序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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82.衆生(かつ)える因果

 三年を経た。この三年間で起きた竜災はなんと500件近くにまで上る。エリスフィア帝国だけじゃなく、周辺国家全体での話ね。

 紫輝的には……今回は椅子を空けさせる暦で、次に魔族が生まれてくればいいから、国が維持できるできないはどうでもいいんだろうなぁ、って思わせられるような暴虐っぷりだけど、ヘンリー君らの頑張りで作り上げられた『越竜(エリス)学園』の登場が被害者数をかなり減らしている印象もある。

 座学五割実戦五割で竜に対抗するためのあれやこれやを教えるその学園は、関係者の知名度と、誰も無視できないレベルの竜災被害も相俟って、他国からの入学希望者がそれはもうたくさんいるとか。ま、しばらくは嬉しい悲鳴というやつだろう。

 あっちの現状はそんなところで、本題はこっち。

 

 ウィルさんというらしい。俺がカウンセリングしている男性の名前。

 彼自身が俺のもとを訪れる頻度自体は段々と減っていっているのだけど、その分仕事仲間を連れてくることが増えて、忙しい彼らを幻術小旅行ツアーに連れていったり、話を聞いてあげたり……が増えた。

 

 良い傾向である。ちなみに一回すげールールとかに厳しそうな女の人がウィルさんを尾行してきいて、法律だの違反だの結構言ってきていたけれど、ウィルさんが宥めてくれてなんとかなった。そうですよね、街中でがっつり魔法使っていますからね。

 ……その後、ウィルさんが来ない日に彼女が一人だけで来て……すわ怒られるかと思ったら、『営業許可証』とか『魔法利用申請書』とか、すべての書類を整えてきてくれて、あとは俺がサイン書くだけで良いよ状態にしてくれた。その時に名前を考えてサインも考えて遠隔で戸籍も作った。

 ウィルさんの心の安らぎになっているのは事実だし、一時かなり思い詰めていた状態から回復したのは紛れもなくあなたのおかげなので、ってぷんすかしながらお礼を言ってきて、後付けですが、あなたが違反者ではなかった、ということにして処理しますので、って……いやー、ウィルさん愛されていますね。

 幻術小旅行やっていきますか? って聞いたら、今は大事な書類を持っているので、後日何も持っていないときに利用させていただきますってさ。ちゃんとしてるわ。

 

 そんな風に……ウィルさんの仕事仲間となんだかんだてんやわんやしていた、ある日。

 

「エレン、こっちですよ。ああ、ツェルニさん。こんにちは」

「ウィルさん。……と、そちらの方は」

「……ウィル。ぜひ連れていきたいところがあると……あなたがそう仰るから、私はこのお昼休憩の貴重な時間を割いてついてきたというのに……ただの運動公園ではないですか」

 

 ウィルさんが連れてきたのは……エレオノーラだった。

 ……んん? こいつ……なんで生きてんだ?

 いや、つーか、そうなんだよ。BBがトラッドの話を伝えてくれた時、なんか聞き覚えのあるお嬢様言葉のやついんなぁって思ってたんだよ。でも別にお嬢様ならお嬢様言葉使うだろ? ジュリアちゃんとかそうだった気がするし覚えてないけど。

 で……だけど、お嬢様言葉且つ、アルカにエレオノーラと呼ばれていた存在。BBはエレンと呼んでいたか。

 

「紹介します、ツェルニさん。こちら、エレン・"オーラ"・マイズライトさん。かの【マギスケイオス】の第三位、『財宝』の魔導士で、私達の事業にも多額の出資をしてくださっているんです」

「"私達の事業"? ……ああ、明かしていないのですわね、ご自身の仕事。……で? この方のもとに連れてきたかったと言うのならば、何か有益なお話でもしてくださるのかしら」

 

 レスベンスト冒険隊の発足、及びこいつの加入が紫輝歴666年だったはず。

 で、今は773年。フツーに考えると百七歳。あの頃の時点で十四歳とかそれくらいだった気がするから百二十一歳とかその辺。

 ……この見た目でそれは美魔女すぎる。つか、ああ、予知名の存在的に魔族……ってわけでもないな。魔力の質は人族のそれだ。

 つかマイズライトって言った? そんなにいるのマイズライトさん。ああだから、エレオノーラ本人じゃなくて……子孫か? 確か、そもそも魔力の質自体血縁だと似るんだよな。それでケレンもゼンノーティ説が出てたはずだし。

