序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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79.浜に打ち上げられた鯨

 今日も今日とて竜退治に出ている面々を見送って……一人、BBの家で考える。一人と言ったが一応ノクスルーナもいる。

 

 災厄竜ユランは天使としての性質の方が大きい。なんぞか賢者と呼ばれているらしいトラッドからのメッセージは、成程有用なものであると言えた。

 この世界の天使というのは、マー知名度が低い。神が割合同じ目線にいるからだろうな。天が遣わすものといって、そもそも天とはなんぞやって人間ばかりだ。

 天。これはそのまま星であると考えて良い。惑星。つまり大地だ。天地の差から正反対のものであるように感じるかもしれないが、そこは言葉の妙ということで。

 俺はこの天について、結構初期から知覚していた。ローレンスの時、でっち上げの教戒院の名前にわざわざ「天より追放されし(エチェロエグズル)」なんてのを付けたのは、俺という存在を正しく表していたから。

 天は、この星は、俺という存在の一切を歓迎していない。それは……シュライン、ケレンあたりで割と気付いていた。肉体を有していない時とかすんごい反発来るし。知らね~で肉体作って定着するんだけど。

 

 意思……言語的な意思があるかどうかは知らんが、割と厳格にこの世界を管理しておきたい、って感じは受け取っている。

 時の円環と千年周期で入るリセット機構。それによって保たれている、秩序立った世界。

 魔族の宗教である輪廻転生とゼルパパムを中心とした広くにある「人は皆生まれる前に自ら席を選ぶ」という宗教。

 これ実は同じものなのではないかと考える。つまり、霊魂の総数に変動はなく、その魂たちが毎度毎度自身で席を選んでいる、という考えかただ。

 予言者や星詠みというのはろくろに刻まれた事象を読み取る者達のことで、夢見や曳航者が自身と同質の霊魂を辿って過去や未来を測量する、という話にも繋がるか。

 恐らく紫輝歴、涅月歴において、一つの霊魂が座り得る椅子はそれぞれ一つ、つまり二つまで。

 

 この法則を厳格に保ってきた世界だったが、俺の関係の有無の外で、成り立たせられない事象が出た。

 多分、寿命と……戦争による大量死かな。魂の総数が決まっている世界で一気に人が死んで何が起こるかって、そりゃ人口減少だ。

 用意していた椅子が余っているのに、もう席にはつけない、という魂が増えてしまった。

 そこで導入したのが恐らく魔……。代替者。代替物。選ばれなかった者達というシステム。

 

 その席の代替物として相応しい働きを見せると同時、生物として強靭であり、寿命も長い。穴埋め専用種族にしか思えん。

 種族にも依るが、百年前後を寿命とする魔族は色々丁度いいんだろう。特殊個体魔族は由来魔力が涅月だから、また別口の話かもしれないが。

 ……腹ペコ竜の晩餐会(サレナスズナ・クリロノミア)は「人間が起こす無駄な争いを止めるために竜が遣わされているのだ」みたいな与太話があったけれど……竜そのものにその意思があるかはともかくとして、戦争が起きて一気に人間が死ぬと面倒臭いから竜を派遣して最小限の被害に食い止めようとする、っていう考えはあるのやもしれない。

 英雄や天才のもとに竜が現れやすいのも似た理由か? 得てして英雄や天才は戦争の火種になりがちだものな。……でも英雄や天才は大地の魔力由来であることが多いんだよなぁ。

 大地と呼ばれるものが一枚岩じゃないってことがあり得るのか? 英雄担当課とか王貴担当課と、災厄担当課が分かれている、みたいな……。

 

 ……トラッドの作ったあの竜災楔の結界がユランには効かないって話も気になるんだよな。

 今の話でいくと、竜とはそもそも天使である、というように思える。天が遣わした使者。天の裁定者。

 けど、奴の言い分をBBがそのまま伝えてくれているとするのなら、ユランだけが天使で、他は生物的な竜なんだ、というようにも聞こえる。

 

