奥の客間にディたちは案内された。
家具、机も椅子も岩を削って作った石性の物だ。
これはロックモルドが肉体的疲労とは無縁の為石の椅子に座って腰痛を発症するなどないからだ。
向かい合うようにディとロルフ、モルグルが座る。
「それで、この商品を見させてもらったが……これはいい物だ。芸術が華やかになる」
「ああ。君たちも絵の具を使っているだろうが、これはその種類を増やす」
「うむ。新しい種類の絵の具は歓迎だ」
ロックモルドも絵の具を使っている。
色付きの鉱石を砕いて魔法を使う事で絵の具にしているのだ。
新しい種類の絵の具となれば絵の種類が増えるのでモルグルは歓迎する。
「まずは手始めに五十ほどこの商品を購入したい」
五十というのは新しい新商品にしては多めとも言えるだろう。売れるかどうかわからない商品を五十も買うのだ。博打とも言える。
「わかった。いくらで買う?」
「うむ。一つ千セラでどうだ?」
「それは少し安すぎないかい? 二千セラでどう?」
「むぅ……千五百セラ」
「千七百セラで」
「……わかった。それで手を打とう」
「商談成立だね」
ディとモルグルは握手をした。
「それじゃあ、現物を先に渡しておこう」
ディは影から木箱を一つ取り出す。
箱の中にはちょうど五十個、セットで入っている。
「おお、感謝しよう。すぐ代金を持って来よう」
モルグルは立ち上がり部屋を出る。
少し待つと財布を持って戻ってきた。
「これが代金だ。契約書はいるか?」
「今は要らないかな。私たちは定期的にこの国に来るから、来るたびに補充しに来るね」
「ああ。売れていたらまた頼む」
じゃあよろしく、とお互いに小さく頭を下げた途端異変が起こった。
強い鐘の音が連続して響いたのだ。
「これは?」
ディがモルグルに尋ねる。
「これは……
「へぇ」
ディはこれをチャンスと踏んだ。
敵の侵攻を食い止める、ないしは薙ぎ払えば一躍変わってディは英雄だ。
「よし。私は前線に行こう。ロルフは念のため避難しておいてくれ」
「わかりました」
「待て、
「大丈夫。私強いから」
そう言いディは部屋を出て走り出した。
■
このリトスフィアには大きく分けて二つのトンネルがある。
一つは山脈の外と繋がるディたちが通った物。もう一つは山脈の奥深くへ通じる物だ。
後者は主に鉱石や彫像用の岩を採掘するために使われる物だが今は別の使われ方をしていた。
それは侵攻してくる
山脈深部に巣食う岩殻の獣人種族。全身を覆う黒灰色の岩毛皮と、鉱石のように硬質化した牙を持つ。
身長は低めであり百五十センチ前後だが横幅と筋量が異常に高い。
暗視の種族的
生態としては岩盤を掘削して巣を作る。
金属や鉱石を摂取して肉体を強化していく種族的特徴がある。
爪は天然の鉱刃であり 鉄程度なら切り裂ける。
長命ではないが、成体は圧倒的耐久力を誇る。
彼らはこのロックモルドの集落を何度か攻めてきていた。といっても彼ら自身の意思ではない。
フロストドラゴンの自称王が
最終的にはロックモルドも
グラシエルナは中位の竜だ。竜には三段回ある。
見た目がドラゴンっぽいだけで単なる動物に過ぎない下位の竜。魔法は使えず言語も解さないただの獣だ。
中位の竜は魔法を使ったり言語を解する知能を持つ竜と言えるレベルの竜だ。最低でも都市一つ滅ぼせるだろう。
上位の竜こそが真なる竜であり言葉を操り第八環魔法すら行使する事もある世界で最も初めに生まれた生命体である。死の概念がなく肉体が滅んでも時間経過で復活できる。
ディはトンネル前に広がる壁に来ていた。
壁は少し開けられておりロックモルドの兵士たちが壁の向こう側へ進んでいる。
「やぁ。私も通してくれないか?」
ディは近くにいた壁を管理する者に問いかける。
「駄目だ。よそ者は通せない」
「そこをどうか、ね」
ディは魔眼を使う。右目が赤く光る。
ディが持つ精神操作の魔眼は強力だ。短時間なら記憶操作すら可能にする。
完全耐性や無効化を持ってる相手以外にはまず通じる精神操作の力だ。
「わかった。通ってくれ」
兵士は打って変わって許可を出した。
「ありがとう」
そういうとディは壁の向こうに進む。
そこには百のロックモルドの兵士たちが居た。
ディは暗視の
そこには五百の
(正面からぶつかれば負けるかな)
戦力差は一目同然だ。
ディは兵士たちの前に出る。
兵士たちは何だこの女、と思うが手を出さない。この場にいるなら許可が出されたのだろうと思っているのだ。
少し待つと
黒灰色の岩にも似た毛皮を持つ二足の獣だ。顔つきはモグラに似ている。
ディは一人優雅に歩く。コツ、コツと足音が響いた。
先頭の
ぱっと見武器を持っておらず岩のような硬い体を持っていないディは雑魚にしか見えないのだろう。
ディは影から紅椿を取り出す。
すたすたと歩き、
この
更に<即応反射>を発動。即座に体が動くようにする。追加で<魔力鋼刃>を使用。
<魔力鋼刃>は魔力を消費することで刀身を伸ばす
それらを持ってディは
感知範囲の半径百メートル内に入った者を容赦なく斬っていく。
縦に、横に、斜めに。切断していく。
「な、なんだあいつは!」
「化け物だ!」
流石に
「逃がすか」
ディは自分の左手の指をすべて切り落とす。
指から血が噴出され飛んで行き体が再生されていく。
分身のディが生まれ血の刃をもってして逃げ出した
合計六人のディが
「これでよし」
ディは分身を削除する。
全ての
ディはくるりと振り返り呆然としている兵士たちの前に行く。
「敵は殲滅したけど第二陣が来るかもしれないから気を付けてね」
「あ、あぁ……」
奥から別の者が走ってくる。
「お、お前、外から来た者だろう! なんで前線に来た?!」
「私の力を示しておこうと思ってね。それで──敵群を殲滅した英雄に対し相応しい扱いを求めるよ」
二コリ、とディは不穏な笑みを浮かべた。