第20話
五年が過ぎた。
その間、ディはディロール、マチルダを見て回った。
そして今、ディはある森に来ていた。
(ここが不死の森か)
不死の森。周囲からそう呼ばれている森だ。
広大な森であり小国に匹敵する領土を持つ。
この森には多数のアンデッドが出現することから不死の森と呼ばれている。
アンデッド。死してなお動く屍。
主に聖属性や火に弱い。
スケルトンやゾンビなどが該当するし、ディも吸血鬼なのでアンデッドに分類される。
アンデッドは寄り集まるとより強大なアンデッドを生み出す特性があるし、低位の知性の無いアンデッドは本能に従い人──正確には生命を襲うので脅威だとされている。
死体が時間経過でアンデッドになることもあるためこの世界の埋葬は基本焼いて骨もばらばらに砕いた上墓地に聖系統の結界魔法を張ることで発生を抑えている。
森に少し入る。
「多いな」
瞬間ディの前に多数のアンデッドが現れた。
この森のアンデッドはどういう訳か森から出てくることはない。その代わり森に踏み入った者を容赦なく襲う。
生命でないディに対しても襲うようでスケルトンやゾンビなどの下位アンデッドが襲ってくる。
ディは紅椿を抜いて一閃しながら奥へ進んだ。
ディは特に理由なくこの森に踏み入った。
しいて言えば好奇心だろう。この森に何かあったらおもしろいな程度で入ってきた。
不眠不休で北に進むこと二週間。ディにとって面白い物を見つけた。
「城?」
そこにあったのは巨大な城だ。
三百メートルの高さを持つ居館に五つの塔が生えている。
紅い城だ。血の色を思わせる城であった。
そして門の前には女が一人立って眠っていた。
「……起きてください」
ディは女に話しかけた。
「んあ」
女は起きた。
奇妙な女だ。
緑色のチャイナドレスを着用している。髪色は赤で瞳は青。
腰まで届く長髪をしている。容姿は優れていると言っていいだろう。
「……侵入者の方ですか?」
「まぁ、そうだね」
「そうですか。では、やりましょうか」
女は拳を構えた。それに合わせディも紅椿を構える。
「私は絢爛。貴女の名は?」
「ディ・フランケリヒ。絢爛とは、大きく出たね」
クスリとディは笑った。
絢爛とは目がくらむほどきらびやかで美しいさま。ぜいたくで花やかなさまの事だ。
己を美しいと表現するのは大した物である。
「行きます」
「来な」
ディは迎え撃った。
絢爛は拳による打撃を始める。
それをディは紅椿で捌いていく。
(レベル四十といったところかな)
今の時代だと充分英雄と呼ばれるレベルの実力者だ。
ディは一転攻勢に出る。
瞬間絢爛の胸を一文字に斬った。
血が噴出する。
「あっ……」
絢爛はどさりと倒れた。
ディは首筋に紅椿を置いた。
「私の勝ちだね」
「えぇ、そうですね……止めを刺してください」
「その前に、この城は何だい? この森からアンデッドが湧き出るとの関係が?」
「ん-、ありますけど……それは城主様とお話してください」
「……わかった。それじゃあね」
ディは絢爛の首を跳ね飛ばした。
「さて、行くか……」
ディは死体を放置し門に触れる。
門は開かない。
「仕方ないね」
ディは紅椿を構える。
<斬撃>の
そして中に入っていく。
中はホールになっている。螺旋状の階段がある。
そして当然のようにいるのは多数のアンデッドたちだ。
「うん。骨がありそうだ」
ディはきらりと紅椿を構える。
出現したアンデッドはウォーリァーやキャスター系統のアンデッドだ。
レベルにして十から十五程度のアンデッド系モンスターである。
更に追加でスケルトン・センチビートやゾンビウルフなどの動物や虫がアンデッド化したモンスターも襲ってくる。
それらに対しディは<飛刃断>と<乱撃>でアンデッドを薙ぎ払いながら先へと進む。
道中は問題なかった。普通の城の廊下だった。
道中に面白い物はない。ただ廊下と小部屋が続くだけだった。
五階に上がる。そこは大広間だった。
円形上に広がる広間であり十二の通路がある。
ただ真ん中に通路の道があるがふさがっている。
「広いな」
結構な広さを持つ大広間だ。千人いても問題ないだろう。
壁には七十二の窪みがある。窪みには悪魔をかたどった石像がある。
(いや、あれゴーレムか?)