 あるいは……クィローの時に感じたあのとんでもない殺意のことを言っているのだろうか。

 つまり、天使としての自覚があり、天使として俺を排除しにきているのがユランだけである、と。

 

「……ダメだ。これ以上は対面してみないとわからん」

「考えごとは終わりなのだわ?」

「ああ、一旦だがな。……お前は、竜退治には行かないのか」

「私は別に、あの子たちに何かされた、ということもないのだし、当然なのだわ」

「お前はこれから……どうするんだ。俺がユランをどうするかはお前に関係ないだろう」

「あなたにまたコンストラクトを作ってもらうのだわ。できるのならば、涅月(わたし)をお空に戻してほしいのだけど、流石に無理なのだわ?」

 

 流石にそれは……。

 そもそもなんで墜落したのか、さえわかっていないのに。いや、涅月大の魔力結晶体を元の位置に戻す、程度ならできるけどさ。

 

「なにか前兆とか、おかしかったこととか、なかったのか。涅月が墜ちたと思われる日」

「うーん? ああでも、そういえば私、気付いたらここにいたのだわ」

「それは聞いたよ」

「でもそれっておかしなことなのだけど。私という意識に断絶は存在しないのだわ。生物のように睡眠することも、気絶する、昏睡するということもないのだわ。幻術のゲームをしている時でさえ私の意識は明瞭なのに、涅月が墜ちたと思われるあの日だけ、一度、ぷつんと途切れているのだわ」

 

 ……。意識が、奪われた?

 そういえば……キロスに涅月が墜ちたって割には、破壊の痕跡が少ない。一部のものは原型まで残っている。

 墜ちたというより、眠らされて……静かに殺された、みたいな。

 あのゲームでの、カリアンみたいに。

 

 まさかこいつが被害者なのか? 二つの殺人者から狙われ、殺され、大事なものを盗まれる……被害者。

 そうだとするのならば、こいつを墜としたのは紫輝ってことになる。酒に薬を入れて眠らせた、というのがどれほど反映されているのかは知らんが……なら、涅月がコイツに止めを刺しに来る、のか? 涅月の精霊たるこいつを?

 ……考えられない話じゃない。何かが……涅月に成り代わろうとしているのなら。

 俺の想定が正しいのならば、ユランによる時の円環のリセットの際に行われるのは、代替。

 毎度のリセットに合わせて少しずつ世界は代替されて行っている。磁力が魔力に、動物が魔物に、そして人族が魔族に、竜が魔竜に。

 

 ならばこのタイミングで……涅月を代替しようとする可能性は、大いにあり得る。

 あの時大地が……ジュノさんが奪おうとしていたものは土地の権利書。殺しの動機もマリト・マフィアの全ての相続権を慈善事業に、みたいなところからのものだった。

 涅月の継承してきたすべてが……後からやってくる涅月と紫輝によって殺され、大地によって奪われる。

 

 もし……この考えが正しいのなら。

 俺の希望的観測ではないのならば。おかしな確証バイアスでないのならば。

 

 なんて──。

 

「やりやすい、な」

「なにが? なのだわ?」

 

 この、ダル絡みしてくるだけの幼子が敵ではなく、そしてこの幼子の命を狙わんとするものが敵であるというのなら、ああ、なんとやりやすいことか。

 単純に心情の問題さ。できることならば俺は、輝かしき明日を望む者を手に掛けたくはなかったから。

 

 子供に優しいとか、基本的に善人とか言われているけど、そうじゃない。

 普通だろう。誰だって……子供を手に掛けたくはないはずだ。そうでなくては困る。

 

「もう一度、空に帰りたいか、ノクスルーナ」

「それはもちろんなのだわ。寂しい場所だというのはその通りだけど、それでもあそこが私の家なのだから」

「良いさ。なら、天体の一つや二つ作ってやる。そうさ──それならば、多少のやる気も湧く」

 

 カリアンがトムさんを頼って呼んだように、俺もノクスルーナに呼ばれて来たようなものだ。

 ……となると、トムさんと同じく紫輝に昏睡させられることが俺の警戒すべきポイントかな。……しかし、だとすると……探偵役は誰なんだろう。

 

 アルカ? ハニー老? 銀・結糸?

