ディはナディネとニーナに着いて行った。
向かう先は帝都より北に十キロ離れた革命軍の隠れ家だ。
深い森の奥に岩陰に隠れるように砦がある。
「ふぅん。結構大きいね。所属している人も多いのかい?」
ディは見上げながら言う。
「いや。私たちを含めて七人程度だ」
「少ないね……少数精鋭か」
ディはある程度これからの動きを聞いている。
これからはディは暗殺部隊に所属して戦うことになる。
極端な話、ディが真正面から帝国軍と衝突し皆殺しにするのは簡単だ。
手数も眷属招来でいくらでも呼び出せるしこの五百年でため込んだアンデッドの兵隊が居る。
だが、それをするとディが活躍しすぎてしまう。帝国と革命軍の戦いではなく帝国対ディの争いに変わってしまうのだ。
だからディを利用はしつつ最低限、だけど帝国に勝てはする程度の運用が求められる。
それが出来るのが暗殺部隊しか思い当たらなかったので暗殺部隊に所属することになったのだ。
一応それとは別でマチアスがアンデッド軍を革命軍に貸し出しているが必要最低限である。
ディたちは砦の中に入る。
少し進んで簡易的な玉座の間に入る。
部屋には五人の男女が居た。
「……聞いていたが、あんたがあの吸血鬼の始祖か?」
男が問いかけた。
その声には疑惑が入っている。こんな弱そうな女が本当に強いのか、という疑問だ。
ディは普段から探知阻害の指輪を付けている為戦闘力が気取られることはない。
「始祖ではなく神祖。始まりの吸血鬼だよ……うん。なら少し力を見せようか」
ディは<威圧>の
<威圧>は自身のレベル半分以下の相手を行動不能にする
更に精神系に分類されるため第三環程度の精神防御魔法で防御されるし、行動阻害にも分類されるので行動阻害耐性でも無効化される。
だがその威圧感、恐怖は消えない。
この場の全員──発動者のディ以外威圧され冷や汗を流す。
すぐさま解除することで膝をつく者はいなかったがそれでも全員心臓が痛いほどに激しく動き瞳孔が開く。
「……本物のようだ、すまない」
男は頭を下げた。
「気にしないでくれ。この見た目だ、侮られることは慣れている」
にこりとディは微笑む。その笑みに男は動じなかった。
美女の微笑みは大抵の男を揺らがせる。事実この目の目の男以外の男は揺らいでいた。
ナディネが簡易的な玉座に座る。
「それじゃあ今後の我々の動きだが──」
■
帝都はこの五百年で巨大化していった。
魔法技術の発展により人口が爆発的に増加し首都の容量を増やさざるおえなくなった。
結果壁が三つに増え、その間に家屋が立ち並ぶことになった。
人口は百万に上るというこの大陸最大の都市となっている。
その都市に初めて来た少年が一人いた。
「でっけぇ塔!」
茶髪に緑色の目をした十代後半程度の少年だ。
背中には剣を背負っていることから戦士だとわかる。
顔つきは優れており、どこか優しそうな少年である。
(帝都で成り上がって、故郷に仕送りをするんだ……!)
少年──名をリオンはバベルの塔を見上げた。
リオンの故郷は寒村だ。
重税に苦しむ今となってはよくある村にすぎず、その村を救うためにリオンはこの帝都に来た。
全ては帝国軍に所属し成り上がる為に。
リオンは帝都の華やかな道を見ながら衛兵に帝国軍に所属できる場所を聞き、帝国軍に所属するために走って行った。
「あん? 帰れ帰れ、お前のような餓鬼が来るところじゃないんだ、帝国軍は」
来て早々そう言われてリオンは目を見開いた。
まさかの門前払いである。流石にこれは困惑した。
「ま、待ってくれよ。俺はこう見えて村一番の実力者で、ゴブリンは当然倒したことあるしオークを倒したことだってある!」
「お前のような餓鬼が? 嘘いうんじゃねぇ。それに本当だとしてもこの不況だ。お前を入れる余裕はない! 帰りな!」
怒声を浴びせられこれ以上は居ても仕方がないと思いリオンは大人しく詰め所を出た。
(……クソ、初日からつまずくとは……けどめげんぞ! こうなったら……アピールだ!)
