「ディ様。追加の書類です」
「……わかった」
三年後の不死城で。ディは不死城の執務室で執務に励んでいた。
マチアスが書類を持ってきて書類を読む。
主な仕事は人材の割り振りと承認だ。時にはディが直接動いて解決することもある。
ディが持っていた莫大な資金を通貨とし通貨の概念を広め、学校を作って知識層を増やしたりした。
やることは膨大だ。何せ蛮族を知識人に変えるような不可能を可能にするようなことをしているのだ。
時折現金が足りなくなったらディが街に行ってアイテム売ったり何かしら依頼を達成するなどしてきた。
数百億もあれば一国の資金としては問題ないだろう。
三年でそこそこ発展し
「……そろそろ技術者がいるな」
ディは書類を高速で処理しながらつぶやいた。
「でしたら……ロックモルドでしょうか。彼らはアドレミシア山脈の中に住んでいますし」
「……使者を送るべきだな」
「……そうは言いますが、適任者がいません」
マチルダはそう返す。
「……そうだな」
うーん、と頭を悩ませる。
今から使者に相応しい人材を探して育てる時間はない。デミリッチもあるがあれは臨機応変に動けない。
「……私が行くしかないか」
「それしかないかと。同行者はどうしますか?」
「……旅人のロルフと、そうだな、カロリーネを連れていくか。他はデミリッチたちでいいだろう」
「わかりました」
ディに憑依しているフェルディナントの
材料の死体を元に固定のアンデッドを生み出す
デミリッチはレベル二十八のアンデッドで第四環魔法まで行使できる強力なアンデッドだ。
「ですがその前にそろそろ国名を決めなければなりません」
「……そういや決めてなかったな」
さてどうしよう、とディは考える。
国の名前を決めるという一大事。どうしたものかと悩ませる。
(ここは適当に外国語からとって……うん)
「決めた。国名はオルクスだ」
オルクスとはとある国の言葉で死者の国を意味する。
女王であるディが吸血鬼というアンデッドなのでちょうどいいだろう、と決めた。
「畏まりました。そのように周知させておきます」
「ああ。そうしてくれ。それじゃあアドレミシア山脈のロックモルドの国への外交使節団も用意してくれ」
「かしこまりました」
■
二週間後。ディは
「ディ様。準備は整っています」
そう頭を下げるのは沼王のファルコだ。
「ああ。話は聞いているな? これからロックモルドの国へ行く。そのために旅人であるロルフを連れていくが、いいな」
「何も問題ありません」
そうロルフとファルコは頭を下げた。
「女王様。お聞きしたいことがあります」
ロルフがそう尋ねてきた。
「なんだ? 申してみよ」
「はっ。今回の目的は外交であって侵略ではないと思っていいのでしょうか?」
「あくまで外交だ。攻め落とすことはしない。最も向こうから手を出してきた場合はその限りではないが」
「それが聞ければ充分です。ロックモルドのみなとは親交があります。侵略の足掛かりになるようなことはしたくないのです」
「大丈夫だ。これ以上領地を得ても面倒だからこちらから侵略することはない」
「ありがとうございます、女王陛下」
「それじゃあ、立ち上がれ。ロックモルドの国へ向かうぞ」
「はっ!」
向かうのはディとその配下たちだ。
案内人としてロルフが居て他はデミリッチとデミリッチと同格の戦士型のアンデッドのスケルトン・マスターガーターが居る。
名の通りスケルトン型のアンデッドで黄金の鎧と武器に身を包んでいる。戦闘力は高い。
他のアンデッドとして馬代わりのスケルトンデミイーターが居る。レベルは十八。眼孔に青い炎が灯っている骸骨の馬だ。
スケルトン・マスターガーターが十二体。デミリッチ四体。スケルトンデミイーターが十四体。これがこの使節団の内訳だ。
スケルトンデミイーターは馬車を引いているのが二体居る。
馬車は豪華なつくりだ。黒い箱に金のスリットが入っている。
この馬車事態が
ディとロルフが馬車に乗り込む。
中は非常に広い。十二畳ほどの広さがある。
左右に分かれてディとロルフは座る。間にはテーブルがある。
ディが創造したアンデッドとの繋がりを元に命令を出し、馬車が動き出した。
「……何か飲むか?」
「け、結構です」
「そうか」
そうして馬車は進みだした。
■
二週間ほど山を進む。
ロルフの記憶を頼りに進む。二、三年も前なので少しあやふやだったが道中問題はなく進めた。
既に森を支配下に置いていたからこその順調さだ。
ついに入口前に到着した。そこには槍を持ったロックモルドが二人見張兵として居た。
ロックモルドは大小さまざまな岩が人型に集まった種族だ。
