序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
紫輝歴610年浅紫の月、特になんでもない昼下がり。
流石に名前を覚えた……司書の男、改め魔王、改め、まだ少年なエステルト君が一人、とぼとぼと入店してきた。
いつもより苦いものをご所望のようだったのでその味に調え、カウンター席に座った彼に差し出す。
「……ありがとう」
カップを口につけ、その苦みに驚いて……けど、今はこれくらいがお似合いだよね、と言わんばかりにそれを飲むエステルト君。
「……姉さんと、初めて……大喧嘩をしたよ。きっかけは……なんでもない些細なことでさ。僕の言い方が、少し、悪かった。それはわかっているんだ」
「さようにございますか」
「ああ。……いや、本当に……君に何を言っても意味は無いことはわかっているよ。……はぁ。姉さんの最近のブームはなんだろうな」
「仲直りのための品をお探しでしょうか?」
「そう。プレゼントをして……許してもらうんだ。けど、最近は……何が好きなのか、よくわからなくて」
それ……エレオノーラ側も、「全然納得はできないけど最愛の弟が贈り物をしてくれたのだから容認せざるを得ない」っていう感じの……。
いや、聞く耳持たずモードに入った相手に対して贈り物をしてそのガードを崩す、というのは賢いやり方なんだけど、時間があるのなら……そして絶対に離れたくない意思があるのなら、ちゃんと話し合いをした方が良いと思うけどなぁ。
そういう「飲み込んだもの」はいずれ爆発するぞ……。
「何か……おすすめはあるかな、マスター。女性に贈るプレゼントとして……」
「それではこれを」
暗示やら感情の線やらでもいいけれど、それをやるとこの姉弟ちゃんと気付いてくるだろうしなぁ。
ということで出すのはこちら。
「これは……コーヒーゼリーというやつかい。たまにアンキアが食べている」
「ええ、どうぞ」
「あ、いや、僕にではなく姉さんに、という相談なのだけれど」
「お召し上がりください」
「……わかった。君を信じるよ」
仕組みとして、『全味覚対応団子』はこっちの手元で再現できる。
けど、もう一つの方……『報酬系直接刺激団子』、というかその元ネタの『報酬系直接刺激ゼリー』をコーヒーゼリーにセルフアレンジし、中で動いている刻印魔法を最高域の隠蔽で包み込んだ特別な逸品。
これを食したが最後、エステルト君は──。
「……おいしいな。……うまく……表現はできないけれど。……うわ、無性に……姉さんに会いたい」
「お代は次の来店時で構いませんよ」
「……ありがとう。そう……させてもらうよ」
自分が悪いと口では認めつつも、心には何かあったはずだ。
そういうのは幸福になると吐き出せるようになるもので、だから喧嘩したとか、嫌なことがあった、っていう時は、ストレス発散や気分転換でリフレッシュ、よりも、がっつり無理矢理幸せを感じるのが良い。手っ取り早いのは風呂とかかね。
脳内というのはその辺の順序が直感的じゃないんだ。というか、喧嘩中は自分が思っているより自分のガードが固くなっていると表現するべきかな。
相手と仲直りしたいのなら、口先だけじゃなく、本心の部分から幸福を覚え、自分の心をまず解きほぐしましょう、という……なんだ、先達からの餞別みたいなものと思っていただければ。
後日。
珍しく客が誰もいない時間に、彼女は来た。
「マスター。先日はお世話になりましたわね」
「おや、ということは、仲直りはできたのでしょうか」
「ええ。……私達、実は紫輝歴521年の生まれで、なんというか、……自虐的になってしまいますが、年季が入っているといいますか。お互い……変えられないものも多いし、互いが互いのことを理解しているからこそ譲れない部分もあって……傍から見たら面倒臭いでしょうし、迷惑なのだと思いますわ。ですから本当に……そう、ご迷惑をおかけしましたの」
「いえいえ、お可愛らしいですよ、お二人とも」
「ああ……いえ、そうですわね。結局気を遣わせているあたりがまさに……まだまだ子供、と。……それで、今日は、エステルトのお代を勝手に払いにきたのと、コーヒーゼリー。私も食べたくなって」
言って、ちゃんと、多すぎることも足りないこともないストレイル金貨を差し出してくるエレオノーラ。……メニューの代金全部覚えてんのかな。流石というべきか?
