序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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81.俊傑にさらう風の色

 紫輝歴770年初頭──。

 エリスフィア帝国はエカスベア魔導研究所にて、青年が「え」という短い疑問を漏らした。

 

「なに、どうかしたの、ヘンリー」

「……キアステンさん?」

「だから、さん付けはやめてってば。何度も言ってるでしょ」

 

 特に何もない……青年に変わった様子が見受けられなかったので、キアステン・バリムケラスは自身が今までやっていた作業に戻ろうとした。

 それがなんだったのかについて悩むために、足を踏み出さず、つんのめる。

 

「あれ……私、今まで何をしていたんだっけ」

「……僕……ヘンリー・エカスベアは、常に記憶のバックアップを取っている。僕に何があっても、僕の技術を頼ってきてくれた人に……正しい笑顔を与えられるように。だから言います、キアステンさん。今……恐らく、数日単位で世界に改変が起こりました」

「だから普通に話してってば。……あれ。でもこの話、この研究所ではしていないわよね」

 

 そのはずだ。

 だって二人は、ガルズ王国で初対面だったのだから。

 

 ──来客を知らせるドアホンが鳴る。

 そして、それが開くより前に、二人が操作をするより前に、聞いたことのない……聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「おーい。おれだ、リュオンだ。あ、もしかして忘れられてるか? 色々説明するべきことができたから開けてほしいんだけど」

「リュオン……前代魔王ね。私に魔王を譲った。……え、私今魔王なの?」

「とりあえず開けるよ」

 

 扉が開く。

 そこから、浮遊する椅子に座った獅子の顔を持つ青年が入ってきた。

 

「おー……キアステンもいたのか。ヘンリーだけでも良かったけど、手間が省けるな」

「あなた、フードもなしに……って、そうだった、別にもう気にしなくていいのよね」

「いやいつの話してんだよ。人族と魔族が友誼を交わしたの、もうそろ九十年前になるんだぞ」

「……そのあたりの……記憶の混ぜ返しのことも含めて、今何が起きているのか説明してくれる、と……そう見て良いんだね、マイヤー元魔王」

「おおい、おれをファミリーネームで呼ぶな! それが一番恥ずかしいんだから!」

 

 さて──現状確認のはじまりだ。

 

 

 まず。

 

「本来。おれたちは全員、災厄で死ぬはずだった。これは理解できるか?」

「災厄。……涅月歴770年に起きた、文明をリセットするほどの災厄の話よね。此度、()()()7()7()0()()()()()()()()と予言者たちは言っていたはずだけれど……」

「いいや、起きたんだ。僕の記憶に断絶がある。バックアップが……十七日もの間を記録していない。恐らく770年に入ってからの十七日間、災厄に襲われたこの星は、あらゆる文明が途絶えていた。エリスフィア帝国に何があろうと機能するはずのこれが機能していないということは、人類の文明活動そのものになにかあったことの証左だ」

 

 天才、ヘンリー・エカスベア。彼は過去の天才たちが残してきたありとあらゆる発明を自身の手足のように扱っている。

 その中の大部分を占めるものが、エチェロエグズル教戒院と呼ばれる場所の卒院生が作り上げたもの。それらの中には記憶をアウトプットして、新しい記憶をインプットする、という類のものも含まれている。(とはいえ凡そ使い物になるものではなかったため、ヘンリーがブラッシュアップしているが)

 

「死ぬはずだった、って言ったけど、多分違うな。おれたちは死んだんだ。災厄を前になすすべもなく」

「……覚えていないけれど、覚えているわ。……なにか、とてつもなく大きなものに……追われていた気がする」

「恐らくそれは、災厄竜ユランってやつだろうな。……だから多分、全滅したおれたちの代わりに、誰かが……災厄竜ユランを倒してくれて、結果災厄が起きなかったことになったんだろう、っていうのが、おれの出した結論。そんで、誰かっていうのが──」

「まさか……『博士』?」

「おれにとっては『師匠』だけど、まぁ、【マギスケイオス】の提唱するところの迷い家ってやつなんだろう。奴ら曰く、歴史における転換点……人類が乗り越えなければならない難題や試練の直前に現れて、知識や技術を授けていく現象。それが個人なのか現象そのものなのかは判別つかないって話だったけど」

「だから……記憶が混同しているんだね。恐らく、予言関連の記憶がそのまま書き換えられたような……」

 