ゴーレムとは魔法的手段を用いることで製造できるモンスター、異形種の一種だ。
疲労せず病にかからず動き続ける存在だ。能力値は製作者のレベルと素材に依存する。
ディに相手のレベルを見る系の
この石像たちは平均レベル四十ほどのゴーレムたちだ。特殊
天井にはシャンデリアがある。結晶のようなシャンデリアだ。
「ん?」
ディは結晶を見上げる。
そこから巨大なアンデッドが湧いてきた。
「でかいね」
出てきたのは二十メートルほどの大きさがある骸骨型のアンデッドだった。
上半身だけ、腰までしか骨がない。眼孔には青い炎が灯っている。
それに合わせ通路からアンデッドが湧いてきた。
「うん。面白いね」
湧いてきたアンデッドはこれまでと一段違う平均三十レベルほどのアンデッドの群れだ。
レッドスケルトンウォーリァー、デミリッチ、ハイレイス、スケルトンオールドガーター、ワイト、アンデッドスォーム。
デミリッチは
ハイレイスは亡霊系、アストラル体のアンデッドだ。魔法効果のついてない武器による干渉を完全に無効化し、他者の精神を蝕む。
スケルトン、あるいはゾンビオールドガーター。防御能力にたけたアンデッド。ワイト。中位アンデッドだが単純にあらゆる能力が高い。
アンデッドスォーム。何十体というアンデッドが寄り集まって固まったアンデッド。十メートルほどの大きさを持つ。
どれも腐臭や墓地の臭いをしている為ディは少し顔をしかめつつ紅椿を構える。
「やろうか」
ディは<飛刃断>と<乱撃>を使ってアンデッドをばっさばっさと斬り飛ばす。
百メートルほどの飛ぶ斬撃がアンデッドたちを襲い、消し飛ばす。
そうしていると上から巨大なアンデッド──個体名アンドレアスが大きな手を落としてくる。
ディは紅椿を振るい片手を弾いた。
(うん? 硬いな?)
アンドレアはレベル七十のアンデッドだ。これまでの雑兵とは少し違う。
二十メートルほどの大きさを持つ上半身だけの骸骨の姿をしている。
だがそれだけだ。十数回も斬れば死ぬ──アンデッドなので消滅──するアンデッドに過ぎない。
「オオオォオオオオ!」
アンドレアが吠えた。
それにより指揮下のアンデッドたちの能力が上昇した。
指揮官係はこれが厄介だ。レベル九十以下の存在に対し最大レベルプラス五分のステータス増加を与える。
アンドレアはその領域に達している。ただ配下の能力上昇に振り切っており肝心の指揮能力は大したことない上種族レベルも上げてないのでステータスも大したことがない。
「意味ないね」
ディは再び<飛刃断>と<乱撃>を放った。
それだけでアンデッドが屍に帰っていく。たかがステータスがレベル五上がったところで元が低ければ意味がないのだ。
アンデッドがアンドレアとディの二人になって広間が広くなる。
「"そこまでだ。お客人"」
虚空から声が響いた。
しわがれた老人の声だ。
その声にアンドレアの動きが止まり、ディも止まる。
「"奥へ来るがいい。私が直々に相手しよう"」
隠されていた奥への扉が開いた。
そこには黒い靄の渦があった。人を飲み込むような穴だ。
アンドレアは動きを完全に止めディに何かする気配はなかった。
「……虎穴に入らずんば、か」
ディは渦へと入った。
「ここは……」
そこは玉座だった。
壁や床とは対照的な白い玉座が聳え立っている。
赤いカーペットに赤いシャンデリアが浮かんでいるが灯りの類は少ない。ディは暗視能力を持つため問題ないが一般人には見づらいだろう。
「ようこそ、お客人」
玉座前には一人のアンデッドが立っていた。
肉も皮もない骨だけの姿。
紅い豪華なローブを纏っている。炎を象ったローブだ。
ディは素直に金かかってそうなローブだな、と思った。
右手には黄金の蛇にも見える杖を持っている。蛇の口先には赤く丸い宝石を噛んでいる。
「我が主の城へようこそ」
「……君がこの城の主じゃないのかい?」
「私は主の不在にこの城を……不死城を預かっているにすぎん」
「へぇ。その主は今はどこに?」
「……お隠れになっている。だが──いや……おしゃべりはここまでにしよう」
ナイトリッチ──名をマチアスは杖を構えた。
ディも併せて刀を構える。
片手で握ったスタイルだ。刀身はないがディの膂力なら構えることが出来る。
「
マチアスは召喚魔法を唱えた。
「第十環魔法だと?」
人の使える魔法は第六環魔法が最高とされている。それはここ数百年の常識だ。
だが、目の前のアンデッドはいともたやすく第十環魔法を使ってきた。
環魔法は七レベル刻みで使える環が変わってくる。
つまりマチアスは最低でも六十八レベルあるという事だ。
ディでも少し本気を出すレベルである。この五年で戦ってきた相手の中にこのレベルの者はいなかった。
召喚魔法は原則術者より強い存在を召喚できない。召喚系統に特化した者なら別だが。