お代を受け取り、コーヒーゼリーを出す。報酬系直接刺激ゼリーじゃない普通のコーヒーゼリーだ。彼女は既に幸福そうだったから。
「ふふ……ねえマスター。このコーヒーゼリー、巷でなんと呼ばれているか知っていまして?」
「おや、なにか噂になっていましたか?」
「『
また……『
エリスフィア帝国特有じゃないのか……あるいはエレオノーラの周囲にいる? いやエレオノーラ自身が?
コーヒーゼリーをブラックボックスに、ねえ。散々擦られてきたネタではあるだろうけどサ。
「だとすれば、自他共に、心とはそもそも先の見通せないものなのでしょう。コーヒーゼリーは調理時点から真っ黒ですからね」
「かもしれませんわ。……少し、重いと……そう感じるかもしれない話をしてもよいでしょうか。聴きたくなければ、拒否してくださいな」
「聞きますよ」
「ありがとう。……私達は、血の繋がった姉弟ではありませんの。もう気付いているかもしれませんが、私は人族。エステルトは仮面の魔族。本来相容れない二つは、マイズライトというある旅団に拾われ、同じ姓を受け、姉弟とされましたわ」
へえ。旅団……なんだ。
ってことは、マイズライト旅団の一員、みたいなファミリーネームでしかないんだな、マイズライトって。……俺がそれを無意識に名乗った理由は、果たして。
「マイズライト旅団というのは……まぁ、有体に言ってしまえば傭兵団でして。冒険者よりも組織立って動くといいますか、旅団単位で依頼を受け、それを遂行するような者達の集まり。その結束は堅固であり、裏切りも無ければ見捨てるということも無い……そんな旅団」
「あまり、聞き馴染みはありませんね」
「魔王国には来ませんからね。人族の旅団ですわ。ああ……魔王国から出たことが無いと知らないかもしれませんが、人族の国ではひっそり暮らしている魔族、というのが幾らかいるのですわ。エステルトはそんな魔族のもとに生まれた……けれど、戦争で親を失った孤児。私は人買いの商品だったらしいのですが、旅団の団長によって助け出された、と」
あー、やっぱ人買い問題は根深いんだなーこの世界も。
確かキアステンも人買い云々が『
「マイズライト旅団は……決して善なる傭兵団ではありませんでしたわ。 正しい額さえ払われたのなら、雇い主が悪でも善でも関係なく傭兵をする。傭兵というのは得てしてそういうものですが、たとえ一国が相手であろうと、あるいは竜が相手であろうと、血の気多いままに剣を取ったのはマイズライトだけでしょう。
「何が悪で何が善か、については私は語る口を持ちませんが……少なくともエレンさんの中では、幸福に分類される思い出のようですね」
「ええ。まぁ、物事を知らなかった、というのが一番大きいですけれど……ただ戦っていればよかった、ただ魔法を使っているだけで良かったあの時代は、確かに幸福だったのでしょう。荒々しい気性ながらに全員が家族であるような団員達と、生まれも種族も違えど最愛たる弟。あの頃はそれ以外何も要らないと……そう思っていました」
まぁ……そういう幸せは、長く続かないわな。
これも往々にして、だ。解散やなんらかのトラブルに結びつきがちというか。
「紫輝歴525年緋の月。……旅団リーダーが、病に倒れましたの。……たったそれだけですわ。マイズライト旅団が……あれだけ結束の強かった、絆で繋がれていた旅団が解散にまで至った理由は、その一人の男がいなくなったから。……結局は団長ありきの旅団で……一人、また一人といなくなっていきましたの」
「当時お二人は四歳ですか。さぞかし大変だったでしょうね」
「ええ……ただ、大変だったのは生きていくことではなく、団長を失くしてなおもマイズライト旅団を名乗る
「傭兵ではなく窃盗団になってしまった、と?」
「なりかけていたからぶん殴って止めた、が正しいですわね」
強かだな。まだ四歳でそれか。
多分エレオノーラなりにマイズライト旅団という名前には恩義を覚えていたから、どうにかして守りたかったとかなんだろうけど。
「ただ……ある日。特殊な魔族……『
「彼を守ったのですね」
