ディは一人、ガーナスバルクを歩いていた。
目的は特にはない。ただ何となく歩いていた。
「よぉそこの姉ちゃん。そこで俺とナウでヤングなことしない?」
歩いていると金髪の男がそうディに話しかけてきた。
「いえ。興味ないので」
ディはそう言って断って去ろうとするも男はディの肩を掴んだ。
「いやいやつれないな嬢ちゃん。俺と楽しいことしようや」
男のその台詞には股間がもっこり浮き出ているのが感じ取れた。
(男とキスとか嫌じゃボケ)
なおセックスそのものは嫌じゃない模様。転生前はTS物のエロ漫画を嗜んでいた。自分がTSする妄想ぐらいしていたのである。
だが男とキスは御免だ。なおちんぽにキスはいいらしいが。
「断る」
ディは少し目線に力を入れてそう言った。
レベル百、超越者の頂の目力だ。男は震えだした。
「ふん」
軟弱者め、とディは軽蔑しながら歩き始めた。
(どーしよっかな)
ディは歩きながら考える。
ディと月華の翼の連携には端的に言って問題しかなかった。
何せディが強すぎるのだ。どんな敵でもディが居れば対処できてしまうし、ディは範囲攻撃能力も持つので雑魚がいくら湧いてこようがディの敵ではなかった。
これに危機感を覚えたのは月華の翼の団長カズトだ。ディに頼り切りになってギルドが弱体化することを危惧したのだ。
それにはディも同意した。ディがこれまで一人で動いてきたのもそういう面があったからこそ。
この都市ならば少し違うかもしれないと期待を抱いていたが変わらなかったのである。
(……気は進まんが大手ギルドに行ってみるか)
そうと決まれば早速ディはこの街の二大ギルドの一つ、フロンティア・ブレイカーズに行こうと決めた。
最大のギルドだが、両者とも特徴がある。
フロンティア・ブレイカーズはダンジョンの奥へ奥へと進んでいくタイプのギルドで最高到達層は五十一層になる。
対するラストダイブは力の身を求める集団だ。効率的なレベリング法やモンスタートレインによるレベリングなどを主にしている。
ラストダイブの方にレベル五十のこの大陸最強の獣人の戦士が所属しているがこちらは第四十層までしか公式的にはすすんでいない。
暫く歩くとフロンティア・ブレイカーズのギルド拠点に到達する。
(でっか)
そこはもはや一種の施設に見えるほど大きかった。
宿舎があり、訓練用の広い砂地がある。面積で言えば日本の学校にも匹敵する広さがある。
鉄柵の門前には門兵が二人立っている。
近づくと両者とも「あ、あんたは……!」と顔を驚愕に染めた。
「このギルドに興味あるんだけど、中に入っていいかね?」
「す、少しお待ちください」
門兵の片方がそういうと片方に目線を送り走らせに行った。
「ほ、本日は何用で?」
「別のギルドにも体験入隊したいと思ってね。今いるギルドでは……力の差がありすぎてね」
仕方がないので正直に言った。
苦労して得た力ではないのでひけらかすのは若干気が引けるが五年も経てばある程度は慣れてくる。
「そうでしか。この都市は観光しましたか? いろいろと見どころがありますよ。例えば闘技場ではモンスターパレードの時期にはダンジョンから連れてきたモンスターと冒険者の戦いを直に見れますし──」
門兵は少しでもディと話したいと思ったのかぺらぺらと聞いてもないことを話してくる。
美女と少しでも話したいというのはどの世界の男でも同じなのだろう。ディはサービスとばかりに少し胸を強調させてやった。
少し待つと門から門兵と小さい少女が出てくる。
(ハーフフットかな?)
