序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
灯台モトクラシーよろしく今いるのは魔都ディフォニア。なんぞ魔王というのがいるらしいのはわかったのだけどどんな見た目なのかとか全く情報ながれてねーでやんので調べるついでに味変しに来た感じ。
ここディフォニアは既に魔族の侵略を受けて久しい場所で、住民も魔族の方が多い。共存してるんじゃなくて人間はほぼ奴隷扱いダナー。
住処を定めて行うのは勿論魔力の質に関する研究。趣味と実益を兼ねるのならそれに越したことはないという話。
んでまず、魔力の質というのを俺が感知できなきゃ話にならんたいなんだけど、魔鉱石研究をしている時に保留にしていた疑問点があったのを思い出した。
同じ属性、同じ出力規模の魔鉱石でも、産出した魔物の生息地や魔物そのものの種類によって、微差ではあるものの、出力上限や下限、その他データが異なる、というものだ。
あくまで魔鉱石は魔物の体内に現れる析出物。まったく同じもの、というのは確かに作られないからそんなもんかー、とその時は考えていたのだけど、これじゃね? って。
そこでこの微差を可視化できる眼鏡のようなものを作ればいいんじゃないかと考えたのである。
さて、魔力というのは基本的にエネルギーであるのだが、地球におけるエネルギーとは少々どころではない違いが一つある。いや一つどこじゃないんだけど。
それは、エネルギー自体が光を発している、という点だ。本来エネルギーというのは光と相互作用するものではないから、エネルギーを見る、というのはできない。エネルギーによってどうこうされたもの……火ならば高温励起された分子の光だったり、雷であれば電離したプラズマの光だったりを見ることはできるけど、それらもエネルギー自体を見ているわけじゃない。
だから結構難航した。オシロスコープとかスペクトラムアナライザを魔力に適用させれば波形が見えるんじゃね? とか考えたんだけど、見えないでやんの。
一応魔力波という概念はあるし、たとえば導魔性に関する学問の中では「定義:1athlとは、標準魔力場において魔力波が 1/1000秒で伝わる距離とする。」みたいなのが良く出てくる。導魔性については一時魔鉱学加工の権威になった俺である。一家言はある……と言いたかったんだけど、実際できてないしなぁという自嘲。
そこで一度頭を切り替えてみた。
魔力はエネルギーだけど、魔力素の流体でもある。つまりPIV……粒子画像流速計がこの場合最もピッタリくるのではないか、と。
微小粒子をばら撒いてレーザー照射するのがこれ本来のやり方だけど、最初から魔力素が存在していてその一粒一粒を捉えられる俺なら、あとは計算の補助さえあればできるんでね? となった。
ここで登場するのが防具加工である。
防具加工は加工効果の作用点を割と好きに決められる。胸鎧に頭部保護の効果を刻んだり、腕に脚力アップを刻んだり。
これを用い、全身の防具、アクセサリを視界に作用するよう集中させる。
魔力素の明暗パターンの相互相関計算をするのが一番書き込みを必要とするため、面積の広い胸鎧に。ただし防具としては期待できない。精密機械のようなもので、胸鎧の表面全てが集積回路になると考えてくれたらいい。
両肩鎧には胸鎧の計算を補助する補間計算加工。腰鎧には上記二つを往復させるための多段階解析加工。
腕、及び手甲には最大値検出を入れ、ヘルム……頭部には視覚効果を整える……UIを整える加工を。足及び靴鎧にはアウトレイヤーの除去と平滑化処理をさせる。
こうして出来上がったのが、真っ黒で加工のための金のラインが入ったクソデカプレートアーマーくん。
初めての試みだったこともあって簡略化や省略がまだまだ甘く、結果肥大化してしまったと言わざるを得ない。
シュラインともケレンとも身長が合わないので、兼ねてからやってみたかった父親設定にするべく肉体年齢を少し高めの四十歳に。この世界じゃ普通に老騎士レベルかもな、四十歳。
フルフェイスであるため種族がわからないのも良い。ついでに耳飾りの加工で変声機もやっとくか。蝶ネクタイに加工を入れるのは難しかった。ちなみに毎度毎度加工の出来云々でバレるのはタルいので、そもそも加工が施されているとはわからないようなシークレット加工もしてある。
して、起動。
フ──これだけ大仰な図体しておいて超精密機械だからな! 衝撃には弱いぜ!