「ええ、もちろんですわ。あの子に下卑た視線を……ストレイルを重ねて見る者を、一人残らずこの世から消し去りましたの。かつて家族であったとか、……いいえ、数瞬前まで家族であったことは、あの時の私の中には、事実としては存在していませんでしたわ。"俺達を助けると思って"という言葉が聞こえたのが最後で、その後はもう、目の前には焼け焦げた肉塊しかありませんでした」
まー……善悪はやっぱり難しい。
俺は何とも言えないな、それは。肯定も否定も。ただ、当然のことをしたのだろう。
「そうして私達は……マイズライトという名前を持って、旅を始めたのです。だから、エステルトは……唯一無二の家族で、だから……その、喧嘩が長く続かなくて、本当にほっとしていますのよ。私はもう、家族を喪いたくはありませんから」
「お二方の仲直りの一助になれて良かったです。……失礼がなければお聞きしたいのですが、あなたの予知名はどこから生じたものなのでしょうか」
「構いませんわ。魔族なら気になって当然でしょうし。この"オーラ"は、貰い物なんですの」
「貰い物?」
「……ええと、どこから説明したものでしょうね。まず、私は、【マギスケイオス】という組織に属していますわ。そこは……簡単にいうと魔法研究同好会でして。そこに元々、ネイトアリスという方がいましたの。【マギスケイオス】における彼女の称号は『財宝』。錬金術に関連し、それを収蔵する魔法や増やす魔法などを研究している方でしたわ」
つまり先代『財宝』か。……しかし、ネイトアリス。……聞き覚えある、ような?
「私は……エステルトの姉として、彼より先に老いて死ぬわけにはいかないと……幼少の頃、ある魔法を編みだしましたの。それを見初められて、私はネイトアリスの推薦を受け、その『財宝』の椅子に座りましたわ」
「お師匠さま、ということですか?」
「いえ、私は彼女から特に何も教わっていませんわ。彼女から受け取ったのは『財宝』の席と、そして"オーラ"という予知名だけ。古代魔族語で"天に愛されて"という意味を持つこれは、『財宝』にぴったりだろう、と。……無論、私は人族ですので、その加護のようなものはないと思いますけれど」
ネイトアリス……ねいとありす……ねぃとぁり……ああ、ナタリーか。はぁ。一連の思考に使ったカロリーを返してくれ。
アイツ……先代『財宝』だったのか。あいつというかあいつのアバターが、だけど。
「というわけで、これは本当にただの貰い物ですの。けれど、これがあるおかげで……私がエステルトと共にあっても、怪しんでくるような輩が減っているのも事実でして。"天に愛されて"いるかはさておき、運気アップのお守りの役割は果たしているように思いますわ」
それこそ普通の魔族はみんな「仮面の魔族何かな?」って思うだろうしなぁ。
ベストチョイスといえばベストチョイス。ファインプレーかもしれない。
「エレンさんの魔法は、恐らくですが、無理を通して人道を外す類のものですね」
「……わかるのですか? 流石はマスターですわね」
「具体的なことはわかりませんが、恐らく最後に……いつかはその通し続けた無理を支払わなければならないもの。それについて、エステルトさんは知っているのですか?」
「……ええ、知っていますわ。けど、気にしなくともいいと……そう伝えていますのよ」
あの時エレオノーラは、老いを収蔵してストックしておける、みたいな話をしていた。
けれど、多分、その先延ばしにした老いは……いつか完済しなければならないはずだ。
今までの人生の分の老いを一気に、というのは、……自らの肢体がリアルタイムに萎び、朽ちていく感覚は……耐え難いものだと思うけれど。
それでも、弟より先には死ねないのだろうな、この子は。
「ふふふ。もしやとは思いますが、此度の喧嘩の理由は、エステルトさんに"僕以外の生きる理由を見つけてほしい"と言われたから……ではないですか?」
「……あなたには驚かされるばかりですわ。ええ、その通り。ただその言い方が少し気に入らなくて……こちらも言葉を尖らせてしまって」
