序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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85.嚥下する弔辞

 どこに土壌があるのか。大人しく消え去れよ。

 ええ、ええ、ご意見ご要望ごもっともでござい。

 だが、俺は見逃さない。最近また亜種が増えてきた「──ですよね?」だから、そろそろ軸を戻さなければならない。

 つまり──別ver.生徒「──ですよね?」である。

 

 言うてね。ハウルの時はさ、執事さんからの「──ですよね?」と、軍人さんからの「──ですよね?」で、結構お腹いっぱいになった部分はあった。あとはノーカンだけどアレク、トムさんからの「──ですよね?」もか。

 学生というポジションでやり得る「──ですよね?」はやり切った。そんな感じもしている。

 

 けど、まだ掘れるくね? アンナ・「──ですよね?」って200種類・アンネンさんもいます。

 

 ということで用意しましたる身分は越竜学園の新入生である。今回なんと出生から成長までしーっかりやりました。なんなら俺のいた越竜学園とは別の、初等部用の学園の方でもしっかり生徒ライフをしてきました。

 さらに、ヘンリー・エカスベア君という大天才がいることを見越して演技力を強化。人間の癖と言われるもの、無意識に常駐しているパターニング、重心移動や呼吸のリズム……全てが別人! 欠片も合致が無いと逆に疑われそうなので、ヒトという種として似ていておかしくない部分は類似性ありにして、加えてヘンリー君の思考パターンを象ったコンストラクトとディベートまでしてしっかり作り込んできましたとも。

 

 ……これでヘンリー君はもう学園長辞めたよとか言われたらさすがに泣くかもしれない。

 たった五年後なんだけど、彼は引く手あまただろうからなぁ。……いや、別に彼を見返したいわけじゃなくて、「──ですよね?」したいだけだからいーんだけどさ。

 なお、万全を期して、例のエルフとは縁を断ち切っておいた。呪詛の応用である。次もまたノリで妨害されたら流石の俺の堪忍袋の緒も満月大根切りだからな。

 それと、越竜学園は当初三年制の学園だったんだけど、増える竜災と人手不足の諸々から十年制に変わっている。つまりあの頃のクラスの子たちも結構な上級生になっているし、なんなら竜災対処のスペシャリストとして名が売れていておかしくないってワケだ。感慨深いね。

 

 さて、新入生代表が挨拶をしているうちに、今回打ち立ててきた偉業についてを軽く話しておこう。

 今回俺が手を付けた分野は、ずばり歌唱である。……まぁレインの時に倍音を見つける云々はやっているんだけど、今回はそっち方面ではない。

 この世界を見ていて思ったのだけど、そういえばこの世界「バード」とか「踊り子」みたいな中衛、ないしは特殊な役職というのがいない。

 歌は当然あるけど、それを魔法的にどうこうしようとする人間がいないのである。

 

 こーれはブルーオーシャン。

 そんでもって、直接的な戦闘スキルじゃなければ俺が教えるなりなんなりしたって英雄にはならんじゃろ理論を用いた。……瓜良が英雄足れなかったのはアスミカタを霊脈が避けているからだろってそこ、余計なことを言わないように。

 竜災によって困窮した今の世の中に歌という力を届けようの会でもある。怪かもしれない。

 ほらあるじゃん。それまで何の伏線でもなかったのに、突然今まで関わってきたみんなが歌ったらそれがパワーになって形勢逆転するやつ。あれをマジでやろうという魂胆。

 ……一応試したけど、「踊り子」の方は無理そうだった。踊りで敵の防御力が下がったり混乱したりする原理がわからん。「変な踊り」を「変だ」って認識できるような知能のある相手ならわからんでもないが、多くの魔物にとって人間の踊りはただ暴れているだけにしか映らんだろうよ。

 その点歌唱は簡単に言えば呪詛みたいなものなのでどうとでもなった。いやまぁ踊りも舞踊の奉納として考えたらワンチャンあるのかもしれんが、この世界神事が無いからなぁ。

 

