序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
遠くで、崩落音にも似た咆哮が響き渡っている。
血の抜けた身体を起こしてよろよろと立ち上がれば──その惨状が目に入った。
瓦礫に押しつぶされた肉塊。青白いパーツ。呻き声すら上がらない──死の世界。
「あー……ごほっ」
声を出せば、遅れて咳が出た。
咳というか。
吐血というか。
その中で……すぐ近くで、ひしゃげていた肉塊の指先に、どうにも見覚えのあるネイルアートがしてあるのを見つける。
瓦礫を退かして、なけなしの魔力で治癒魔法を使う。死んでいないことはわかっていたから。
……しばらくして、その肉塊は、呼吸と、名前を取り戻した。
「カ……はっ……。……はぁっ……はぁ……」
「やあ……随分と苦しそうじゃないか。竜の親玉を殴り飛ばすまで死ねないんじゃなかったのかい」
「……ノア? はぁ……う、げほっ……」
砂塔・レイナ。
いや、それだけじゃない。半年くらいか。共に学舎で高め合い、ぶつかったり仲良くなったりした皆が──血だまりに沈んでいる。
遠くに見える越竜学園の校舎は半壊している。その周囲にあるエリスフィア帝国の施設や住宅地もまた同じ。
咆哮。咆哮。咆哮。咆哮。
「少なくとも君は不要ではなかったってことかな。ここで倒れているみんなは……誰かの巻き添えを食らっただけ」
「不要……? なんの゛っ、げ……う、は……話?」
「鬼の居ぬ間に洗濯とは言うけれど、オーガ族がいるからややこしいよね。……校長先生たちが魔王国から帰ってくるまで、早くてもあと四時間くらい? けど、あと一時間も保つかな、エリスフィア帝国」
不要とされた者達が逃げ回っているのか、魔竜たちの退く気配が一向に無い。
……どうしようかな。
天才の手前、セーブにセーブを重ねてきたけれど。
他所で遊んでいろと言われた手前、誰にも影響を与えないよう気を遣ってきたけれど。
俺がこれから、この竜を片付けてしまったら……さすがに「──ですよね?」とか関係なく、弁えて、撤退しなきゃかなぁ。
大望は……でも、人道を踏み外す気は、無いからさ。
「ノア。……あんただって、重傷に見えるんだけど。……あたしを治癒してる余裕、ないでしょ」
「かもしれない。けど、僕が全快になるより、レイナが復活した方が……まだ希望はあると思ってさ」
「……っとに、ムカつくよね、ノアって」
「え?」
ムカつく? ああ……喋り方は確かに、ちょっとマセたガキンチョイメージだからわからんでもないけど。
「あたしらが……死ぬ気で頑張っているところで、ノアはいつも、"これくらいなら
……感情の線が繋がっていないと怪しまれるからと、偽装した感情を繋げていたけれど。
そこに……そんなおかしな心は乗せていなかったはずだ。
「あんたは多分、もっとすごいやつなんでしょ。学校に通う必要なんか無くて……けど、なんかの目的のためにここにいる。……今だって、全部……全部終わっちゃいそうなくらい、窮地も窮地だっていうのに……ノア・ヘドクイストという学徒がやって良い範囲かどうか、なんてことを考えてる。たとえその躊躇で……自分を含めた全員が死ぬことになっても、それがノア・ヘドクイストの限界だというのなら、仕方ない、ってさ」
「……どうしてそんなことを言うんだ、レイナ。余裕そうに見えるなら……無理してそう見せているだけだよ。ただのカッコつけ」
「あたしたちはあんたを信じてる。元『3-CA』は……常に周囲を測って、それに収まる程度に生きようとしているあんたの蓋を取っ払おうとした奴らの集まりなんだから。……自分はみんなに影響を与えられる器じゃないよ、とか……あんた良く言うけどさ。知らないから。あんたがどういう器で、どういう考えだろうが、目の前に存在しているんだから……あたしたちは勝手に感じ取って、勝手に動くの」
……"有無としあらむ限り、他者を求める"。