 ……まさかとは思うけど、あのおっさんじゃないだろうな。アンドリ……アンドリーさん、だっけ? 絶対違うな……。

 

 

 BBと出会ってからそれなりに経ったある日。

 

「……でないわね、ユラン」

「じゃのう。実はもう出なくて、儂らこっから人類再建を目指さなければならない、みたいなオチは」

「自分でわかってるでしょ~。だったらあたしたち、この裏技で蘇れなかった、ってサ~」

 

 そういえば。聴きそびれていたな。

 

「結局どうやって生き返ったんだ、お前ら」

「……んー。真似しないと約束できるかの?」

「まぁ、基本的にする意味がない。俺は……お前らの言う通り、死が然したる意味を持たないからな」

 

 言えば、ハニー老は「ふむ」と一度頷いて。

 

「簡単に言うと、儂らは過去から来たんじゃよ。災厄で太刀打ちできずに死ぬことを見越して、過去に自身を複製し、未来へ送り届けた、って感じかの?」

「……『所有物を倍にする魔法』か」

「あったり~。そ、あたしのスペシャルなこの魔法で、もう一人の自分を作って、一人はそのままの歴史を、もう一人は未来へショートカット!」

 

 成程。……だが。

 

「相当な無理を通さなければそれはできない。霊魂を二倍にするのは……恐らく、とんでもない反発を食らうはずだ」

「その通り。普通の霊魂相手にこれを使っても、天からの圧力でぺしゃんこになってしまう。じゃが、儂、銀、アルカは特別でのぅ、その心配が無いんじゃ」

「嘘だな。何度も使える手じゃないというのはお前が言った言葉だ。……いや、成程。複製ではなく分割でしか反発に対応できないんだな?」

 

 椅子の数は決まっている。霊魂の総数も決まっている。

 それをみだりに増やす行為は、この世界を生きる者達にはできない。

 だが、一人が席を二つ確保し、魂を二つに分けて座れば……それが可能になる。

 

「えぇ……末恐ろしいにも程があるのぅ。儂、フツーに怖いんじゃけど。少し喋っただけで全部見透かしてくるのやめんか?」

「ふん。一時的にでも背を預けるというのに隠しごとをする方がおかしいだろう。……だが、ハニー老。お前はそもそも魂を分割しているだろう。さらに分割して平気なのか?」

「儂と精霊の儂の仕組みまで見抜いておったか。ううむ、まぁ、平気かどうかでいうと……『不死』ともあろうものがユランに負けちゃうくらい平気じゃないわい☆」

「せいっ」

「やぁ!」

 

 軽い掛け声と共に、BBと結糸の肘鉄がハニー老の頭部に突き刺さる。

 沈むハニー老。

 

「珍しいわね、銀。私達の気が合うなんて」

「ね~。……おじーちゃんさ、もうちょっと歳を考えようよ。あたしに怖気が走るとか、世界中のどんな存在でも成し遂げられなかったことだよ~?」

「だって儂……歳を考えると全てのボケができなくなるんだもん……」

 

 まぁ多分、全生物より高齢だろうしな、こいつ。

 しかし……魂を二分して片方を未来に送る、か。時間軸の外というシェルターに入って災厄をやり過ごす手としては最良なのやもしれんが……。

 

「もし災厄が終わっていたら、この方法では蘇ることができなかった、というのは……。……ああそうか。今お前達が座っている席は、災厄後の歴史には存在しないのか」

「はい、そういうことです。今の私達は、この先に歩を進められないことを条件に成立している影法師のようなもの。何がどうなったとしても……災厄が消え去り、私達が災厄で命を落とさないことになったとしても、今教授と話している私達は世界から抹消されます」

