星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第18話:天空の巫女と、効かぬ劇薬

 フィオーレ王国の北部、ワース樹海を見下ろす『青い天馬(ブルーペガサス)』の別荘。

 そこに、闇ギルド最大勢力『バラム同盟』の一角、『六魔将軍(オラシオンセイス)』を討つための連合軍が集結していた。

 『妖精の尻尾』からは、ナツ、グレイ、エルザ、ハッピー。

 そして、厚手のコートに身を包んだルーシィが参加していた。

「ルーシィ、本当に大丈夫か? やっぱり戻ったほうが……」

「平気よ、グレイ。薬のおかげで、だいぶ楽になったもの」

 ルーシィは気丈に笑ってみせたが、その顔色は依然として優れない。

 本来なら絶対安静だ。だが、この樹海には「あらゆる病を癒やす伝説の薬草」が自生しているという情報があった。

 ナツたちが自分のために頭を下げて手に入れた薬も、いつ尽きるか分からない。ならば、自分の足で「完治」の可能性を探しに行きたかったのだ。

 

 『青い天馬』のイケメントリオ(ヒビキ、イヴ、レン)や、『蛇姫の鱗(ラミアスケイル)』のジュラ、リオンたちが顔を揃える中、最後のギルド『化猫の宿(ケット・シェルター)』からの使者が到着した。

 ドテッ!

 派手に転んだのは、青い髪の小さな少女だった。

「す、すみません! 遅くなりました!」

「……子供?」

 一同が呆気にとられる中、少女は恥ずかしそうに名乗った。

「ウェンディ・マーベルです。……あの、戦いは得意じゃないんですけど、治癒魔法なら……」

「治癒魔法!?」

 ルーシィの瞳が揺れた。

 治癒に特化した『天空の滅竜魔法(ドラゴンスレイヤー)』。

 もしかしたら、この子の魔法なら、私の身体も……。

 

 作戦が開始され、一行は魔導爆撃艇『クリスティーナ』ではなく、徒歩で樹海へと踏み入った。

 ワース樹海特有の濃密な魔力濃度(エーテルナノ)は、魔導士にとっては心地よいものだが、過敏症のルーシィにとっては猛毒の霧の中を歩くようなものだった。

「はぁ、はぁ……っ……」

 歩き始めて数時間。ルーシィの足取りが重くなる。

 肺が焼けるように熱い。心臓が早鐘を打つ。

(……おかしい。さっき薬を飲んだばかりなのに)

 ルーシィは皆に見えないよう、木の陰で小瓶を取り出した。

 父からもらった特効薬。

 最初は一錠で半日は楽になった。

 それが今は、数時間しか持たない。

(……効かなくなってきてる……?)

 恐怖が背筋を走る。

 ルーシィは震える手で、一錠……いや、二錠を掌に出し、水もなしに飲み込んだ。

 苦い味が喉に広がる。

「ルーシィ? どうした?」

「っ! ううん、なんでもない! 靴紐が解けちゃって!」

 ナツに声をかけられ、慌てて笑顔を作る。

 薬への耐性がつき始めている。このペースで飲み続ければ、この瓶が空になる頃には、もうどんな薬も効かなくなるだろう。

 

 休憩中、ウェンディがルーシィの異変に気づいて近寄ってきた。

「あの、ルーシィさん。……お顔色が、すごく悪いです。少し、魔法をかけましょうか?」

「え……いいの?」

「はい! 『トロイア』は平衡感覚を治す魔法ですけど、体力回復の魔法も使えますから」

 ウェンディの小さな手が、ルーシィの右腕(包帯の上から)にかざされる。

 優しい風の魔力が流れ込んでくる。

 ……しかし、ウェンディの表情が曇った。

「……あれ?」

「どうしたの、ウェンディちゃん?」

「魔力が……抜けちゃうんです。まるで、ザルのように……」

 ウェンディは悲しげに首を振った。

「ごめんなさい……。怪我や疲れなら癒せるんですけど、ルーシィさんのこれは……身体の『器』そのものが壊れかけていて……私の魔法じゃ、追いつかない……」

 希望の糸が、プツリと切れた音がした。

 滅竜魔法でも治せない。

 やはり、伝説の薬草か、あるいはもっと強力な「何か」を探すしかないのだ。

「ううん、ありがとうウェンディ。少し楽になったわ」

 ルーシィは精一杯の嘘をついた。

 その時、樹海の奥から不穏な笑い声が響いた。

 

「あらあら、楽しそうなお散歩ねぇ」

 空から舞い降りたのは、白い装束の女魔導士・エンジェル。

 そして毒蛇を操るコブラ、俊足のレーサー。

 『六魔将軍』が動き出したのだ。

「敵襲!!」

 エルザが剣を抜く。

 ルーシィも構えようとした瞬間、過剰摂取(オーバードーズ)した薬の副作用と、敵の放つ殺気に当てられ、視界がぐらりと歪んだ。

「ガハッ……!」

 盛大に血を吐き、その場に崩れ落ちる。

「ルーシィ!!」

 ナツが叫ぶ。

 エンジェルが冷酷に微笑んだ。

「あら、もう死にそうな子が混ざってるわね。……星霊魔導士? ふふ、いいわ。その鍵、私がもらってあげる」

 エンジェルの背後から、星霊『ジェミニ』が現れる。

 ルーシィは霞む目で、自分の腰の鍵を握りしめた。

(渡さない……。この鍵も、命も……まだ、終われないっ……!)

 効かぬ薬を体に流し込み、少女は絶望的な戦場へと身を投じる。

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