序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
この世界の魔法は大きく分けて三種類ある。
一つが刻印魔法。古代魔族語という特別な意味を持つ言葉を形に取り、そこから術者が意味を解釈して取り出すことで現象を起こす。ここから派生して、刻印を必要とせず、羅詞源語でイメージの増強に走ったのが魔法詠唱。古代魔族語の文字自体に強い意味を見出し、その効果を最大限使用するのが武具加工やマジックアイテムだ。
俺が今まで作り上げてきただいたいの技術がこれを基にしている。今回の歌唱も刻印魔法の拡大解釈だし、属性魔法に使う詠唱も刻印魔法である。
二つ目、治癒魔法。光属性の派生とされてはいるが、全然そんなことない治癒属性の魔力を用いて行う魔法。ただ直す時に魔力光が出るのでマー光属性に勘違いするのも仕方ないかなって感じ。「生物として正しい状態」になるよう患部の治癒促進を行う魔法になる。ここに言語は介在しない。
無法にも近い治癒魔法だけど、この魔法は「既に代替されている」痕跡がある。つまりパワーアップ後なのだ。できることは外傷の治癒全般だけど、昔失った腕が生えるとか内臓損傷を治すとかはできない。俺の万能薬ならできるけど、あれは刻印魔法だからな。原理が違う。
多分だけど治癒魔法は若干時間に手をかけている。時間遡行ができるわけじゃないけど、その細胞、その傷がもともとあるべき姿、みたいなのを遡及して治癒をしている……と思うんだよな。じゃないと外傷全般一瞬で治せるくせに時間の経った傷が治せない意味がわからんし。内臓治せないのもずーっと引っかかってる。ローズちゃんがやっているように、『解体』した上でなら治癒が通るから……ワンチャン外気に触れていることが条件な可能性もありけり。
三つ目。魔力砲。魔法っつーかなんつーかだけど、俺とナタリーのアレやBBのソレはここに分類される。魔力マニピュレータもここ。
カノンのは刻印魔法寄り。ここでいう魔力砲は、なんの加工もしていない魔力の放出なので。
……ああ、だから、竜・魔竜のブレスもここね。
「つまり、大抵の魔法は魔法刻印学が基礎にあるんだよ。だからこれを疎かにするのは馬鹿のすることってこと」
「うんうんうんうん、良いこと言うねえノア君は! そう、そのとーり。刻印魔法を極めし者は世界を制する!!」
「授業にならないからダヴィド先生をつまみ出してほしいんだけど、誰かお願いできる?」
「あ、はい。対応しました。この幻術下ではダヴィド先生の声が響かない設定にしたので、静かになってもらえるかと」
おお。なかなかやるな。
羅詞源語で「ちょっとー!」「クレーア先生、そんなご無体な!」とか出してるアルカをガン無視して話を進める。
「ガルズ王国じゃ刻印魔法は必修科目だよ♪ 魔道具や魔法剣を扱うなら絶対必要だからね♭」
「ザミザイフェスではあまり習わなかったワネ。けれど、カジノにおける大抵の器具は魔道具だとも知っているワ」
「母さんが魔族だから、ある程度はわかる。ちゃんと習ったことはないんだけど」
「クレーア先生、ダヴィド先生の沈黙状態を解いてあげてくださいまし。その方、一応刻印魔法の権威なので」
「一応とはなにさー! あ、声出た。……こほん! そう、だから、刻印魔法のことならなんでも聞いてね、みんな」
今やっていること。それは。
「でも正直よくわかっていないんだよね♪ 魔法剣に刻印魔法が使われているって話♭ このソケットの部分らしいけどさ#」
「ふむ。いい機会かもしれない。……あ、エレン理事長、魔法剣のレシピって公開されてますよね」
「ええ、半分以上意味の分からない論述だらけでしたが。……まさかあなた、あれを読めますの?」
「そこで黙っているエカスベア学園長の方が詳しいとは思いますけど、教えてくれないなら僕が教えますよ。じゃあ、クレーア先生。レイナの魔法剣のソケット部分を二十倍に拡大してください」
……授業、である。
俺の諸々については、「──ですよね?」を経ることなく知れ渡ってしまった。その時点でやる気は薄めだったんだけど、いやいやまだまだ、と気持ちを入れ替え、心機一転一念発起、とか色々考えていたところに声がかかったのである。