 ってことで、歌唱による戦力向上に関する理論を完成させ、然るべきところで認められてきた。

 ただし今回は匿名性高めだから、インスタント「──ですよね?」は狙わないでいくつもりである。

 

 で……新入生代表ちゃんの挨拶が終わり、次は……校長の挨拶らしい。

 出てきたのは……おお、ちゃんとヘンリー君だった。……彼は見聞きしたものを後から再生、とかいうとんでもない映像記憶を持っているから、この何気ない空間……黙して話を聞いている、というだけの時間であっても気を緩めない。

 演じるのではなく成る。今までの人生を送ってきた、エリスフィア帝国生まれの、越竜学園新入生の少年として臨む。

 

 さぁ──勝負だヘンリー・エカスベ──。

 

「なに、いっちょ前に硬い顔しちゃって。真剣なオモモチってやつ? 笑っちゃうんだけど? ノア」

「ちょっと……やめてよレイナ。私語厳禁って言われたじゃんか。先輩とか先生に見つかったら──」

 

 俺の隣に立っていた顔なじみの女生徒が弄りを入れてくる。

 ……いやそうだ。別にヘンリー君と戦うためじゃないんだってば。俺は「──ですよね?」をしにきたんだから。

 

 彼女は砂塔(さとう)・レイナ。連邦出身だけど、物心つくころにはエリスフィアにいて、初等部の途中から割と付き合いがある。ちなみにこの歳で……十三歳にして彼氏持ちであり、それはこの学園の生徒だとも噂されていたが、果たして、って感じ。

 

「──常に向上心を見せてください。そうでない者を越竜は求めません。本気で、心の底から、何が何でも竜に対抗する術を習得してやる、という気概が無いのであれば、即刻退学を命じることもあるでしょう。──君達に言っているんだよ、砂塔・レイナさん。ノア・ヘドクイスト君」

「……!」

「僕は君達に可能な限りの知識と技術を授けるけれど、だとしても相手は災厄の名に相応しき竜だ。──死ぬんだよ、簡単に。……君達だって竜災を経験してきただろうから、その温度感がわからないとは思っていないけれど。……だから、具体的な数字を出しておこう。越竜学園が開かれてから、今日(こんにち)に至るまでの死者数は、学生、教師含めて七十六人だ。八年間でこの数字であることを少ないと見るか多いと見るかは勝手だし、勿論年々死者数は減っていっているけれど……君達か、あるいは君達のせいで負債を負った誰かがこの数字を増やす結果にならないよう祈っているよ」

 

 ……あのクラスの子供達の中からも……死人は、出たのかな。

 わかってたことだが悲しいねえ。そんで次の暦か次の次の暦で……魔族になって生まれてくるわけだ。

 ではその子たちは、不要認定された、と。

 

 よく……黙々と従っていられるものだ、とは思う。

 ヘンリー君ほどの頭脳があれば、紫輝を撃ち落として何か代替を入れる、くらいは思い付きそうなものなのに、ってさ。

 

 

 挨拶のあと、宛がわれた教室へ向かう俺達。

 

「怒られちゃったね」

「レイナのせいだけどね、普通に。僕は真剣にエカスベア校長の話を聞いていたわけだし」

「へえ~? じゃあエカスベア校長先生が最初にした挨拶の言葉、言える?」

「……"えー皆さん、本日は"」

「"ようこそ、命知らずの救世主たち"、ですよ。──アナタたちのような質の低い生徒がいると、同学年の僕らまで同様に見られてしまう。何か問題を起こしたり、エカスベア博士の言う通り戦場で味方を死なせるなどする前に、とっとと退学してくださるとありがたいですね」

 

 割り込んできて、言うだけ言ってずんずか去っていったのは、眼鏡をかけた神経質そうな少年。

 言い方はキツいけどド正論である。

 

「うわーなんかヤなやつが同学年にいるみたい。ああいう手合い、息苦しくないのかなー」

「君が息を抜きすぎなだけだと思うけどね……」

 