ああ、なんだ、じゃあ……この過剰戦力の投入も、俺のせいの可能性も……あるわけか。
結局、やる気が無くても……そうしちゃうのなら。
確かに邪魔だわな。じゃあ……あいつらは、俺に影響を受けた存在という扱いになっちゃうのか。それで……紫輝から認められない存在になり果てるのか。
──気に食わないなぁ。
「っ……ノア?」
「
その言葉からは考えられない意味を以て、文字が──歌が、世界に刻まれていく。
ぴく、と。
肉塊が震えた。
「
おかしなしゃくりをしているわけでも、イントネーションがいびつであるというわけでもない。
だというのに話ことばが歌に聞こえる。高らかに歌い上げているように聞こえるだろう。
「
瓦礫が吹き飛ばされる。剣が地面に突き立てられる。
ひしゃげていた手足は全てが元の姿を取り戻し、出血は止まり、そしてその瞳は、爛爛と輝いている。
「……嘘」
「勿論、全て嘘だよ。そんなことできっこない。けど、不可能を可能にするのが……あははっ、それが歌の力ってやつなのさ。歌を歌えばなぜかパワーアップするし、なぜか窮地がひっくり返るんだ」
レイナも例外ではない。
元気になった身体を不思議そうに見つめている。
「……とはいえ、一度……四体の魔竜に負けて全滅した君達を……復活させたところで、何が得られるのやら。薬にもしたくない量のバフはかけたけど……さて」
どしゃあ、と崩れ落ちる。
魔力がすっからかんだ。ツェルニと比べて魔力効率も悪いから……ああ、疲れた。
「ノア、大丈夫……そうね」
「大丈夫大丈夫。呪詛と治癒を同時並行でやって魔力が底を突いただけ。……行きなよレイナ。余力があるのに死にました、なんて……そんなカッコ悪いこと、君はしないだろ?」
まぁホーミー亜種だとでも思ってくれたらいい。喉から二つの音を出すあれにはちゃんと原理があるけれど、俺のはただの力業。
風の魔力で喉を分断し、喉の筋肉をそれぞれ違う響きにして行う二重詠唱……もとい、二重歌唱。その片方を会話に使ったって、そんだけ。
音の魔力を拡散するスピーカー的なものを口元に生成し、それで、届く限りの範囲に治癒と治癒促進、そして集中力アップやら攻撃力アップ系のバフを振りまいて、痛覚軽減……苦痛に対して鈍感になるデバフを撒き散らかして。
……と言っても、この範囲への治癒魔法なんか俺だって初めてだ。何でも治せるとは聞こえが良いけれど、患部や状態によっては気を付けなければならない部分も変わる。
それを考慮し、本当に多少程度の治癒しかしていない。
この歌唱の最たるは、催眠だろうな。
お前は動ける、と。お前はまだ戦える、と。
奮い立たせる……というか、暗示する催眠を聞いた者に植え付ける。
「……わかった。行ってくる。──先に死なないでね、ノア」
「冗談が上手だね、レイナ。魔竜に挑む君と、ただ待っているだけの僕。どっちが死にやすいかなんてわかりきっているだろうに」
「死なないでね。あたしの彼氏も、ノアに会った暁には是非とも握手をしたいって言ってたし」
「そういう場合に暁にはって使うのかなぁ」
に、と笑って……レイナが駆けていく。
それを見送る。果たして君の彼氏は、この災厄を生き残れたのか。
オオ、と。
オオオ、と。
戦場全体を……雄叫びのようなものが覆い始めた。
各地で皆々が叫んでいるのだろう。力の限り、命の限り。
意思とは力だ。
愛情とは力だ。
目に見えるエネルギーではないから感じ取り難いだけで、それらは確かに存在する。
昨今精神論や根性論は馬鹿にされがちだ。根拠が伴わないから、って。
ハ。本能だって感情の一つだよ。生きる理由の……死にたくないというのは、本能であり、精神の叫びで、根性の鬨だろう。
生物というのは、はじめから、根性論を軸に生き繋いできた種族だろう。
「死んでも勝ちなよ。勝ったら僕が……死んでいたって、その淵から、引き戻してあげるからさ」
だから。
結果として。
死者十二名。重傷者三十五名。軽傷者は数えきれないので無し。