 

「お話でのカウンセリングもやりますが、幻術を使っての小旅行……リフレッシュサービス、というのをやっていますよ、お嬢さん」

「ああ……それでウィルの顔色が良くなっていったのですわね。けれど、私には不要というか、幻術では騙されませんわ」

「そうですか……。最近のエレンはずっと難しい顔をしているので……リフレッシュになれば、と思ったのですが」

「お気持ちだけ受け取っておきますわ。……しっかり営業も認可されている場所でしたのね。疑ってしまったことは謝ります」

 

 いや、これは流石に感慨深くていいんじゃないか? だってエレオノーラってほら、【マギスケイオス】フリークだったじゃん。次期【マギスケイオス】はこの私ですわ! とか言っててさ。それで……本人は無理だったのかもしれないけど、娘? 孫? が【マギスケイオス】に入ってるって……そりゃアルカも仲良くするわな。

 BBの話しぶりだとレスベンスト冒険隊にも入ったみたいだし、仲間の……友達の忘れ形見というか、夢の結晶みたいなもんじゃん? ああ、そんで、そっか。なんか『四毒』と『財宝』が、迷い家で食べた料理は世界一美味しかった、みたいなことを言っていたって話……エレオノーラが言っていたのを語り継いだって感じか!

 だとすると『四毒』も誰かの子供だったりするのかな? 可能性としてありそうなのは……レベッカか? あの子はカリアンの妹に収まったはずだし、マリト・マフィアのうんたらかんたらで婿養子をもらって、子供もカリアンやカノンのもとで英雄……なんだ、カリアンの話すローランドの話に憧れながら育って、みたいなルートがあったりなんだりか?

 

 それは確かにアツいな。怖がってすまんかった。でも『四毒』は称号としてどうなのフツーに悪役では。

 

「私は帰りますから、どうぞお一人で楽しんでいってくださいな」

「……とエレンは言っているのですが、ツェルニさん。あなたの腕があれば、彼女を幻術に、ということは……できたりしないですか?」

「できると思いますよ。ただ、それが……怒らせてしまう結果にならないか心配で。出資者ということは、関係悪化は困るのでは」

「大丈夫、彼女は技術食いで才能食いですから」

「技術食い?」

「面食いって言葉、あるでしょう。あれの技術版です。彼女は技術や才能のある存在にはめっぽう弱いのです」

 

 なんじゃその特殊性癖は。……ああでも、確かにエレオノーラも……ローレンスに猛烈アプローチを仕掛けてきていたな。

 そういえばあの時からエレオノーラは超絶金持ちアピールしてたし、エレンちゃんもその財産を受け継いでいて……『財宝』を名乗っている感じか? ……でも一応【マギスケイオス】なんだよな。金を増やす……錬金術的な才能からか?

 

「なにをこそこそ話していますの」

「幻術には騙されないと言いましたね、エレン。ですが、ツェルニさんの幻術は凄まじいのです。自力で脱してくれても構いませんから、かかってみてくれませんか」

「一般人の言う凄まじいが【マギスケイオス】にとってどれほどの価値があると?」

「がっかりはさせませんよ。お願いします」

「……はぁ。あなたはなんというか、お人好しな部分とおせっかいな部分が……もう少し塩梅よくあれたら、生きやすくもなるでしょうに」

「性分でして、すみません」

「でしたら、……まぁ、かかるだけかかってあげますわ。ただ、簡単にレジストされても落ち込まないでくださいまし。これでも私、世界の頂点の一人ですので」

 

 まぁ、なんだ。そこまでいうなら。

 そんな簡単にレジストできるというのなら──本気でやってやろうじゃないか。

 多分アルカや重村鎖袋から見て、次世代の【マギスケイオス】というやつになるんだろう、エレンちゃん。魔族でもないのに予知名を持っていること、そして俺がテキトーに名乗った姓であるマイズライト姓であることを加味して、縁も充分量であると判断。

 

 今作れる俺の最高の幻術で夢幻にご招待してやろうじゃないの!