 なんてことを言いながら教室へ入れば、ちらほらとクラスメイトがいて……彼ら彼女らは俺達を一瞥し、そして興味が無いとばかりにそっぽ向いた。

 ……自分までやる気が無いと思われちゃいけないから関わるのはやめておこう、って感じかな。

 いや実際ね……越竜学園に来て向上心ゼロは、そのまま竜災を引き起こしかねないから、正解っちゃ正解なんだよね。けど、それが起きていない時点で……この砂塔・レイナという少女もまた周囲には見せていないものの、しっかり竜災を憎んでいる、ということの証左でもあるんだけどさ。

 

 そんな彼女は、見た目も結構チャラめ。

 どっかの『蓋然』を思わせる金髪は一応地毛なんだけど、そこに各色ウィービングを入れていて、インナーカラーも青っぽく弄っていて、この時代でも珍しい色んな形の髪留めがついていて……タトゥー、髪型、ネイルなど「デコれる場所」の盛りは欠かさないし、肌とか体型とかも気を遣いまくっているし。

 とてもじゃないけど越竜学園の生徒には見えず、そして他の学校を見渡してもここまで現代に寄った恰好をしている子は少ないだろう。……俺からそういう知識を齎した、とかいうわけでもないので、これはこの子の自前……というか母親と父親のそれぞれの伝統が奇跡的なフュージョンを遂げた結果って感じかなぁ。

 父親は連邦南部、仙実国と接している僅かな地域出身。母親はバリムケラス近郊にある、別名絢都とも呼ばれる魔王国の繁華街出身。

 つまりハーフ魔族であり、二つの国の中でも極めて特異な要素が合わさった結果できた……恐らくこの世界にはまだ無い「ギャル」という概念を有する少女である。

 

 そんな彼女は当然の顔をして空いていた真ん中の席に座り、俺へも隣に座るよう促してきた。

 俺達を視界に収めるのも嫌って連中がそっぽを向くけれど、一切気にした様子も無い。

 

 ……ちなみにだけど、紫輝的には「ハーフ魔族」っていうのは代替後であると認めていないのか、竜災被害者にはハーフ魔族がそれなりにいる。反面魔族の被害者は極めて少なく、それを槍玉にあげて非難する学者がいたりいなかったり。

 紫輝の起こす方の竜災はそりゃあ魔族を狙わんでしょうよ、って感じなので、ノーコメント。

 

「ね!」

 

 と……おお、声をかけてくる子が。

 赤っぽい髪色の、後ろ髪を三つ編みにした少女だ。

 

「あなたたちよね? さっき校長先生に目を付けられてたの!」

「え、なに。あたしら有名人?」

「そりゃもう! 校長先生は生徒全員の顔と名前を覚えている、って言われてるらしいけど、それでも入学初日に名指しであんな脅しかけられたのは史上初なんじゃない? ──サイッコー! もっと派手にやろうよ。()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 ……ああ、こういう手合いね。

 竜災の意味をどこかで知ったか、陰謀論被れか。

 

「んー、キョーミ無いかな。あんたこそ気を付けなよ? 他人を売ってばかりいたら、竜に縊り殺されるからサ」

「はぁ? なに、ノリ悪ぅ。……白けちゃったな。……そっちの君も同意見?」

「さぁ、どうだろうね。君のそれが向上心としてカウントされるのかどうかは見物だとは思っているけれど」

「うわー、第一印象サイアク。もうちょっとノリの良い奴らだと思ったのに、残念。そうやって何事からも一歩引いて見ていたら、人生つまんなくされちゃいそう。ひぃ~、つまんな病がうつる~」

 

 ヘンリー君たちは竜災が頻繁に起きるようになった理由を隠したようだけど……それが吉と出るか凶と出るかって感じだな。

 無論、他人を蹴落とすことしか考えていない者なのか、本心からゴミに消えてほしいと願うが故の行動かはわからないけれど。

 

 ──いいねェ。

 ハウルの時より学生してるよ!

