星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜 作:暁 蒼空
ナツとガジルの激闘が要塞を揺らす中、ジョゼの魔法によって増幅された声が冷酷に響き渡った。
「妖精の連中よ、聞くがいい! 君たちが守ろうとしているその娘こそ、世界的な富豪、ハートフィリア財閥の令嬢だ! 今回の依頼主は実の父親……。家出した娘を連れ戻してほしいという、ただの親子喧嘩に君たちは巻き込まれたのだよ!」
一瞬、戦場に沈黙が流れた。
バルゴの腕の中で意識を朦朧とさせていたルーシィは、その言葉に絶望の淵へと突き落とされる。
「……私の、せい……。私のわがままで……レビィちゃんが……みんなが……」
自分の存在が、愛するギルドを滅ぼそうとしている。その罪悪感が、彼女の弱り切った肺をさらに圧迫し、呼吸が震えた。
そんなルーシィを嘲笑うように、ガジルが鉄の拳を構える。
「ギヒッ。お前さえいなけりゃ、この街もギルドも無事だったのになぁ。疫病神め」
しかし、その言葉を遮ったのは、炎を纏ったナツの咆哮だった。
「うるせぇぇぇぇ!!!」
ナツの拳がガジルの顔面にめり込む。
「親が誰だとか、金持ちだとか、そんなの関係ねぇ! 俺たちが見てるのは、今ここで泣いてるルーシィだけだ! お前が『妖精の尻尾』の仲間であることは、何があっても変わらねぇんだよ!!」
ナツの不器用で真っ直ぐな叫び。それが、ルーシィの凍りついた心に微かな「熱」を灯した。
要塞の最上階。ついに復活したマカロフが、ジョゼの前に立ちはだかった。
「ジョゼ……。わしは二つの罪でお前を許さん。一つは、わしの子供たちの血を流したこと。そしてもう一つは……」
マカロフの魔力が、要塞全体を震わせる。
「病床にあるあの子を攫い、その心まで踏みにじったことじゃぁぁ!!」
マカロフが両手を広げる。超絶審判魔法『フェアリーロウ』。
一切の邪気を許さぬ黄金の光が、幽鬼の要塞を飲み込んでいく。
「な、なんだこの光は……! わ、私の闇が消えていく……!!」
ジョゼの悲鳴と共に、要塞を覆っていた不浄な魔力が霧散した。ルーシィはその光の中に、おじいちゃんの深い愛情を感じながら、深く意識を沈めていった。
フェアリーロウの衝撃により、移動要塞が崩壊し始める。
意識を失い、崩落する瓦礫の中に投げ出されそうになるルーシィ。
その時、彼女の身体から、かつてないほど激しく、美しい金色の光が漏れ出した。
『……させないわよ』
傲慢な、けれどどこか慈愛に満ちたアクエリアスの声が虚空に響く。
『姫は、我らがお守りします』
バルゴが、その身体を盾にするように重なる。
『まだこっちへ来るには早すぎるぜ、カニ!』
キャンサーが、魔力のハサミで迫りくる瓦礫を切り裂く。
契約の魔力消費すら無視し、星霊たちが自らの意志でルーシィの周りに不可視の防壁を形成した。それは、彼女がどれほど星霊たちに愛され、必要とされているかの証でもあった。
戦いは終わった。
朝日が昇る中、ボロボロになったギルドメンバーたちが、勝利を噛み締めながらマグノリアへと帰還する。
ナツの背中には、意識のないルーシィが預けられていた。
彼女の右腕の痣は、鎖骨を越え、胸元までさらに深く侵食している。
けれど、その表情はかつての「屋敷のベッド」にいた時のような孤独なものではなかった。
「……ナツ……」
寝言のように、小さな声が漏れる。
ナツは一言も発さず、ただその背中の「重み」を確かめるように、しっかりと彼女を支えて歩き続けた。
妖精の尻尾(フェアリーテイル)は勝った。
けれど、ルーシィに残された「人間としての時間」が、刻一刻と削り取られていることを、まだ誰も知る由はなかった。