星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第10話:咆哮する巨人と、処女宮の盾

ファントムロードの移動要塞が、不気味な足音を立ててマグノリアの湖畔に迫る。

 鉄格子の嵌められた牢獄の窓から、ルーシィはその光景を絶望的な思いで見つめていた。

「やめて……みんな、逃げて……!」

 要塞の前面が展開し、巨大な砲身が姿を現す。

 魔導集束砲『ジュピター』。

 ルーシィの過敏な感覚が、そこへ収束していく膨大な魔力を感じ取り、悲鳴を上げた。あれが撃たれれば、ギルドごと仲間が消し飛ぶ。

 カッ!!

 閃光が奔る。

 ルーシィは思わず目を覆った。

「嫌ぁぁぁぁぁっ!!」

 轟音と衝撃が要塞を揺らす。

 しかし、彼女が恐れた「仲間の消滅」は起きなかった。

 煙の晴れた先に、ボロボロになりながらも仁王立ちする、一人の女魔導士の姿があったからだ。

「エルザ……!?」

 『金剛の鎧』を纏い、身を挺して砲撃を受け止めた妖精の女王。

 その体から力が抜け、倒れ込むのが見えた。

「う、うぅ……私のせいで……エルザまで……!」

 会ったこともない最強の魔導士が、自分のために傷ついた。

 その事実は、ルーシィの心を罪悪感で押し潰すのに十分だった。

 

 直後、ファントムの要塞内で爆発音が連鎖し始めた。

 『妖精の尻尾』の逆襲が始まったのだ。

「ルーシィはどこだぁぁぁ!! 出てこいジョゼェェェ!!」

 聞き覚えのある、野獣のような咆哮が廊下を伝って響いてくる。

 ドガァン! という音と共に、牢獄の分厚い鉄扉が溶解し、吹き飛んだ。

「ナツ……!」

 煙の中から現れたのは、全身から炎を噴き上げるナツだった。

 彼は部屋の隅で縮こまっているルーシィを見つけると、血相を変えて駆け寄った。

「ルーシィ! 無事か!?」

「ナツ……ごめん、なさい……私……」

「謝ってんじゃねぇ! ……くそっ、なんて冷てぇ体だ」

 ナツはルーシィの鎖を焼き切り、その氷のように冷たい体を抱き寄せた。

 彼女の消耗は激しく、自力で立つことすらできない。

「帰るぞ。じっちゃんも、みんな待ってる」

「うん……」

 

 しかし、その再会は唐突に断ち切られた。

「ギヒッ。随分と楽しそうじゃねぇか、火竜(サラマンダー)」

 天井を突き破り、無数の鉄骨が雨のように降り注いだ。

 ナツはとっさにルーシィを庇って飛び退く。

 土煙の中から現れたのは、鉄の鱗を持つ男――『鉄竜のガジル』。

「テメェか……! レビィたちをあんな目に遭わせたのは!!」

「あぁ? あの弱っちぃ妖精どもか? 次はそこの女も杭打って晒してやるよ」

 ガジルの視線が、ナツの腕の中にいるルーシィに向けられる。

「なんだそいつ、死にかけじゃねぇか。こんなガラクタのために戦争とはな」

「ガラクタじゃねぇ!! 俺たちの仲間だ!!」

 ナツが激昂し、炎の拳を叩き込む。

 ガジルも鉄の腕で応戦する。

 滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)同士の激突。その衝撃波だけで、石造りの牢獄に亀裂が走り、天井が崩落し始めた。

 

「うわぁっ!?」

 衝撃でナツの手から離れてしまったルーシィは、床に投げ出された。

 頭上から、巨大な瓦礫の塊が落下してくる。

(あ、死ぬ――)

 魔法を使えば防げるかもしれない。

 けれど、今のルーシィに魔力は残っていない。いや、使えばその瞬間に『同化』が進み、人ではなくなる。

 彼女は反射的に身をすくめ、死を覚悟した。

 ――その時だった。

 ルーシィの腰につけていた鍵束。

 ナツたちが取り返してくれたその中の一本が、勝手に黄金の光を放った。

「え……?」

 シュウウウ……!

 光の中から現れたのは、メイド服を着たピンク髪の星霊。

 『処女宮のバルゴ』。

「姫、お下がりください」

 バルゴは瓦礫の下に滑り込むと、その細い腕で巨大な岩塊を軽々と受け止めた。

 ズズン! と重い音が響くが、バルゴは微動だにしない。

「バルゴ……!? どうして……私、呼んでないのに……!」

「星霊は、契約者の危機には自らの意思で扉を開くこともあります。……ましてや、姫のような無茶をする主ならば尚更です」

 バルゴは瓦礫を投げ捨てると、埃まみれのルーシィを抱き上げ、安全な場所へと移動した。

「お仕置きは後ほどたっぷりと。今は、ただ生きていてください」

「……ありがとう……バルゴ……」

 契約の魔力消費(コスト)ではない。

 それは、星霊たちがルーシィへ向ける、純粋な「守護」の意思だった。

「へへっ……。お前、星霊にも好かれてんじゃねぇか」

 それを見たナツが、口元の血を拭ってニヤリと笑う。

 そして、ガジルへ向き直り、全身の炎をさらに燃え上がらせた。

「見たか鉄クズ! これがウチの魔導士だ! 指一本触れさせねぇぞ!!」

「チッ……。めんどくせぇな」

 戦いは、さらに激化していく。

 ルーシィはバルゴの腕の中で、薄れゆく意識を必死に繋ぎ止め、ナツの背中を見つめ続けていた。

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