 

 子供ながらに愛憎あって、子供ながらに許容できないものがあって。

 押し殺し、噛み殺し、上辺だけの笑顔を浮かべることに慣れた大人の世界とは違う……野生動物の縄張り争いに極めて近い「吼え合い」をしているコミュニティ。

 それでもこれは牽制でしかない。手を出したが最後、血で血を洗う権謀術数に嵌っていくのかもしれない。あるいはそれを愚かだと断定し、魔竜が遣わされるのやもしれない。

 

「レイナは敵を作るの好きだね」

「ノアだって。というか元『3-CA』はみんなそうじゃない?」

 

 3-CAというのは単純に俺達の初等部における最後のクラスだ。だから別に先輩にも後輩にも3-CA卒はいるので、この言い回しはあまり適切ではない。

 初等部卒業後、越竜学園に来たのは俺、レイナともう二人だけ。他は全員冒険者になった。……一人残らず、である。エリスフィアで会社員に、技術者に、ってコースも全然あったのに、みんな冒険者を選んだ。

 そのため、実態がどうであるにせよ、俺達のクラスは『血を乞う幼子たち(ミーリング)』とかって呼ばれていたらしい。『永遠の子供時代(エルヴァホイ)』といいこれといい、誰がネーミングしているのやら。

 

 ……ちなみにマジで俺は何もしていない。俺の影響を受けて云々は濡れ衣である。

 つーか俺の知らん間に奴らは「成って」いたからな……。連休明けておはようって挨拶した瞬間に眼球の数寸先に刃物を突き付けられた時は真面目な対応しようかと一瞬焦ったよ。そのあと「ああすまん、お前か。安心しろ、他意はない」ってさ。十二歳にしてこれだから、冒険者活動中に邪気眼とかに目覚めてないか心配だよ俺は。

 

 さて、そろそろ生徒も揃ってきた。

 そこへ教師が入ってくる。知らん人だな。魔族だから、リュオンのコネの人なんかな。

 

「……おお、初めから静かであるとは。さてはエカスベア校長先生の脅しが効きすぎたか? まぁ、あれは脅しでもなんでもなく事実なのだが。……初めまして、諸君。私はナウラー・テンタットラ。今日より一年間、この教室で担任を務める者だ。よろしく頼む」

 

 ……へえ。

 ウォロの……子孫か。

 まぁ直系じゃないかもだが。魔力の質が全然違うし。……あいつ結婚できたんかね。

 あいつは確か涅月歴277年の生まれだったはず。そう考えると紫輝歴778年まで、千五百年以上が経ったのか。……いや待てよ? あるいはこいつが……ウォロの先祖か?

 

「越竜学園は竜から身を守るすべを学ぶところではない。竜を打ち倒すためのすべを学ぶところだ。そして、諸君らは今日から一年間はチームになる。その後は選択科目によってクラスが変わるが、それまでは背を預け合う仲だ。よってこれより自己紹介を行い、得意属性や戦闘スタイルを学友に知らせてほしい。司令塔を担い得る者がそれを聞き、適切な戦場配置ができるように」

 

 成程。合理的だ。

 一度で覚えられるかはともかく、戦地における極度の集中下で「そういえばあいつはこれができたはず」がわかると良い結果を生みやすいだろう。

 

 羅詞源語(らしげんご)のスペル順に自己紹介が始まる。

 俺の番の前の子が随分そそっかしいっていうか、緊張しいなのかな? それなりに時間をかけた後で、立ち上がる。

 

「ノア・ヘドクイスト。こう見えて治癒と呪詛一辺倒だよ。荒事は勘弁してほしいところだね。戦闘スタイルは勿論ヒーラーだ。バッファーでデバッファーでもあるかな」

 

 肩をすくめて言えば、多少のざわめき。()()()()が騒いでいるみたいだ。

 あれだけ啖呵切っておいてヒーラーかよ、ってツッコミかな。ええそうですよ。ローレンス以来のヒーラーで、ハウル以来の人体構造専門家ですよ。

 

 何を気にするでもなく席に座り直す。

 

 その後は……滞りなく進んでいったのだけど、その中で、興味を引いたのはこの子。

 

「ドレン・マイズライト。得意属性は風・地・闇です。戦闘スタイルは……魔法剣で斬撃を飛ばす中距離型。よろしくお願いします」

 