 迷い家の怪についての概略はここにいる全員が知っている。

 歴史上において度々現れるそれを知ったとしても、彼ら彼女らの思い出が翳ることはない。

 なお、ヘンリーはそれを経験していないので、翳るもなにもないのだが。

 

 ──来客を知らせるドアホンが鳴った。

 

「またか。……今度は誰だろう」

「この魔力は……アルカだと思うわ。ほら、あなたが生まれた年の竜災を対処してくれた、レスベンスト冒険隊っていう凄腕冒険者のうちの一人」

「ああ。【マギスケイオス】の『最小限』か」

 

 遠隔でドアを開けば、その通り、アルカ・ダヴィドウィッチが入ってきた。

 入ってきて、開口一番。

 

「フ・ラ・レ・たぁぁあああああ!!」

 

 泣きついてきたのである。キアステンに。

 どうすればいいかわからずとりあえず受け止めるキアステン。

 

「え、えっと……アルカ? 私達、こんなことをする仲だったかしら……?」

「えぇ~? ……あそっか、その辺の記憶も無いんだ……私もないけど。……じゃあこの憤りをどうすれば……エレオノーラ~! どこぉ~!?」

 

 溜息。

 それは……三人のものではなかった。

 

「あなた、大して関係値も無い他人の家に転がり込んで……なんですのみっともない」

「あぁいた! エレオノーラ!」

 

 弾かれるように飛んでいき、虚空へ抱き着いて……その虚空が暖色多目なお嬢様に変わる。

 

「あれ、お前エステルトの……」

「ええ、そうですわ。けれど、それ以上先は言わない方がお互いのためでしょう? 私はエレン・"オーラ"・マイズライト。初めましてですわ、二十三代魔王」

「……そうか。じゃあ、初めましてを言っておくか」

「そうしてくださいな。それに、今はそちらよりこの駄々っ子の相手をしなければ」

「ねえエレオノーラ聞いて、教授……教授に、告白したんだけど……ダメだったみたいで……」

「まだ妄想を広げていますの? モーガン教授は死にましたわ。折り合いをつけたのではなかったんですの?」

「それがぁ~!」

「……あのさ。事情はわからないけれど……どうして僕の研究所に来たのかだけ教えてくれないかな。泣いたりなんだりは、勝手にやっててもらっていいから」

 

 ざっくり。すっぱり。

 正論である。ヘンリー・エカスベアという青年は正論を言っている。

 

「彼の言う通りですわ。あなたがどうしてもここに来なければいけないというからついてきてあげましたのに、泣き叫ぶばかりとは」

「うぅ……あ、あのね……ヘンリーくん。これ……君が色々忘れる前に、私に渡した記憶のアウトプット術式。私の……私じゃない私が、過去にいる私に書き込んだ全てが入ってるから……インプットして」

 

 瞬時に構築されたるは三十を超える魔法陣。その速度と魔力に目を瞠るヘンリー。成程、ヘンリーの考案したと思われる癖の散見される魔法式だが、彼にはこれを描いた記憶が無い。

 害あるものではないことも魔法陣を読み取ればわかる。これはつまり、単なる記憶だ。

 

 受け取る。

 受け取って、自身にそれを読み込ませて──ヘンリー・エカスベアは。

 

「……この靄みたいなのが、迷い家の怪?」

「靄? ……ああ、なんかここだけ壊れてるね。私が見た時は普通に見えたんだけど……。もしくはこういう記録には上手く残せないのかも」

「ふぅん? ちょっと……、……凄まじいな。なんだこの魔法……魔力素配列の組み替えによる結晶化術式? それを……対象構造の把握を行いつつリアルタイムで変数書き換えを行って……。ハウル・ハーシェルのあれを汲んでいるのか? 『鎧型魔力濃度流動計算機』でも使われていた、大きなデータ解析の基礎式……。この天使とかいうの、そもそもなんだろう。人族や魔族とは違う次元にあるものだろうに、無理矢理肉体としてのラベリングをした上で変換してる……? こんなの、一歩間違えたら腕が吹っ飛ぶと思うんだけど……」

 

 彼の脳裏に映し出されるは消えてしまった十七日間におけるすべて。

 災厄竜ユランの出現。【マギスケイオス】の奮闘。そして──口元以外の全てがぼやけ、ところどころにブロックノイズの走っている、恐らく男性であろう存在。

 巨大な魔法陣を伴い、彼が最後に天使と呼ばれる存在へと行使した魔法は、ガルズ王国に伝わる星紋にも似ている。

 