ハーフフットとは人の子供程度の身長を持つ人間種の事だ。
手先が器用で隠密に向いた種族である。
少女ははつらつな笑顔を持っている。
赤い髪に糸目の少女だ。胸はない。絶壁であったがケツは大きめである。
「やぁやぁやぁやぁどうもおおきに! フロンティア・ブレイカーズの人事担当のココいいます~どうもよろしく頼んますわ!」
「……何故エセ関西弁?」
ディは気になったことを問いかけた。
「かんさいべん? うちの故郷は昔からこういう話方やから気にせんでくれるとたすかりますわ」
「……そうか」
(この世界に俺と同じように転移した人間が居て、そいつが関西弁だったとかか? ようわからんな)
「それじゃ面接室まで案内させていただきます~」
そうしてディはココに着いて行く。
門を潜って建物の中に入る。横に広い建物で歩いてると冒険者の人たちとすれ違う。ディは軽く会釈して通るが相手は基本固まる。
絶世の美女を前に固まらない男はホモかインポのどちらかであった。あるいは二次元でしか抜けない人間か。まだこの世界に漫画もゲームもないが。小説はあるが挿絵の概念はない。
「ここに入っておくんなまし~」
入った部屋は客間だ。ソファが二つに机が一つある簡素な部屋である。
向かい合うようにディとココは座る。
「それで、なんでうちのギルドに入ろうと思ったん?」
ココはじっくりとディを見つめた。
その姿に年長者としての威圧感をディは感じた。
ディの実年齢はこの世界に来てからを含めて二十七だ。年齢が分かりにくいハーフフットだと年下になることも珍しくない。
実際ココは三十四とディより年上だ。ハーフフットは外見が子供のまま固まるので老人になっても若いままなことが多い。
「……今仮入隊しているギルドだと私が強すぎてパーティのバランスを崩すからね。もっと強いギルドに加入すれば私の力を生かし切ることが出来ると思ってね」
「ほう。大胆に出たな。だが、事実でもあるやんな。レベル百は伊達ではないっチューわけか」
「……レベルを君に明かしたっけ?」
「いいや、うちの
固有の名が示す通り固有の力を持つ。例えば筋力プラス五十パーセントや第三環魔法を日常的に行使できるなどだ。
「うちの
「なるほどね」
ディは特に
空だって飛べるし物資は影の中にしまえる。
だがこれを聞いてディは何かしら装備した方がいいかもなと少し思い始めた。
「しかしあんさんめちゃ強いな。聞いたことない神祖の吸血鬼とかいう種族に不死の特性……そら木っ端ギルドじゃ持て余すわな」
よし、とココは立ち上がった。
「実際に強さを見てみましょ。うちの最強と戦ってもらいますわ」
ニヤリ、とココは笑みを浮かべた。
ついてきて、とココが言うのでディは立って着いて行く。
着いて行った先は訓練用の広場だ。そこでは何人もの冒険者が思い思いに訓練している。
案山子を使った鍛錬ではなく模擬戦を各々繰り広げている。実戦形式の方が経験値が入りやすいのだ。
「おーい! エリカちゃーん!」
そう声をかけたのは金髪碧眼の少女だ。
歳はまだ十五かそこらだろう。美しい容姿をしている。
何故か脇と背中が丸見えの服を着ている。手にはレイピアを持っている。
エリカはココに近づく。
「どうしたの?」
「ちょっとこの人と模擬戦してもらいたいんやけどええかな?」
「この人って……紅姫?」
エリカはディの顔を見て驚いた表情をした。
内乱を鎮めた英雄ディ・フランケリヒだ。
「せや。エリカちゃんにとっても悪くないと思うで」
「……わかった」
じゃあやろう、と二人はある程度の距離を持って対峙する。
その戦いを眺めようと周囲で模擬戦していた者たちは戦いを辞め観戦に移った。
「……行きます」
そうエリカは宣言し突撃した。
エリカはレベル四十二の軽戦士である。
主装備はレイピアでありエルザと同じくスピードタイプの戦士である。