「エステルトさんはあなたに迷惑をかけたくないのでしょうね。そして、あなたは、そこを含めて家族だと思っている。優しく愛のあるすれ違いが、喧嘩にまでなってしまった、と」
「その通りですの。……あの子の気持ちも、わかっているのに。本当は……いつまでも弟離れできていないのは私の方なのですわ。魔族の成長は遅いからと、いつまでも子供のように振る舞ってくれるエステルトに甘えて……」
こーれは姉弟だね。
先日の『王様』にエステルト君が告解していた内容とほぼ一緒じゃないか。
感情の線なんて繋げるまでもない。ちゃんと相思相愛だよ。
「……マスターは、軍にいたご経験などはありまして?」
「いえ、ありませんね」
「そうですか。……エステルトが、軍属申請を出したらしくて。……あの子なりに……一人でもやっていける、ということを私にアピールするためだとは思うのですけれど、気が気でならなくて」
「エステルトさんはあなたが守らなければ壊れてしまうような弱き存在なのですか?」
「そんなことは、ありませんわ。剣術も魔法もオールラウンダーにこなせる戦士ですの。私なんかよりずっと強いのですわ」
「なら、もしかしたらエステルトさんは、軍属となって軍務に従事している間、同じことを思うかもしれませんね。エレンさんは大丈夫なのか、気が気でならない、と」
頬に朱を差すエレオノーラ。
自身のそれもまた、過保護な発言だと気付いたのだろう。
「それでも……どうしても気になってしまうのであれば、一年か二年ほど旅に出てみるのもいいかもしれません。勿論お互いよく話し合った上で、ですが」
「成程……強制的に離れて、杞憂を殺すというわけですわね」
「はい。一年が短いとおもうのであれば、五年ほどでもいいですし。何か目標を立てるのもいいかもしれません。恐らくエステルトさんはエレンさんにやりたいことをやってほしいと思っているでしょうから、全力でやりたいことに注力して、彼を安心させてあげる、とか」
現在紫輝歴610年。618年の惨劇を考えるとあんまり遠くには行ってほしくないが、別にエレオノーラがいたところで何がどうなるとかは知らんしな。
惨劇が起こるとわかっていても、別にそれを止めようとする気は無い。そういう……なんだ、過去を改変するために時間遡行をするっていうのは、俺の大望からもあり方からも逸れる。それは別の奴らがやればいいさ。
じゃあなんで来たのかと言えば……まぁまぁ。
「……私、今、『財宝』として……世界を三度買ってもお釣りが来る程度のストレイルを有しているのですけれど」
「それは、とてつもないことでございますね」
「ええ。これを四度にできるよう、奔走してみますわ。……昔は生きるためのお金稼ぎでしたが、いつしかそれが代名詞たる魔導士になり、そして……自らの本当にやりたいこととして昇華したのなら、旅団も報われるでしょう」
「おや、マイズライト旅団の方々のことは、とっくの昔に割り切っている、というように聞こえましたが」
「その通りですけれど、まぁ、いつまでもマイズライトを名乗っているわけですから、報いるくらいはしますわ。種族差別になりかねないから普段は言いませんけれど、魔族より執念深いのが人族でしてよ」
その辺は知らんがや。
元気になったのなら何よりだ。……「よくも姉さんとの憩いの時間を奪ってくれたね?」って言ってエステルト君が
というか仮面の魔族とか伐開の魔族の魔獣形態ってなんなんだろ。まったくわからんのぅ。
「これ、お話を聞いてくれたことも加算しての代金ですわ。受け取ってくださいな」
「ええ、では、エステルトさんが次来た時はまたサービスしておきますよ」
「素晴らしい心遣いに感謝しますわ。それでは。コーヒーゼリー、とても美味しかったですわ。人族の国でも売ってほしいくらいで」
「ええ、いつかは」
「心待ちにしていますのよ」
そうしてエレオノーラが退店する。
いやー……。
……今更だけど、これ俺、主人公パーティを自ら解体していないか?
エステルト君さえいればどうにかなりそうではあるけど……やったか? これ?