これが……史上最大規模の竜災、「一か所に同時に四体の魔竜」とかいう過剰戦力が出した惨状になる。
想定されていた時間よりも早く帰ってきたヘンリー君たちが魔竜を片付けてくれたのが大きいのか、それとも俺の治癒促進が多少なりとも効いたのか。
──今、俺のいる場所の……眼前で。
四つある棺桶は、果たして俺の怠慢か。
「……おや、君は……ノア・ヘドクイスト君か」
「……校長先生?」
沈黙する棺桶の前に突っ立っていたら、後ろから声をかけられた。
ヘンリー君。……お前の言う通り、大人しく立ち去っていれば……みたいなくよくよの仕方は残念ながらしないんだけども。
そんなこと言い出したら俺はこの世界に来ていないしなー。
「……ごめんね」
「はい? ああ……ええと、早く帰ってこなくてごめんねとか、そういう類のあれですか?」
「そうだよ。……僕もダヴィドさんもエレンもいなくなった……戦える教師も軒並みいなくなった学園に何が起こるのか。僕は想定できていたんだ。可能性として挙げることができていた。……なのに、犠牲を防げなかった」
魔王国での「今後の方針」についての会議、だっけ。
必要なことだったと思うけどね。ま、強いていうなら、竜災の起きない夜にやるべきだったかもしれん。その辺は……まぁ移動中を狙われるだけやもしれんし、なんとも。
死者十二人の内、学生が……この四人。
俺なんかより思うところはたくさんあるだろうね。
「というか……君、怪我をしているじゃないか。内臓が……」
「外側の怪我は治癒魔法でどうにかなったんですけどね。内側はゆっくり癒していくしかないらしくて。治るまで暇なんで……死んだ人でも眺めていようかなって」
「……何か後悔があるのかい」
これ、演技で騙くらかせているって考えていいのかね。
実は今年で三十四歳なヘンリー君。どこか童顔というか、幼い頃のヘンリックそのものみたいな顔だけど、あいつとは違う知性の持ち主。
「いやぁ、僕、ヒーラーなんで。……彼らが死んだのは、僕の治癒が間に合わなかった……というか、練度不足だったせいって部分も大いにあるなぁ、って」
「言葉の割には、自分を責めているような色味が感情に出ていないね」
「なんでもかんでもヒーラーのせいにされちゃあ困りますからね。彼らが死んだのはきっと、彼らの練度不足だし、魔竜が強かったからだし、校長先生たちが間に合わなかったせいでもあるし、勿論僕のせいでもある。……人の死を、他者が……一人で背負いきる、なんてことは、あっちゃいけない。死の淵を掴んでいたその人に手を差し伸べることのできた可能性を有する全員の責任だ。だから僕のせいじゃない……僕のせいだけじゃない」
それでも、考えてはみることもある。
最初から広域バフを使っていたら、って。……バフったところで初実戦に近かった学生が魔竜四体に勝てるとは思えないけど。
あるいはだから、
俺という邪魔が妨害し、救ってしまうかもしれないから……確実に手が足りなくなるよう、四体。
「……危ういな」
「僕がですか?」
「うん。君はいつか……自分だけの責任ではないから、と言って……世界を救ってしまいそうな危うさがある」
「いいじゃないですか、それなら。"命知らずの救世主"の登場ですよ」
「……僕の挨拶の頭しか聞いていないんだね。流石、あの時私語を慎まなかった二人だ」
「え。ああ……もしかして、"ようこそ、命知らずの救世主たち。ここ越竜学園は、君達をそうさせないためにある"みたいなことを言ってたりしました?」
「そうだよ。越竜学園は英雄の下地を作る学園だ。けれどそれは、間違っても、英雄を輩出するための場所じゃあない。……はぁ、確かに例年……最初の挨拶を聴いていない、って子はいたけれど、そこだけ覚えているケースは初めてだ」
いやそれは完全に濡れ衣でござるよ。あの眼鏡の男子に文句を言うでござ。
「……確か、君が越竜学園を志望した動機は、気に入らなかったから……だったね」
「え。……もしかして全員の志望動機を覚えているんですか?」
