TS不死吸血鬼の異世界旅行記   作:Revak

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第19話

 

「ゴブリンの軍勢をたった一人の女が蹴散らしたぁ?!」

 

 ガディックの領主、カプルは自室で叫んだ。

 歳は四十代程。白髪黒目の男だ。腹が少し出ている。

 

「は、はい。その女はゴブリンの軍勢を蹴散らすと街に戻ったそうです……」

「馬鹿もん! 何故抑えておかなかった! そんな英雄級……いや逸脱者級の人物、引き入れればうちの利益になるぞ!」

 

 がたっとカプルは椅子をけって立ち上がった。

 

「女を探しに行くぞ! 衛兵を動員しろ!」

「は、はい!」

 

 カプルは複数の衛兵を連れて街へ繰り出した。

 

 

 

 一方そのころ。問題の女、ディはパンケーキを食べていた。

 

 ディが今いるのは喫茶店。カフェテラス席のある店である。

 二人席に座りディは三段重ねのパンケーキを美味しそうに頬張っていた。これだけで絵になるだろう。美女は何をしてもさまになる。

 

 街はまだ剣呑な雰囲気のままだ。五分も経たずゴブリンの軍勢が打破されたとは誰も思ってないしそも前冒険者や衛兵たちはあれが全てか確認する為まだ前線にいる。

 ディは優れた視力と生命感知の力で残党はいないと把握したので一人戻ったのだが。それを言っておけば無駄な仕事を減らせたが気づいてなかった。

 

 ディがパンケーキを食べ進め、残る一切れになった時。周囲が騒がしくなった。

 

 なんだ、とディが疑問を感じ騒がしさの元を見る。そこには仕立ての良い服を着た男──カプルが居た。

 

「お嬢さん。少しいいかな?」

 

 カプルは下手に出る。

 実力者とは厄介だ。金や女で動く者ならいいがそうでない場合権力者相手にも歯向かってくる。

 権力者の最大の力は己が保有する軍事力、武力だ。それがあって初めて権力を維持できる。

 だからこそその軍事力を個で超えてくる英雄や逸脱者は厄介だ。その気になれば暴れて全部壊すという一手を打ってくるのだから。

 故にカプルは推定逸脱者のディ相手に下手に出ざるおえない。上から目線で俺に従えとでもいえばイラついた相手に首をちぎられるかもしれないのだから。

 

「何かな?」

「君がゴブリンの軍勢を倒したという者かね?」

「そうだけど、それが何か?」

 

 肯定が帰ってきたことにカプルは内心笑みを浮かべた。

 

「それはそれは、まずはこの領地を救ってくれたことに感謝しよう。それで、どうだろうか。うちで盛大に歓待しようと思う。ぜひ、来てくれるかな?」

「お断りする。私はそういう政治的なあれこれに関わる気はないのでね」

「……そ、そちらがそうだとしても、英雄様に対し何もしなかった領主というのは悪評を立てられやすいんだ。どうかうちの顔を立てるためにも来てくれないかな?」

「……そういう事情があるのなら。ただこれ食べ終わってからでもいいかい?」

「ありがとう。もちろんいいとも」

 

 ディはさっさとパンケーキを食べ、立ち上がった。

 

「衛兵。この店の支払いをするように」

「あら、ありがとう」

「この程度何ともないさ……それじゃあ、ついてきてくれ」

 

 そうしてディは領主の館に向かった。

 

 

 ■

 

「まずはこの街を救ってくれたこと、本当に感謝する……!」

 

 カプルは客間のソファに座り深々と頭を下げた。

 ディはこんなにも頭を下げられるとは思わず少し動揺した。

 

「お気になさらず。旅で寄った街が滅ぶのも寝覚めが悪いと思っただけなので」

 

 そうは言うがディは眠れないし夢も見れない。

 

「そう言ってくれると助かる。それで報酬なんだが……」

「それでしたら、私は金銭を大量に持っています。いくら渡されても宝の持ち腐れになってしまうのです。ですので、お気持ちだけ頂戴します」

 

 本音だ。今のディは百億以上の金塊や宝石を持っている。

 だから今更百万二百万貰ったところではした金だし、自分個人が持ちすぎるのもよくないと思っている。

 金は天下の周り物だ。一か所に固まり続けるのは経済上よくない。

 

「そうは言われても、こちらとしても英雄に対し対価を払ったという対面が必要なのです」

 

 カプルのいう事は正論だ。

 街を救った英雄に対し何も与えなかったなどと知られれば他の領主や町民に『あの領主は正当な対価も払わないろくでなしだ』と言われてしまう。

 

「そうは言われても……でしたら、この街の名産品を食べさせてください。それが報酬という事で」

 

 ディは一瞬貴重な魔法道具(マジックアイテム)でも臨もうかと思ったが今世に出回ってる貴重な魔法道具(マジックアイテム)の大半はディがダンジョンで取ってきた物が大半だ。

 自分で売った物を手に戻してどうするねん、という話だった。

 

「でしたらこの街最高の美食を用意させていただきましょう」

 

 カプルはこれからが大変だぞと冷や汗を流した。

 

「それで、自己紹介がまだった。私はカプル・リ・デスティード。貴女の名は?」

「ディ・フランケリヒだよ」

「……その名、聞いたことがある。昔の内乱を鎮めた英雄の名だ! 生きていたのか!」

「……あぁ、まだ知っている者がいるとはね」

 

 あれから九十年近く経っている。

 今もまた帝国は内乱が起こっている為知らていることはないだろうとディは高をくくっていたがそうではなかったらしい。

 

 今、帝国は内乱状態だ。

 

 西のアルマテーナと東のマチルダがまた反逆しているのだ。この内乱は既に五年も続いてる。

 その戦争の中ディは旅に出たので何気男気がある。

 

「それじゃあ、盛大に祝おう! 英雄の新たなる旅路に!」

「……ほ、ほどほどでいいからね?」

 

 ディは不安になってそういったが聞く耳はなかった。

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

(──まさかリアル七面鳥を食べるとは)

 

 翌日。ディはすたこらさっさと宴が終わり次第抜けてきた。

 ディに満腹という概念はない。食べたそばから魔力に返還されるからだ。

 それでもちょっと食べすぎたと思うぐらいには色々食べた。ただ食べ過ぎて体形が変わることもない。アンデッドの体なのでこの体系から変わることはないのだ。髪も爪も伸びない。

 

 平原をディは一人歩く。向かう先は東のマチルダ。まだ見ぬ世界を求めて。

 

 

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