星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第16話:弱き者の誇り、強き者の罪

「さあ、見世物の始まりよ! 妖精の舞踏(フェアリー・ダンス)!」

 ラクサスの親衛隊『雷神衆』の一人、エバーグリーンの魔法により、ギルドに残っていた女性魔導士たちが次々と石像へと変えられていった。

 エルザ、カナ、ビスカ……。美しい彫像と化した彼女たちは、ラクサスへの従順を誓わせるための「人質」となった。

 しかし、医務室のベッドで高熱に喘ぐルーシィだけは、その石化の光を受けなかった。

「……あら、この子は?」

 エバーグリーンが扇子で口元を隠し、冷ややかな視線をルーシィに落とす。

「石にする価値もないわね。魔力が不安定すぎて、石化させたらその瞬間に砕け散ってしまうわ。……それに、どうせ放っておいても死ぬ命でしょう?」

「……ぅ……」

 薄れゆく意識の中で、ルーシィはその言葉を聞いていた。

 人質にすらなれない。

 仲間たちが美しい石像として戦いの渦中に在るのに対し、自分だけが「死に損ない」として、戦場の片隅に打ち捨てられている。

(私は……みんなと同じ場所に立つ資格すらないの……?)

 その孤独は、病の痛み以上に彼女の心を抉った。

 

 ギルドの外では、仲間同士の潰し合いが激化していた。

 そんな中、術式(ルーン)の使い手であるフリード・ジャスティーンが、医務室の前へと姿を現した。

「……ここか。ギルドの『弱さ』の象徴が眠る場所は」

「フリード! そこを通すわけにはいかないわ!」

 立ちはだかったのは、ミラジェーンだった。

 しかし、戦闘から長く離れていた彼女は、フリードの冷徹な剣技と術式の前に防戦一方となる。

「退け、ミラジェーン。私はラクサスのために、このギルドの膿を出し切る」

「膿ですって……!? あの子は家族よ!」

「家族? その甘さがギルドを腐らせたのだ」

 フリードは剣先を医務室のドアに向けた。そして、残酷な術式を描く。

『苦痛ノ幻影(ペイン・イリュージョン)』

「あの子が最も恐れている絶望を見せてやろう。……例えば、唯一の希望である薬瓶が、無惨に砕け散る幻影などをな」

 フリードの指先から放たれた魔法が、ルーシィの枕元に残されていた「空の薬瓶」の幻影を作り出し、それを粉々に踏み砕いて見せた。

 

「……あ、あぁぁ……」

 ベッドの上のルーシィが、幻覚に反応して悲鳴を上げ、過呼吸を起こす。

 最後の希望が断たれた絶望。その精神的ショックは、今の彼女には致死的だった。

「やめなさい!!」

 ルーシィの苦しむ声を聞いた瞬間。

 ミラジェーンの中で、何かが弾け飛んだ。かつて妹を失ったトラウマ、優しい看板娘としての仮面。それら全てが、怒りの炎で焼き尽くされた。

「……よくも……私の家族を……!!」

 ドォォォォォン!!

 黒い波動がギルドを包み込む。

 優しき『魔人(サタンソウル)』が、病床の妹を守るために、再びその翼を広げた。

 

 マグノリアを見下ろすカルディア大聖堂。

 雷鳴轟く中、ナツとガジルは、圧倒的な力を持つラクサスと対峙していた。

「ハハハ! どうしたナツ、ガジル! 滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)といってもその程度か!」

 ラクサスの雷撃を受け、二人は膝をつく。

 力の差は歴然だった。

 ラクサスは倒れたナツを見下ろし、嘲笑を浮かべた。

「お前らがそんなだから、あのハートフィリアの女も死ぬんだよ。……弱ェ奴は、周りを不幸にするだけだ。さっさと楽にしてやった方が、あいつのためだったかもな?」

「……ふざ、けるな……」

 ナツが、ゆらりと立ち上がる。

 その拳に纏う炎が、赤から紅蓮へと色を変えていく。

「ルーシィは……弱くなんかねぇ……!」

 ナツの脳裏に浮かぶのは、医務室での彼女の姿ではない。

 ファントムとの戦いで、ボロボロになりながらも仲間を信じた瞳。

 ロキを救うために、自分の命を投げ出した覚悟。

 そして、高熱にうなされながらも、「いってらっしゃい」と自分たちを送り出した、あの笑顔。

「あいつはな……! 息をするだけで痛いんだ! 立ってるだけで、命が削れていくんだ! それでも……あいつは笑って、俺たちの背中を押してくれた!」

 ナツの咆哮が、雷鳴を搔き消す。

「痛くても! 苦しくても! 心の強さは、テメェなんかよりずっと上だぁぁぁ!!!」

 紅蓮爆炎刃!!!

 ナツの拳が、ガジルの鉄柱のサポートを受け、ラクサスの顎を捉える。

 それは、「最強」を自負する男の傲慢を砕く、真の「強さ」を知る者の一撃だった。

 大聖堂が崩壊する。

 遠く離れた医務室で、ルーシィは微かに目を開けた。

 窓の外に、温かい炎の色が見えた気がしたからだ。

「……ナツ……」

 彼女の右腕の痣が、炎に呼応するように、一際強く輝いた。

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