しているアレクのもと、レスベンスト冒険隊らは自身の新たな装備を作りに、彼の工房へ向かった。
その背を見送って。
「あなた、気付いているのでしょう? アスミカタ帝国に、なにか変なものがいるって」
「……ええ、気付いていますよ」
変なもの。
その気配を彼が感じ取ったのは、紫輝歴684年。魔王エステルトがカズラ・リアナを始めとした者達に討たれる少し前だ。
自身の作り上げた楔の破壊された時代から、時を超えて、異物がやってきた、と。
「まったく、酷い話ですよ。こうなることを見越して僕は竜災封印結界を作ったというのに……たった五百年で破壊されて、世界はまた竜の脅威に震えている」
「あら、あなたの結界、ユランにも効いていた想定なの?」
「いいえ。それでもこっちの……天才や英雄が生まれるたびに、それがのさばることを妨害するかのように現れるくだらない使者の方は、抑えられていたはずでしょう。災厄竜ユランは無理ですよ。仕組みが違いますから」
「ユランのこと、よく知っているのね」
「ええ」
彼は……虚空から、『異邦見聞録』と題された本を取り出す。
「災厄竜ユラン。竜と言われていますし、竜の見た目をしていますが、その本質は生物のそれではありません。かつて……あるいは未来にて、涅月の化身はこの世の円環をろくろに例えましたが、それは真実正しいのです。車輪ではなくろくろ。平面であり、外力によって回転させられているもの」
その本が放り投げられる。空中でページを開いた本は、その一ページ一ページを紙で出来た鳩にしていって。
「天より遣わされしそれは、正しく天より出でしもの。即ちあれなるものの本質は、──天使である、と」
「……天使」
「まぁ、あの異物のことはあなたたちでどうにかしてください。僕が次に現れるのは、時の円環のリセット機構が『院長』の手で改良されたあとです。されない限りは出てきませんので──よろしくお願いいたします」
そのまま……紙の鳩に包まれて、トラッド・ユニトは姿を消した。
BBが彼の姿を見たのは、それが最後だった、とか。
***
……という話を、勉強会の場で、聞いた。
BB本人から。
「……天使、ね」
成程これは確かに、メッセンジャーがいなけりゃ伝わらない言葉だ。
有効活用させてもらうよ、トラッド。