物理、魔法防御力が高い種族でありタンク向けの種族である。
サイズは二メートル程と高い。顔部分には切れ込みで顔が描かれている。
雌雄の概念がない異形種であり寿命は数百年と非常に長い。
繁殖方法は特殊で二人のロックモルドが己の体をちぎってくっつけ合うことで増える。
洞窟、というよりはトンネルが広がっている。
縦横充分以上に広くディが乗っている馬車が通っても余裕がある。
左右にはロックモルドが二人立っている。
デミリッチがスケルトンデミイーターから降りてロックモルドに近づく。
二人のロックモルドは槍を構えた。アンデッドはどの種族にとっても敵である。
「待ちたまえ。我々はオルクスという国から来た外交使節団である」
「な、なんだと?」
岩から綺麗な声がした。男の声だ。
「どうか我々をあなた達ロックモルドの国へ入れてくれないだろうか」
その台詞にロックモルドたちは考える。なんだこいつらは、と。
アンデッドが国を興したなど聞いたこともない。知性あるアンデッドは時に人と取引することもあるとは言うが、使節団を名乗るのはさすがに初めてである。
「う、上の判断を聞いてからでないと……」
取りあえず当たり障りのない事を言ってみる。
「わかった。いくらでも待とう」
そこにディとロルフが馬車から降りてくる。
ロックモルドも多少人間と似通った感性を持つ。そのためにディを美女だと認識する。
「ロックモルドの者たち。どうか私たちを中に入れてくれ」
ディはさりげなく胸を強調する。この数十年で女の武器もある程度身に着けている。
だがこのロックモルドたちは人型の女に欲情する変態ではなかったので通じていない。
だがそれでも見た目だけは人間の女が出てきたことに安堵する。
「う、上に判断を聞いてきます」
片方のロックモルドが言い走り去っていった。ロックモルドは種族的に疲労を無効化するので疲れ知らずだ。
「それで、この先に君たちの国があるんだね?」
ディがそう尋ねる。
「そ、そうだ。我らの国リトスフィアがある……そちらは我らの国について知らないのか?」
「いや、国名と……芸術に富んだ国だという事しか知らないね」
ロックモルドは飲食不要の種族だ。しようと思えば出来るが食べれるのは岩や鉱石ぐらいのものだ。
一応子を作った者は減った体積を元に戻すため岩とか食べて戻すぐらいのことをするが基本は食事が要らない。
となると活動の殆どを余暇に費やすことが出来る。
元より岩の手の癖に手先が器用なため彫刻を作ったり絵画を作ったりする者が多い。
「そうだ。我らの都市リトスフィアは芸術の都。中に入ればその煌びやかさに驚くであろう」
「ぜひ目にしたいね」
「……中に入れるかはまだわからんぞ」
何せディたちは突如現れたアンデッドの集団だ。信用や信頼できるわけがない。
中に入れた途端アンデッドとしての本能に目覚め暴れだす可能性があるのだ。
そうして雑談に教示していると走っていったロックモルドが別のロックモルドを連れて戻ってきた。
新しいロックモルドは鉄の鎧に身を包んでいる。
「お前たちが我が国に入りたいという者たちか」
「ああ。私はこの不死の森の国、オルクスの女王ディ・フランケリヒだ」
「……不死の森の支配者か。見た目通りの種族ではないのだろうな」
「ああ。吸血鬼という。聞いたことあるかい?」
「ないな。初めて聞く種族だ……うむ。わかった。其方、ディと前も来たことあるロルフ殿だけは入ってよいものとしよう」
何気ロックモルドはディに敬称を付けていない。
何せ自称女王に過ぎないからだ。使節団というには馬車一台なんてわけがなく十台近くの馬車と豪華な護衛を連れているはずだ。
更にロックモルドたちは不死の森に国が出来たなんて話を聞いたことがない。あからさまに自称国家の怪しい集団でしかないのだ、ディたちは。
「ありがとう」
それがわかっているディは自分が入れるのなら良しと行くことに決めた。
ロルフを馬車から降ろしディたちは鎧を着た者に着いて行くのだった。
■
長い長いトンネルを抜けた先は街だ。
(すごいな)
その都市は至る所に美があった。
家々の壁は彫刻が彫られ道路にすら絵が彫られている。
家はどれも三階建ての建物ほど大きい。
ドーム状のただっ広い空間に多数の家が建っている。
歩いているのは当然ロックモルドたちだけだ。この都市は外部から来た者に優しくない。
何せ灯りが何一つとてない。ロルフは自前で明かりの魔法を唱えている。
ロックモルドは種族的に暗視能力を持つ為灯りは不要だ。客人もまず来ないので必要ない。
(奥に見えるのは城か?)