「大丈夫よ。私と彼が覚えているから」

「だからもっと踏み込めばいいのに、って言ったんだけどねーあたしは。どーせ本来のアルルンに還元されないなら、もっとはっちゃけちゃえばいいのに」

 

 銀・結糸の冗談は措いて擱いて……。

 仕組みは、理解した。……それで……元来のハニー老がユランに負けたのであれば、お笑い種だが。

 戦力ダウンを込みで考えても未来へ送らざるを得ない理由があったのだろう。

 

「シュライン・ゼンノーティの名を奴に売ったのはなぜだ。そもそもなぜその名前が飲料や食料の代価になった」

「ああ、アンドリ……なんじゃったっけ」

「アンドリアミアフィナイラロカ、だよ、フラニー老」

「ああそうそれそれ。あの者が訊いてきたからじゃよ。"世界の命運に関わることができるほどのことを成し遂げた者に心当たりはありませんか"、っての。それを教えてくれたら食料などを差し上げます、と」

 

 ……づぅ。

 あいつも……できれば疑いたくないんだけど、怪しい要素しかね~~~~。

 なんでそんなこと聞いて回ってんだよ……。

 

「それで……なんでシュライン・ゼンノーティなんだ」

「なんでって、最新じゃし。お主的に直近は刻黒山の仙人なんじゃろうけど、あの仙人は別に発明とかしとらんじゃろ。気に関するあれこれを纏めただけで」

「理由はそれだけか」

「それだけじゃけど。そもそもそこまで多くのお主を知らん、というのもあるの。『最小限』の想いび、」

「せい!」

「やぁ!」

 

 とんでもない打撃がハニー老の背骨に入る。BBはともかく銀・結糸もやるんだこの話題で。

 ……案外コイツ、アルカのこと気に入っているのか?

 

「おじーちゃんさ、今のはナイ。今のはナイよ~」

「最低ね」

「ふ、二人とも、大丈夫だから……」

「イタタタタ……は、話を続けるぞ。えーと、じゃから、モーガン・カルストラやローレンス、あと……まぁわからんが、その辺はぶっちゃけ"世界の命運に関わることができるほどのこと"を成し遂げておらんじゃろ。確かに凄いことはしておるが……」

 

 それはそう。

 色んなポジションになってきたけど、世界に莫大な影響を与えたのは、クィロー、ハウル、シュラインくらい。『博士』だって結果的にエリスフィア帝国くらいしか救ってないし。

 その上でクィローは精霊たちしか知らないし、ハウルの影響は「命運に関わる」ほどじゃない。

 だから……なるほど、そうなるとシュラインを挙げるのは正しいかもしれない。

 

「なんでアンドリアミアフィナイラロカは……それを聞いてきたんだ」

「知らぬよそんなことは。というかあれは結局誰なんじゃ。儂、結構色んな国を回ってきた自負があるんじゃけど、あんな名前も聞いたことないぞぅ」

「とりあえず仙実国(シァンシーグァオ)の人間じゃないねー」

「ゼルパパムでもないと思う……。もっとこの周辺国から離れた国の人なんじゃないですか? ザミザイフェスとか……」

「仮にそうだとして、どうしてそんな遠い異国のひとがこの地で商人をやっているのか、よね」

 

 ……わからん。

 マジで誰なんだ、アイツは。

 

高貴なる(アンドリア)隠し持つ(ミアフィア)私達(ナイ)(ラロカ)……だから、つまり、密かに影を守る番人とか、正体を隠した高次の使者とか、そんな意味なのだわ?」

「え」

「……ノクスルーナ。わかるのか?」

「懐かしい言葉なのだわ。私がこっちの……あなた達と話しているこの言語を覚える前に話していた言葉なのだわ」

「あー、純天体語なんだぁ。それは知らなくてトーゼンかも~」

 

 純天体語……?

