幼女サイヤ人レタス   作:阿部まさなり

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第二話 父の怒り

 自宅への帰路の中、レタスの足取りは重かった。父に会う。その事を考えると心臓がやかましく高鳴り、体中から汗が沸いて止まらなかった。歩く度に家に近付いていく。すると体の変化はますます強くなっていった。それでも隣で呑気に歩いているホウレンに悟られないように、今にも震え出しそうな体を強固な意思で止め、今にも反対方向に逃げ出しそうな足を無理矢理家に向かって進めた。このまま永遠に家につかなければ良いのに。なんて夢みたいな事をレタスは考えていた。

 当然そんな夢みたいな話などあるはずが無く、レタス達は自宅の前へと辿り着いた。レタスとホウレンの家は隣同士だ。ホウレンの家の玄関は何の変哲もない普通の木の扉。だがレタスの家の玄関の扉は、同じような木の扉だが木の板等で雑に修復された跡があった。

 二人はそれぞれの自宅の玄関の前に立っていつまでもお喋りをしていた。レタスは帰りたくないので無理矢理話題を出して会話を続けた。といってもそんなに話題を持っているわけでもないので一分も経つ間もなく話題は途切れてしまった。

 

「じゃまた明日な。おやすみレタスちゃん」

「うん。また明日ね」

 

 そしてホウレンは家の中へと入っていった。レタスは一人残った。玄関の扉を開けたくない。そう思ってその場で固まるレタス。しかしずっとそうしているわけにもいかない。母が心配するだろうから。レタスは意を決して扉を開いた。

 家の中ではレタスの母親、カスイが椅子に座って本を読んでいる所だった。家の中を見渡してみるが父の姿は見えなかった。

 

「あら、おかえりレタス。また遊び呆けてたの?」

「ただいまお母さん。まぁそんな所だよ。隣のホウレンとちょっとね」

 

 レタスは奥に入ると壁の近くに置いてある椅子に座った。サイヤ人の家は基本小さな平屋で部屋も布で仕切ってるだけである。子供部屋などは存在しない。なので家の中では大抵家族同士いつも同じ空間にいる事になる。父が家にいると大変だ。いわゆる娯楽になりそうな物は本くらいである。それも文字が覚えたてのレタスでは難しくて読めない。テレビやラジオといったメディアは無い。子供にとっては退屈な所だろう。

 

「お父さんはいないの?」

「パンプのヤツは仲間と一緒に油でも売ってんじゃないの? 今は待機中だからね。ほら、あなたの世話をしなきゃならないじゃない?」

「……そうなんだ」

 

 戦闘員は基本絶えず他の星へ侵略しに行くのが仕事だが、子が育児ポッドから出た直後などは子の教育の為に軍が長期の待機命令を出す事がある。レタスの両親もレタスが育児ポッドから出て間も無い為に待機命令が出ているのだ。もっともそのために父といつも一緒なのはレタスにとっては良い事では無いだろう。

 父がいない事にレタスはほっと安堵した。もっとも遅かれ早かれいずれは帰ってくるのだが。

 

「あんた、ホウレンには勝てたの? それともまた負けたの?」

「あはは。また負けたよ。いつも良いところまで行くんだけど、いつもボクが先に動けなくなっちゃうんだ」

「それで罰ゲームで尻尾握られたわけ? 今日は漏らしたりしてないでしょうね?」

「そんなにいつもは漏らさないよ。チビってもいないし」

「それなら良いけどね。おもらしなんてみっともないもの。お父さんに隠すの大変だったんだから」

「うん。ごめん」

 

 カスイは読んでいた本を閉じると台所へと移動した。どうやらこれから食事を作るようだ。売店で買ってきた肉と野菜が並んでいる。米は既に炊かれているようである。後はおかずを作るだけという段階だ。

 包丁で大きな肉の塊を切っている。まな板を叩く音、鍋で煮込む時の水の沸騰した音が小さな家の中に木霊した。レタスは一言も喋らず、椅子に座ったままじっとしていた。落ち着きが無さそうで両足をパタパタ揺すっていた。そしてふと口を開いた。