呼び出されるモンスターは術者であるマチアスとほぼ同格のモンスター、レベル七十の
つまりマチアスのレベルは七十を超えているという事。実レベル七十五を誇る。
炎の化身そのものだ。燃え盛る溶岩が人の女性の形をしている。二メートルほどの大きさを持つ。
ステータスは前衛軽戦士系統だ。右手には燃え盛る剣を持っているがこれは体の一部判定を受ける。
種族は精霊の最高位である。
炎のダメージを与える
ディも体が少し燃え始めるが気にしない。炎に対して脆弱性を持つが不死なのであまり意味はない。
じわじわとした痛みが広がるがアンデッドなので痛みに耐性があるため問題もない。マチアスが魔法を唱える。
「
炎に対して完全耐性を得る魔法だ。マチアスも
ディは剣を迎え撃つ。
硬い金属音が響いた。
相手が防御を気にせず攻勢に出る。
ディは多少体を斬りつけるも再生能力で治る。この再生は外見だけ治る能力でHPまでは治らない。
ディが後ろへと押されていく。
「
マチアスはどんどん自分にバフをかけていく。
(なるほど。召喚モンスターで時間を稼ぎその間に自分にバフをかけるのか──待つ必要はないな)
戦略が分かれば馬鹿正直に待つ必要はない。
ディは後ろにジャンプしあえて距離をとる。
放つのは<飛刃断>だ。飛ぶ斬撃がマチアスに向かって飛ぶ。
だがそれに割り込むように
「ちっ」
召喚モンスターの厄介なところだ。召喚主に絶対的に忠誠を誓っている為どんな使い方をされても文句ひとつ言わず従う。
これで大ダメージを負うがそれを気にした素振りはない。
ならばとディは<貫通>の
この
<飛刃断>が飛び再び
「
だがマチアスは転移魔法で移動し回避した。
(転移魔法か、厄介だな)
転移で逃げられるとディに追う手段はない。ディ自身は転移系の魔法を持ってないし探知系
ならばとディはいつもの<肉体向上>系の
それを持って<鬼断流>という防御力貫通の
これにより
「
マチアスがならばと拘束魔法を唱える。
だがディは行動阻害無効の指輪を付けている為問題なく動ける。拘束魔法は意味がない。
「
今度は炎の華の弾幕を展開する。
彼岸花の形をした炎の弾幕だ。全てディに向かって一直線に飛ぶ。
ディは<魔素干渉>の
更に<即応反射>で瞬時に体が動くようにする。
それにより千を超える弾幕を進みながら全て斬り落とす。
マチアスは
踏むか触れるかすると大爆発を起こす魔法である。
数歩歩きディはその地雷を踏んだ。
瞬間、大爆発が起こる。熱波がマチアスにも届くが炎に対し完全耐性を得ていた為ダメージはない。
「驚いた。強いね」
爆発によって生じた煙の後から血のドレスがボロボロになり胸や股間、足が露になったディが出た。
肉は抉れ肌や焼かれている。欲情より先に嘔吐が来る外見となった。
「……馬鹿な」
それを見てマチアスは顎を外した。
徐々にであるがディの体が再生し血のドレスも治っていく。
「
再生能力に特化したクラスでありHPがある限りは頭が吹き飛んでも再生するし、HPも馬鹿みたいな勢いで再生していく職業だ。
「違うよ。私が不死なだけ」
「不死とは、大きく出たな、女。そんなもの、いるわけがなかろう──
マチアスの杖から極太の白い熱のレーザーが放たれた。
ディの腹に命中しディを奥へと押していく。
ディはついに玉座の間への門に押し当てられた。
魔法の効果時間が切れてレーザーが消える。
ディの腹が貫通し向こう側が見えてしまっていた。
「……距離をとられたか」
ディはしくったな、と眉を潜めた。
まぁいいかと耐性を治す。
(おそらく奴はアンデッドの癖に炎系統に特化したエレメンタリストだな。さて、どう攻略するか……)
エレメンタリストとは一属性に特化した
炎や風、氷などの属性に特化した者はその系統の魔法の消費魔力が減り威力も増すがその系統以外の魔法は消費魔力が多くなったり最悪唱えられなくなる特性を持つ。
マチアスはまさしくそれだ。アンデッドの癖に炎系統に特化した七十五レベルの炎系エレメンタリストであった。
だが問題ない。長期戦はディの利となる。
ただその魔力量は基本大きく一戦闘で切れることなどまずありえない。だが相手がディなら別だ。
ディは不死故にどんな攻撃を受けても死なない。だからこそ相手の魔力が切れるまで魔法を受け続け倒すという戦法が取れる。
故に真っすぐとディは歩き出した。
マチアスは考える。この女を殺す方法を。
(……HPは見えん、か)
だがディは探知系に対して無効化の指輪を装備している為見えることはない。
だがそれでも再生やこれまでの戦闘から体力は多く見えるしスタミナも膨大、あるいは疲労無効の装備を付けているとわかるだろう。
ならば、とマチアスは考える。
(これまで通り魔法で遠距離攻撃をしつつ近づかれたら
マチアスはそう考え、実行に移した。