そして……おお。
目的通り。全身の防具加工の作用が結集する視界。手持ちの魔鉱石や建材、空気中の魔力。その全てが粒子の波となって視界を埋め尽くしている。
う……ん。見……見ヅラいズラねぇ……。
色分けや視認性の確保は他のアクセで調整かな。
さて、その上で、自身の身体から立ち昇る、滑らかな黒っぽいオーラを見る。多分これが……えー。……メ……メギ……メギドくん? の言っていた魔力の質。
色は属性かな? だからこの滑らかさの部分だと思うんだよね、質っていうのは。これが同一だと、成程肉体が違っても同一人物、ないしは血縁に見えると。
……どうやったらその質って変えられるんだろう。
三日くらいかかったけどできた。
魔力を発露しているのは魔導医学界においては腎臓とされていて、実際に腎臓を切除した魔法使いが魔力を発露できなくなった、という例もあるらしい。とはいえ人体の解剖はまだまだ忌避されている国も多いみたいであんまり調査が進んでいないんだと。治癒魔法があるからね、外科が伸びないんだわな。
毎回毎回肉体を作り直している俺の魔力の質が変わらなかった時点で試す価値ないんじゃね? とか思いながら腎臓を再生成……それも別人のものを参考にする形でやってみたら、あらびつくり。あれだけ滑らかだった黒がザラザラしたものに変わりました。多分年齢や見た目ばっかり変えて根本の中身を弄っていなかったのだと思う。これで晴れて別人である。
で。ようやく本題。
魔力の質を見ることができるようになりました、という発表では強キャラに目を細められる強キャラムーブは難しいんじゃないかと踏んでいる、ので。
今回は更に王道を詰めようと思った。つまり。
「──甘いわァ!」
斬りかかってきた若者の剣を弾き飛ばし、さらに蹴り飛ばす。
その陰から現れた暗殺者のような身のこなしの少年の襟元を掴んで後ろに放り、放たれる矢七本を纏めて掴んで折り砕く。
上空から三連続で放たれる氷の礫。それを特製のハルバードで薙ぎ払い、空中に放置された魔法式に干渉して礫を放った相手に同じ魔法を降らせる。
「ふぬぁあああ! ……む。どうした! 次、かかってこい!!」
「ヴァルカン、よく見るんだ。もう立っている者はいない」
「ぬぁんだとォ!? 甘い、甘ったるい!! その根性叩き直してくれるゥ!!」
「はいはーい、ヴァルカンのハルバードの錆になりたくないやつは、とっとと立って休憩室行けー」
某アナゴナニガシを意識しながら声を出し、身の丈の二倍はあろうハルバードの柄を練兵場の地面に落とす。
ここはリルアニラス練兵場。魔王軍第四師団、獅子王ヒューガの軍駐留地。
「お疲れさまだ、ヴァルカン。いやぁ君を雇ってよかったよ。最近はだらけて怠けていた兵も、これでシャキっとするだろう」
「ヒューガ。お主がなよなよとしているから後続が見習っているだけではないか?」
「それは返す言葉も無い。正論はやめておくれ、僕は魔王様を見習っているだけなのだから」
がっつり。それはもうがっつり教官。魔族の。
魔族と人間。大体の魔族は人間とは似ても似つかない姿をしているのだけど、時々人間なのか魔族なのか判別つかない姿をしているやつもいる。しかし魔族はそれと人間の違いをしっかり区別しているようで、それがなんでなんやろなーっと観察していたら、どうにも魔力の質が関係しているようなのだ。
滑らかやザラザラだけじゃなく、立ち昇る魔力が横軸で波打っているか縦軸で波打っているか。恐らくこれが人間と魔族の違い。よってこれを魔族に寄せることができれば、フルフェイスの怪しい鎧ヤローでも魔族認定してくれる。
なので頑張りに頑張った……んだけどどうやっても軸を変えることはできなかった。ので、その辺にいた魔族の腎臓をコピーして自分のに適用した。ら、ぴったんこカンカンってワケ。
ちなみにその魔族には遠くへ行ってもらった。完全に同一の魔力の質持ちが二人いることになっちゃうのはまずいカラネー。
そんで、適当な人間との小競り合い……それも将が不在で人間に武具加工持ちがいる戦いに乱入参戦し、見事勝利をゲッチュ。
弱小兵からの厚い信頼と推薦のもとヒューガ軍面接を受け、そこで「弱き兵を強く育てる許可をくれ(意訳)」と言ったらすんなり通っての、今。
「いやー、しかしヴァルカン、強いね。君の強さなら指導官でなく将となることも夢物語ではないと思うけれど」
「ふん。吾輩は戦いで武勲を上げたいわけではない。勇猛にして冷徹。無慈悲にして徹底。歴代の魔王が如き圧倒的な強さ。それを魔王軍に求めるだけのこと。……当代の魔王。まだ出会ったことはないが、聞けば軟弱者。聞けば戦いに消極的。ふぬぅぅぅう……なっておらん、なっておらぁぁあん!!」
「落ち着いて落ち着いて。けど、それならやっぱりおかしな話だ。君が先陣を切って君がそれを……勇猛にして無慈悲な魔王軍の在り方を見せつければいい。そうだろう?」
……面倒臭いな。探ってきてんのはわかったから、結論言ってくれないかな。なに、解雇? 解雇なの? だったらいいよ別の街行くよ。
「言いたいことがあるならはっきり言え、ヒューガ」
「君と戦ってみたい。魔王軍第四師団師団長、獅子王ヒューガ。もし僕の武が君に劣るものであるのなら、僕は君に将の座を譲るよ」
……うーん。
そっちか。……なよなよしてるのは下っ端だけで、やっぱり師団長ともなるとバトルジャンキーばっかりか。
えー。どうしよっかなー。ワンチャンこの鎧壊されるかもでしょー?
