「よーうリオン! 今日は私の部下として動いてもらうぞ!」
翌日。リオンは朝の食堂でレオニアにそう話しかけられつつ抱き着かれた。
「や、やめてくださいよ!」
リオンは己の背中に感じる女体の胸の感触にドキマギし顔を赤くしながら言った。
「ん~ほれほれ減るもんじゃないしいいだろ~それじゃあ早速お姉さんと帝都に行くぞ~」
「わ、わかったから離れて!」
その光景をニーナたちは微笑ましく見ていた。
「ここは……」
帝都のはずれにスラム街はある。
帝都に来たはいいが職につけなかった者。貧困層の者が子を産み育てられないと捨てられた子などが集まって形成されたスラム街だ。
北の一部を占拠する形で広がっている。
「ここはスラム街。まぁ、どこにもいけなかった奴らが最後に来る場所さ」
「スラム街……なんでここに?」
「まぁ、帝都にはこういう場所もあるって知ってほしかったからさ」
リオンとレオニアはスラム街を歩いて行く。
「おー、レオニアじゃないか! また今度うち来てくれよ! 歓迎するぞ!」
「レオニアー! 今度うちの屋根直してー!」
「おう! また今度なー!」
歩いているとレオニアはスラム街の住人から気さくに話しかけられる。
気難しい顔をしていた男も一転して笑顔になる。
「仲いいんですね」
「まぁな、何度もここで依頼受けてるしな」
「依頼?」
「私は表向き何でも屋やってるんだ。私はうちの組織の依頼受付人でもあるからさ」
「なるほど」
そうして歩いていると帝都警備隊の者を見る。
リオンはまずいと思ったがレオニアが「大丈夫」という事で平常心を取り戻す。
つい先日警備隊隊長を暗殺したばかりなのだからリオンは警戒して当然だ。
「やや、そこのお二人、この場所に何の用ですか?」
警備隊の少女は肩に猫を載せていた。
金髪碧眼のポニーテールの少女だ。元気はつらつの少女と行った雰囲気を出している。
軽装鎧に腰に剣を差している。
肩に乗っている猫は子猫だ。スコティッシュフォールドである。
「ああ、こいつが帝都初めてだから観光にな」
レオニアはリオンの肩を掴みながら言った。
「ここは観光に来るような場所じゃないですが……よかったら警護しましょうか?」
「いや、うちらこう見えても強いから大丈夫だ」
「ならいいですが……何かあったら叫んでくださいね。すぐ駆けつけますから!」
少女はそういうと去っていった。
少し時が経ってからレオニアが呟いた。
「……あの猫、アーティファクトだな」
「アーティファクト? なんですかそれ」」
「ありゃ、リオンは知らないのか……アーティファクトってのはダンジョンの深層のモンスターがドロップする
「へぇ……みんなどんなの持ってるんだ?」
「んふー。特別にお姉ちゃんが教えちゃう」
ニーナのアーティファクトは村雨。防御力貫通の効果を持つ。鉄だろうがミスリルだろうが関係なく斬り裂ける。
ブラドのアーティファクトはドラゴニア。自らに竜に似た形の鎧を纏う魔装型の
まさしく竜のようなパワーを与え飛行能力を会得できる。
ニルスのアーティファクトはゲヴェーア。あらゆる銃種に変わる変幻自在の銃。狙撃銃からショットガンまで幅広く変形する。
一日の使用回数制限が決まっているがその分強力。この一日というのは使用してから二十四時間の事を差す。
ロルフのアーティファクトはアメストギリスの杖。使用者の魔法行使能力を増大させあらゆる魔法の消費魔力を軽減する。
百時間に一度切り札を発動することが出来る。
ディのは紅椿。単純に優れた刀としての機能を持ち、斬った相手の最大HP、魔力、スタミナを吸収する。
この吸収は基本時間経過でしか回復しない。最低でも三日かかる。
「私のは獣心顕現。獣の力を増幅させ付与するアーティファクトだ。結構強いぜ」
「へぇ……俺もなんかアーティファクト使えますかね」
「そこはまぁ、まず入手が困難だからなぁ。まぁ大本であるディに聞けば何か貰えるかもしれないが……」
「ディさんって、あの吸血鬼の方ですよね? そんなに持ってるんですか?」
「持ってるというかアーティファクトを世界にばらまいた張本人だぞ。持ってる城に山のように積みあがってるとかなんとか」
「何それ怖い」