 

「ねぇお母さん?」

「何?」

 

 台所に視線を向けながら、カスイは返事をした。レタスはその後黙ってしまった。喉に言葉が突っかかって出ないようだ。これまでも聞きたくても聞けなかった事である。それを聞こうとしているのだ。

 

「何よ? 呼んだだけ? 別にいいけど」

「……うん。暇だったからね。外は満月だから夜遊びも出来ないし」

「別に空を見なければ良いんだけどね。まぁ間違って大猿になられたら後が面倒だからさ」

 

 それからまた会話が途切れた。しばらくしてまたレタスが口を開いた。

 

「お母さん……」

「はいよ。今度は何? 暇だったら腕立て伏せとか上体起こしとかしてたらどう?」

「いや、そうじゃなくて。……前から聞きたかったんだけどさ」

「何よ? 言ってごらん」

「いや、えっと……それなんだけどね」

 

 今ひとつ言葉が出てこず態度がはっきりとしない。するととうとうカスイが業を煮やして、レタスの前へとやってきた。

 

「サイヤ人ならはっきりと言いなさい。女がそうやってもじもじする時は、惚れた男に告白する時くらいなんだからね?」

「……うん。じゃあ言います。……お母さんは実際の所どうなの? 娘が下級戦士だった事……。お父さんと違ってお母さんは何も言わないからさ……。やっぱりガッカリした?」

「……う〜ん。そうだねぇ……」

 

 カスイは言葉を選んでいるのかすぐに返事をせずに頭を傾げて考え込んでしまった。レタスは母親の顔を見ていられなくなり、俯いて唾を飲んだ。唾を飲み込む音がとてもうるさかった。

 

「正直言ってパンプのヤツはムキになりすぎてると思う。子供に八つ当たりなんて良くないよ。下級戦士って判定を受けたなら仕方無いじゃないの。そんなに珍しい話でも無いし」

「え? そ、そうなの?」

「子供の潜在能力が高いか低いかなんて、実際産んでみないとわからないものよ? ほら、少し離れた村で美味しいって評判の肉屋を経営している非戦闘員のギネさんの息子なんて上級戦士だし。名前はたしか……ラディッツだったかな? 父親のバーダックさんは上級戦士でも何でもないのに。どんな子供が生まれるかなんて実際はわからない」

「……そうなんだ」

「だからパンプのヤツもあんなに怒る必要なんて無いんだよ。子供なんてまた産めば良い話なんだから」

「え?」

「普通、子供ってのは何人か作るものなの。一人目がダメだったとしてもまた作れば良い。潜在能力の高い子が産まれるまで何度でもね」

 

 母の言葉を聞いてレタスは心の中が何かもやもやしたものに満たされてそれが全身に染み渡っていくような感覚を覚えた。とても体が重くて怠い気持ちになった。母は父と違って自分の事を憎んでいるわけではない。そもそも興味が無いのである。期待も何もされてないのである。その事をレタスは理解した。その事についていつもなら悔しい思いでいっぱいになり怒りが沸いてくる所が、この時は何か大事な物が抜けてしまったかのように全身から力が抜けてしまった。父に殴られた時は悔しいとか怖いとかの気持ちがこみ上げていたが母の言葉を聞いた今はとても言い表せないような心のもやもやが胸いっぱいに広がった。

 

「だからお母さんはあなたの事を嫌いだなんて思っていないよ。下級戦士の判定を受けたのはもう仕方の無い事。飛ばされても死なずに生き延びられるように頑張る事だけを考えなさい。死んだら終わりだからね」

「……そうだよね。まずは死なない為に頑張らないとだよね」

「それで話終わり? 終わりならさっさと夕食作っちゃうから」

 

 そう言ってカスイは台所の方へと向かっていった。それからしばらくして、再びレタスは口を開いた。

 

「ねぇ、お母さん? お母さんはボクの事をどんな風に思って――」

 

 その時だった。突然ガチャリと玄関の扉が開いたかと思うと扉の先から一人の男が入ってきた。レタスの父親のパンプである。その姿を見た途端、レタスは考えていた事の何もかもが頭から抜けて背筋が凍る思いがした。

