星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第23話:奪われた太陽、震える星の決断

エドラスの森を駆けるナツたちの前に、冷酷な影が立ちはだかった。

 王国軍、第二魔戦部隊隊長、エルザ・ナイトウォーカー。

 その顔は、アースランドのエルザと同じだが、纏う空気は氷のように冷たかった。

「見つけたぞ、アースランドの魔導士ども」

 彼女が振るう変幻自在の槍『テン・コマンドメンツ』が、ナツたちを襲う。

「くそっ! 火竜の……鉄拳!!」

 ナツが拳を振るう。しかし、炎が出ない。

 この世界には空気中の魔力(エーテルナノ)が枯渇しているため、アースランドの魔導士は魔法を使えないのだ。

「な、なんでだ!? 火が出ねぇ!」

「魔法など必要ない。貴様らはただの魔力供給源(ラクリマ)になればいいのだ」

 ナイトウォーカーの一撃が、無防備なナツを吹き飛ばす。

 ウェンディも、シャルルと共に網に捕らえられた。

「ナツさん! ウェンディ!」

「逃げろハッピー! ルーシィを連れて行け!!」

 ナツの叫び声。

 ルーシィは恐怖で足がすくみ、動けなかった。

 ナツが倒れている。最強の彼が、一方的にやられている。

「いやぁぁ! ごめんなさい、ごめんなさい! 私が悪いんですぅぅ!」

「ルーシィ! しっかりして!」

 ハッピーが泣きながらルーシィの襟首を掴み、空へ舞い上がった。

 アシュレイたちエドラスの妖精の尻尾も、蜘蛛の子を散らすように逃走する。

 遠ざかる視界の中で、ルーシィは見た。

 ナツが、自分を逃がすために槍で貫かれ、血を流しながら倒れる姿を。

 その光景は、彼女の心の均衡を完全に破壊した。

 

 逃げ込んだ先は、地下にあるアシュレイたちの隠れ家だった。

 湿った洞窟の中で、ルーシィは膝を抱えて震え続けていた。

「うぅ……ごめんなさい……パパ……ナツ……」

「……おい」

 アシュレイが近づいてくる。

 ルーシィはビクリと反応し、頭を守るように腕を上げた。

「ぶたないで……! いい子にします……外出ません……!」

「……チッ」

 アシュレイは苛立ちを隠さず、ルーシィの目の前にしゃがみ込んだ。

「アンタの仲間、捕まったんだぞ。……ここで一生、そうやって震えてるつもりか?」

「だ、だって……私、何もできない……お荷物だから……」

「そうだな。今のアンタはただの荷物だ。……ナツって奴、アンタを守るために囮になったんだろ?」

 その言葉が、鋭い刃物のようにルーシィの胸を抉る。

 守られた。また、犠牲を出した。

 私は疫病神だ。私がいると、みんな不幸になる。

「……死んだほうが、いいのかな……」

 ルーシィの瞳から光が消えかける。

 その時。

 バチンッ!!

 乾いた音が洞窟に響いた。

 アシュレイが、ルーシィの頬を平手打ちしたのだ。

「甘ったれんな!!」

 

「い、痛い……」

「痛いか? そりゃそうだ、生きてんだからな!」

 アシュレイはルーシィの胸倉を掴み上げ、壁に押し付けた。

「アンタの仲間はまだ生きてる! 助けを待ってる! なのにアンタは、自分が楽になるために死のうとしてんのか!?」

「で、でも……魔法も使えないし……体もボロボロで……!」

「関係ねぇよ!」

 アシュレイの瞳が燃えていた。

 それは、ルーシィが失ってしまった「反骨心」の輝きだった。

「私らだって魔法なんて使えねぇ! 王国軍に追われて毎日ビクビクしてる! ……でもな、仲間を見捨てるくらいなら、噛み付いて死んでやるって覚悟決めてんだよ!」

 アシュレイの手が離される。

 ルーシィはその場にへたり込んだ。

 頬の痛みが、熱を持っている。それはナツの魔法のような温かさではなく、冷たい現実を突きつける痛みだった。

「……アンタはどうすんだ? ここで震えて待ってんのか? それとも、あのバカ(ナツ)を助けに行くのか?」

 問いかけられたルーシィは、自分の右腕を見た。

 手首まで侵食された星の痣。醜く、冷たい、呪いの証。

 けれど、アシュレイはこれを「勲章」だと言った。

(……待っていても、誰も助けてくれない)

(お父様もいない。ナツもいない。……私しか、いない)

 ルーシィの奥底で、何かが軋む音がした。

 それは、依存していた「子供の心」が砕け、代わりに冷徹な「覚悟」が芽生える音だった。

「……行く」

「あ?」

「私が……ナツを助けに行く……」

 ルーシィはよろりと立ち上がった。

 その瞳はまだ怯えている。足も震えている。けれど、もう座り込むことはしなかった。

 

 その決意に呼応するように、異変が起きた。

 ドクン……ッ!

 ルーシィの右腕が、強く脈打ったのだ。

 魔法が使えないはずのエドラスで、彼女の腕だけが、青白く、そして禍々しく発光し始めた。

「な、なんだ!? アンタの腕!」

「……熱い……」

 ルーシィは右腕を抑えた。

 アースランドでは「命を削る毒」だった星霊魔力が、この魔力枯渇世界では「唯一無二の魔力源」として暴走を始めたのだ。

 彼女の指先から、星屑のような魔力が漏れ出し、空間を焦がす。

「これなら……戦える……?」

 痛い。骨が軋むほど痛い。

 けれど、この痛みがあれば、私は「お荷物」じゃない。

 武器になれる。

「……アシュレイさん。王都への道を教えてください」

 顔を上げたルーシィの表情は、憑き物が落ちたように静かだった。

 しかし、その瞳には、狂気にも似た暗い炎が宿っていた。

「私の命全部使ってでも……あの人たちを、取り返すから」

 その姿に、アシュレイは息を呑んだ。

 怯えていた少女はもういない。そこにいるのは、手負いの獣だった。

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