 まーたマイズライト姓かい、っていう。

 どんだけいるんだよマイズライト。やっぱりあの時のテキトーは霊質に引っ張られた無意識だったんだなー。

 

 そうして、レイナの番が来た。

 彼女は立ち上がり……非常に挑発的な笑みを浮かべる。嫌な予感。

 

「砂塔・レイナ。得意属性は火・炎・雷・闇。戦闘スタイルはインファイター。──あたしが気に入らないなら直接かかってきなよ、()()()()さん?」

 

 そう、彼女はこのナリで超好戦的インファイターである。

 また……俺にも隠しているが、最終奥義として恐らく魔導武装(マジックウェポン)が使える。いつかのダルク・エヴァンスがやってきた、自身の体内の魔鉱石を使用する武具加工の悪用。……フッ、直近でアクセスしてきたからな。覚えてるぜ!

 

 そんな感じで二十五人の自己紹介が終わって……ナウラー教師が。

 

「うむ。既に確執があるとは非常に先行き不安だが、一年後、誰一人として欠けることなくこの教室を後にできることを願っている」

 

 素直だね。ウォロと同じ血脈にいるとは思えないよ。あの昼行燈は誰譲りなのやら。

 

 

 という感じで自己紹介が終わり、一限。……というかぶち抜きで三時間一限らしい。

 やってきたのは懐かしの訓練室。そこにいたのは……おお。名前も知らない引き継ぎ相手の夢妄の魔族ちゃん!

 

「紹介しよう。彼女はこの幻想空間戦術訓練施設の管理員をしてくれている、オーリー・クレーア・ロンシュトミニア先生だ。諸君らの一年における訓練のほとんどが彼女の幻術空間でのことになるから、敬意を表するように」

 

 ロンシュトミニア?

 あー……確かホルホラ村の。……流石にその辺の細かいところまでは覚えてきていないけど、覚え自体はあるな。

 夢妄の魔族なのも同じなようだし。いや、っていうか……この子ももしかしてホルホラ村の彼女の先祖になるのかな。

 

「では、クレーア。よろしくお願いします」

「はい。──夢妄に身を委ねてくださいね、皆さん」

 

 大人しく幻術に飲み込まれる。

 

 ……目を開ければ。

 おー……。……再現率80%ってところか。やっぱりムズかったんかなー。できるだけわかりやすくしたんだけど。

 いや、80%再現できているだけ凄いと思うべきか。あるいは必要でない部分を削って効率化しているのかもしれない。実はとんでもない魔力食うからなこのシミュレーター。

 

「これが、幻術? 嘘……現実と変わらないじゃない」

「すげー……」

「この空間では諸君が死ぬることはない。だが、死における痛みは何の軽減もなく襲ってくるし、たとえば窒息時はしっかり呼吸のできない苦痛と恐怖が迫る。訓練だから、どうせ死なぬからと手を抜かないように。──それらを承知した上で、此度諸君らには総当たり戦の"格の付け合い"をしてもらう。最も強かった者は私と勝負をする」

 

 ワオ、結構過激じゃん。

 まぁ仲良しこよしなんかしてたら一瞬で死ぬからな竜災は。これくらいが丁度いいのかもしれないが。

 これでヒエラルキーが出来て、いじめが発生する……っていうのが普通の思考だけど、いじめなんかやる奴は漏れなく「不要」だろうから、丁度良かったりすんのか?

 

「先生、武器の使用はありですか?」

「無論である。武器込みで実力だ。ああ、何か、今持ってきていないという者がいれば、一度幻術から出て、クレーア先生に頼むといい。該当する生徒は挙手を」

 

 言えば、数人の生徒が手を挙げる。俺も手を挙げる。

 そうやって各々の武器を取ってきて、では、開始である。

 

 

 総当たり戦の全部を見ていては長すぎるので、注目カードだけ。

 

 まず、ぱっと見の戦闘力が10,000を超えていそうな二人の対戦。

 エヴァンジェリアーナ・グランディネッリちゃん。歓楽国家ザミザイフェス出身の王族であり、宝剣『トゥエルヴツリーズ』を用いて戦う、治癒もバフもアタッカーも全部できるオールラウンダー。フツーに俺の上位互換。