 

「帰ったぞ」

「あらおかえり。まだご飯出来てないから待っててね。それとももう食べた?」

「いや、食べてない。早く作ってくれ」

 

 何気無い会話。それが終わったかと思うとパンプは大きなため息を漏らした。そしてゆっくりと横に視線を向ける。椅子に座っていたレタスと目が合った。するとパンプはまた大きなため息をついた。

 

「あ……おかえり、お父さん……」

「……ああ」

 

 パンプは短い返事をすると食卓の座席にドカッと乱暴に座る。その音を聞いてレタスの体がビクッとはねた。レタスの心臓は病気と思えるくらいにバクバク高鳴っていた。

 

「……ちくしょう、イライラして仕方が無い。……くそったれめ!」

 

 パンプはブツブツ何かを呟いていた。娘の事を考えているのである。そして考えれば考える程に、激しい感情が湧き上がる。それは怒り、後悔、やがて憎悪へと変わっていきみるみると大きくなって歯止めが利かなくなっていく。それを表すかのようにパンプの言葉が徐々に大きく、怒号に近いものへと変貌していった。その拳はとても強く握られて、爪が皮膚を突き刺して血が流れる。口元は歯軋りをしていて歯が剥き出しになっていた。

 

「おいレタス! てめえ、今日はいいかげんに隣の子に勝ったんだろうな? また負けたなんて吐かしたら許さんぞ!?」

「え……あの……」

 

 レタスはとても負けたなんて言えないので言葉が出せなかった。かといって嘘をつくという発想も出てこなかった。そこまで器用では無かった。

 

「また……負けました。ごめんなさい……」

 

 その言葉を聞いてパンプは舌打ちをして顔を手で覆った。そしてため息をついてしばらく黙り込んだ。その心は我が子への落胆と失望の気持ちだった。我が子が他の子に、しかも下級戦士の子にいまだ勝てないでいる事に失望していた。とても許せない事だった。それは自分のプライドを激しく傷付ける事になる。しばらくしてパンプは顔を上げるとレタスを睨みつけた。

 

「俺も母さんも言ったはずだぞ。やりようによっては勝てる差だってな。ましては隣は代々下級戦士の家系だ。そんな落ちこぼれの家のガキに、てめえはいつまでも遅れをとっていやがるのかぁ!?」

「落ちこぼれって……ホウレンが可哀想だよ……」

「そんな事はどうでもいいんだ!! 今はてめえの話をしてるんだぞ!? 話を逸らすんじゃねぇっっ!!!」

 

 机を力いっぱいに叩くパンプ。レタスはまたビクリと体を震わした。するとパンプは続け様に怒号を上げた。

 

「机殴ったくらいでいちいちビクビクするなって何度言ったらわかるんだてめぇは? 首の骨をへし折るぞ!?」

「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!!」

 

 レタスは咄嗟に床に座り込むと恐怖で今にも泣き出しそうな気持ちを堪えながら土下座して謝った。少しでも父の怒りが収まるならと必死だった。しかし父の怒りは収まるどころかますます膨れ上がっていた。

 パンプという男の性格のせいもあるだろう。彼は元々癇癪をよく起こす性格だった。そして、娘のレタスの事が大嫌いだった。本当であれば今すぐにでも殺してやりたいと思っていた。サイヤ人は元々弱い人間を嫌う傾向にある。ましてやパンプは必ず自分のような上級戦士になると信じていた我が子に裏切られたのだ。その怒りはとても凄まじかった。

 パンプは立ち上がるとゆっくりとレタスの横に移動した。するとレタスは父の方に頭を向け直して、いつまでも頭を下げ続けた。するとパンプはその頭を足で思い切り踏みつけた。レタスの頭は床に押し付けられる。床がへこむ程の衝撃だった。

 

「ああ! い、痛い……」

「痛いか? それは俺の子でありながら、下級戦士の判定を受けたてめえへの罰だ。……この、屑めっ!!」

 

