星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第19話:天の測量、蝕まれる右腕

ワース樹海の戦場は、混沌を極めていた。

 ナツたちがそれぞれの敵と交戦する中、ルーシィは白い装束の星霊魔導士、エンジェルと対峙していた。

「さあ、まずはその生意気な口をきけなくしてあげるわ。……開け、天蠍宮の扉! スコーピオン!」

「くっ……! 開け、金牛宮の……!」

 ルーシィも応戦しようと鍵を握る。しかし、魔力を練り上げた瞬間、過剰摂取した薬の毒性と、病魔に侵された肺が悲鳴を上げた。

「ガハッ……!!」

 魔法が発動する前に、大量の血を吐いて膝をつく。

 スコーピオンの砂嵐が、無防備なルーシィを容赦なく吹き飛ばした。

「きゃあぁぁっ!!」

「あらあら、弱い。弱すぎるわねぇ。それでも星霊魔導士かしら?」

 エンジェルが冷酷に笑いながら近づいてくる。

 地面に倒れ伏すルーシィの視界は霞み、指一本動かせない。

 悔しい。みんなが戦っているのに。私だけが、また、守られることすらできずに散っていくのか。

「ジェミニ。こいつに変身して、記憶を覗いてごらん。どんな無様な人生を送ってきたのかしらね」

 エンジェルの命令で、双子座の星霊ジェミニがルーシィの姿に変身する。

 ジェミニはルーシィの心の中を覗き込み――そして、動きを止めた。

「……きれい」

「ああん? 何言ってるのよ」

「こいつの心……星霊への愛で溢れてる。……ボクたちのこと、道具だなんて思ってない……仲間だって……」

 ジェミニの言葉に、ルーシィは泥だらけの顔を上げた。

 意識が遠のく中、彼女は思う。

 (星霊は……道具じゃない。私の、大切な家族……!)

 

「……聞こえるかい、ルーシィちゃん」

 その時、脳内に直接響く声があった。『青い天馬』のヒビキだ。彼の古文書魔法(アーカイブ)による念話。

「ヒビキ、さん……? 私、もう……」

「諦めちゃだめだ! 君にはまだ、戦う手段がある!」

 ヒビキの声は焦っていた。

「君の星霊への想い……それが、アーカイブに眠る『超魔法』の開示条件を満たしたんだ。今から君の脳内に、その術式を直接ダウンロードする!」

「超、魔法……?」

「ただし、聞いてくれ! 今の君の体でそれを使えば、どうなるか分からない。魔力回路が焼き切れ、最悪の場合、命を落とすかもしれない!」

 ルーシィは、震える手で地面を掴んだ。

 このままここで犬死にするか。それとも、命を削ってでも、魔導士として戦うか。

「……やって、ください」

 迷いはなかった。

「私、もう……誰かの背中に隠れて泣いているだけの「お荷物」は嫌なの!」

 

「いくよ……!」

 次の瞬間、ルーシィの頭蓋骨が割れるほどの激痛が走った。

 膨大な知識と術式が、無理やり脳にねじ込まれてくる。鼻と口から血が噴き出す。

「ぐ、あぁぁぁぁっ!!!」

「な、何よ!? 急に魔力が……!」

 エンジェルが後ずさる。

 瀕死のはずの少女から、神々しいまでの魔力が立ち昇り始めたからだ。

 ルーシィはふらりと立ち上がった。その瞳は焦点が合っていないが、口は勝手に詠唱を紡ぎ出す。

「測天の機(き)……開闢(かいびゃく)の星々よ……その輝きをもって、我に力を……!」

 昼間の樹海の空が、急速に夜へと変わる。無数の星々が輝き出し、ルーシィを中心に魔力の奔流が渦を巻いた。

「テトラビブロスよ……我は星の支配者……完全なる解放を……!」

「や、やめなさい! スコーピオン、ジェミニ! あいつを殺せぇぇ!!」

「遅いわ……!」

 ルーシィが右腕を天に突き上げる。ストールが魔力の余波で弾け飛ぶ。

「荒れ狂う天よ! 星彩の裁きを! ウラノ・メトリアァァァァ!!!」

 天から降り注ぐ無数の星の光が、エンジェルとその星霊たちを飲み込んだ。

 それは、病弱な少女が放ったとは信じ難い、最強の星霊魔法の一撃だった。

 

 光が収まると、そこには気絶したエンジェルと、消滅した星霊たちの姿があった。

 そして、全ての魔力を使い果たしたルーシィが、糸が切れた人形のように倒れ込んだ。

「はぁ……はぁ……っ……か、勝った……の……?」

 全身が鉛のように重い。肺が機能しているのかさえ分からない。

 けれど、彼女は勝ったのだ。自分の力で。

 ルーシィは、震える体で仰向けになり、自分の右腕を持ち上げた。

 そして、息を呑んだ。

「……あ……」

 ストールが吹き飛び、露わになった右腕。

 以前は肩口までだった濃紫色の『星の痣』が、二の腕を越え、肘を過ぎ、前腕を覆い尽くし――手首の関節まで、びっしりと侵食していた。

 右腕全体が、不気味に瞬く夜空そのものになっていた。

 指先の感覚が、もうほとんどない。

「……代償、ね」

 ルーシィは乾いた笑みを漏らした。

 魔導士としての勝利。その対価として、彼女は人間の腕を一本、星の世界へ差し出したのだ。

 遠くで、巨大な何かが動き出す地響きが聞こえる。

 古代兵器ニルヴァーナの復活。

 戦いはまだ終わらない。けれど、今のルーシィには、もう立ち上がる力は残されていなかった。

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