 

「では。──招待夢」

 

 いつもは言わない魔法名の短文詠唱までして効力を底上げしての、SHOW TIMEだ。

 

 

 全天。黄金。白銀。

 今までウィルさんに見せてきたススキ原野と、その上空280athlくらいのところにある月面。月面に作られしは白銀の街。

 ……涅月ではなく地球視点の月だから、あるいはあれを月と認識しないかもしれないけれど。

 そこには雨が降り注いでいる。遡巻く雨。雲が無いのに、上空の街へ、銀色の粒が降る。

 

「おお……」

「……幻術? これが?」

「お気に召しませんでしたか、エレン」

「そうではありませんわ。……声の響きも、喉を空気が通り抜ける感覚も……全て現実と遜色ない。魔力を練ることもできますし、霊視も使える……。これは幻術というより、位相空間に飛ばされた、と言う方がしっくりきますわ」

「えっと……それは、凄いことなのですか?」

「とんでもないこと、ですの。魔族の中には夢妄の魔族という特殊な魔族がいるのですけれど、その方々ですら……現実と一切変わらない"法則"を敷いた夢幻空間など作れませんのよ」

 

 まぁ世界の法則を知っていないと難しいだろうなぁ。

 とはいえこの空間が本当に凄いのは、現実の肉体が発する指令を複製して幻術の肉体に当てはめている、という部分。

 現実の肉体は生命活動に必要な分だけの指令で休眠させつつのこの没入ワールド。ノクスルーナの使っていたものをさらに改良し、フィードバックに苦痛が残らないようにした最新版。

 

「私は……ここの空気の中で深呼吸をするのがお気に入りでして。こうして……仰向けになってしまっても、現実の身体が汚れている、ということはないので……心地いいんですよ」

「意識を……。ああ……そういえば、『時渡』も意識を奪われた加速的幻術がどうのと言っていましたわね。たしか……術者の名前は、ペイトラン=アスクリプス。……にしては普通の人族の方のようでしたけれど、ユリウスと同じくクォーター精霊……?」

 

 さて……まだまだ行こう。

 鐘の音を響かせる。遠く遠く、真空という概念を突き抜けて響く、魔力の音。

 魔力線によって描かれゆくは、巨大な扉だ。恐怖ではなく畏怖を、不安ではなく畏敬を抱かせる門が開かれたのなら、そこから溢れ出るは「null」。

 疲労や苦悩を押し流す、「型は情報であるのに読み込むことのできないnull」。それは響き渡る鐘の音の荘厳さを増幅させる。

 

「……ツェルニさんは、この光景の在り処を教えてはくださらないのですが……人というものの想像力で、これが……この世界を構築できると考えられますか?」

「美しいですわね……。ああ……。……どうでしょう。この世界のどこかにこの光景があるとは思えませんが……何か、彼の記憶の寄せ集めである可能性はあるでしょうね。ここまで遠くに響く鐘の音も、遡巻く雨も、あの白銀の街も……どこにも存在しない、という証明は、まだ、人類にはできない領域ですのよ」

「しかし……エレンが彼の腕を認めてくれたのは嬉しいのですが、リフレッシュにはなりませんでしたか?」

「とんでもない。幻術とはいえ、成程、これはあなたの気分が良くなるはずですわ。実際に……大自然に囲まれた時と同程度のリラックス効果があるようですし、……それに、この規模の幻術が使えるのであれば……『越竜学園』で、対竜戦の模擬をしていただけると……かなりありがたいですわね」

「おお、それは良いかもしれないですね!」

 

 ……あー。

 まー。……できなくはない。成程……実戦前のシミュレーターか。必ずしもその通りに動くというわけではないだろうが、過去の魔竜から動きや思考パターンを予測して、ということはできる。

 できる、が……。

 そんなの大望とは言えないので……。まー……ウィルさんも晴れやかな顔になったし、良い感じに失踪するかぁ?