奥には白い半球状の宮殿らしき物が見える。
「それで、あんたらはこの国に何しに来たんだ?」
「交易をしに」
「……あんたらが国家を自称するのだとしても、国王との取引はさすがに許さんぞ。まぁ、商会との個人的な取引ぐらいならいいが……」
「まぁ、こちらとしても最初は小規模な取引から始めようと思っているからね」
「ならいいが。変なことはするなよ」
「わかっているとも。それじゃ、ここらで大きい商会はどこだい?」
「うちに商会は一つしかない。モルグル商会だ……そこまで案内しよう」
鎧を着た者と共に歩いて行く。
街は意外にも小さめだ。何せロックモルドの総数が千二百と少ししかいないのだ。
種族的に長命というか寿命がなく子を作るための性欲すら殆どないゆえに数がほとんど増えないのだ。
ディは家々を見て回る。
どの家も豪華な彫刻が彫られていたり絵が彫られている。
中には現在進行形で絵を掘っている家もあった。
暫く歩く事で目的地に到着する。
横に大きい五階建てほどの建物だ。
大きい扉の横には女神を象った彫像が二つある。
「ここだ。あとは自力でどうにかしな」
「ああ。ありがとう」
ロックモルドは去っていった。
扉を開けて中に入る。
中は店になっている。
置いてあるのは掘るための道具や絵の具のセットなどだ。
「いらっしゃい。あんた、人間か? 珍しいな」
奥のカウンターには店員のロックモルドが居てディたちを見るなりそう発言した。
「初めまして。私はディ・フランケリヒ。君たちと取引がしたくて来た」
「……人間が取引だと? 何をしに?」
「新しい商品と労働力についてだよ。ここの主と話せるかい?」
「それは無理だ。あんたのような見知らぬ人間と会わせる訳ないだろう」
「じゃあ君にこれをあげるからさ」
ディは己の影からあるアイテムを取り出す。
「なんだ、これは」
取り出したのは絵の具だ。
ガラス瓶に詰まった絵の具であり七種類ある。
どちらかというと液体に近い絵の具だ。
「これは七色葡萄を使った絵の具だよ」
「七色葡萄? 聞いたことないな……」
「不死の森の一部でのみ取れる植物だからね」
植生値は主にカロリーネの支配領域だ。カロリーネや配下が着ている服の色は七色葡萄を使っていた。
「ふむ……」
店員は絵を描く用の岩の板を取り出し、軽く絵の具を使ってみる。
この絵の具には
絵を描いた上でその魔法をかければ何百年も持つ絵の完成だ。更にペインターなどのクラスを持つ者が描けば千年以上持つだろう。
「鮮やかな色だ。この国にはない色だな」
「だろう? これなら充分商品として使えるんじゃないかな」
「確かに……商会長に話を通してやろう」
店員はそういうと椅子から立ち上がって奥へ行く。
奥から新しいロックモルドが出てくる。
出てきたロックモルドは変わり者だった。
本来ロックモルドは岩の色、薄い灰色をしているがこの者は違った。
全身の体のパーツ全てが色とりどりにカラフルなのだ。
ディは正直顔が引きつった。だがロックモルドも他種族の顔の動きはよくわからないので気にしなかった。
「初めまして。私が商会長のモルグルだ。あなたが商品を持ってきたという?」
「ああ。オルクスという国の女王をしている。ディ・フランケリヒだ」
「女王とは、また珍しい肩書を……こちらに来てくれ。商談をしよう」
そうしてディとロルフは奥へと行った。