「当たり前じゃないか。……初め、教員たちの中でも……越竜学園のことが気に入らないという旨の、つまり果たし状のようなものだと受け取る者も少なくなかったけど。……竜が、いいや、竜災が気に入らない、という顔だね、それは」
かもしれない。
先日まではそうではなかったけれど、此度の竜災によって……本当に気に食わなくなった。
「……昔、大人たちから聞きました。竜災は……百年くらい前には、
「僕はその説を唾棄するほど嫌悪しているけれど、いいよ、そのまま続けて」
「でもそれって、おかしくないですか? だって……人間を殺すなら、地震なり、噴火なり、天災を起こした方が手っ取り早い。竜の被害があったからって、戦争の根本的な理由が無くなるわけじゃない。食料不足。土地不足。妬み嫉み。人に巣食う内なる欲求を竜が食い殺してくれるというのならともかく、むしろ争いを加速させる要因にしかならない」
なぜ竜を選ぶのか。
それはやっぱり、だから、大地というのが……それを乗り越えてほしい、なんて……ダブスタな態度を取っていたからに他ならない。
「あんな……人間を餌だとしか思っていない羽つきトカゲに、そんな高尚な動機はありませんよ、ぜったい。奴らは食べることしか考えていない。そして、今……頻繁に起きるようになった竜災が、審判なんてけったいなものではないのなら、トカゲたちが調子に乗っているだけだって僕は解釈する。どうやら人類というものには抵抗する意思がなく、自分たちの空腹による食い荒らしを、さも紫輝により与えられた啓示かなにかであるように受け入れる。そんな……こんなにも楽な食事場は他に無いぞ、って」
俺しか変えられない。俺しか災厄に打ち勝てない。
だというのに、俺以外が災厄に打ち勝たないと認めない。
流されるままに戦いはしたけど、やっぱり納得は行かない。
お前達の思惑が、どうして俺の足を、歩みを阻む。どうして俺がそれに付き合ってくれると思い込む。
天体くらい作れるんだから。
天体くらい、墜としてやろうか。
「……確かに」
恨みさえあるような言い回しのそれを、たっぷり咀嚼して。
ヘンリー・エカスベアは……その言葉を述べた。
「どうして僕は、試練という言葉を受け入れていたんだ? 乗り越えなければならない災厄……それが、なんだ? それに粛々と従うには……僕たちは紫輝から恩恵を受けていないじゃないか」
「ああいや、紫輝から与えられた啓示かなにかであるように、っていうのはただの比喩で」
「君のその感情の籠っていない言葉は初めから考慮にいれていないよ。どれだけ言い回しで恨みを込めたって、心が伴わなければ舞台役者の演技と変わらない。……けど、君の台詞の中で、唯一、抵抗する意思が無い、というのは……正しいと思えた」
ヌ。いや感情は込めたって!
感情の線も繋いでるのに……。レイナにも言われたし、もしかしてこれバレバレなのか? いやでも、演技力だって磨いてきたのに……。
というか舞台役者の演技から感情は伝わるだろ! 舞台を見たことないのか!
「言われるがままに英雄を育てようとして、こうして潰されて、それでも不屈に構えて……っていうのは、なんというか、魔物の知能テストをされているようじゃないか。ただでは取れない餌をどのようにして取るかを試されているようだ。……魔物がテストそのものを破壊しないのは、勝ち目がないと勝手に思っているから。あるいは物事の外殻を知覚できていないからだ」
「……これもしかしてトリップしているのかな。他の先生を呼んできた方がいいかもしれない。死者の前でこの暴れようは、さすがに皆起きちゃうよ」
「ああ……くそっ、そう考えると、
ぶつぶつ呟いていたと思ったら、ぎょろり、と……俺を見てくるヘンリー君。
いや怖いよ。
「……えっと」
「……いや、考えすぎか? 僕に限って……ちょっと待って、
いや! 対策した!
出産時点から知覚されているとか言ってたからその辺から全部対策した!
