星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第24話:逆さまの守護者、星喰いの腕

エドラスの王都。

 無機質な鉄の街並みを、フードを目深に被った一団が進む。

 アシュレイを先頭に、ハッピー、シャルル、そしてルーシィだ。

「止まれ! 貴様ら、何者だ!」

 巡回中の王国兵に見つかる。槍を構えた兵士たちが殺到する。

 通常なら、魔法の使えないアースランドの魔導士は逃げるしかない。

 だが、ルーシィは一歩も引かなかった。

「……どいて」

 彼女は、包帯で隠していた右腕を突き出した。

 瞬間、カッ!! と青白い閃光が走った。

「ぐわぁぁぁぁっ!?」

 触れてもいないのに、兵士たちが دمまりのように吹き飛ぶ。

 魔法? いや、ただの魔力の放出だ。

 エドラスという「魔力の真空」において、高濃度の魔力塊と化した彼女の右腕は、蓋を開けた高圧ボンベのように暴走していた。

「な、何だよ今の威力……!」

 アシュレイが息を呑む。

 ルーシィは無表情のまま、煙を上げる右腕を下ろした。骨が軋み、皮膚が焼ける音がするが、彼女は痛みを感じていないようだった。

「……急ぎましょう。ナツが、待ってる」

 

 王都の地下深く。魔力抽出室。

 そこには、巨大なラクリマ生成装置に繋がれ、魔力を吸い取られてぐったりしているナツの姿があった。

「……くそ、っ……体が、動かねぇ……」

 ナツは歯噛みした。

 仲間を守ると言っておきながら、また捕まり、無様に吊るされている。

 ルーシィは逃げられただろうか。あいつだけでも無事なら――。

 ドォォォン!!

 突然、鋼鉄の扉が内側から弾け飛んだ。

 土煙の中から現れたのは、ボロボロのコートを羽織った小柄な影。

「……ルーシィ?」

 ナツは目を疑った。

 怯えて逃げ出したはずの彼女が、なぜここに。

 ルーシィは無言で近づくと、ナツを拘束していた手錠を、右腕から放つ熱線で焼き切った。

「……遅くなって、ごめんなさい」

 解放されたナツが崩れ落ちるのを、ルーシィが支える。

 その体は氷のように冷たく、けれど瞳だけが異様にギラギラと輝いていた。

「お前……なんで戻ってきた! 逃げろって言っただろ!」

「逃げない。……もう、置いていかれるのは嫌だから」

 

「侵入者だ! 囲め!!」

 警報が鳴り響き、武装した魔戦部隊が雪崩れ込んでくる。

 魔力を奪われたナツには、立ち上がる力すらない。

「くそっ、ルーシィ! 俺の後ろに……!」

 ナツがルーシィを庇おうとした、その時。

 ルーシィがナツの前に出た。

「……近寄らないで」

 彼女の右腕が、かつてないほど激しく脈動した。

 手首までだった星の侵食が、一気に肘を超え、肩を超え、首筋へと這い上がる。

「いけない……みんな、いけない子たち……」

 ルーシィのうわ言と共に、彼女の背後に巨大な「水瓶」の幻影が浮かび上がる。

 アクエリアスの力? いや、鍵は使っていない。

 彼女自身の体が、星霊の力を直接喰らい、同化しようとしているのだ。

「私が守るの……!!」

 ドシュゥゥゥゥン!!

 ルーシィの体から星屑の奔流が噴き出す。

 それは召喚魔法ではない。術者自身が星霊の力を纏う、禁断の秘儀――『星霊憑依』の暴走形態。

 彼女の半身が星空のような魔力衣に覆われ、髪が水流のように逆立った。

「あ、あがぁぁぁっ!?」

 迫りくる兵士たちが、彼女の放つ魔力の渦に巻き込まれ、次々とねじ切られていく。

 圧倒的な暴力。

 それは、魔導士の戦い方ではなかった。怪物の捕食だった。

 

 静寂が戻った部屋には、鉄の焼ける臭いと、夥しい兵士たちの残骸だけが転がっていた。

 ナツは呆然と、その中心に立つ少女を見上げていた。

「ルーシィ……?」

 声をかけると、ルーシィはゆっくりと振り向いた。

 右半身が星空に浸食され、左目は虚ろに、右目は金色に輝いている。

 彼女はナツに近づき、しゃがみ込んだ。

 ビクリ、とナツの体が強張る。

 怖い。

 長年連れ添った相棒のはずなのに、本能が「逃げろ」と警鐘を鳴らしている。

 しかし、ルーシィは攻撃しなかった。

 彼女は、星に変貌した冷たい右手で、ナツの頭を優しく、慈しむように撫でた。

「……大丈夫。悪い子たちは、私が壊したから」

 その声は、かつてないほど優しく、そして狂気に満ちていた。

「パパ」

「……え?」

 ルーシィは、ナツの中に「父親(守ってくれるはずだった存在)」を重ね、そして今の状況(自分が守っている現実)に歪んだ満足感を覚えていた。

「パパは弱いから。……ここで、いい子にしててね?」

 立場が逆転した。

 守られるだけの「お荷物」だった少女は、最強の力を手に入れ、最愛の人を「無力な庇護対象(いい子)」として支配下に置いたのだ。

「……あ、あぁ……」

 ナツは戦慄した。

 これは、俺のせいだ。

 俺が彼女を「弱いもの」として扱い、遠ざけた結果、彼女は強さを求めて化物になってしまった。

 撫でられる頭の感触は、死ぬほど冷たかった。

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