けどちょっとロマンあるな……とリオンは真面目にディに貰えないか相談しようかと考え始める。
「それと話は少しずれるが、さっきの警備隊員、アーティファクト持ちだったな」
「マジすか?」
「マジ。あの猫アーティファクトだ。目録で見たことある」
「要警戒対象ってことですね……」
「そうだな。それを報告するためにも一旦帰るか」
こうして二人はアジトに帰還した。
■
その日の夜。広間にて。
ニルスとディは広間を走っていた。
目標の暗殺が終わり二人そろってアジトへ向かっていたのだ。
ディがニルスに合わせ速度を極端に落としているがそれでもただの一般人よりは速い。
そうして走っていると上から強襲を受ける。
二人とも後ろにジャンプし距離をとり、武器を抜く。
ディは紅椿を。ニルスは二丁拳銃を取り出した。どちらもリボルバーだ。
「見つけだぞエクリプスドーン……帝都に蔓延る悪を断罪する!」
強襲をした女──名をレナは醜悪な笑みを浮かべた。
「そうか。死ね」
それに対しディは冷静にそう言い放ち、斬りかかる。
それに対しレナは肩に載せていたアーティファクトの猫を突撃させた。
猫が瞬間巨大化する。凶暴な化け猫だ。二十メートルはある怪物のごとき姿に変貌した。
その怪物──アーティファクトカッツェが殴打を持ってディを殴り飛ばした。
強力なノックバック効果によりディは奥へ吹き飛ばされる。
ニルスは冷静にディを無視し二丁拳銃でカッツェを銃撃する。
一発一発が大砲にも匹敵する銃撃だ。威力はそこから更にクラスレベルで上昇している。
カッツェに大穴がいくつも開く。
だがすぐさまその穴は修復されていく。
「再生持ちか……」
アーティファクトの再生にも種類がある。
使用者の魔力を消費することで再生するタイプ、再生量や回数が決まっているタイプ。コアが壊れない限り無限に治るタイプなどだ。
初見の相手がどれか見破る目をニルスは持ってないので再生持ちを放置し本体であるレナを狙う。
レナに向かって銃弾を放つもそのほとんどはカッツェが間に入ることで受け止められ、軽減される。
届いてもレナが短剣二つで
「ちっ」
ニルスは舌打ちをし、突撃するカッツェを避ける。
真横にローリングすることで回避する。
(厄介だな。強制的に二対一をしてくる。ディが戻ってくるまで耐えれば勝ちだな)
ディの力はエクリプスドーンの中で──それどころかこの大陸最強ともいえる。
それが居る時点でこの戦いの勝利は決まっている。問題はその間に自分が殺されないかどうか、だとニルスは考える。
襲い掛かるカッツェの猛攻を銃撃で防ぐ。
重低音と共に弾丸が放たれる。
風穴が幾つも空くがカッツェは気にせず攻撃に移る。
それをどうにかニルスは<回避>の
<回避>はその場で体を無理やり動かして移動する
なんどか攻撃を避けているとようやくディが走って戻ってきた。
紅椿──刃渡り九十センチの妖刀を持ってディはカッツェをばらばらに切り裂いた。
「なっ」
サイコロ状に細かく斬られた。コアこそやられてないが再生には時間がかかるだろう。
「己っ!」
レナは怒りディに突撃する。
「遅いね」
ディはそれに対し冷静に対処し両腕を切り落とした。
流れるような剣裁きだ。伊達に五百年以上研鑽していない。
「──奥の手!」
レナはそう叫んだ。
途端ばらばらで再生に時間がかかっていたはずのカッツェが全壊する。
白かった体は赤く染まり更に顔が凶悪化する。
「オォオオォオオオ!!!」
大声による叫び。
ただの叫びではない。
ニルスは恐怖によって行動不能になる。
だがディには関係ない。アンデッドであるため精神に作用する能力はディに通じず行動阻害も装備品で無効化している。
ディはまたも優雅に動きカッツェを再び切り刻んだ。
「馬鹿な!」
ならばとばかりにレナは突撃する。
腕が無くなっても足がある。口がある。だから戦えるとばかりの特攻だ。
ディはそれに付き合う気はない。冷静にレナの首を切り落とし絶命させた。
それによりカッツェは元の姿に戻っていく。凶暴化が解け元の可愛らしい子猫の姿に戻った。
「しょうがないね……」
ディは恐怖で動けなくなってるニルスを見ると子猫になったカッツェを持ち影にしまい、ニルスを抱きかかえ全力ダッシュでアジトに向かって走るのだった。