「時ではない。だが、安心しろ。いずれその時は
「ヒュウ、意味深なことを言うじゃないか。君には未来でも見えているのかな、ヴァルカン」
「未来など見えぬが、どこに魔法が落ちるか、程度なら視えるな」
「え、それ本当かい? 洗練された危機察知能力が短期間の未来を見せているのかな……」
「小難しい言葉で誤魔化そうとするな、ヒューガ。吾輩と戦うのならまずそのなよなよしたところを直せ。部下がゴミとなるぞ」
未来ねえ。
俺なら絶対見たくないかな。強キャラに認められる強キャラムーブは成功したら気持ちがいいし、成功させるために奔走するものだけど……ネタバレ食らってる状態じゃ面白み半減だし。
魔法の軌道予測はこのフルプレート型眼鏡あってこそだけど、無くても勘で行けたりはする。さっきみたいに逆探知して乗っ取り、とかもねー。
「兵が戻ってきたな。まったく腑抜けている……あと十分は早く戻ってこいというもの……ふぬぅぅうううう……! 試合はせぬが、訓練ならつけてやるぞヒューガ……!」
「君のその熱しやすく冷めやすいところは見ている分にはかなり面白いけれど、巻き込まれるのはゴメンだね。じゃあ僕はこのあたりで。強い兵にしてくれよ~」
あ、どっかいった。
……速いなー。アレと戦うにはちょっとこっちが鈍重すぎる。もうちょい鎧を軽くするか、軽量化の加工をつけないと無理そう。
さー練兵練兵。仮想敵は魔晶石加工装備のフルメンバー。つまりカズラくんオンパレードだから、この程度で音を上げてちゃダメダメ~ってな。
***
暴虐と破壊。その限りを……年若い兵たちに施す、魔力の質や声からして老兵であろう男性。
それを眼下に収め、ユイダの肉にかじりつくヒューガ。
「ヴァルカン。ただのヴァルカン、だそうで。自信と経験に裏打ちされた攻撃もそうですけど、防御や回避、加えて魔法まで。……あんなのが民間の魔族にいたなんて正直信じられないですよ」
「そうだね……けれど、魔力自体は王侯貴族のものとはかけ離れて粗いものだ。それを洗練された魔力操作で怒涛の如く操っているだけ。……間違いなく民間の、少なくとも正規軍の出ではない方なのだろう」
「ゲェロ」
「え、私は会ったことがある? ど、どうしよう。まったく覚えていないぞぅ……!」
「ヴァルカンも当代の魔王には会ったことがないって言っていましたし、魔王様が魔王になる前の話なのでは?」
「幼少の頃だと余計に……あ、あの頃は他人の顔なんてしっかり見ていなかったから余計に分からないな……」
魔王城第四殿。そのバルコニーにて二人。
獅子王ヒューガ。そして魔王エステルト・"ヴァーン"・
「そうだ、結局弟さんは見つかったんですか? 小さい頃生き別れたっていう」
「見つからなかったよ。それに、どうも野良の魔族が身を隠すことなく暴れていたようでね、調査らしい調査もできなかった。まったく、軍に入らないのなら入らないで、大人しくしていてほしいものなのに」
「当然のこと聞きますけど、弟さんも魔族、なんですよね?」
「当然のことを聞くね。私が魔族なのだから、当たり前だろう?」
「けれど、人間に与して──、いえ、口が過ぎました」
ヴァルカンの言う通り、普段はなよっとした印象の抜けない魔王だ。同じくひょうひょうとしているヒューガからしても同じ印象を受ける。
けれど、今感じた悪寒は紛れもない圧倒的強者のもの。竜の尾は踏まないに限る。
「おお。え、見たかい今の。風の槍を薙ぎ払って、余剰魔力を組み替えて逆探知した挙句同等規模の魔法を……凄いな! あれだけ大きな得物を振り回しておいて、凄まじく器用だぞ彼!」
