ある日のアジトの食堂で。リオンはふいに疑問に思ったことをリーダーであるナディネに問いかけた。
「なぁ、俺たちが暗殺するのは革命軍の為だけど……その最終目標はあるのか?」
それはなんてことない疑問だった。
幾つか依頼をこなして慣れてきたからこその疑問だった。いつまで己は暗殺家業をしていればいいのか、という疑問。
「そうだな……目標はこの国の二大大将軍を殺すことだ」
「二大大将軍?」
「ああ。イグネリアとエリアルの二人だ……どちらとも若い女だが実力は高い」
イグネリアは百七十センチという女性としては高めの身長を持つ女だ。
非常に美女という事でも有名で赤い髪に赤い瞳をしている。
炎系に特化したエレメンタリストでもあり爆炎を操るアーティファクトを保有している。
レベルも七十と非常に高い。
エリアルも百七十二センチという女性である。
三十代に入った程度の年齢。緑色の髪と瞳をしている。
こちらは風系に特化したエレメンタリストだ。暴風を操るアーティファクトを保持している。
レベルも七十と非常に高い。
「……将軍、か。そいつらが腐敗の原因なのか?」
その台詞にナディネは苦い顔をした。
「……腐敗の原因、元凶は人じゃない。長い、長すぎる時間だ。誰か一人が悪いんじゃない。誰もが悪くなってしまったんだ。明確な敵はいない。ただ……長すぎる栄光は腐敗を生み出した」
確かに腐敗している政治家、貴族や商人は腐るほど居る。
だが、だれか特定の者を殺せば解決するような事態ではない。
皇帝を暗殺しようが大臣を暗殺しても将軍を暗殺しても事態は好転しない。
だからこそ革命という一旦全部壊して再構築する必要がある。
ちまちま暗殺して運よく皇帝を殺したとしても何も変わらないだけの腐敗を帝国は生み出している。
「だからこそ、革命なんだ。革命を起こしこの国を……亡ぼす。リセットするんだ。そうすれば新しい国になって、腐敗も減るだろうさ」
「……そうか」
リオンは神妙な顔で頷いた。
「じゃあ、その将軍はどう殺すんだ?」
「どちらも単純な単体戦闘力が高い上に基本警護の熱い宮殿に居る……暗殺は難しいだろう。といってもイグネリアは今北に居るが」
「北か……北もまた反乱してるんだっけか」
「ああ。北のすべての首長が反乱に賛同してくれている。これも革命軍の手の者によって扇動された事だが」
「そっか……俺も強くなって、早く貢献できるようにならないとな」
いよーし、とリオンは気合を入れた。
■
「ディ、今いいか?」
ナディネはディの部屋にノックもせず入っていった。
「なんだ?」
そこではベッドに横になりながら小説を読んでいるディが居た。
ラフな格好、寝間着を着ている。
「……ノースファングに行くことになった。ディにはついてきてほしい」
「なんで? 護衛ならニーナが居るだろう?」
「いや、今回話をしに行く相手は……吸血鬼だ」
「なるほど、吸血鬼相手なら私が居た方がいいね」
全ての吸血鬼はディの支配下にある。
今もかすかだが支配の糸は繋がっておりその気になればここからでも命令を飛ばせる。といっても単純な命令しか下せないが。
全ての吸血鬼は本能的にディを崇めたてる。相手が吸血鬼ならばディが居れば一発で話がすむ。
「できればすぐに行って話を詰めたい。転移魔法を頼めるか?」
「わかった。どこに行く?」
「ルステークまで頼む」
「わかった。着替えるから待ってくれ」
ディはベッドから立ち上がり着替え始める。
着るのはいつもの血で作ったドレスだ。
寝間着を脱いで血でドレスを作るとすぐに着替えが終わる。
「それじゃあ行こうか……
ディは第九環の転移魔法を唱えた。
黒い靄の渦が生じる。これを通ることで目的地に転移できる。
最低でも一度に百人は転移出来る魔法で余程高位の転移阻害でもない限り無視して転移出来る。
ディとナディネはゲートを通って転移した。
「……ここがノースファングか」
通った先はかつて見たルステークだ。
石造りの街。どこか古めかしくもわびさびを感じさせる。
ディがルステークに入る。
「相手はルステーク内じゃなく北東にある島に居る。港に行こう」
「わかった」
街を歩き港に向かう。
待ちゆく人々の顔は明るかった。
港に着いた。船が四隻と一隻止まっている。
四隻は大型の船であり貨物船、交易船である。
残る一隻は六人乗りの小さな船、渡し船のような物だ。
小さい船に二人は乗る。
船主にナディネが話しかける。
「北東にある島に行きたい」
「……あのアンデッドが出るという噂の? 構わないが、高くつくぞ」
「これでいいか」
ナディネは五百セラ取り出した。
「構わないとも。座ってくれ、行こうか」
ナディネとディは座り、船が出発した。
三十分ほど揺られる事で目的地に着いた。
そこにあったのは石造りの城だ。
四角く、非常に大きい城だ。
城の門前には橋がある。
船から降りて二人は橋を渡っていく。
橋を渡るとそこには門があり、柵が降りている。
柵の向こう側には人間が一人椅子に座っていた。
「この城の城主に話に来たナディネだ。通してほしい」
その声に門番は目を開け、頷いた。
「あんたか、うちと話したいという者好きは……いいだろう、門を開けよう」
機械音と共に柵が登っていく。
「ようこそ、ギルドゼルヴァカールへ」
門番がそう言い二人を歓迎した。
ディとナディネは門を開いて中に入る。
中は玄関になっており左右にガーゴイルの像が一つずつあった。
「ようこそ、革命軍とやらの幹部。私はクラウスだ……ん?」
クラウスはエルフの男だ。
吸血鬼特有の白い肌に赤い瞳。エルフ特有の金髪に尖った耳。
執事服を着ているのは様になっている。
クラウスはディを見るなり怪訝な目をした。
これはディが持つ吸血鬼支配に惹かれたのだ。すべての吸血鬼はディの支配下にある。その支配の糸が至近距離にいるため強く感じ取れているのだ。
「……どうぞ、こちらへ」
クラウスはそういうと奥へと進む。
少し進むと其処には階段があり、下る形になる。
降りた先はホールだ。左右にテーブルがあり、奥には簡易的な玉座がある。
ホールには多数の吸血鬼たちが居る。
玉座前にはブルートが居た。
階段を降り、真ん中に進む。
「おぉ、主様。再び会えたこと光栄に思います」
ブルートはディに近づくと片膝をついてそういった。
「久しいな、ブルート。よもやこのような組織を作っているとは思わなかったぞ」
「すべては貴女様に貢献するためです。ディ様」
ブルートは深々と頭を下げた。
「それで、だ。今回の話は聞いてるな?」
「はい。革命に当たってノースファングの勢力を求めていると。既にこの地方の裏は全て、表も半分以上は我らが支配しています。セルヴァカールならば動かすことが出来ます」
「ならば結構。すぐに動いてくれ……ナディネもそれでいいな?」
「あ、ああ。問題ないとも」
ナディネは思ったよりディが吸血鬼の上に立っている存在なんだなと実感し若干引いていた。
「それじゃあ、私たちは帰ろう……
こうしてディとナディネは拠点に戻った。