星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜 作:暁 蒼空
マグノリアの東の森に住む薬師、ポーリュシカがギルドに到着したのは、ナツたちが帰還した直後だった。
彼女は不機嫌そうに、だが手際よくルーシィの容態を診て、空になった薬瓶の匂いを嗅いだ。
「……ふん。人間嫌いの私をこんな街中まで呼び出しておいて、見せるのがこのザマか」
ポーリュシカは、ベッドの脇に立つマカロフとナツたちを睨みつけた。
「結論から言おう。この娘の命は、あと三日保たん」
「なっ……!?」
「星霊王とやらが同化症を一時的に止めたのは奇跡だ。だが、それ以前の問題として、この娘の肉体はボロボロだ。本来ならとっくに死んでいてもおかしくない」
彼女は空の薬瓶を放り投げた。
「この薬は、ハートフィリア家お抱えの錬金術師が作った特注品だ。成分が複雑すぎて、私でも解析と調合には一ヶ月はかかる。……そんな時間は、この娘にはない」
三日。
その言葉が、死刑宣告のように重くのしかかる。
ベッドの上のルーシィは、高熱で意識を失ったままだ。苦しげに喘ぐその唇は、紫色に変色し始めていた。
「……行くぞ」
沈黙を破ったのはナツだった。
彼の拳は、血が滲むほど強く握りしめられている。
「ハートフィリアの屋敷へ行く。薬をもらってくる」
「待てナツ。相手はあのジュード・ハートフィリアだ。ただで薬を渡すとは思えん」
マカロフの言葉に、ナツは牙を剥いた。
「だったら奪う! 土下座でも何でもしてやる! ルーシィが死ぬよりマシだ!!」
「私も行く」
エルザが一歩前に出る。その瞳には、かつてない悲壮な決意が宿っていた。
「私の命を救ってくれたのは、ルーシィの言葉だった。……今度は私が、プライドを捨ててでもあの子を救う。たとえ、あの父親に頭を下げることになろうともな」
グレイも、ミラも、ギルド中のメンバーが頷いた。
かつてファントムロードとの戦争を引き起こした原因である父親。ルーシィを苦しめた元凶。
それでも、彼女の命には代えられない。
『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』は、仲間のために「最強の誇り」を捨てる覚悟を決めたのだ。
「……くだらねぇ」
その時、ギルドの二階から、嘲笑うような低い声が降ってきた。
ビリビリと空気が震え、静電気のような痛みが肌を刺す。
「誰だ!?」
「出戻りのガキ一人のために、頭を下げて媚びへつらうか。……随分と落ちぶれたもんだな、妖精の尻尾も」
そこに立っていたのは、金髪の短髪に、雷の魔力を纏った男。
マカロフの孫であり、S級魔導士のラクサス・ドレアーだった。
「ラクサス……! てめぇ、今なんて言った!」
「聞こえなかったか? 『弱ェ奴ほどよく吠える』って言ったんだよ」
ラクサスは、雷光と共に一階へ降り立った。
その視線が、医務室のベッドで死にかけているルーシィに向けられる。
「そんな死に損ない、放っておけ。ギルドの恥だ」
「貴様ッ!!」
ナツが飛びかかるが、ラクサスの放った雷撃によって一撃で吹き飛ばされた。
圧倒的な魔力差。
「おいジジイ。こんなぬるま湯ごっこはもう終わりだ。……俺がギルドを作り変えてやる」
「作り変えるだと……?」
「ああ。弱者は切り捨て、最強だけが残るギルドにな。……手始めに、そこの病人をエサにさせてもらうぜ」
ラクサスが指を鳴らすと、ギルドの外から結界術式(ルーン)が発動した。
フリードの術式だ。
『術式内ノ者、外出ヲ禁ズ』
「なっ……出られない!?」
「薬を取りに行きたきゃ、俺を倒してから行け。……ただし、タイムリミットは三日だろ? それまでに俺たち『雷神衆』を全滅させられればの話だがな」
ラクサスは狂気的な笑みを浮かべた。
「バトル・オブ・フェアリーテイルの開催だ!! 最強を決める祭りを始めようぜぇ!!」
ギルド内が騒然となる。
外に出なければ、ルーシィは死ぬ。
だが、出るためには仲間同士で潰し合い、最強のラクサスを倒さなければならない。
「ラクサス……! 貴様、仲間の命を何だと思っている!!」
エルザが剣を換装させる。
しかし、ラクサスは鼻で笑った。
「仲間? 弱ェ奴は仲間じゃねぇ。……ルーシィだったか? あいつが死ねば、ギルドも少しはマシになるだろうよ」
その言葉が、決定的な引き金となった。
マカロフが心臓の発作を押さえて崩れ落ちる中、ナツ、グレイ、エルザ……全員の殺気が膨れ上がる。
ルーシィの命を懸けた、身内同士の最悪の戦争が幕を開けた。
高熱にうなされるルーシィは、遠のく意識の中で、雷鳴の轟きと、仲間たちの怒号を聞いていた。
(ごめんなさい……また、私のせいで……)
彼女の頬を、涙が一筋伝い落ちた。