「あー、だから、なんじゃないですか? 僕みたいな徒手空拳や手数の多い剣だと魔法にまで気が回らないから、ああいうぶん回すだけでいいものを使っている、みたいな」
「そうかもしれないが……おお、今度は真空の刃を全て避けて……彼には魔法のくる場所が全て、手に取るようにわかっているんだろうね」
「ゲェロ」
「自分もできる、って……何張り合っているんだい君」
魔王がテンションを上げるほどの技巧。思わず舌なめずりをするヒューガ。戦ってみたい。そして……教官、指導官などというくだらない立場を捨てさせ、共に戦場で肩を並べたい。
「今度は重力魔法を……掴んだ!? え、え、それはもはやどうやってというか、それをされたら重力魔法の立つ瀬がないよ!」
「魔王様こそ、よくそんな高速で解析できますね。僕は魔法に明るくないのでなにがなんだか」
「魔法に興味があるのかい?」
おっと。ヒューガは胸中で失策を悟る。竜の尾を踏まないようによろけて手を着いたところに逆鱗があった。そんな感じ。
否、あくまで琴線か。なんせ魔王はとてもうれしそうだから。
「魔法を勉強したいと! うん! 良く言った!」
「言ってないです」
「さぁほら、ゲートを開いてあげよう。この先にあるのは私の魔王城の誇る大魔導図書館だ。人間の書いたもの、古い魔族の書いたもの、精霊の書いたもの……古今東西あらゆる魔導書の集う大図書館!」
「いえ僕仕事がまだ」
「あー。あーあー。聞こえるかなヴァルカンくん。私はヒューガの上司なのだけど、彼、少し借りるよー」
「良いだろう、なよっとした声の感じの者! 今日一日すべてを練兵に費やすゆえ、心行くまでヒューガを使うといい!!」
拡声、あるいは伝声の魔法だ。普段使うものでもないだろうに、魔王はその場で魔法式を編み直すという荒業でそれを成立させてみせた。
返ってきた大声に若干傷ついた様子だったけれど、気を取り直して、と魔王はヒューガを雨のゲートに誘う。
無論、断れるはずもなかった。
***
練兵を続けるうちに、幾つかわかったことがあった。
魔力の質がその魔族の得意不得意を表している、ということがまず一点。
これが人間もそうなのか、というのはわからないけれど、たとえば腕っぷしに自信がある、自信は無いけど徒手空拳や格闘に才のあるやつは、エナメル質の魔力且つ北海の海かってくらい荒々しい波が立っている。魔法の得意なやつは絹みたいな魔力でおだやかな波。全体的にサラサラの水っぽいやつは遠距離戦が得意だし、時折渦を作るような魔力のやつはシーフに向いている。
戦闘における得意不得意。性格。内に秘めるもの。志すもの。
血縁であるものが同じ質になりやすいと……メギ……メギフレイムくんは言っていたけれど、それは正確ではないように思う。
蛙の子は蛙というように、そういうやつらに育てられるとそういう性格になる、みたいな……だから結構周囲の環境要素を受けやすいんだと思う。
ただ……ヒューガや、先日視察にきた第二師団の将軍だという艶姫とかいうのを見た感じ、他の魔族とは一線を画す何かがある、というのもわかった。
それらはどうやら王族・貴族の魔力というもののようで、もしかしたら精霊という種族は視力が良すぎるあまり、血縁関係における……俺が見ているものとは別軸の縁を視認できている、という可能性もゼロじゃない。
調べるとしたら次、だろうな。今はとりあえずヴァルカンとして練兵して、頃合いを見て失踪。田舎でまた少年少女を育てて、強キャラ魔族に「──ですよね」をやってもらわねば。
ううむ、奥深し、侮り難し、ああ魔力。
ヴァルカンこころの一句──。