ギンを捕まえたその日の夜。リオンとニーナはギンを拠点にしている砦の広間に拘束して連れてきていた。
「で、この少女を捕まえてきたわけか……」
エクリプスドーン全員が集まり少女──仮称ギンを囲んでいた。
「で、名前は?」
ナディネが問いかけた。
「名前? タルトナよ」
「そうか。ではタルトナ……なんぜ全裸なんだ?」
一応ギン改めタルトナはロープで縛った上でローブをかぶせている。
それでも少女の見えちゃいけないところが見えているので男連中は視線に困っていた。
「私再生系の能力持ってるから、防御しないのよ。それでダメージ受けると血で服が汚れるじゃない。だから服着なくてもいいかなって」
「羞恥心はないのか」
「見た奴殺してきたからないわ」
「そうか……」
まさかの露出魔にナディネは頭を抱えたくなった。
「ま、まぁ。それで、だ。タルトナちゃん」「ちゃん付けするな殺すぞ」
ブラドの台詞にかぶせるようにタルトナが怒気を込めて言った。
「……すまない。タルトナ、俺たちに加わる気はないか? エクリプスドーンに入ればこれまで通り悪人を殺せるし、その支援も出来る」
「断ったら?」
「うちの大本……そうだな。革命軍の本陣で作業してもらうことになる」
「それはつまらなさそうだなぁ。いいよ。協力してあげる」
タルトナは普通の一般家庭で生まれた。
不幸の元は父親だ。
父はタルトナが生まれると豹変し、母に怒声を浴びせ、暴力を振るうようになった。
赤子のタルトナに対しても膣内に指を入れたり、熱湯に漬からせるなどの事をしてきた。
そうした虐待とDVは九年続き……耐えられなくなったタルトナが父を殺した。
幸運なのはタルトナの能力だ。<超速再生>を持つタルトナは肉体の限界を超えた身体能力を発揮できた。だから九歳という若さでも大の男を殺せた。
父を殺したタルトナは母からも拒絶され、それからはスラムに行った。
そこで適当に人を殺しながら暮らし、ある男に会う。
その男は紫色の髪と服を着た妙な男だ。そいつはタルトナに「どうせ殺すなら悪人を殺せばいい。世も良くなって金も手に入っての一石二鳥だ」と。
なるほど確かにと納得したタルトナはそれ以来悪人を殺す殺人鬼となった。悪人を守る私兵や警備も同罪の理論で殺している。
「おっし、よろしくな、タルトナ!」
リオンが拘束されたタルトナに手を伸ばした。
「私これじゃ手を出せないんだけど」
「あ、わりぃ。今ロープ解くな」
リオンはロープを解いた。
「ん、これでよし。それじゃ、よろしくね、エクリプスドーンのみんな」
──瞬間。轟音が響いた。
「なんだ?!」
「今確認します!」
ロルフが情報系の魔法を行使する。
「砦が砲撃されています! 場所は……遠いな……クソ、結界のギリギリ範囲外からの攻撃です!」
「なるほど。という事は相手も遠視系の能力を持っているな」
「
「ここまで届く遠距離持ちならばこもるのは悪手だな」
敵が攻めてくるとなれば砦にこもっての籠城戦が最善だろう。
だが相手がその砦を壊せる兵器を持っている場合は別だ。打って出なければ砦と一緒に瓦礫の一部となる。
「相手は誰かわかるか?」
「砲撃主は……帝国の将軍の一人、アントンです!」
「……確か奴が保有しているアーティファクトは魔装型だったな。あれならば長距離の砲撃も納得できる。打って出るぞ! ニーナとブラドはアントンを屠れ! 残るディとロルフ以外は残る兵士を掃討、ディとロルフは周囲に敵兵が居ないか探れ!」
「「「了解!」」」
タルトナ以外のメンバーがそう敬礼をした。
「私は?」
「動いてもらいたいが……ディ、何かいい武器はないか?」
「だったらこれはどうかな」
ディは己の影から短剣を取り出す。
刀身が黒曜石のように黒く、中心が赤い短剣だ。
「これはHP低下量に応じて攻撃力が上がる短剣だよ。君のスタイルに合っていると思う」
「ありがとう……えっと、貴女の名前は?」
「ディ・フランケリヒだよ」
「ありがとうディさん。行ってくる!」
ひゃっほーいとタルトナは走っていった。
「私たちも行くぞ!」
そうしてエクリプスドーンの者たちは砦を出た。
■
砦を砲撃した指揮官である将軍アントンは鎧の中で笑みを浮かべた。
奇妙な鎧だ。非常に大きい。
胴体部分が球体上であり、赤黒い。
足や手はアームカバーなどに覆われている。
両腕にはバレル付きのガトリングガンがついている。
背中にはロケットランチャー砲が二丁ついておりこれが砲撃したのだとわかる。
頭部は半球状のガラスでおおわれている。
魔装グリゴリだ。遠距離攻撃に特化した魔装、アーティファクトである。
「獲物は巣から這い出てきたな」
ニヤリとアントンはガラスの中で笑みを浮かべた。
アントンの目的はこの砦の奪取及びエクリプスドーンの殲滅だ。
それが可能になれるだけの戦力を帝国も派遣してきた。
連れてきた兵士の大半がレベル十代、中にはレベル二十に到達した者を二十人。更にアントン自身レベルは三十と非常に高い。
これだけの戦力があればエクリプスドーンの平均レベル三十を討伐できる……などとは帝国も思っていない。
せいぜいが二、三人殺せるか否か程度と帝国も思っている。
今回の襲撃は拠点を崩壊させることで一時的にでもエクリプスドーンの活動を停止させるのが狙いだ。
アントンはそのための捨て駒だった。
アントンと百二十の兵士たちは森の中で構えていた。
「……ん?」
アントンはこのままここで砲撃するか、と思い監視能力……魔装に備わった千里眼で砦を見る。
すると砦から何人もの人間が出てくるのが見えた。
(なんで一人全裸なんだ?)