 ……こう、運動公園を良い感じに人払いした上で魔竜君に登場してもらって竜災と一緒に失踪が一番良いか。この話の直後に失踪だと、この話をしたから逃げた、みたいになってウィルさんがまた病みそうだし。

 

 その後。

 幻術を解除して、じゃ、じゃあ私はこの辺で……と行こうとしたら、エレンちゃんに肩をガシっと掴まれた。

 おっと既視感。

 

「──前金、そうですわね……50億ストレイルで、月2000万ストレイルの給金を出しますわ」

「ああいえ、私はその、教職などは多分無理といいますか」

「教えることは別の方が担当しますのよ。あなたにお願いしたいのは、私達が今までに倒してきた魔竜と同様の行動パターンを取る幻術を作っていただきたい、ということ。もしできるのであれば、戦闘者二人を幻術空間に引き込んで怪我を恐れずに模擬戦、というのもお願いしたいですわね」

 

 あーね。シミュレーターは死ぬほど有用だろうなぁどんな場面でも。

 ウィルさんの方を見れば……彼は笑顔で頷いて、サムズアップをくれた。……あれか。いつもお世話になっていた、営業許可を得ているとはいえ稼ぎが出ているとは思えない職業の人が、学園施設の管理人になって、しかも莫大な給料アップになった、みたいな……。

 そういえば前に「お仕事は何をされているんですか?」って問いに「辞めたので昔稼いだお金で生きてます」みたいなことを喋った覚えが。

 

「どうでしょうか? ……いえ、あれほどの幻術。私規模の魔力量を抑えられる幻術であるのならば、消費魔力量も多いはず。魔力回復手当は別口で出しますわ。どうですの?」

 

 ここで逃げるのは……それこそローレンスの二番煎じってのは、そうなんだよな。

 ……一応センバー・アークライトの時よろしく遠隔「──ですよね?」の材料は作ったけど……もしかしてこれ、このまま学園の教師……じゃない、なんだ、用務員さん? になった方が……王道の「──ですよね?」が見込めるんじゃないか?

 学園内で生徒以外での「──ですよね?」は今までやってきたものとニアピンではあるものの、被っちゃいない。

 

 うん。

 よし。いいぞ。……やったらぁ!

 

「わかりました。……ただ、ストレイルは……そんなに要りません。私の力でお役に立てるのであれば……」

「ストレイルが要らない? そんなことを言ってはいけませんわ。というか欲しい欲しくないではなく、いずれ必要になるものなのですからもらっておきなさい。生活の足しでもいいですし、趣味に使うのもいいですわ。ああ、休日に関しては教員たちと同じで、週に三日体制になると思いますわ」

 

 金なんか使わないから貰っても意味無いんだけど、まぁ貰っておくか。

 ちなみにこの世界の一週間は十日である。七曜が無いからね、七日になる理由がない。十日になった理由は暦が千年周期だからだろう。あるいは属性が十個だから、かもしれない。火、炎、水、氷、風、雷、地、治癒、光、闇の十属性が……でも別に主星のように一日サイクルで観測されるとかじゃないから……わからんちゃん。

 基本は四日働いて一日休んで三日働いて二日休んでの繰り返しだけど、七日働いて三連休ってパターンもちらほら見かける。治癒魔法や身体強化があるから肉体的疲労の度合いが地球とは全く違うんだろうな、という予想。俺? 疲れんからわからん。

 

「なら、お休みの日にまたここで小旅行を開きましょうか」

「……あなたもワーカホリックですの? 類は友を呼ぶといいますか……ウィルもですけれど、休日はちゃんと休みなさい。……学園も、別に常時幻術を求めているわけではないですから……就業時間中に、正式な申請をウィルに取っていただいて行えばいいでしょう。ウィルもそれでいいですわね?」

「もちろんですよ。ツェルニさんに会ったころならいざ知らず、今は体調も恢復していますし、気分も悪くないので。ツェルニさんのおかげですよ」

 

 それは良かった良かった。

 えーじゃあ、スカウトされた上で……しかも結構な数の知り合いが必死に明日を掴み取ろうと頑張っている場所で、戦闘経験値稼ぎシミュレーターを起動してくれる用務員さん「──ですよね?」、決めていきたいと思いまァす!

 

***

 

「まさか……とは思いますけれど。在野にあれほどの使い手が……というのは、どうにも。アルカに確認を取りましょうか……」

 

 とか、なんとか。

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