 

「銀、何か知っているの?」

「んーと、羅詞源語(らしげんご)継詞基語(けいしきご)ってあるでしょ~? 今皆が使ってるやつね~。それは当然、ヒトがヒトのために作った言語でぇ、昔は無かったんだよね~」

「昔て。お主生まれ紫輝歴61年とかじゃったろ」

「あたしはトクベツなんですぅ~。迷い家クンはそれわかってるよねぇ?」

 

 ……なんだ。こいつ、自分の種族をそう言いふらしているわけじゃないのか。

 ま、いいだろう。頷いておいてやる。

 

「この世界が出来た当初。廻り出した、その最初から使われていたのが、純天体語っていう古代言語でぇ、……でも少ししたら使われなくなったはずだよぉ?」

「正しいのだわ。人間の言語の推移は私も追うのが大変だけど、覚えている限りでいうと、純天体語のあとは、精霊語、羅詞源語、継詞基語、旧魔族語の順に発生していったのだわ」

「ノクスルーナちゃん、旧魔族語って……古代魔族語のこと?」

「え! また呼称が変わったのだわ? 人間ってどうしてそう……一つのものを長く使い続けないのだわ? 覚えるこっちの身にもなってほしいのだけど!」

 

 ほーん……。

 いやでもそれは、魔族が後から代替されていることの裏付けになる気がする。

 精霊語が先にあって、後から魔族語が意味を変えたんだな。だから同音異義語になった、と。

 

「それで……話を戻すんじゃが、あの商人は……つまり人間ではない、ということかの」

「紫輝からの使者説が濃厚だな。あるいは涅月に成り代わろうとする新たな涅月か……」

「え、教授、どういう発想なんですかそれ。突飛すぎるんじゃ」

 

 ただ……紫輝の化身ともいえる紫輝の愛し子がいる以上、やはりあれは涅月関連の誰かに思えるな。

 BBがノクスルーナを狙う状況は、別にまぁ、考えつくだろう。たとえばノクスルーナを殺さなければユランは殺せない、みたいになった時……BBが殺人者になる可能性は充分にある。

 殺人犯と呼ぶにはあまりにも、という状況であっても、結果だけを見れば殺人犯はBBになる。その場合は、だが。

 完全にそのままなぞるわけではないのだろうから、可能性として頭の片隅に入れておけばいい。

 

「なるほどのぅ。純天体語の名前を持っているあ奴は、そのまま天体のしもべなのではないか、という話じゃな?」

「考えすぎじゃな~い? あのおぢさん、戦ったりなんだりができるようには思えなかったケド~」

「そうね。それに、あの言葉にアテられて新たな行動を起こそうと思える人が、悪意ある存在だとは思えないのよね」

 

 それについては同感だ。

 だが、人と人が争うのは悪意に依るものよりも善意に依るものの方が多いと……これを語った相手は、『王様』だったか。

 自分にできることを探した結果、ノクスルーナを、ということになる可能性は決してゼロじゃない。警戒するに越したことは無い。

 

「そもそもどこ行ったんじゃあ奴。戦えぬのであれば儂らの近くにいた方が良いと思うんじゃが」

「たしかに~。じゃあ戦えないのはフリだったのかも~? この頻度で発生する竜を相手に少なくとも逃げ回れているとか、それだけですっごいもんね~」

「まぁ、警戒し過ぎて他が疎かにならないようにしつつも、意識の片隅には──」

 

 言葉は。

 最後まで……紡げなかった。

 

 まるでコマ送りのように時間が過ぎる。

 そちらを──凝縮された殺気の発生源へ、顔を向ける。

 

「教授?」

「……来たのね」

 

 なん……だ、この魔力量は。

 ファウンタウンに現れた『災晶』が……児戯に等しいレベルじゃないか。

 

 これ、最早……星一つに匹敵するほどの……。

 

「現れたんじゃな」

「ようやく雑魚狩りも終わりかぁ」

「……頑張らないと」

 

 まさか……ユランそのものを涅月の位置に収めようとしている?

