「報告! 四騎士の二人、フランツ様とリヒャルト様が討ち死にしました!」
その報告を聞いて、イグネリアは「は?」と声を漏らすのを我慢した。
ここはストーンフェル前に広がる平野。そこにつくられた帝国の陣地である。
陣地のキャンプ内で報告を聞いたイグネリアは眉をひそめた。
(帝国四騎士が二人も死んだ? 今回の敵はそんなに強いのか?
正直に言えば、帝国軍にとってノースファングの反乱は大したことがない。
帝国軍の練度もそうだが、帝都には
またダンジョン内に兵士が潜りレベリングをすることさえ可能であり、平均レベルは非常に高い。
だからこそダンジョンを唯一持つ帝国はこの大陸最強の国家として君臨し続けられたのだ。
ただ、そのパワーバランスを崩したのが居る。ディだ。
ディが適当に各地を回ってアーティファクトという超級の
ただ、それでも帝国は強い。何せ現状世に出回っている半数以上のアーティファクトは帝国が所持しているからだ。
これは最初ディは帝都に住んでて帝都で売っていたのが大きい。
要するに帝国は何百年と支配を維持できるだけの戦力を有しているのだ。
だからノースファング地方が一丸となって反乱をしてきたとしても容易く返り討ちに出来ると思っていた。
だというのに、まさかの前線に出た帝国四騎士二人の即死。何があったというのか。
「私が出よう」
「だ、大将軍自らですか?」
「そうだ。この戦局を変えるには私が出るしかない……
イグネリアは魔法を唱えた。
背中から不死鳥のごとく炎の翼が生える。
高速での飛行を可能にし、周囲の敵に炎ダメージを与える魔法だ。
「行ってくる」
そういうとイグネリアは戦場へと飛んで行った。
戦場に着いた。空の上から戦場を見る。
そこでは敗走している帝国軍の姿があった。
追撃しているのは反乱軍、ノースファングの兵たちだ。
(……やはり、敵兵士そのものは雑兵だ)
軽く見た限りでは敵兵士──反乱軍の平均レベルは帝国軍より下だ。
それが負けているとなると、帝国の指揮官をピンポイントで狩っていった英雄級の実力者が居る。おそらくはそれが四騎士も倒したのだろう。
「
イグネリアは魔法を唱えた。
炎の華の弾幕が反乱軍を襲う。
一発だけで敵兵士を焼死させるにふさわしいダメージをたたき出す。
炎の弾幕によって反乱軍兵士たちが次々と死んでいく。
(さて、出てくるかな?)
そう疑問に思った途端、イグネリアの目の前に敵が現れた。
「何っ?!」
現れたのは黒髪赤目の、少し白い肌を持つ男だ。
赤い鎧を纏った男であり、手には赤い剣を持っている。
男──ブルートはその剣でイグネリアを斬り、地面に叩き落とした。
地面に落ちたイグネリアは追撃が来る前に体制を整える。
優雅にブルートが着地してきた。
「……強いな」
この世界の住人ある程度レベルが上がると相手の強さを気配で感じ取れるようになる。探知系の
その感覚が告げている。目の前の男は強敵だと、格上なのだと。
ニヤリ、とイグネリアは笑みを浮かべた。
強敵結構、格上万歳、強者と戦ってこその我が人生!
「
イグネリアは召喚魔法を萎えた。
呼び出されるは炎系最高位、己が支配できる最強の存在
炎の化身そのものだ。燃え盛る溶岩が人の女性の形をしている。二メートルほどの大きさを持つ。
ステータスは前衛軽戦士系統だ。右手には燃え盛る剣を持っているがこれは体の一部判定を受ける。
炎のダメージを与える
「召喚魔法……いいぞ、抗え。その上から叩きのめそう」
ブルートはそう言い放ち、剣を構えた。
「その容姿……お前、最近噂になっている吸血鬼とかいう種族か。その首を帝都の壁に飾ってやろう!」
イグネリアはそう言い放ち魔法を唱える。
無詠唱化して唱える。エレメンタリストなので無詠唱化による魔力の追加消費はない。
速度を重視した魔法戦をイグネリアは考える。
極太の炎の光線がブルートを襲う。
地面を焼き、ガラス化させるほどの超高温の炎だ。
ブルートは<回避>などの
更にイグネリアは魔法を使用する。炎の弾幕が展開された。
それに合わせ
ブルートは弾幕を剣で捌きながら
レベル差は十という差があるが、相性差がある。
ブルートは吸血鬼の為炎属性に対し脆弱性を持つ。つまり炎特化である
だからと言ってブルートに負ける気はない。
幾つかの
<肉体向上><肉体超向上><真・肉体向上><斬撃><超斬撃><鬼断流><致命の斬撃><剛撃><八連撃>などだ。
<鬼断流>は相手の防御力貫通、<致命の斬撃>は確定でクリティカルダメージ<剛撃>は強力な一撃を放つ。
<八連撃>は名の通り八回連続で攻撃をする
ブルートは怒涛の攻めを見せ、
だがステータス差は顕著だ。それに