全裸という奇妙な格好で出てきた者にアントンは疑問を抱くもまぁ風呂に入ってたかなんかだろ、と無理矢理納得させる。
流石に移動速度が速くて超遠距離の砲撃は当たらないだろうと考えアントンは指示を飛ばす。
「獲物がはい出てきたぞ! 猫がネズミに噛まれないよう気をつけろ! 必ず複数人でことにあたれ!」
「「「了解です!!!」」」
そうして待ち構えていると一人高速で突撃してくる者が居た。
ニーナだ。超速の居合を持ってアントンに襲い掛かる。
アントンはそれを足から炎を噴出知ることで上に避ける。
「飛行が可能なのか」
魔装の中には飛行を可能にする物もある。
「その通り! 上から一方的に蹂躙してやるぜ!」
アントンは上から両腕を突き出す。
そこからガトリング砲を放つ。
重低音と共に弾丸が高速で放たれる。
ニーナは
<先読み>は攻撃の一手先を読む
アントンとのレベルがそこまで開いてないため通じたのだ。
走って走って走ることで弾幕を避け続ける。
(相手は魔装。玉切れは考えない方がいいな)
魔装の持つ能力で銃弾を放っているとしてもこの世界の銃のセオリー通りだろう。
だが開幕からばかすか打っているのを見るに玉切れはないタイプと見た方がいい。
一日の使用回数が馬鹿みたいに多い、もしくはクールタイム式だとニーナは推測する。
それは正しくニーナの読み通りクールタイムがあるタイプのガトリングだ。一度全弾打つと二分のクールタイムが発生する。
両腕ではなく片腕ずつで計算される。
「ちょこまかと!」
アントンがイラつきの声を上げる。
標的をニーナ一人に完全に決めた時──背後から強襲する者が居た。
白銀の鎧。頭部は竜を模した形をしており、肩は竜の咢を模している。
背中には赤いマントがついている。
ドラゴニアを纏ったブラドだ。
声を出すことなくブラドは大剣を持って斬りかかる。
金属同士がこすれる嫌な音がした。ぎゃりぎゃりという音だ。
「ちっ!」
思った通りの結果にならずブラドは舌打ちをし、地面に落下する。
「この野郎!」
アントンは怒り銃身をブラドに向け、銃弾を放つ。
重低音と共に何十何百という弾丸が放たれる。
ブラドは弾幕を剣を盾のように構えることでガードする。何気防御
<鉄壁守>は体を鉄のように固くし防御する
その
ブラドが耐える間ニーナが木から跳躍しアントンに斬りかかる。
「しまっ」
アントンはニーナを見て露骨にしまったという顔をする。
ニーナの持つアーティファクトは防御力貫通だ。堅牢な鎧であっても無意味である。
アントンの右腕が斬り飛ばされた。
「いてぇなぁ!」
アントンは叫びつつ蹴りをニーナに入れる。ニーナの腹に命中した。
ニーナは吹き飛ばされ、そこを追撃しようとアントンは残った左手のガトリングを向ける。
そうはさせるかとブラドは跳躍しアントンの目の前に出現し、いくつかの
ガラスに罅が入った。
「嘘だろ?!」
魔装は硬い。防御値だけで言えばこのグリゴリだって地球の戦車の砲撃だって余裕で耐えれる。
それに罅が入ったという事はそれ以上の力で攻撃を受けたという事であり、連続して受ければ破壊されるという事。
「離れろ!」
アントンは肩のロケットランチャー砲をブラドに向け、砲弾を発射。
ブラドの腹に命中しブラドは吹っ飛んで行き、着弾地点で爆発した。
「ターゲットロックオン……発射ぁ!」
アントンは今度は二つのロケットランチャー砲を放つ。
高威力のロケランだ。人間相手に打てば一発で消し飛ぶそれを二発目打つ。
ブラドにはまたも命中し、ニーナには回避された。
至近距離だからこその命中率だ。
(飛行が維持できないな。いったん降りるか)
アントンはそう考えゆっくりと下降する。
グリゴリの飛行能力は時間制限付きだ。その分射撃や砲撃の威力は高いが。
着地と同時に第三者が襲ってきた。
上半身だけの全裸の少女タルトナだ。
「ひゃっはー!」
世紀末のチンピラのような叫びと共に持っている短剣……アーティファクト、ブラッドリーパーでガラスの頭部をめった刺しにする。
下半身が無いというHPレッドゾーンとバーサーカーのクラスによるHP低下量に応じた攻撃力上昇、更にアーティファクトによる攻撃力上昇でガラスは簡単に砕けた。
「んなっ」
慌ててアントンは左手でタルトナを払おうとするももう遅い。
タルトナは下半身を再生させた勢いでどっかに飛んで行った。
「小娘がぁ!」
怒りに任せ叫ぶ。
その隙を見逃すニーナではない。
ニーナは
「がっ……」
そうしてアントンは絶命した。
「……皆のところに行かねば」
そう呟きニーナは仲間たちのところに向かった。