これでバレるのなら、もう、ヘンリー君のいない時代に逃げるしかない!
「特に……変わったところはない。この……幼少の頃の……事件は、なるほど、こういう……感情の発露を極端に嫌う性格になるのも頷ける。魔力パターン、質、霊質異常なし……」
それでもなんだか怖いので、そろーっと霊安室を出ようとした……ら、ガシっと肩を掴まれた。
怖いよ君。俺が恐怖するって相当だぞ。
「……なんだこれ。広域治癒の痕跡? そういえばあの魔竜だけ傷が深かったな。あれと対峙していた子たちは一度治癒されたのか? このレベルのことをできる人が……いや、だから……君か。けど、魔力素の引き摺り痕からして……まるで、歌、みたいな。歌? ……そういえば二年前に興味深い論文を見たな。『ヒーリングミュージックの実証的……』これじゃない。『倍音に関する再検証と……』これでもない。……『歌唱による治癒及び呪詛効果の関連性に関する実証的検討』。あったこれだ。……それと、『歌唱がもたらす治癒効果と身体能力向上効果の相互作用についての研究』。これもか。……どちらも荒枝方舟という人が著者だな」
感覚と記憶。
その双方からアプローチし、欲しい情報を掴み取る力。
君は……「──ですよね?」にもってこいなポテンシャルをしているけれど、今は主人公パーティもいないし、何より君は半身内だからなぁ。
凄かったけど、ここ止まり。インスタント「──ですよね?」を封じるために匿名性を高めたんでな。
「けど、これじゃあ決定的な証拠とはいえないか……ああくそ、未熟だな……。あの時得意げに特徴の列挙なんかしないでおけば……君が
「えと、学園長。流石の僕もさっきから何言ってるのかわからなくてついていけないんだけど」
「君。僕に協力してくれる気があるのなら、正体を現してほしい。……君を追い出しておいて何を偉そうに、というのは、ああ、返す言葉もないよ」
「いや別に、この学園に来た以上は協力? 助力? もするつもりですけど。初年生が何を言っているんだって言われたらそれはそう」
「唯一の共通点は感情が伝わってこないこと……だけど、それが特徴と言ってしまうと、該当者が多すぎる」
「いやあの流石に僕も怒りますよ。なんですか感情が伝わってこないって。確かに余裕ぶってるって見られるのはわかりますけど、感情が無いわけじゃ」
「別に感情が無いとは言ってないよ。ただ君は、君の心は、常に凪いでいる。君が
……あー、はいはい。
わかったわかった。じゃあそれでいいよ。
そろそろなんか……「俺には感情が無いんだぜキリッ」みたいになってきて痛いからやめてくれ。
「言い方が気に食わないのであれば、言い換えよう。君の感情には体温が無いんだ。……うん。ダメだね。君が
「ええ? なにこの人ちょっと情緒不安定すぎない? ほんとに保険科の先生呼びますよ?」
「君の広域治癒によって助かった命がたくさんあるんだから、頭は下げて当然だよ」
「馬鹿言わないでくださいよ。ヒーラーがヒールしてお礼言われちゃ立つ瀬がない。僕は拳や剣で戦わない分の安全を、魔力を介して治癒に変換しているだけ。それ以上のことをやっていたらそのお礼も受け取りますけど、以内のことならやって当然だ。先生だって学園の生徒のために戦ってくれてありがとうございます、って言われてもピンと来ないでしょ」
「……確かに」
「エカスベア魔導博士の再来とか言われてる大天才が、こんな子供の言葉に感銘受けないでよ。そういう天才や英雄がいるから、僕たちは何も知らずに都合のいい言葉を吐いて、その背中を追い続けるんだからさ。……じゃ、僕はもう行くんで」
──そして、これ以上話すとボロが出るというか何か察されそうなので、退散! ドロン!
ごめんな、四人とも。死の眠りという安寧に沈んだってのに、目と鼻の先でこんなに盛り上がってちゃ眠るモンも眠れなかっただろう。
おやすみ、良い夢を。
そして次なる生では、どうか、自由を。