学生の身分でいいから、「勉強会」の教師役を務めてくれないか、と。
参加する生徒は各学年のとりわけ優秀な生徒だとか言うから、流石にいきなりは、ってことで試験的に用意されたのがこの場。
レイナ、リッド、リアーナに加え、アルカ、エレン……エレオノーラ、クレーアちゃん、ヘンリー君、その他教師皆々様方。……あの、これ普通に優秀な生徒を相手にするよりアレだよね。
先生たちにとってはつまらない話しかできませんよ、という前置きをさせてもらって始めたのが、この基礎魔法学の授業である。
クレーア先生の拡大鏡幻術により、レイナの武器の複製が宙に浮かび、さらにソケット部分が投影スクリーンへと映し出された。
魔鉱石。その周囲にあるのは、非常に細やかな紋様。
「二十倍じゃ足りないか。もう少し……二十二倍くらいでお願いします」
「はぁい」
事前にこれこれこういうことがやりたい、とは伝えてあったけど、アドリブに対応できるのはさすが。夢妄の魔族の面目躍如……っていうとなんか汚名を被ったあとみたいでヤだな。別に何の失敗もしていないよ彼女は。
「これ……まさか、すべて刻印ですの?」
「はい。魔法剣における武具加工というのは、魔鉱石から如何にして魔力を取り出し、それを形にするか、というのをソケットと呼ばれる場所に刻み付けた技術。レイナのこれは、『堅牢』、『岩石肌』、『魔力纏舞』など、彼女の格闘スタイルに沿った刻印がしてあります。つまり剣部分への恩恵は一切無いわけですね」
「だってあたし剣使わないし」
この刻印をしたのは……多分シュラインの弟子たる一人、アイザック・ロン……の弟子とかなのかな。手癖がそのまんまだ。
確かいつか、ヨルスの作品も見た気がする。……あいつらも一人一人が巨匠と呼ばれるようになったんだろうなぁ。
「凄いよね。ぱっと見で芸術的に彫られた紋様と言われても納得しちゃいそうだけど、たとえばほら、こことか」
アルカが色付き魔力を操り、クレーア先生の拡大したスクリーンに色を被せる。
ハイライト表示されたのは『
「あ、ほんとだ♭ 大分崩してあるけど……授業で習った古代魔族語だ♪」
「職人さんに直接聞いたことがあるけど、彼らはこれを集積回路って呼んでいてねー。魔鉱石を嵌めこむこの場所に、これでもかっていう量の刻印を仕込む。これができて初めて武具加工ができるんだ、ってさ」
「しかし、それを可能とする技術は……私には再現不可能なものでしたわ。魔力マニピュレータ、という技術ですの」
勿論首をかしげておく。
ノア・ヘドクイストの人生にエチェロエグズル教戒院が関われる隙間が無いからな。
「この中じゃ、ダヴィド先生しかできませんわ」
「先程から思っていましたが、ダヴィド先生は何者なのかしラ?」
「ただの刻印魔法研究家だよー。……あと、私でも……こうやって」
といって、四十本くらいの魔力マニピュレータを出すアルカ。……ほお。もうそこまで行ったのか。
それとも……最初から四十個くらいは並列処理できていた、とか? 『最小限』ならあり得るが。
「魔法を構成する最小単位、魔力素の大きさと同じ太さの、手足よりも精密に動かせる糸。これを使って書き込みを行うんだけど……職人さんたちみたいな速度でやるのは全然無理。ゆっくりゆっくり、ならできるけどね」
「へえ、面白いでスネ。私達にもできるのでしょうカ?」
「並外れた知覚と……あとは根性があれば?」
「つまりボクらにもできるってことだね♭」
誰だってできておかしくないさ。俺の専売特許にするつもりはないからな。
だから……ヘンリー君は既にできていておかしくないんだが。
「あ、っとと、ごめんね、お話遮っちゃった」
「いえ、視覚的にわかりやすかったでしょうし、問題ありませんよ」
「……で、ノア。あんたの歌も刻印魔法なんでしょ。原理教えてよ」
「いやあのね、レイナ。基礎魔法学で応用を教える意味は無いんだよ。まずは基礎を積み上げないと」
「この勉強会は試験的なものなんでしょ。いずれそういう高度な応用もやっていくなら、ここであたしたちにわかりやすく説明できるか、っていうのは重要なんじゃない?」
まーたこの子は詭弁を。
……期待の視線が複数。というか全員か。はぁ。
