星に蝕まれる少女 〜硝子の妖精と、最期の輝き〜   作:暁 蒼空

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第25話:緋色の涙、星屑の暴走

地下空間に、鋭い風切り音が響く。

 現れたのは、アースランドの魔導士を追ってきた、エドラス王国の魔戦部隊隊長、エルザ・ナイトウォーカーだった。

「……見つけたぞ。あちこち破壊して回っている化け物は、貴様か」

 ナイトウォーカーが槍『テン・コマンドメンツ』を構える。

 その視線の先には、右半身を星空に侵食され、青白い魔力を撒き散らすルーシィが立っていた。

 背後には、魔力を失い蹲るナツがいる。

「……また、いけない子が来た」

 ルーシィの瞳孔が開く。

 彼女の認識では、目の前の騎士は「パパ(ナツ)をいじめる悪い大人」でしかなかった。

「パパは渡さない……!!」

 ドゴォォォォン!!

 ルーシィが右腕を振るうと、星霊魔力の衝撃波が奔流となって襲いかかる。

 ナイトウォーカーは槍を変化させ、それを受け止める。

「重い……! 魔法が使えないこの世界で、これほどの魔力を!?」

「あはは、壊れちゃえ! みんな壊れちゃえ!」

 ルーシィが笑う。

 無邪気な子供の笑い声で、致死性の魔弾を連射する。

 自分の皮膚が裂け、血が噴き出していることにも気づかない。

「やめろルーシィ!! もういいんだ!!」

 ナツが叫ぶが、その声は彼女には届かない。

 彼女の中の「守らなきゃ」という強迫観念が、ブレーキを完全に破壊していた。

 

「ええい、鬱陶しい!」

 ナイトウォーカーが槍を『爆発の槍(エクスプロージョン)』に変え、反撃に転じる。

 爆炎がルーシィを包む。

「きゃあぁぁっ!」

「ルーシィ!!」

「とどめだ、化け物め!」

 ナイトウォーカーが跳躍し、無防備なルーシィの心臓めがけて槍を突き下ろす。

 ナツは動けない。間に合わない。

 ――ガキィィン!!

 金属音が響き、火花が散った。

 ナイトウォーカーの槍を受け止めたのは、別の剣だった。

「……そこまでだ」

 凛とした声。

 緋色の髪をなびかせ、鎧を纏った女剣士がそこに立っていた。

 巨大ラクリマから元の姿に戻った、アースランドのエルザ・スカーレットだ。

「貴様……私と同じ顔!?」

「エルザ!! 戻ったのか!!」

 ナツが歓喜の声を上げる。

 最強の仲間が帰ってきた。これでルーシィを助けられる。そう思った。

 

「無事か、ナツ。……そして、ルーシィ」

 エルザはナイトウォーカーを弾き飛ばすと、背後のルーシィへと向き直った。

 そして、息を呑んだ。

 変わり果てた姿。右半身を星に蝕まれ、虚ろな目で笑う少女。

「……すまなかった。私がついていながら、こんな……」

 エルザは武器を収め、ゆっくりとルーシィに歩み寄る。

「もう大丈夫だ。私が来た。……怖かったな、ルーシィ」

 彼女は手を差し伸べた。

 しかし。

「……触るなッ!!!」

 バシュッ!!

 ルーシィの右腕から放たれた魔力の刃が、エルザの頬を切り裂いた。

 一筋の血が流れる。

「……!?」

「近寄らないで! あんたもパパをいじめるんでしょ!?」

「ルーシィ……? 私だ、エルザだぞ!」

「知らない! みんないなくなればいいのよ! 私が守るんだからぁぁぁ!!」

 ルーシィは錯乱し、見境なく魔力を放出し始めた。

 ナイトウォーカーだけでなく、助けに来たエルザにまで殺意を向ける。

 敵味方の区別がつかない。

 ただ、「近づく者はすべて敵」という原始的な防衛本能だけが暴走していた。

 

「ルーシィ……」

 エルザは、頬の血を拭おうともせず、悲しげに眉を寄せた。

 そして、飛んでくる魔弾を避けることも、防御することもなく、真っ直ぐに突っ込んだ。

「死ねぇぇぇ!!」

 ルーシィの右腕が、の腹部に突き刺さる寸前――

 ガシッ。

 スカーレットは、星に覆われたルーシィの右腕を、素手で掴み止めた。

「ぐ、ぅぅ……ッ!」

 ジュッ、と肉が焼ける音がする。

 高密度の魔力塊に触れ、スカーレットの手のひらが焼け爛れる。それでも、彼女は離さなかった。

「離して! 熱い! 痛い! 嫌ぁぁぁ!!」

「離さん」

 スカーレットは、暴れるルーシィを力づくで引き寄せ、そのボロボロの体を強く抱きしめた。

「もう、頑張らなくていい」

「あ、あぁ……うぅ……!」

「お前は弱くない。誰よりも強い。……だがな、強さは一人で抱え込むものじゃないんだ」

 スカーレットの鎧が、ルーシィの涙と血で汚れていく。

 その体温は、ナツのものとは違う、鋼のような、けれど確かな安心感のある温もりだった。

「戻ってこい、ルーシィ。……私たちがいる」

 その言葉が、ルーシィの暴走する思考回路に染み込んでいく。

 エルザの匂い。鎧の硬さ。

 ああ、知っている。この人は、私を守ってくれた人だ。

「……エル、ザ……さん……?」

 ルーシィの瞳から、金色の輝きが消え、いつもの茶色の瞳が戻ってきた。

 同時に、右腕の光が収束し、星空の侵食がまた手首の辺りまで引いていく。

「ごめん、なさい……私、また……」

「謝るな。……おかえり」

 ルーシィは糸が切れたように脱力し、スカーレットの腕の中で気絶した。

 その寝顔は、安らかではあったが、右腕に残った火傷のような星痕は、決して消えることはなかった。

 ナイトウォーカーは、その光景を見て舌打ちをし、撤退していった。

 地下室には、ナツの嗚咽だけが響いていた。

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