 そう叫び、娘の頭を床に押し付けるパンプ。レタスは頭が割れそうな思いがした。実際彼女の頭からはギ……ギ……と鈍い音がなっていた。更に力を加えればレタスの頭は割れてしまうかもしれない。それくらいの力だった。

 レタスの目は涙が溜まって赤くなっていた。それでも土下座の姿勢のままじっと固まっていた。

 するとそれまで何も言わないで台所で食事を作っていたカスイがパンプの隣へとやってきた。彼女はパンプの癇癪持ちな性格を知っている。なのでパンプが癇癪を起こしたらいつもの事だと思って彼が落ち着くまで無視をするようにしていた。しかし今回はさすがに止めないと、と思ったのだろう。パンプの顔とは真逆の穏やかな顔つきで彼を見つめた。

 

「もう良いんじゃないのそのへんで……。ご飯が不味くなるよ。もうすぐ出来るから、早く座って」

「……俺はこいつの顔を見てると顔を殴りたくなってしょうがないんだ。下級戦士の屑が、いつまでも他所のガキになんかに負けやがって……!!」

 

 パンプはレタスの顔の下に勢いよく足を滑り込ませるとその顔面を思い切り蹴り飛ばした。レタスは宙に浮いてふきとんでいき壁に激突、そのままズルズルと床に尻もちをついた。レタスの顔は真っ赤に腫れてしまった。あまりの苦痛に、レタスは両手で腫れた頬を抑えた。凄まじい威力だ。大人であり、上級戦士である父の蹴り。当たり前と言えば当たり前だがホウレンの蹴りとはまるで重さが違う。たったの一撃で、気力も何も失う程の威力である。

 

「ふー! ふー!」

 

 レタスは気持ちが異常に乱れて呼吸が正常では無くなっていた。その様を見てパンプはレタスに向かって唾を吐き捨てた。するとカスイが声を荒げた。

 

「そんなに怒らないでよパンプ! 一度漏らした時の事を考えれば今は頑張ってる方だって!」

「……何? 漏らしたって何の話だ?」

「え? ……あ……あ~……」

 

 咄嗟に口走ってしまった言葉。パンプの怒りの矛先はカスイに向けられようとしていた。癇癪持ちのパンプは一度癇癪を起こしたら手が付けられない。戦闘力も家族の中では一番強いのでカスイではどうしようもなかった。カスイは咄嗟に理由を説明した。

 

「この子がホウレンと遊んでる時、負けたら尻尾を握られるってルールを決めていてね? 以前レタスが遊びで負けて尻尾を握られた時、漏らしちゃったのよ! いや〜、服を洗うの大変だったんだから。一着しか買ってなかったからさー……」

 

 そう言いながら、カスイは失言をしてしまったととても後悔していた。しかし既に言葉は放たれてしまった。パンプの耳に入ってしまった。この後パンプがどう行動するか、想像に難くない。

 

「……こ……この……」

 

 わなわなと震え始めるパンプ。まさに怒りが爆発する段階と言った所だ。もう止められないとカスイは離れた場所に避難する。レタスは恐怖で震えて腰が抜けて動けないでいた。

 パンプの表情が怒りで歪み、鬼のような形相になる。その直後目に留まらぬ早さでレタスに向かっていく。両手でレタスの戦闘服の襟を掴み持ち上げた。レタスの体は簡単に持ち上がった。足が床から離れる。パンプは更にレタスの体を視線より上まで持ち上げた。

 

「こんのぉ、屑野郎がぁあああ〜っっっ!!!!」

 

 今日一番の怒号。パンプはそのままレタスの体を持ち上げると全力で玄関に向かって投げ飛ばす。ふきとばされたレタスの体は玄関の扉を突き破って土の地面への投げ出された。レタスはしばらく転がって地面に倒れる。そこへパンプが地面を足で強く踏みつけながら近付いてきた。そしてレタスの体を、顔を、何度も踏みつけた。踏みつける度にまるでガスが爆発を起こしたような凄まじい音が鳴り響き、地面には亀裂が入ってへこんでいった。

 

「この屑がっ! 屑がっ! どこまで俺をバカにすれば気が済むんだてめえっ!! 今この場で殺してやる!! てめえなんて!! てめえなんてなぁっ!!」

 