「記憶の解析は後にして、アルカが何をしてきたのか教えなさい、ヘンリー」

「……ああ。……ずるいな。みんな。こんな天才と……そりゃ、良い思い出になるよ。……で、えーと。……簡潔に言えば、諸悪の根源は大地と紫輝で、けれど寛容だった大地に嫌気が差した紫輝が、簡単に災厄を行使できる権利を大地から盗み取った。迷い家さんはその場でそいつを仕留めようとしたけれど、此度の災厄を無かったことにすることを条件に命乞いを聞き届け、さらに人類が災厄越えできれば今後一切災厄を起こさない、という約束も取り付けた……って感じで合ってる?」

 

 頷くアルカ。

 だとするならば。

 

「……知識の継承技術を重点的に開発するべきだな。図書館という仕組みは有用だけど、それだと自ら知識を求める人間限定になってしまって……そうではない半数が不要になりかねない。人類全体を前に進ませるには、学校という取り組みが適切……問題は人材と資金……」

「お金が足りないなら……ここに、世界を四回買ってお釣りがくるほどのストレイルを持ってる人がいるよ……」

「五回ですわ。昔と一緒にしないでくださいまし」

 

 エレン・"オーラ"・マイズライト。

 世界でたった十二人の魔導士、【マギスケイオス】が第三位、『財宝』。

 

「無償で与えることはしませんわ。それがたとえ、私のためになるのだとしても。……けれど、融資なら構いませんのよ。返済も……別にストレイルでなくとも構いませんわ。その価値あるものを返済していただければ結構」

「人材は、魔族がいればどうとでもなると思うわ。でしょ、リュオン」

「なんで現魔王が前魔王に訊くんだよ……。まぁ、そうだと思うけど」

 

 人材、資金はある。紫輝歴770年から次に災厄が訪れるとされる涅月歴770年まで──あるいは、使われなかったことにされた位相結界シェルター『永遠の子供時代(エルヴァホイ)』を使えば、さらに先の紫輝歴770年まで……二千年間の猶予がある。

 気の長い話か、それとも、たった二千年間しかないと見るか。

 

「とりあえず……目下解決すべきは竜災ってことよね。それと、できるだけ戦争を起こさないこと」

「人類が竜災を乗り越えられるようなすべを新設する学校で教える、と? 中々至難ですわね。竜といってもピンキリですし」

「この……アンドリアミアフィナイラロカというのの言い回しを聞く感じでは、歴史に不要と判断された誰かが出た瞬間に竜災が起きる。魔竜による竜災が。そして、恐らくそれとは別口で、大地の竜による腹ペコ竜の晩餐会(サレナスズナ・クリロノミア)も起きるんだと思う。……さらに竜が発生することを防ぐすべは無い。……ああでも、魔力計測器で……竜の発生ポイントを予測することはできるな。……今から開発するとして、それまでの間の竜災は」

 

 最も足りないものは──時間である。

 二千年までに間に合わせればいい、ではないのだ。

 一度目の……これから誰かが不要と判断されるまでの時間しかない。

 

「不要と判断、とかいう基準が曖昧すぎる……なんだ、歴史に不要って。愚かな行為をしたら不要なのか? ……というか、無制限に起こせるわけじゃないなら、わざと愚行を犯して竜災のコントロールまでできるんじゃないか?」

「ヘンリー、ダメだと思うわ、それ」

「……ああ、わかっているよ。多分……踏み込み過ぎると、愚行になる。基準は多分……システムかな。神の領域に踏み込むことがダメなんだとすれば……」

 

 そこで、リュオンが「うし!」と場を切った。

 

「学校、作るんだろ? おれはそういうことできそうな知り合いに片っ端から声をかけてくる。人材集めさ」

「ああ、じゃあ私も、建設とかそっち方面に声かけようかしら」

「ヘンリー。お前の頭脳は多分おれたちの誰よりも優れているからさ、この先もばんばん頼らせてもらうけど……草案段階でもいい、中止になったっていいから、とりあえず他人を動かすといいぞ。その補填も含めて資金だしさ」

