星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第13話:星の在処、命の使い道

ファントムロードとの戦いから復興が進むギルド。

 ルーシィはリハビリも兼ねて、ギルドの隅で本を読んでいた。

 右腕はまだ包帯で固定されており、その下では『星の宇宙』が静かに、しかし確実に範囲を広げている。

「……あれ?」

 ふと顔を上げると、カウンターで女性陣に囲まれているロキと目が合った。

 いつもなら「やぁ、愛しのルーシィ」と軽口を叩いてくるところだ。

 しかし、ロキはルーシィを見た瞬間、悲痛なほど顔を歪め、逃げるように背を向けた。

「また……避けられた」

 ここ数日、ずっとこれだ。

 嫌われているのだろうか? そう思ったが、ルーシィの感覚は別の答えを告げていた。

 ——匂うのだ。

 ロキの背中から、私の右腕と同じ……「あちら側」の匂いが。

 人間ではない、純粋な魔力と星屑の匂い。

「あの人は……私と同じ、同類(バケモノ)なの……?」

 ルーシィは胸のざわめきを抑えきれず、書き置きを残してギルドを出た。

 

 夕暮れの川沿い。

 カレン・リリカの墓標の前で、ロキは佇んでいた。

 その体は、夕闇に溶けるように点滅し、存在が希薄になり始めている。

「……来てしまったのか、ルーシィ」

 振り返ったロキの表情は、いつものチャラついたものではなく、死を受け入れた老人のようだった。

「やっぱり……貴方、人間じゃないわね」

「ああ。俺は星霊。獅子宮のレオだ」

 ロキは語り始めた。

 かつての主、カレン・リリカのこと。

 彼女の横暴を止めるために、自分が現界し続け、結果として彼女を死なせてしまったこと。

 そして、主を殺した星霊として、星霊界への帰還を禁じられたこと。

「俺は、あと数日で完全に消滅する。……それが罪の報いだ」

「そんな……! そんなの駄目よ!」

 ルーシィが駆け寄ろうとするが、ロキは手で制した。

「近寄るな! ……お前を見ていると、辛いんだ」

「え……?」

「お前は最高の星霊魔導士だ。……だが、その体を見てみろ。星霊魔法が、お前の命を食い尽くそうとしている」

 ロキの視線が、ルーシィの包帯が巻かれた右腕に向けられる。

「俺たち星霊に関われば、人は不幸になる。カレンも、お前も……」

 

「帰ってくれ。俺はここで、静かに消える」

 ロキが目を閉じる。

 その体から光の粒が溢れ出し、空へと昇っていく。死へのカウントダウン。

 それを見た瞬間、ルーシィの中で何かが弾けた。

(また、何もできずに見送るの? ……嫌だ!)

 ルーシィは震える手で、腰の鍵束ではなく、自分自身の魔力を練り上げた。

 

「開け! 獅子宮の扉!!」

 強制開門(フォース・ゲート)。

 星霊界への扉を無理やりこじ開けようとする。

「ぐ、ぁあああああっ!!」

 激痛が走る。右腕の星の痣が、高熱を発して暴れまわる。

 包帯が焼け焦げ、不気味に輝く宇宙が露わになる。

「やめろルーシィ!! お前の魔力じゃ耐えられない! 死ぬぞ!!」

「関係……ないっ!!」

 ロキが慌ててルーシィを止めようとするが、彼女は吐血しながらも術式を維持し続けた。

「やめるんだ! お前の命は、あと数年も持たないかもしれないんだぞ!?」

「だからよ!!」

 ルーシィは、血に濡れた口元で叫んだ。

 それは、誰にも言えなかった、彼女の魂の叫びだった。

「私の命なんて、どうせ長く持たないんだから! だったら友達のために使わせてよ!!」

「……っ!?」

 ロキが息を呑む。

 

「ベッドの上で……ただ枯れていくのを待つだけの命なら、いらない! 私は、今、貴方を救いたいの! 私の残り時間を全部あげたっていい!!」

「ルーシィ……お前……」

 彼女の右腕が、星霊界と共鳴し、眩い光を放ち始める。

 それは「同化症」という病がもたらした、悲しき奇跡。

 人間と星霊の境界が曖昧な彼女だからこそ、本来なら開かないはずの「追放された扉」に手が届いてしまったのだ。

「お願い……死なないで、ロキ……!! 私を、一人にしないでぇぇぇ!!」

 

 ルーシィの絶叫が夜空に響き渡った、その時。

 世界が停止した。

 ゴゴゴゴゴゴ……

 次元が割れる音と共に、巨大なヒゲを蓄えた星霊、星霊王が現れた。

『……旧き友よ、そして若き同胞よ』

 星霊王の瞳が、瀕死のルーシィと、消えかけのロキを見下ろす。

『人間でありながら星の理(ことわり)に近づきすぎた娘。その命を賭してまで、罪人を救うと言うか』

 ルーシィは意識が遠のく中で、必死に頷いた。

「……私の、全部を……あげるから……ロキを、許して……」

 その言葉は、王の心を動かした。

 あるいは、彼女の右腕に刻まれた「星の呪い」を見て、何かを感じ取ったのかもしれない。

『……よかろう。獅子宮のレオよ。貴様の罪は免じぬが、この娘の覚悟に免じて、星への帰還を許そう』

 光がロキを包み込む。

 彼の体が、実体を取り戻していく。

「王よ……! 感謝します……!」

 ロキは涙を流し、そして崩れ落ちたルーシィを抱きとめた。

 彼女の体は、氷のように冷たく、そして羽のように軽かった。

「……馬鹿な主だ。本当に、大馬鹿野郎だ……」

 ロキの腕の中で、ルーシィは満足げに微笑み、深い眠りへと落ちていった。

 その右腕の痣は、以前よりも強く、妖しく輝いていた。

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