そんな感じのことを経た日の、日付が変わる直前。29時30分くらいに……彼女が入店してきた。
黒髪黒目の少女。流石に間違えない。……偽装魔法を被っているから容姿に言及はしないんだけど。
「いらっしゃいませ」
「……話には聞いていたけれど、この時間にやっていて本当にカフェなのね。遅い時間だからあまり目を覚ましたくはないの。温まるものを一つくださいな」
キアステンだ。……そういえば『王様』もキアステンとは魔王国で再会したとか言ってたっけ?
「ホットココアです。どうぞ」
「ありがとう。……ああ、温まる。……甘くておいしい」
ノアの時、助けを求めてきた割にいないなーとか思っていたら、魔王国にいたらしい彼女。
ちゃんと魔王様をやっていたといえばいいか、なんだ、音楽好きの引っ込み思案な少女設定はマジでどこいったんだよお前。
「……しばらく面倒を見ていた子がね、今日……偉業を成し遂げて。……面倒を見ていたとはいっても、結構前に別れてはいたから、勝手に、なんだけど……」
なんて風に、唐突に話し始めるキアステン。
面倒を見ていた子、か。……誰だろ。エカスベア魔導研究所の子供たちだったりするのかな。
「人族の成長って早くて……少し寂しくなってしまったわ。私より小さな子だったのに、少し目を離しただけで……結婚までして、子供まで儲けていたり、もう……びっくりしちゃうってば」
「短命は人族だけには限りませんが、仰る通りですね。時の流れは早く、容赦がない。……人間関係というのは互いの情報の更新を意味します。目を離すということは、その情報を更新しなくなるということです」
「……どういうこと?」
「ふむ。……もう何十年も会っていないご友人、というのはいらっしゃいますか?」
「ええ……数人程度だけど」
「その方々は、実は、お客様の記憶の中のご友人になっているのです。長い間会っていない方々とは、実は、ご友人ではなくなってしまっています」
キアステンは……静かに話を聞いている。
こういう接客、普段はしないんだけどな。キアステン相手だと『博士』が顔を出すというかさ。教える身構えになっちゃうんだよな。
「長い間お会いしていなくて、久方振りに会った時、記憶の中の人物像と大きく相反する方になっていたら……人々はこう口にします。"昔のあの人はあんな人ではなかった"、と。時間というのは本当に容赦がないのです。関係性の根拠を押し流してしまうこれは、何が好きだから友人であるとか、どんな風に気が合うから親友であるとか、そういう、かつて己の無意識が抱いていた関係性の理由を洗い流して、まっさらな情報だけにしてしまいます」
「関係性の……理由」
「お忙しいのかもしれません。遠方で難しいのかもしれません。ですが、それでも折を見て会いに行くことで、相手との関係性を更新し、絶えず己が世界観の欠落を埋め続けること。……我々魔族は種族によって時間感覚が違いますから、これを怠る長命魔族は、大抵、世界から色と熱を喪って、寂しい寂しいと、そう口にする方ばかりになりがちです。人族であれば尚更、会いにいってみてあげてください。ご友人もまた、同じ思いをしているでしょうから」
それで……会って、結局変わってないじゃないか、でもいいのさ。それもまた情報の更新だ。
変わったと思うのは、情報の更新期間が開きすぎて、劇的に見えるから。アハ体験の元画像と最終画像を見比べると全然違うじゃんになるヤーツね。
勿論置いていかれてしまった感じで寂しいなぁ、っていうのも悪い感情じゃないけど、特に魔族は時間感覚がえげつないから……そのままでいると、大切な友人の死に目にも会えなくて、後悔するだろうから。
今……メッテやヘンリックは、六十歳前後だろうな。
平均寿命を考えると、生きているかどうかは難しいところだが……。
「良い言葉に、良い契機ね。……行きたいところができたの」
「ええ、ありがたいお言葉です。そして行ってらっしゃいませ」
「ありがとう、マスター。お代はこれで大丈夫? ……じゃ、私急ぐから」
そんな風に言って出ていくキアステン。まさかこのド深夜からエリスフィア帝国までダッシュするつもりかあいつ。
あと多いって。ストレイル金貨一枚とかホットココア一杯の値段で設定しているわけないだろ。深夜料金つっても限度があるわ。……次来た時は無料なお前。つーか向こう一ヶ月以上無料だわ馬鹿野郎。
良い思い出になるといいな。