「ま、そうですわね。悩んでいる時間は無駄ですわ。まず行動し、行動しながら考える。……そして私達は、どこかにいるのだろう『不死』と『蓋然』を見つけてきましょうか。『全開』も、ですけれど」

「ああそうだね。あの二人も何らかの手段で記憶を持っているかもしれないし」

 

 学校を作る。知識を継承する。誰も不要とされない世界を作る。竜災を乗り越える。

 やることは山積みだ。

 

「……そうだね。お願いするよ、みんな」

 

 計画は……ここに、始動した。

 

***

 

 というのを、眺める。

 エリスフィア帝国の一般家屋の屋根の上で……エカスベア魔導研究所に毎日のように出入りしていく人々を見て。

 

 ……えーと、任せて良い感じか? なんだ……ヘンリー・エカスベア君超有能そうじゃん。

 いやそうなんだよ。なんかアンドリアミアフィナイラロカに「英雄を育てるなりなんなりしてください」とか言われたけど、俺別に英雄を育てているつもりなくってぇ。

 結果的に……俺とかかわった奴らがそうなっていっているだけっていうかさ。まぁ主人公パーティっぽいのを見つけては「──ですよね?」に巻き込んでいるから、英雄になりやすいっていうのはわかるけど……俺の目的そこにないんだよね。

 アルカにもなんぞ過大評価されていたけど……別にあの場でアンドリアミアフィナイラロカを殺してたって俺の心には波風一つ立たなかったと思うけどなぁ。

 

 ……しっかし、アルカは結局やり遂げたんだなって。あの短時間での過去干渉と情報書き込み……流石は『最小限(シンプレクス)』ってか。

 

「こんにちは」

「……あ、はい」

 

 おかしな感慨に耽っていると、道の方から……明らかに公務員な恰好をしたお兄さんに話しかけられた。

 

「お昼寝中でしたか? しかし、申し訳ありません。エリスフィア帝国では、個人所有の建造物に関し、屋根の上であっても私有地ということになるため……」

「も……申し訳ありません。すぐに退去します……」

「いえいえ。良かった、お話の分かってくださる方で。良ければ国営の運動公園がありますのでそちらへどうぞ。紫輝の光を浴びて眠りたい、という方は少なくありませんので」

「あ、大丈夫です。……失礼します」

 

 怒られちった。

 しっかし……どうするかね。この時代で「──ですよね?」探しをするのもアリだが、少し飛んで……結局ちゃんとできていない学園「──ですよね?」をヘンリーくんの学校でやるのもありよりはべりか?

 

 屋根から飛び降り、お兄さんにもう一度目礼をして、歩きだす。歩きながら考える。

 

 子供になるのは……なー。

 どれほど凄いことをしても、「──ですよね?」云々の前に保護の目線が入ってとっちらかるんだよな。失踪もしづらいし。

 つーかヘンリー君のいるこの時代にまずブルーオーシャンがあるのか?

 あの子は……過去の天才……俺を含め、発明や発掘をすべて見つけ出し、すべて繋げる、とかいうアレンジの天才。だから単純に過去だれもやってこなかったことをやればいいわけだけど、それが何かっていうと……うーん。

 

 しかし……アンドリアミアフィナイラロカのやつめ、災厄を無かったことにするって……かなりざっくり言ったよなぁ。

 どうやら770年に関する予言自体がされなかったことになってるっぽいんだけど、770年の災厄に向けて急ピッチ開発された技術というのも存在するので、その辺も無かったことになって……。

 初めから紫輝歴770年には災厄が起きないとされた世界、って感じだけど、残っているものもあって。

 

 奴の言う通り、この紫輝歴の残り230年と、涅月歴の770年間は……著しく発展することになるだろう。

 竜災に打ち勝てれば、だが。

 

 ──空を、紫輝の光を……遮るものがあった。

 毒々しい色の外皮。大きさは5.7athlほど。二足歩行タイプ。

 

 それが、オフィス街なのだろう場所の……幾つかの建物を押しつぶして、降り立った。

 悲鳴と怒号と……そして、断末魔。

 

 不要。紫輝から見て、魔と代替した方がより良くなると判断された人間。

 

「──刻刃空(ザジンクウ)!」

 

 風の刃が飛ぶ。それが……大口を開けていたそいつの口を、顎を閉じさせなかった。

 

「速やかに避難してください! ここは我々が食い留めます! 国民の皆様は、いち早く、この場からの避難を!」

 