「魔法の詠唱ってあるよね。五十音以内の長文詠唱もそうだけど、魔法名を言うだけのあれも短文詠唱、短縮詠唱って言うんだ」
「たとえば、こういうの、ですわね。──
エレオノーラが扇を向ける方向。そちらへ導火線を思わせる魔力線が伸び──炎の竜巻が立ち昇る。
うわあ。あの頃から練度上がってら。
「び、びっくりしたぁ……」
「エレオノーラ、やるならやるって言わないと」
「……まぁそうですわね。失礼しました」
今にも腰を抜かしそうになっているクレーア先生だけど、この空間は君の幻術なんだから、威力の調整なりなんなりできるだろうに。
俺が何かいろはを教えるよりそういう度胸を身に着けるほうが先だと思うなぁ。
「魔法詠唱のプロセスは、まず継詞基語でやりたいことの枠を作り、それを羅詞源語で読む、という流れだ。
継詞基語は……日本語+中国語って感じかな。漢字に似ている字が無数にあって、文法もそれ単体だとちょっと伝わりづらい。
羅詞源語は英語に近い三十文字。この世界の人々はこれらを公用語に生きている。もう少し簡単に言うと、「普段から英語で話しているし、当然の顔をして日本語や中国語がカタカナ・漢字のノリで出てくる言語」って感じ。
この非常に複雑な言語は、しかし、世界に広く広く浸透している。古代魔族語、精霊語のそれぞれの種族しかいない場所であってもこれが話されているから、何か……タワーオブバヴイルみたいなものがあっておかしくないと考えている。見つかってないけど。
俺は流石に日本語の方が馴染み深いので、やろうと思えば継詞基語だけで会話することもできるけど、この世界でのそれは多分カタコトみたいに聞こえるんじゃないかな。ないしは……あれだ、ルー語みたいな。
「歌唱魔法はその意味の取り出しプロセスを拡大解釈しているんだ。
「……なんっ……え、嘘。今……二重に喋った?」
「え、すごい……聞き取りづらくもなかった。しかも片方は歌に聞こえたような」
「しかも世界に作用を行うのは伝播しやすい音の魔力だからね。遠く遠くにまで届く。これが歌唱による広域治癒の正体さ。そして、暗示の方は……たとえば、そうだな。
ほとんど座ったままの状態から、身長の3.5倍はあるだろう跳躍を見せ、そして着地の瞬間流れるような手つきで刻印魔法を使うリッド。
とても……授業で習ったことがあるだけ、という練度ではなかった。
「これが暗示。バフやデバフではこれを使っているよ」
「……え、いやいや♪ ……なんだ今の♭ ……まるでできて当然というか、やって当然のことをしたみたいだったな#」
「魔力が動いた痕跡が無かったけど……まさかきみの言う暗示って、本当に暗示なの?」
「そうですよ? というか魔力を使って攻撃力上昇なんかをつけようものなら、武具加工とバッティングして弾かれちゃうよ。魔鉱石の干渉力に勝てるはずがないし」
これは本当。武具加工は同時に使用者を他の魔法の影響力から守る防護にもなり得るので、そこに余計な魔力を付けたそうものなら弾かれる。
だからこれはマジの暗示。あれね、心の壊れていたカノン相手にやったマインドコントロールとほとんど一緒。時には感情の線を弄ってでも実現させます。
「言葉一つで、何が変わるとも思えないケド」
「今のリッドを見ていなかったのかい。ま、結局暗示だから、やりたくないことはさせられないのはそうだよ。でも、日常会話として聞き取る言葉に魔力が乗っている状況を君達は知らない。知らないままに聴いて、目にして、無意識の領域に刻印を形成する。それが暗示の正体さ」
「……想像上の魔法刻印が……効力を発揮する、と?」
「じゃあなんで幻術空間で魔法が使えるのさ。ここが想像上の空間ではないとでも?」
「それは……あくまでこういうことが起きておかしくない、という仮想を見ているだけでは?」
「さっきエレン理事長が魔法を撃った時、クレーア先生腰を抜かしかけていたよ。想定なんてできていなかった。自分の幻術空間なのにね」
うんうんと頷いているのはアルカだ。……ま、こいつも『最小限』として似たようなことを……似たようなものを格納しているだろうしな。
魔力マニピュレータ自体仮想を下地にしている技術だし。
「それなら、ただ空想しただけで、どのようなことも起こせてしまう、ということになりませんの?」