 ……今は……考察は後、だな。

 

「BB。勉強会で言った通りだ。お前の魔法はユランの無敵を貫通する。だが、恐らくそれはそれとして途方もないレベルの生命力を奴は持っている」

「ええ。だから私のやるべきことは、威力・魔力流量共に増加した『零距離最大限』を当て続けること。死なないようにしながら。私の魔法が当たること自体が奴を弱らせる突破口になるのよね」

「『別界(パラレッラ)』ほどの結界術の腕は無いけど、火力を考えることをやめて、私はパイル姐さんの守護に全力を注ぎます」

「んじゃ『蓋然』、儂らはいつも通りタンクかのぅ」

「BBちゃんの話じゃ私達カンタンに死んじゃったみたいだしぃ、いつもどーりの感じで行ったら多分プチ、だよぉ~? その辺わかってるぅ? おじーちゃん」

「ほっほっほ、わかっとるわい。あでも危なくなったら助けてちょ」

 

 対ユランの布陣はこんな感じだ。

 更に彼女らには、俺謹製の魔晶石加工装備を渡してある。過剰戦力じゃないかと多少心配してたが、どうやら焼け石に水が近いのかもしれない。

 

「ノクスルーナ。俺のそばから離れるなよ」

「わかったのだわ。のだけど、あなたは何をするのだわ?」

「見る」

 

 災厄竜なるものを。災厄を。戦場全体を。

 見て、解析して、解決する。

 

 それが俺の役割だ。

 

「多分ヘイトコントロールはできると思うけどぉ、流れ弾が行っちゃったらごめんねぇ~?」

「お前達こそ、俺の解析が瞬時に終わって、お前達では牙一つ立てられなかったユランを片手間に解体されて、憤ったりなんだりをするなよ。俺は聞き届けないからな」

「ほっほっほ──これでもかってレベルに舐め腐られておるのぅ! 楽しくなってきたわい!」

「ネー。あたしたち一応【マギスケイオス】なのにネー」

「期待はしているさ。なんせ『到達(ペルウェニーレ)』……重村鎖袋が一番弱いんだろう? あいつの期待と尊敬通り、お前達が真に魔導を追求していることを祈るよ」

 

 やがてそれが……そいつが地平線に顔を出す。

 岩石の集合体に見紛うゴツゴツとした外皮。涅月の見かけの大きさの、四、五倍はあるかという巨体。

 それがゆっくりと……いや、遠近を考えれば300kathl/hくらいの速度でこっちへ向かってきている。

 

「あの頭のおかしい筋肉馬鹿の発言を真に受けるでないわい! 正面切っての戦闘力ならあ奴は普通に中堅クラスじゃ!」

「シゲの兄ちゃんは自分が普通のオーガ族だって疑ってなかったからなぁ。いやその通りではあるんだけど……」

「少なくとも『観察者』君の方が弱かったよね~。『先見』は強かったケド」

「あなたたち……恥ずかしくないの? 『到達』が私達の背を押してくれているのよ。なら、ここは、誇らしく是と……私達は彼より強いんだって見せつけなきゃ」

 

 やがて、それは……そいつは。

 俺達の上空まで来て、大きな大きな咆哮を上げた。

 

 全長は……62.9athlを優に超えて、目算──114athl。メートル換算すれば、約200m。

 生物を超えて……最早何か、天候か、宇宙船か……そういったものにさえ見えるそいつこそ。

 

「災厄竜ユラン。──いいさ、お互い、喧嘩のバーゲンセールと行こう。俺はお前を生物だと罵るから──」

 

 お前は俺を、生物ではないと……否定してみせろ。

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