 エリスフィア帝国軍か。……だが、不要を食らうのがそいつの目的なら──。

 

「押さないでください! 速やかに、パニックを起こさずに……な、飛んで……まさか!」

「魔法を意に介しません! 国民が狙われています!」

 

 ……これで出来上がるのは、英雄ばかりの国ではなく、ディストピアだと思うけどなぁ。

 

  俺が手を出しても意味ないらしいから、その場を去る。人混みに押されるようにして。

 

 やがて……騒ぎが収まって、たくさんの犠牲が出たことを知った。

 ……見殺しでも手は穢れるさ、アルカ。

 

 

 とかいうのをくよくよ悩むタイプではないので、とりあえず色々試していなかったことを試すことにした。

 まず、魔族になろう計画。俺がこれを達成したら英雄云々災厄云々以前に紫輝の魂胆がパァなわけで。

 魔族にはなれないということを散々力説してきた俺だけど、「使い過ぎると魔族になるかもしれない薬」があったことを覚えているだろうか。そう「恵蓼剤」である。

 これによって全身を薬に代替すれば魔族になれんじゃね? ということでしこたま薬を作ってがぶ飲みしてみたんだけど……なれないでやんの。

 確かに細胞は魔法的なものに置き換わったけど、魔力の質が変わらない。魔力依存生物に寄ったというのに……これは最早魔族っていうか精霊だな。中途半端に肉体のある精霊。

 看板に偽りあり、ということで。

 

 次に、その辺にいる魔族から細胞片をちょちょっと貰って完全培養をしてみた。

 魂は宿らないので悲劇的な結末にはならない。これでできるのは意識無きクローンって感じだ。結果、できた。できたけど、これ結局「既存の魔族の腎臓をコピーしての擬態」と何も変わらんやんけ、って気付いて没に。俺の時間かえして。

 

 その次、一旦精霊になってから肉体を構築するのは? ということでクィロー風味の精霊になってから肉体を構築したんだけど、結局人族の肉体になった。イリアちゃんはちゃんと魔族だったのにどうして。

 

 ……この後も五十個近い新しいアイデアを試したけど、どれもダメ。

 

 やーっぱ無理だよアルカ~。人類頑張って育ててくれ~。

 

「おや? またお会いしましたね」

「……ああ、先日の。その節は、ええと」

 

 まだ公務員っぽいお兄さんに話しかけられた。……ここは国営の運動公園なので問題ないはずだが。

 

「ふふ、そんなにキョロキョロしなくとも、今日は違反で声をかけたわけではありませんよ」

「そ、そうなんですね。……もしかして、お昼寝、ですか?」

「それをしたいのはやまやまなのですが、今は色々と忙しくて」

「ああ……ですよね。……何か、悩みごととかあったら……聞きますけど、どうしますか?」

 

 気分転換というやつだ。

 他人の悩みを聞くのは……自分の考えのリフレッシュになるからな。

 

「……お言葉に甘えましょうか」

「ええ、自分で良ければ聞きますよ」

 

 お兄さんは、疲れ切った声で……話を始めた。

 

「私は……自分で言うのもなんですが、要職についていまして。割合、部下とのコミュニケーションが必要といいますか、意見や主張、そして不満を取りまとめて……できるだけフェアな結論に持っていかなければならないのです」

 

 中間管理職かぁ。そりゃー疲れるわ。

 

「私のところに来るのは、なんというか、大きな決断ばかりでして。そして大抵、どちらを選んでも誰かが困る……そういうものばかり」

「選ぶのは、つらいですよね」

「はい。その……あまり声を大にしていうことでもないのですが、周囲に有能が……なんでもかんでも卒なくこなせる者が多すぎて、失敗などするわけがない、という空気が流れているのも厄介で……」

「それは厳しいですね……。やはり皆さん、あなたを頼って?」

「ええ、頼ってくれるのは嬉しいのですが、最近は……どうにも本音を言ってくれていないようにも感じていて。なんというか、私の決定ならばどれほど自身の主義主張に反していても間違いではないだろう、という期待が……その、重くて」

 

 多分この人はちゃんとシゴデキなんだろうなぁ。

 その上で……プレッシャーには打ち勝てなかったというか、いや、勝てるけど、弱音を吐ける親友や奥さんとかが必要な感じだ。

 