「だからそれが魔法だよ。魔力は必要だけどね。口に出しているか考えているかの違いでしかない」
「それは違うでしょう。それが成り立つのならば、誰にでもどんな魔法も使える、ということになってしまうではありませんか」
「だからそう言っているんだよ、エレン・"オーラ"・マイズライト理事長。魔力さえ足りるのならば、すべての人は、すべての魔法を使うことができる。そのイメージを明確にする手助けが刻印というだけで、そんなものがなくたって幻想を現実に上書きできる存在はいる」
……【マギスケイオス】として許容できないものがあるのか、食い下がってくるエレオノーラ。
「エレン。
「ヘンリーがそれ言うんだ……」
「毎度毎度暴走しがち、というのは自罰するところではあるけれどね。ただ……エレンのその、すべての物事には限界というものが存在する、とでも言いたげな言い回しは、好きじゃないんだ。少なくとも子供達は、なんだってできるだろうから」
ずっと黙っていた彼は、そんなことを言う。
そして。
「だからこそ……僕は君と一対一で話し合ってみたい。君に対する失礼な発言はすべて謝罪しよう。君を誰かに重ねる行いもだ。──僕は君と会話しなければならない。この先に待ち受ける
「……結局生徒の時間を奪うんじゃ?」
「そうだね。だから皆にもすまないと言っておく。だけど……そうだな。この言い方は僕としては好ましくないけれど。……ヘンリック・エカスベア魔導博士の再来と呼ばれた稀代の天才が、君という少年に対し、一対一の対話を望んでいる。君という才能、君という思想。その全てを、僕の対等であると認めたが故に」
……やられた。
今の俺を俺と……ノア・ヘドクイストではない誰かではなく、ノア・ヘドクイストであると認識し直した上で、対話したい、なんて言われたら。
「ノア。あんたまた、身の丈とかくだらないこと考えてないでしょーね」
「すげーじゃんノア♪ あれ、今は多分学園長じゃなく博士ってことだよ♭」
「興味深いワネ」
断る理由がない。
「申し訳ないね、この勉強会の試験的導入に付き合ってくれたみんな。──ちょっと彼、借りるよ」
「では、幻術から除外しますね」
さて。
それじゃあ……建設的な話でもするか。
学園長室。
そこへ来て、すぐに。
「──
「……体感時間の加速? 凄い……なんだこれ。こんな便利な……考えもしなかった。これがあればいくらでも時間を増やせるじゃないか」
「流石に脳の限界はあるから、多用は寿命を縮めるだけだよ」
加速意識空間に彼を引き摺り込む。これも幻術の一種だわな。
「ヘンリー・エカスベア。対等として見てくれるというのなら、この口調でも許してくれるかな」
「勿論だ。むしろ……その功績を考えるのなら、僕が敬ってもいいくらいだろう」
「ややこしいからそのままでお願いするよ、ヘンリー」
「わかった。……じゃあ、ノア。君に聞きたいことがある。全ての話を始める前に」
「なにかな」
改めて。改まって。
「君の発言。君が作り上げた歌唱魔法というものの根源。そして、君が否定する君が行ってきた物事の全て。これらを見た時、僕が最初に感じたことは、"これはこの世界で生まれた者の発想ではないな"、だった。……すべての技術には源流がある。派生元がある。海を渡ることで、時折それが突然出てきたかのような
否定はしない。
その通りだと思うから。
「だから君の技術については、嗅ぎ分け、というものができる。それがたとえ刻印魔法を下地にした武具加工であろうと、治癒魔法を下地にした分解術であろうとね。……そして、そうして……君の功績だろうものを眺めているうちに、去来する感情があった」
「感情?」
「そう。──ノア。君は、僕たちの味方……で、いいんだよね?」
その瞳にあったのは、紛れもない恐怖。
一切を隠すことなく──彼は恐れている。
俺という存在が、敵であるかもしれない、ということを。
「さてね」
「さてね、じゃ困るんだ。……僕はツェルニさんに、僕の目の届かないところで遊んでいてくれ、という言葉を使った。この世界が君にとって遊び場であるというのはなんとなくわかる。迷い家だのなんだの言われているし、英雄がどうとか言われているけれど、それは本質的じゃない。君の遊びに付き合うと、それがたまさか高度なことであることが多いから、まるで技術や知識を授かったように見える。ただそれだけだろう」