その間にイグネリアは無詠唱化しバフ魔法を唱えつつ、攻撃魔法を飛ばす。
絶対命中の特性を持つ
火力も相応に上げられているためちくちくとしたダメージがブルートに入る。
だが吸血鬼の再生能力で徐々に治っていく。
<
<
真上から真っ二つに斬り裂いた。
倒した直後をイグネリアは狙う。
幾つもの炎系魔法がブルートを襲う。
炎の槍、炎の矢、炎の剣がブルートを襲い。全て命中した。
弱点属性でもあるためブルートのHPがごりっと削られた。
更にブルートの肉体が炎上する。今放った魔法は命中した相手を炎上という状態異常にする効果を持つ。
炎上は名の通り体が一定時間燃え続ける魔法だ。更にこれは上書きではなく加算されるので三つの魔法分体が炎上し続ける。
対処するには水を被って消化するなどが必要だ。
ブルートは気にせず燃えたまま<瞬歩>の
<瞬歩>は目標まで一直線に高速で移動する
急接近してきたブルートに対しイグネリアは空に飛ぶことで回避しようとする。
だがブルートは始祖の吸血鬼。背中から蝙蝠の翼を生やし同じく飛行した。
「
今度召喚するのは
同じ精霊系ではあるが攻撃特化の変わった精霊のイグラヴァルだ。
レベル六十五。燃え盛る溶岩がそのまま剣の形をしている。
柄には目玉がぎょろりとある。
近接戦闘系
イグラヴァルがブルートに襲い掛かる。
剣だけだというのに類まれなる剣術を持ってブルートに斬りかかる。
ブルートも<即応反射>などの
純粋な剣術の技量の差だ。レベル差を多少はこれで覆している。
だが長くは続かないだろう。何せ剣で打ち合うだけでもイグラヴァル側はHPが減っていくのだ。レベル差補正もあることだし。
その隙をついてイグネリアは魔法を唱えていく。
炎の各種武器、ハンマーなどがブルートを襲う。
ブルートは
「眷属招来!」
ブルートはやむおえず
自身のレベル三十以下の吸血鬼系モンスターを複数対召喚できる。
始祖ともなると一度に三十体は出せる。
それが三十体、最大数召喚される。
これが地上ならば狼や鼠なども召喚できたがそれらは飛行能力を持たないので空だと召喚しても落下死する。
ブルートは自身も複数の蝙蝠に変えることでイグラヴァルとの戦いから移動しイグネリアに急接近する。
残る眷属とイグラヴァルは戦闘に入るが、ほとんど消化試合のようなものだ。
レベル差が開きすぎている。五分も経たずにイグラヴァルが眷属をすべて殺して終わるだろう。
「
イグネリアは第七環魔法を唱えた。
この魔法は触れることで相手を弾く魔法だ。更に相手に炎ダメージを与え炎上の効果も与える。
ただし相手の攻撃力に応じて消費する魔力が大きくなっていく。
イグネリアはブルートの剣の斬撃を手ではじく。
炎系に特化した為消費魔力は少なくなるはずだが、それでもレベル十の差がある。
そのため消費魔力も多くなる。
ブルートの怒涛の攻めに対し致命傷だけをどうにか手ではじくことに成功する。
(こいつ、ダメージを無視してきているな!)
イグネリアは舌打ちをした。
ブルートは吸血鬼、アンデッドだ。そのため痛みには鈍感だ。
そのためにブルートは弾きによるダメージ付与による痛みとHP減少を無視し攻撃をしていく。
イグネリアは無詠唱化したうえで三重化し強化した
術者を中心に炎の大爆発を起こす魔法だ。
当然イグラヴァルも
ブルートの体が燃え上がる。
だが、その傍から再生していく。
吸血鬼の再生にも当然弱点がある。炎と銀属性の場合再生が阻害される。
だがそれは真祖までの話であり、始祖級となると銀でも炎でも酸でも普通に再生してくる。といっても速度は遅いが。
これで今のブルートのHPは六割を切った程度まで減った。
だからと言ってここから勝てるかと言えば難しいと言える。
何せレベル差が十もあるのだ。相性がいいとはいえ油断禁物の相手である。
「行くぞ!」
イグネリアは雄たけびを上げ、突撃した。
炎と血の剣が衝突し合う。
音を超えた速度でぶつかり合う二人。勝利の行方は──
──三十分後。そこには地に付すイグネリアとボロボロになっても立っているブルートの姿があった。
「私の……負けか……」
イグネリアは笑みを浮かべた。
帝国の大将軍として活動してきた。そのためには悪事にも手を染めてきた。
無実の者を陥れたり、気が向いたからという理由で村を焼き払った事だってある。
それらを悔いるつもりはないし、謝るつもりなんてものはない。
せいぜいあるのはもっと楽しみたかったという心残り程度。
「殺せ」
「ああ」
ブルートは倒れたイグネリアに近づき、剣を持ってその首を切り落とした。
こうして帝国は戦力を低下し、さらなる苦境に立たされることとなった。