 レタスは両手で顔を守りながら丸くなって蹴りを受け続けた。凄まじい蹴りの重みに全身が悲鳴を上げていて骨が砕けそうだった。するとその騒ぎが聞こえたのだろう。隣家の家々からサイヤ人の大人達が扉を僅かに開けて二人を見つめていた。しかしそれからすぐに何も無かったかのように扉を閉めてしまった。この親子の光景に特に思いを抱かなかったのだろう。

 レタスの体のあちこちから、皮膚が裂けて血飛沫が舞う。レタスの意識が遠のい始めた頃、カスイがパンプを止めに入った。

 

「わかったよわかった!! 私が悪かったよ! この子が下級戦士だったのは私がいけないの! だからもう止めなよ! この子本当に死んじゃうよ!!」

「何言ってんだ! 俺は今日、この場でこいつを殺す! もう決めた事だ邪魔するな!」

 

 すると隣の家の扉からホウレンが顔を出して二人を見ていた。レタスを助けに行こうと思ったが恐怖で震えて体が動かなかった。するとホウレンの親がホウレンの手を握り扉を閉ざした。元々下級戦士の家族では束になってもパンプには敵わない。今の癇癪を起こしたパンプに逆らえば、下手をすれば皆殺しにされる事は明らかだった。

 

「パンプ! レタスの事はもう放っといて、二人目の子供作りましょう! 今度は上級戦士の子供が産まれる。そんな気がするの! だからね、家に帰りましょうよ! ねぇお願いだからさぁ!」

 

 それを聞いてその気になったのかはともかく、パンプはそれ以上の攻撃を止めた。大きく深呼吸をすると身を翻した。

 

「……明日、二人で別の星を攻めるぞ。わかったな?」

「え? でも軍からはまだ待機命令が……」

「そんなもん知るか。これ以上あのクソガキの顔を見ていたらこっちの気が狂いそうだ。……それに二人目作るんだろ? 今度はこんな屑、産むんじゃねぇぞ?」

「わ、わかったよ……」

 

 パンプはどうやら少しは落ち着いたようである。ため息をつくと家の方へと足を向けた。その時、うめき声が聞こえて足を止めた。見てみるとレタスが耐えきれずすすり泣きをしていた。

 

「うう……ひっく……ひっく……」

 

 するとそれがまたパンプに火をつけたらしい。またレタスの顔を思い切り踏みつけた。

 

「てめえ……たとえ下級戦士の屑野郎だとしても、サイヤ人として生まれたなら二度と泣くんじゃねぇ!! そんな恥晒しなまねは二度とするな!!」

「……はいぃ……」

 

 レタスは声にならない声を上げると顔を抑えて泣き顔を見せまいとした。しゃっくりはもう止められないが声は殺した。それを見てパンプは気が済んだのか家の中へと帰っていった。カスイもその後を追う。途中でレタスの事を気にして振り向くが、程なくして彼女も家の中へと入っていった。

 それからしばらくの間、静寂が場を包んだ。すると騒ぎが収まったと察したのだろう。ホウレンが家から飛び出してきてレタスの下へと走ってきた。

 

「レタスちゃん! レタスちゃん無事か!?」

「……」

 

 レタスは無言のまま起き上がった。体がとても重いがなんとか立ち上がった。しかしふらふらでとても不安定だった。

 

「俺の家に来いよ! 親もいるから狭いけど外にいるより良いだろ?」

「……いや、少し一人になりたい。ここから離れたいんだ……。ごめんね」

 

 レタスは小さな声でそう言うとその場を離れ始めた。ホウレンが後を追おうとするがそこに父親が来て止めた。

 

「なんで止めるんだよ父さん!」

「一人になりたいって言ったんだろ? 放っておけ。俺達には関わりの無い事だ」

「でもよぉ!」

「あの子の家とは隣同士だ。あの子は自分の家から離れたいのさ。自由にさせてやれ」

「……そうだけど……」

 

 それ以上ホウレンは何も言えなかった。二人に見つめられながらレタスは闇の中へと消えていった。

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