正しい。俺に英雄を育てる気力など無い。
「ならば砂場にとって、公園にとって、子供は味方だろうか。元からあった形を思うがままに破壊し、あるべきと定められた在り方を塗り替えられる。……この問いの答えは勿論是だ。なぜなら、砂場や公園は、子供のために作られたものだから。だからこれは比喩としては少し正しくない。なぜなら世界は、君のためにあるわけではないから」
「そうだね。そうだろう」
「だからこそ問いかけたい。君は僕たちの味方か、それとも敵か。味方であるというのなら、僕の"片手間"を使い、君という存在の痕跡をこの世から抹消しよう。君が遊びやすくするために、君に不都合な情報を消し去ろう」
「……」
「それでどうか、こちらの味方についてはくれないか。……君は、あなたは、遊び場の破壊者ではないと……信じているのだけど」
殺す。
「──っ!?」
「馬鹿な事を言うなよ、ヘンリー。僕にとって遊びやすい世界とはつまり、無知の凝縮だ。僕のやることなすことに誰もが驚くイージーな世界だ。……そんな世界にすると約束する、だなんて言葉を、研究者たる君が吐いちゃいけない。君というのは、断片化している知識を繋げ、結末へとそれらを導くハブなんだ。自分より先に自分より頭の良い奴が生まれる、なんて、そんな謙遜をして生きるのはやめなよ。後世には自分以上の何かは生まれ出でない。だから自分が全ての問題をどうにかするしかない。ヘンリー・エカスベア。天才というのは、そういう業を背負って生まれ出でるんだ」
彼は戦闘者ではないから、ただ、冷や汗が流れただけだろうけど。
間違ってもそんなことを言うな、というのは、伝わったかな。
「君が言ったんだ。僕と君は対等だ、って。敵か味方かだって? 違うね。君が聴きたいのはそれじゃなく、害してくるのか守ってくれるのか、なんて……力無き存在の言葉だった。それが僕と言う存在を引き摺り出すための言葉の綾だったとしても、吐いた言葉は取り消せない。──君は今、僕の目の前に立ったんだ。さぁ、考えなよ。僕という存在に対し、今、君が吐くべき言葉はなんだ。何を怯える。何を日和るんだ、稀代の大天才」
俺という存在を見て、俺という存在に踏み込むことなく、対等を、そして友を名乗ったのは、後にも先にもただ一人。カリアン・ヴィスマルクその人だけだ。
お前は彼に並べるか。俺に、付き合ってやってもいいという感情を湧き起こさせることができるのか。
「──同盟を持ち掛けたい」
「へえ?」
「僕は……不遜ながらに、世界の代表を名乗る。今、この世界で、最も賢き者が、僕であると自負するから。そして今、君という異世界に同盟を持ち掛ける。同盟の目的は、この世界を我が物顔で試練にかける、厚顔無恥なる天体、紫輝の撃墜。これが討ち果たされた暁には、改めて、異世界交流というものをしよう」
「及第点には届かない。それじゃあ興味が湧かない。僕だけでも紫輝は墜とせる。君と同盟を組む意味が見出せない」
「……そうだろうね。君の目は一度、なにか……強烈な光に焼かれている。僕の知らない……歴史に名を残さなかった天才や英雄がいたんだろう。いや、というか、君の目を焼くのは多分、一般人により近い存在なんだろう。僕には真似ができない。……だから、そうだな。……僕から贈るべき言葉は、これにする」
彼は……手を、差し出してきた。
「僕とも遊んでほしいんだ。こう見えて実は友達が少なくてさ。この歳になっても一緒に遊んでくれる友達が欲しかったんだよ」
「嘘吐き。アルカもエレオノーラも、キアステンもリュオンも……友達はたくさんのくせに」
「だって僕は、ハブだから。みんなと仲のいい君とは、仲良くなっておかないと」
「打算の友達付き合いとは恐れ入るけれど。……ま、わかったよ。遊ぼうか、ヘンリー」
砂場で出会った友達に。
敵も味方も無いのだと。
「それじゃあまずは、管理人でもないのに砂場の砂山を定期的に掃除してくる
「……言葉の通りではあるんだけど、嫌な当て字だなぁ」
砂場に豆の木でも建てようか。
天を衝くほどの、巨大な木をさ。