更に
まずは
ディはその突撃を簡単に見切り指先でレイピアの先端を掴んだ。
「なっ……」
──動かない。
押しても引いてもまるで動かない。岩に突き刺したように。
「返すよ」
そうディは指を離し後ろに下がった。
「……本気で行く」
そうエリカは言った。
「<肉体向上><肉体超向上><真・肉体向上><疾風><超疾風><突撃><超突撃>──<風神の加護>」
<肉体向上>系はステータスをレベルプラス一する
<肉体向上>でプラス一。<肉体超向上>でプラス二。<真・肉体向上>でプラス三。合計六レベルのプラスになる。
実質レベル四十八相応のステータスをエリカは得た。
<疾風>系は移動速度上昇の
<突撃>系は移動速度に応じて刺突の攻撃力を上昇する
常人の目では視認できない超スピードでエリカは突撃を繰り出した。
腰を少し低く構えた突撃である。
その突撃を──ディは掌で迎え入れた。
硬い金属音が鳴った。
エリカの突撃はディの血の手袋を破り掌に多少突き刺さったが──それだけだ。
薄皮一枚破った程度。即座に再生できる程度でしかなかった。
「……そんな」
エリカは絶望した表情を見せた。
これまでどんな強敵にも通じてきた刺突が通じなかったのだ。己の技に自信がある分絶望も深いというものだ。
「この程度かい?」
ディは少し失望したような顔を見せた。
この都市の最強の一角がこの程度とは想定よりも弱すぎる。
「まだまだ! <八連撃>!」
<突撃><超突撃>を解除し別の
<八連撃>は連撃系の
ディはその刺突を片手ですべて弾いた。
「そんな……」
エリカは絶望した表情を浮かべた。
「この程度?」
ディはそう見下すように言った。
正直に言えば見下している部分がディにはあった。
何の努力もせず苦労してない自分がこんなに強いのに、真っ当に努力して力を得た者の強さがこの程度なのか、と。見下しと同時に失望を感じていた。
「あ、あぁ……」
エリカは絶望した。自分とは何てちっぽけな存在だったのだろうかとレイピアを離した。
エリカは人間の英雄の娘である。
両親ともどちらもレベル三十を超える戦士だった。その両親の間に生まれたエリカは才能を持って生まれた。
この世界高レベルの者が子を残すと子にもレベルの上がりやすさなどが遺伝しやすい。
だが、両親に育てられたわけではない。魔界の門が一時的に開き悪魔の大群が押し寄せた。その時に両親とも戦いに赴き散っていった。そのかいあって悪魔は送還されたが。
親代わりにハーフフットのココとこのギルドのギルドマスターのガルスに育てられた。
物心ついた時からダンジョンに潜りモンスターを倒してきた。自分の強さに自信があった。
だが──これはなんだ。
なんで自分はこんなぽっとでの女に負けている。これまでの努力は何だったのか。
「う……うぅ……」
「……?」
エリカの目じりに涙が浮かんできた。
「うわぁ~ん!」
そして盛大に泣き出した。
エリカの年齢はまだ十五。精神的に幼い。
「えぇ……」
急に泣き出したエリカを前にディは混乱した。
「何うちの泣かしとんじゃぁぁぁあ!」
ココが助走をつけてディに飛び蹴りを放った。
ディは片手でそれを受け止めた。
「いやこっちもわからんが。何故泣いた」
ディはそう返すしかなかった。
「だって、だって、私の強さは、いったい、何のために……!」
「うぉぉぉぉおエリカぁぁぁぁ!」
奥から一人の男が走ってきた。
歳は三十ほどだろう。無精ひげが生えている。
金髪碧眼の男だ。がたいがよい。
「エリカぁぁあぁぁああ!」
男はエリカを抱えるとどこかに走り去っていった。
ぽん、とディは肩に手を置かれた。誰かに抱かれているココが肩に手を置いたのだ。
「君、出禁や」
こうしてディはフロンティア・ブレイカーズを出禁になった。