星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜 作:暁 蒼空
フィオーレ王国の北部、ワース樹海を見下ろす『青い天馬(ブルーペガサス)』の別荘。
そこに、闇ギルド最大勢力『バラム同盟』の一角、『六魔将軍(オラシオンセイス)』を討つための連合軍が集結していた。
『妖精の尻尾』からは、ナツ、グレイ、エルザ、ハッピー。
そして、厚手のコートに身を包んだルーシィが参加していた。
「ルーシィ、本当に大丈夫か? やっぱり戻ったほうが……」
「平気よ、グレイ。薬のおかげで、だいぶ楽になったもの」
ルーシィは気丈に笑ってみせたが、その顔色は依然として優れない。
本来なら絶対安静だ。だが、この樹海には「あらゆる病を癒やす伝説の薬草」が自生しているという情報があった。
ナツたちが自分のために頭を下げて手に入れた薬も、いつ尽きるか分からない。ならば、自分の足で「完治」の可能性を探しに行きたかったのだ。
『青い天馬』のイケメントリオ(ヒビキ、イヴ、レン)や、『蛇姫の鱗(ラミアスケイル)』のジュラ、リオンたちが顔を揃える中、最後のギルド『化猫の宿(ケット・シェルター)』からの使者が到着した。
ドテッ!
派手に転んだのは、青い髪の小さな少女だった。
「す、すみません! 遅くなりました!」
「……子供?」
一同が呆気にとられる中、少女は恥ずかしそうに名乗った。
「ウェンディ・マーベルです。……あの、戦いは得意じゃないんですけど、治癒魔法なら……」
「治癒魔法!?」
ルーシィの瞳が揺れた。
治癒に特化した『天空の滅竜魔法(ドラゴンスレイヤー)』。
もしかしたら、この子の魔法なら、私の身体も……。
作戦が開始され、一行は魔導爆撃艇『クリスティーナ』ではなく、徒歩で樹海へと踏み入った。
ワース樹海特有の濃密な魔力濃度(エーテルナノ)は、魔導士にとっては心地よいものだが、過敏症のルーシィにとっては猛毒の霧の中を歩くようなものだった。
「はぁ、はぁ……っ……」
歩き始めて数時間。ルーシィの足取りが重くなる。
肺が焼けるように熱い。心臓が早鐘を打つ。
(……おかしい。さっき薬を飲んだばかりなのに)
ルーシィは皆に見えないよう、木の陰で小瓶を取り出した。
父からもらった特効薬。
最初は一錠で半日は楽になった。
それが今は、数時間しか持たない。
(……効かなくなってきてる……?)
恐怖が背筋を走る。
ルーシィは震える手で、一錠……いや、二錠を掌に出し、水もなしに飲み込んだ。
苦い味が喉に広がる。
「ルーシィ? どうした?」
「っ! ううん、なんでもない! 靴紐が解けちゃって!」
ナツに声をかけられ、慌てて笑顔を作る。
薬への耐性がつき始めている。このペースで飲み続ければ、この瓶が空になる頃には、もうどんな薬も効かなくなるだろう。
休憩中、ウェンディがルーシィの異変に気づいて近寄ってきた。
「あの、ルーシィさん。……お顔色が、すごく悪いです。少し、魔法をかけましょうか?」
「え……いいの?」
「はい! 『トロイア』は平衡感覚を治す魔法ですけど、体力回復の魔法も使えますから」
ウェンディの小さな手が、ルーシィの右腕(包帯の上から)にかざされる。
優しい風の魔力が流れ込んでくる。
……しかし、ウェンディの表情が曇った。
「……あれ?」
「どうしたの、ウェンディちゃん?」
「魔力が……抜けちゃうんです。まるで、ザルのように……」
ウェンディは悲しげに首を振った。
「ごめんなさい……。怪我や疲れなら癒せるんですけど、ルーシィさんのこれは……身体の『器』そのものが壊れかけていて……私の魔法じゃ、追いつかない……」
希望の糸が、プツリと切れた音がした。
滅竜魔法でも治せない。
やはり、伝説の薬草か、あるいはもっと強力な「何か」を探すしかないのだ。
「ううん、ありがとうウェンディ。少し楽になったわ」
ルーシィは精一杯の嘘をついた。
その時、樹海の奥から不穏な笑い声が響いた。
「あらあら、楽しそうなお散歩ねぇ」
空から舞い降りたのは、白い装束の女魔導士・エンジェル。
そして毒蛇を操るコブラ、俊足のレーサー。
『六魔将軍』が動き出したのだ。
「敵襲!!」
エルザが剣を抜く。
ルーシィも構えようとした瞬間、過剰摂取(オーバードーズ)した薬の副作用と、敵の放つ殺気に当てられ、視界がぐらりと歪んだ。
「ガハッ……!」
盛大に血を吐き、その場に崩れ落ちる。
「ルーシィ!!」
ナツが叫ぶ。
エンジェルが冷酷に微笑んだ。
「あら、もう死にそうな子が混ざってるわね。……星霊魔導士? ふふ、いいわ。その鍵、私がもらってあげる」
エンジェルの背後から、星霊『ジェミニ』が現れる。
ルーシィは霞む目で、自分の腰の鍵を握りしめた。
(渡さない……。この鍵も、命も……まだ、終われないっ……!)
効かぬ薬を体に流し込み、少女は絶望的な戦場へと身を投じる。