「失礼ですが、ご家族は」

「ああ、妻も子もいますよ。……けれど、とんと……最近は家族の会話もできていないですね」

「それは……どうして? 忙しいからですか?」

「忙しいですし、休んでいると……仕事をしなければならないという強迫観念に襲われるといいますか、私が不在であることで滞っている決定がいくつあるだろうと考えてしまって、心ここにあらずになってしまうといいますか」

 

 典型的なワーホリだな。それに、自信の根拠が見つけられずに重役になったタイプ。

 そんでもって……部下というのを徹底的に信用していない。ワンオペ歴が長かったか、部下の手痛い失敗を食らいすぎたか。

 他者に仕事を預けることができなくなっている。これはこのまま行くとポッキリだな。

 

「詳しくはお話できないのですが、取引先がどうにもきな臭くて。余計なトラブルにならなければいいのですが……」

「他者の失敗やトラブルを今から心配していては身が持ちませんよ」

「ですよね……。……たまに、全てを投げ出して……どこかへ行ってしまいたくなるんです。でも、それは……ダメですから。私は……」

 

 ふむ。

 ──そういう方向性もアリ、か?

 

「幻術ってご存知でしょうか。正式名称、幻想視覚魔法術」

「え? ええ、まぁ、はい。知っていますよ」

「つまりこれは、幻術です」

 

 パン、と手を叩いて、周囲を黄金の風が吹く芒の海へと変える。

 ノクスルーナのやっていた五感全投入型幻術だ。

 

「……!」

「少し、歩きましょうか。ご安心ください、別にどこにもぶつかったりしませんから」

 

 手を差し伸べる。恐る恐る、という風に俺の手を取るお兄さん。

 ()()()初回だからな。短めに行こう。

 

「ここは……どこ、なのですか?」

「さぁ、どこでしょうね。この世界のどこかか、あるいは、この世界ではないどこかか」

 

 感じる風も、肌を撫でる芒の感触も、すべて本物だ。

 この世界は安全であると……何者も追ってくることはないと、脳に、魂に悟らせる。

 全ての情報を正確に判断し、嗅ぎ分けようとしていた意識は、その安全と安心に、次第に目を閉じていく。

 

 森林浴で自律神経を整える、ってのもいいけど、こういう手合いには絶景を見せてインパクトを与える方が効くんだよな。

 

 さぁ、お試しの今回はこの辺でクライマックスだ。

 この世界の外。この世界の宇宙ではなく、違う世界の宇宙の情報で悪いが──全天に映し出すは群星。巨大という言葉の本来の意味を視覚情報として叩き込む、荘厳なる鮮景。

 

「……あれは、なんなのでしょうか。あれは……どれほど巨大な」

「さぁ、なんでしょうね。建造物か、自然物か、あるいは超常の存在か」

「私は──」

 

 指を鳴らす。

 同時、世界が元に戻る。いや、世界は先程から何も変わっていない。

 魔法で作られた景色を見ていたのは彼だけだ。

 

「どうです? 気分転換になりましたか?」

「……え。あ……ああ。そうでした。幻術……ここまで質感を出せるものなのですね」

「私で良ければお話を聞きますし、気分転換に小旅行するのなら、どんな場所でもお見せできますよ。これでも各国へ旅行してきた経験がありますからね」

「ああ……それは、楽しそうですね。……わかりました。また……頼らせていただくかもしれません。多分、それなりに近い日に」

「ええ、どうぞ」

 

 俺は確信している。

 このお兄さん──役職や年齢的にそうではない要素が詰まっているけれど、多分主人公だ。

 そういう……「主人公が中間管理職」っていう新機軸系単発ゲームの主人公と見た。

 

 いける。これは、なんならいつの日か二人三人と疲れ切っている部下を連れてきて、卓上旅行を楽しんでの……「──ですよね?」が。

 

 センバー・アークライトの時は失敗した後付け「──ですよね?」だけど、あれは結局やり方がよくなかった。なかったし、ノクスルーナに連れ去られたのが問題だった。

 できる。やってみせる。竜災で忙しいだろうエリスフィア帝国でも、奔走しているヘンリーくんやアルカたちが視界の端に映っていても、一切気に留めずに大望へ向かえる!

 うんうんうんうん。──やっぱり俺はこうでなくっちゃな!

 

 英雄育成とかガラじゃねーんだわ!

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