 対するはアストリッド・スカルドラ君。ガルズ王国出身のハーフリング族であり、全身に隠し持ったナイフを武器に戦うシーフって感じかな。攻撃力はそんなでもなさそうなんだけど、速力が学生レベルではない。

 

 二人の戦いは激戦だった。なんなら今も続いているくらい激戦だ。この総当たり戦はどちらかが動けなくなるまで、が試合終了の基準であるのだけど、二人とも負けず嫌いなのか決して膝を折らない。多分死ぬまで終わらんねあれは。

 

 次、砂塔・レイナvsソフィー・ダールちゃん。

 さっき俺達に声をかけてきて、発破しようとしていた子である。魔法剣を使う正統派剣士って感じだけど、高らかに笑いながら超至近距離のインファイトを仕掛けてくるレイナに対応できずに終了。格付けになったかどうかは知らんがしばらくは恐怖でちょっかいかけてこないんじゃないかな。

 

 そして、ドレン・マイズライトvsマティアス・ノアゴー君。

 ドレン・マイズライト君の冴え渡る剣技にはどーにも司書の男……っつうか魔王を彷彿とさせるものがあったし、魔法の使い方はエレオノーラ似と来ているので、マイズライトさんはもしかしたら一族で集会とかしているのかもしれない。

 マティアス・ノアゴー君に特筆すべき点は無かったけど、ドレン君の剣技に初見で対応できていたので、師匠に魔王マイズライト君と戦った奴がいたんじゃないかって思ってる。

 

 最後、俺vsセルマー・ヨシトミちゃん。

 アスミカタ出身の鬼族で、ヨシトミ。……まさかとは思うが、って感じ。

 

「あんた、さっき治癒と呪詛一辺倒って言ってなかったかい?」

「覚えていてくれたんだ」

「これから背を預け合う仲間なんだからあったりまえさね。……だからこそ、断る時はしっかり断らなきゃダメだよ。完全後衛だってんならそう先生に言わないと、こんな無理難題を押し付けられる」

 

 ふむ。正論だ。そして仲間思いなんだってことも伝わるし、良い子だってことも伝わるね。

 関連性がどれほどあるかはわからないけど、同じ姓を持つ子供がそういう気概でいてくれるのは嬉しくあるよ。

 

「あんま舐めない方がいーよ、セルマー♪」

「あん? ……ああ、レイナか。あんた、この子と仲良さそうにしてたけど、いいのかい、友達がボコられるのを見ているだけなんて」

「さっきの殴り合いが楽しかったから、これは善意の忠告。治癒と呪詛しかできない奴が越竜に入ってくるわけないじゃん?」

「……成程。何か隠し玉があるんだね。……そういうのを全て出すための場なんだ、じゃあ、全力で暴かせてもらうよ!」

 

 先にレイナともバトっていたらしく──しかも防御ゼロの殴り合いをしていたらしく、なんぞ友情が生まれているらしい二人。

 いや本当に、余計な忠告をしてくれるものだ。どの道これから先も総当たり戦なんで戦う必要があったとはいえ。

 

 ──セルマーちゃんが振り上げるは、身の丈もある肉切り包丁。特注品かな。狩人領の猪を捌くのにちょうど良さそうだ。

 対し、俺の手元にあるのは……ティンホイッスル。小さな小さな管楽器。

 

「ところで僕は今、君の背後にいるわけだけど」

「ッ──!?」

 

 彼女が肉切り包丁を叩きつけたところには誰もいなかった。

 その耳元で、声が響くものだから、彼女は振り向きざまの斬撃を放って……それも空振り。

 

「あははっ、嘘嘘。僕は最初の位置から動いてないよ」

「……だったらこの剣に斬られているはずさね」

「そうかな? 君は確かに剣を振り上げたけれど、そこから一歩も動かずに剣を届かせる、っていうのは、自分の身長を大きく見すぎかも」

「何を……アタシはちゃんと踏み込んで──……なに?」

 

