星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

18 / 61
第17話:幻想のパレード、頭を垂れる竜と妖精

『バトル・オブ・フェアリーテイル』が終結した夜。

 マグノリアの街は、光のパレード『ファンタジア』の熱気に包まれていた。

 美しい魔法の光が夜空を彩り、人々の歓声が響き渡る。

 しかし、その光の輪の中に、ルーシィの姿はなかった。

 ギルドの医務室。

 窓から漏れ入る光を、ベッドの上でぼんやりと見つめることしかできなかった。

「……きれい」

 熱に浮かされた瞳に、七色の光が映る。

 参加したかった。みんなと一緒に、あの光の中を歩きたかった。

 けれど、今の彼女には指一本動かす力も残っていない。

 ふと、窓の外に人影が立った。

 コートを羽織り、旅支度をした大柄な男――ラクサスだ。

 彼は破門を言い渡され、街を出て行くところだった。

「……チッ」

 ラクサスは窓越しにルーシィと目が合うと、バツが悪そうに視線を逸らした。

 そして、窓枠に「何か」を置いて、無言で去っていった。

 それは、高品質な**『暖房魔水晶(ヒーター・ラクリマ)』**だった。雷の魔力で長時間、適度な熱を発し続ける高級品だ。

(……ありがとう、ラクサス)

 不器用な「罪滅ぼし」に、ルーシィは微かに口元を緩めた。

 

 パレードが終わると同時に、ギルドはお祭りムードから一転、緊迫した空気に包まれた。

 ポーリュシカが、厳しい顔でナツたちに告げる。

「パレードなどしている場合ではなかったのだがな。……この娘の命は、あと半日も保たん」

 ルーシィの呼吸は浅く、不規則になっていた。

 星霊同化症の侵食は止まっているが、衰弱しきった心臓が限界を迎えようとしている。

「行くぞ」

 ナツが立ち上がる。その顔に迷いはない。

「ハートフィリアの屋敷へ。……薬をもらいに行く」

「ああ。どんな手を使ってでもな」

 グレイも、エルザも頷く。

 彼らは戦闘衣装のまま、傷の手当てもそこそこにギルドを飛び出した。

 最強チームが向かう先は、魔物の巣窟ではない。

 たった一つの「薬瓶」を持つ、冷酷な父親の元だ。

 

 ハートフィリア財閥の広大な屋敷。

 その門前に、ナツ、グレイ、エルザ、ハッピーが立っていた。

 門番たちが武器を構えるが、エルザの鋭い眼光だけで道を開ける。

 通された応接間には、当主ジュード・ハートフィリアが座っていた。

 彼は冷ややかな目で、薄汚れた魔導士たちを見下ろした。

「……何の用だ。娘を返さないと言って戦争まで起こした野蛮人どもが」

「薬をください」

 単刀直入に、エルザが切り出した。

「ルーシィには、あなたの屋敷にある特注の薬が必要です。……あれがないと、あの子は死んでしまう」

「ほう」

 ジュードは興味なさそうに紅茶を啜った。

「家出した娘だ。野垂れ死のうが知ったことではない。……それに、君たちは私の商談を何度も邪魔してくれたな?」

「っ……!」

 ナツの拳が震える。今すぐこの傲慢な男を殴り飛ばしてやりたい。

 だが、ここで暴れれば、ルーシィの薬は手に入らない。

「お願いします!!」

 ダンッ!!

 ナツが、床に額を擦り付けた。

 プライドの高い滅竜魔導士が。誰よりも負けず嫌いな男が。

 ただ一人の少女のために、最も嫌悪する相手に頭を下げた。

「ルーシィを助けてくれ! あいつは……俺たちの大事な仲間なんだ!! 金ならいくらでも払う! だから……薬をくれ!!」

 続いて、エルザが、グレイが、ハッピーが。

 『妖精の尻尾』最強の魔導士たちが、一斉に土下座をした。

「……お願いする。あの子の未来を、奪わないでくれ」

「頼む……!」

 ジュードは、床に這いつくばる彼らを冷たく見下ろしたまま、沈黙を守った。

 

「……不愉快だ」

 ジュードは懐から小瓶を取り出し、テーブルに放り投げた。

 カラン、と乾いた音が響く。

「持って行け。……ただし、二度と私の前に顔を見せるな」

 それは慈悲ではない。これ以上、自分に関わるなという絶縁宣言だった。

「その娘にも伝えておけ。『お前はもう死んだものと思っている』とな」

 ナツは薬瓶を大事に握りしめると、ゆっくりと立ち上がった。

 その瞳には、燃えるような怒りと、深い悲しみが宿っていた。

「……あぁ、伝えておくよ」

 ナツはジュードを睨みつけた。

「あんたにとっては死んだ娘かもしれない。……だがな、俺たちにとっては、かけがえのない『生きた』仲間だ。……二度とあいつを、あんたの道具にはさせねぇ」

 ナツたちは踵を返し、屋敷を去った。

 礼は言わなかった。これは取引でも施しでもない。家族を守るための闘争だったのだから。

 

 ギルドに戻ったナツたちは、すぐに薬をルーシィに飲ませた。

 数時間後。

 ルーシィの呼吸が落ち着き、顔に微かな赤みが戻ってきた。

「……ん……」

 ゆっくりと瞼を開ける。

 視界に入ってきたのは、心配そうに覗き込むナツ、ハッピー、エルザ、グレイの顔。そして、枕元に置かれた「満タンの薬瓶」。

「……これ……お父様の……?」

「ああ。もらってきた」

 ナツは短く答えた。

 ルーシィは、ナツの服の膝や額が、土で汚れていることに気づいた。

 エルザの鎧にも、グレイの服にも、土埃がついている。

(あのお父様が、素直に薬をくれるはずがない。……みんな、何をしたの?)

 想像するだけで胸が詰まった。

 あんなに誇り高い人たちが、私のために、あの男に頭を下げたのだ。

「……ごめんね。……ありがとう」

 ルーシィの目から涙が溢れる。

 ナツはニカッと笑って、彼女の頭を乱暴に撫でた。

「いいってことよ。……おかえり、ルーシィ」

「あい! 魚もあるぞ!」

 こうして、ルーシィの命は首の皮一枚で繋がった。

 だが、これは一時的な延命に過ぎない。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。