リオンは走って適当な酒場に駆け込んだ。
酒場に入り、カウンターまで走る。
「おっさん! 手配書を見せてくれ!」
「あん? まぁいいが、なんだ、賞金首でも見つけたのか?」
リオンが考えたアピールとは賞金首だ。
賞金首を殺しその首を持って再び詰め所に行き自己アピールをするのだ。
流石に賞金首を持って行けば対応も変わるだろうという思案があった。
「ほら、これだ」
店主の男は手配書を幾つか取り出した。
「おお、多いな」
「……まぁな」
手配書は幾つかある。
女が三人に男が三人だ。
「この額が一番大きいニーナってのはなんなんだ?」
「なんだお前、お上りさんか? そいつは殺し屋のエクリプスドーンの一員だ」
「エクリプスドーン?」
「殺し屋集団だよ。判明してるのは三人だけで懸賞金はべらぼうに高いが……まずどこに居るのか、いつ出てくるのかわからんから狙うのはやめた方がいい」
「そっか……じゃあこのマルクスってのがいいな」
マルクスは元死刑執行人の賞金首だ。
腐敗した影響で罪なき者でも処刑しまくってたら殺す快楽に目覚めた快楽殺人鬼である。
「兄ちゃん、賞金首を狙ってるのか? やめときな、兄ちゃんじゃ相手にならんよ」
「むっ。こう見えて俺は結構強いんだ! 賞金首ぐらいなら俺でも倒せるね!」
リオンはそう胸を張った。
その様が実に少年っぽく、店主は不安に思ったが口には出さないで置いた。
■
数日が経った。
夜中、灯りが少ない中リオンは帝都を歩く。
「まだまだ成果なし……か」
うーんとリオンは帝都を歩く。
「あの……そこの人」
そうして歩いていると声をかけられた。
相手は声からして女だ。フードを被っていて顔は見えない。
「どうしました?」
慣れぬ女の人でリオンは少し鼻の下を伸ばしながら近づく。
そうして近づきあと一歩か二歩で抱き着ける距離になった途端──女がどこからともなく斧を取り出し斬りかかってきた。
リオンはとっさに後ろに跳躍することで回避する。斧が地面に命中しクレーターを残した。
「あら、今ので死んでいれば楽だったのに」
女はフードを外し、戦斧を構えた。
巨大な戦斧だ。三メートルはあるだろう。
片刃の斧であり刃は黒いが赤い線がいくつもあり脈動している。
「その顔……! あんた賞金首のマルクスだな!」
「そうよ。知ってるってことはあなた賞金稼ぎかしら。まぁ、なんでもいいけど……死になさい」
マルクスは戦斧を持って襲い掛かった。
リオンは背中から剣を抜き戦斧──アーティファクト破者の斧を反らす。
(くっ威力が馬鹿たけぇ!)
本当は防ごうとしたがそれだと剣事両断されると踏み反らすことにした。
「ほらほら、がんばらないと、その首無くなっちゃうよ」
マルクスはそう言い連続で破者の斧を振るう。
リオンはどうにか回避に専念し避けることに成功する。
そうして避け続け、どうにか隙を探り──その隙をついて刺突を見舞いするも破者の斧の刀身で防がれた。
「くそっ!」
「筋はいいね。けど無意味だ」
マルクスはそう笑い今度は
流石にそれは防ぐことが出来ず──それでもどうにか剣を挟むことでダメージは軽減し奥に吹っ飛ばされた。
胸を斬られたが、そこまで深くはない。
(まずい……ポーションを……)
帝都に来た際に何かあった時のために買っておいたポーションが一つある。
それを使用しようと懐をまさぐろうとするが──それより早くマルクスが動く。
だが更にそれよりも早く空から女が降ってきた。
すたっと、高所からの落下後とは思えない綺麗な着地を見せた。
落下ダメージを軽減する
(……綺麗だ……)
落ちてきたのはまだ若い女だ。歳はリオンとそう変わらないだろう。
黒く美しい長髪に赤い瞳。なぜかセーラー服を着ている。
その手にはおどろおどろしい刀を持っている。革命軍の一員にして暗殺者、ニーナだ。
「……そこに倒れてる者、ポーションは持ってるか?」
急に話しかけられてリオンはどきまぎしながら答える。
「も、持ってます」
「ならそれを使ってこの場から離れた方がいい……巻き込まない保証はない」
ニーナは刀──アーティファクト村正を構えた。
アーティファクト。
ダンジョンの第七百層以降でレアドロップする
一つ一つが強力な力を持っており、今の時代ではそれ一つで戦局を左右する力を持つ。
どれもディが二十五年潜ったことで大量にドロップしておりそれらをうっぱらった結果世に出回った。
破者の斧と村正はその一つであり両方とも固有能力を持つ。
破者の斧は受けたダメージを蓄積し解放することで超強力な一撃を放ち、村正は防御力貫通効果と低位蘇生魔法無効の力を持つ。
「行くぞ」
ニーナはそう宣言し駆け出した。
<肉体向上>はステータスをレベルプラス一分増加する
<疾風>は移動速度上昇の
当然マルクスも
村正と破者の斧が衝突し合う。
攻撃速度はニーナの方が圧倒的に上だ。どうにかマルクスは防御に全振りすることで防御できている。
(防御貫通の刃! 受けるわけにはいかない!)
防御貫通の力はどんな防御力も
鋼鉄の鎧だろうがアダマンタイトの鎧だろうが紙のように切り裂いてくる。防御は出来ない。
「……すげぇ」
リオンはその戦いを見ていた。
ポーションで回復は終わった。この後すぐ逃げるべきなのに呆然と立ってみていた。
攻防が暫く続き──負けたのはマルクスの方だ。
破者の斧が弾かれ隙を晒した。
「しまっ」
そう思った時にはもう遅い。
ニーナはマルクスの首を切り裂き絶命させた。
「……私も終わりか」
マルクスはそう微笑み、絶命した。
「……そこのお前、何故逃げなかった?」
ニーナは破者の斧を回収するとリオンに問いかけた。
「あ、いや、その……凄く、綺麗だと思って」
「……そうか。それじゃあな」
ニーナはそう去っていこうとする。
「ま、待ってください!」
そこにリオンは待ったをかけた。
自分でも内心何故言ったのかわからない。それでも声を出さずにはいられなかった。
「なんだ?」
「え、えっと……」
リオンは考える。ここから言うべき台詞を。
よく見れば相手の顔は手配書に会った賞金首だ。暗殺者である。
「お、俺も連れてってください!」
「……は?」
「絶対役に立って見せるとは言えないけど……貴女に着いて行きたくなったんです!」
そういうとニーナは微笑んだ。
「そうか……ならついてくると言い。だが、表の世界を堂々と歩けなくなる覚悟はしておけよ」
「──はい!」
こうしてリオンは闇の世界に足を踏み入れた。