 セルマーちゃんが足元を見れば、そこにあったのは、開始位置を示す白いライン。

 動いていない。最初の斬撃の時も、振り返って攻撃した時も。

 そこから、一歩も。

 

「……まさか幻術かい? 幻術の中で機能する幻術があるとは聞いたことないけど」

「いやいや、言った通り、治癒と呪詛の一辺倒なのは本当だよ。──だから僕は、君の認知に呪詛(デバフ)をかけたんだ」

 

 呪い。レイン・ヤーガーの時にも結構研究したけど、要するに刻印魔法だ。

 だから亜種刻印魔法でも呪いとして成立する。つまり、特別な言葉を言霊として扱い、意味を取り出す詠唱、というものを再解釈した歌唱とかでも。

 

「君の視覚。君の聴覚を疲労させ、反対に集中力を高めた。これによって起こるは、網膜上に固定された残像を、脳が勝手に眼球運動を予測し、視界を安定化させる、という反応。……難しい言葉ばかりでわからないのなら、体験してみればいい」

 

 まず俺がここにいて。

 彼女の後ろに俺がいて。

 戦いを見守る者の中に俺がいて。

 別の戦場に俺がいて。

 

「……これと幻術は、どう違うんだい」

「うーん、まぁ、結局ただの残像だからね。斬った感触とかその辺は幻術に遠く及ばないかな」

「そうかい。なら、全部叩っ斬っちまえばどれかは本物に当たるってこった!」

 

 振り回される巨大肉切り包丁。

 それが、彼女の手から、すっぽ抜けた。

 

「な!」

「身体強化の魔力を使ったことがあるならわかると思うけど、当然その逆も然りだよ。握る力を弱めれば人は簡単に武器を落とす。集中力を散らせば魔法が使えなくなるし、平衡感覚を狂わせれば立ってすらいられなくなる。生物の身体は繊細なセンサーの塊だからね。……そして竜も然りさ。強大であるのは図体だけで、生物の形を取る以上は無数の弱点が存在する」

「この……呪詛程度、レジストしてやればいいんだろ……!」

「できるのかな。今でさえ……そして観戦している皆でさえ、僕がいつ呪詛をかけたのか、治癒をかけたのか……わかってないんじゃない?」

「関係ないさね! 身にかかっているものを全て拒否すれば──」

「ああそれは止めておいた方が良いよ。なぜならここは」

 

 制止を振り切って、彼女は身体強化の魔法を応用した魔力抵抗率の向上を行う。『武笠歳旦(ぶりゅうさいたん)』に俺が書いた技術だけど、エリスフィアに広く広まっていると知った時は驚いたよね。多分ヘンリー君が広めたとかなんじゃないかな。

 

 ああ、で、魔力抵抗を上げた彼女は……そのまま消えていった。

 

「……何したのさ、ノア」

「いやだから、ここは幻術空間なんだから、全部レジストしたら幻術もレジストしちゃうじゃん」

「ああ……クレーア先生の幻術に抵抗して、幻術空間からはじき出されたってこと?」

「そういうこと」

 

 いやぁ……なんというか、吉冨の器用さからは考えられない脳筋タイプであるが。

 

 ……ちなみにこんな横暴をしてヘンリー君にバレないのか、というところについては、そのための仕込みであると答えよう。

 つーかナチュラルボーン天才児が周囲に居すぎて俺なんて霞む霞む。

 

 その後、総当たり戦においてそこそこの勝ち星を上げていった俺は──。

 レイナと当たって、手の内全部先読みされて、普通に本域のパンチを……「いつもは殺しちゃうからやれていなかった威力」とかいうのを食らってフツーに首折れて死にましたとさ。

 キミね。俺じゃなかったらトラウマモンだぞ流石に。絶縁レベルですよまったく……。 

 

 ちなみに教師ナウラーとの戦闘権利はエヴァンジェリアーナちゃんが手に入れていた。あの子が天才すぎてわんちゃん「──ですよね?」が起きないまであるんじゃないかと怯えています。

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